写真展レポート

新オープンのギャラリーで“100枚以上の可愛い”を体験。「coto×福島裕二写真展-addiction-」

「AtelierY -原宿-」で3月13日まで

cotoさん

モデル・フォトグラファーのcotoさんと、写真家の福島裕二さんの写真展「coto×福島裕二 写真展 -addiction-」がAtelierY -原宿-で3月4日に始まった。会期は3月13日まで。

会場となるAtelierY -原宿-は、福島さんが所有する新たなギャラリー。これまでのAtelierY -青山-を移転する形で神宮前3丁目のキャットストリートにこのほどオープンした。今回の展示はAtelierY -原宿-のこけら落としとなる。

被写体となったcotoさんは、モデルの他にフォトグラファーとしても活躍している。会場には100点以上の作品が展示され、いつものように大判のプリントもしつらえた。

「写真展で人と人が繋がって、写真の文化が高まっていって欲しい」――福島裕二

――今回、ギャラリーを移転した経緯を教えて下さい。

僕が非常に忙しくなってしまったこともあり、AtelierY -恵比寿-を残してAtelierY -青山-は戦略的撤退をしようとしていたんです。その時に、ちょうど不動産屋さんからある物件を見てみないかと案内があったんです。

びっくりしましたね。私の事務所からも近いし、デザインフェスタギャラリーもすぐそこなので一緒に見てもらえます。広さも十分ある。つまり、よりよい場所が見つかってしまったんです。それで、ここに新しくギャラリーを設けることにしました。

――レンタルギャラリーとしても活用されるそうですね。

他の人にも使ってもらえたらいいなと思っていて、AtelierY -恵比寿-も含めてレンタルギャラリーとしても展開する方向で考えています。まず最初は、知り合いの作家から利用者を広げていこうと思っています。

また、写真展だけではありません。原宿のこの立地ですから洋服の展示会、アンテナショップ、コスプレイベント、ミニコミケなどいろんな運用ができそうです。仕切りも動かせるので、展示枚数も増減できますし、自由度は高いと思います。

なんといっても、僕がいろいろアドバイスできるのが他のレンタルギャラリーと違うところでしょう。写真展で人と人が繋がって、写真の文化が高まっていって欲しいと思っています。

新しくオープンした「AtelierY -原宿-」の外観

――写真家がギャラリーを所有する意義は?

僕は展示が大好きですからね。例えば、自分が写っている写真がどこかの写真展で作品として展示されていたら、SNSに載っているよりも嬉しいですね。だから、情報発信の場(Webなど)と感動する場(写真展)はまた違うと考えています。プリントという「形のあるもの」として見せることがとても大切だと思っています。

僕の場合、枚数を多く撮ってたくさん展示したい。5、6枚の写真を見せて「可愛いでしょ?」と言ってもたまたまそうなのかもしれない。でも、これだけの枚数で全部可愛い写真を見せられたら、可愛いと信じるしかありませんね。だから、1人の女の子を1人のカメラマンが大量に撮るというのが好きなんです。物量から見えてくるものがある。そうした展示を頻繁に行うためには、自前でギャラリーを持っておく必要があるわけです。

――cotoさんにはどんな印象を持っていますか?

感受性があって、写真が上手。そんな印象を持ちました。「写真を撮って残す意義」というものをちゃんと考えているなと。単に撮れるから写真をやってますというのではなくて、写真家のアシスタントもつとめながら勉強していたりと、写真に対して真っ直ぐに、きちんと向き合っている子です。展示作品でそこも伝わるといいですね。

――今回の展示の見所は?

cotoちゃんは作家でもありモデルでもあります。自ら撮るが故に、撮られる側の悩みもわかる。また、撮られる事への恐れもあるし、委ねるところもあるでしょう。そういう関係性のなかで、これだけの作品が残ったということです。

例えば今回、92枚の作品を並べた(縦4枚×23列)壁がありますが、上から2段目をメインにして、その上下で彼女の目線の向きを揃えてあります。それを見てどんなふうに感じるか、会場で体験してもらいたいですね。

そして作品の鑑賞を通して、彼女を少しでも愛おしく思ってもらえたらそれで僕は満足です。

展示作品より

――撮影期間は?

1日です。朝6時に集合して伊豆に行って、町田に行って、サービスエリアに寄って、渋谷で撮りました。その場にいくとイメージが降りてきて、どんどん撮影していけました。

――この展示は「Prendre撮影会」のプロジェクトだそうですが。

Prendre撮影会は、僕が主催する撮影会プロジェクトです。お客さんはいい写真を撮りたい、モデルさんも良い写真が撮られたいということで、僕が全てに介入しています。照明も全て僕が組むという具合です。さらに、僕のライブシュートも見られるというイベントになっています。

このプロジェクトに出ているモデル達の作品で、電子書籍化と写真展をやっているわけです。今回はその3回目になります。cotoちゃんはこの撮影会のモデルもやっていますし、カメラマンとして広報用写真も撮ってくれています。撮影会は今後も行っていきます。

「自分も知らない表情を引き出してもらえた」――coto

――モデルでありながらフォトグラファーでもありますね。

仕事は人物撮影のフォトグラファーが7、8割でしょうか。残りの2割くらいがモデル業です。元々別の仕事をしながら芸能活動をしていたので、キャリアとしてはモデルが先ですね。

カメラのほうは、絞りやシャッター速度のことも何も知らないで状態で趣味で撮ってはいました。たまたま出会ったカメラマンさんが私の写真を「センスがいいね」と褒めてくれて、その方が一から撮影を教えてくれました。

自分がコントロールすることで「写真ってこんなに変わるんだ」と。自分でどう撮りたいかというビジョンが大事だと気がついたんです。それを実現する機材があるんだからと、それからは撮影する方が面白くなりました。

展示作品より

祖母を亡くしたときに写真の大切さ、自分がどういうものを撮りたいのかを考えさせられました。その答えとして、誰かの宝物になる写真を撮ろうと頑張ることにしたんです。それで、ファッションやグラビアの撮影もしていますが、一般の方の家族写真を撮る仕事にも力を入れています。

普段、私は人見知りな性格なのですが、カメラがあると人とよく話すことができ、仲良くなれます。これまでを振り返ると、今の縁を繋いでくれたり、私の心を保ってくれているものがカメラなんだなと思います。

――福島さんとの出会いは?

知り合いのモデルに「福島さんに絶対撮ってもらったほうがいいよ。あれはセラピーだから」とずっといわれていたんです。私も福島さんという凄い写真家がいると知ってはいたのですが、自分が有名になりたいという気持ちもあまりなかったため、撮っていただく機会はありませんでした。

その後、ご縁があってモデルになってみることにしました。2年前にライブシュートの形で福島さんに撮ってもらったのが最初です。福島さんとは今回で3回目ですね。

左側が92枚を並べた一面。右は福島裕二さん

――福島さんの撮影はどのような感じですか?

“モデルを読み取る力”が凄くて、例えばポージングでお腹が大丈夫かなと思ったとき、こちらが言う前に「お腹大丈夫だよ、そのままで綺麗だから」と言ってくれるんです。もう怖いくらいですよね(笑)。

そんなふうに言ってもらえると、私に凄く集中してくれていて「いまは私だけのもの」だと思えるんです。大事にされていて、涙が出そうになる感じです。「セラピーだよ」というのはこういうことなんだとわかりました。

――展示の見所は?

92枚の壁の展示ですが、2段目のメインカットとそれを取り巻く写真がどうなっているかを見てもらいたいのが1つ。また、縦の列の4枚が全然違う女の子に見えるように並べてくれているので、そういった部分も見て欲しいですね。そして福島さんに言われたのが、離れてみたときに1枚の絵に見えるということなんです。カラーとモノクロや寄り/引きのバリエーションなど、写真をやっている人なら凄さがわかると思います。私も驚きました。

プリントをフレームレスで展示したり、わざと雑然と見えるように配置したりと、見ている人が私と一泊の旅行をしているような没入感を得られるようにレイアウトを工夫しています。そのせいか、じっくり見て下さる方が多いですね。この壁一面をとても気に入っています。

展示作品より

――撮影中に心がけていたことは?

目立つのが苦手で、幼稚園の時の猿蟹合戦の劇ではどんぐり役を希望したほどです。どちらかというと裏方仕事が好きで、今だとアシスタントの仕事が好きなんです。「みんなの役に立っている」という実感があるのと、撮影について学べるから楽しいんです。

だから最初は自分が主役になることにピンときてなくて、「スタッフが私のために働いてくれる」というのが申し訳ないという気持ちでした。

ですが、撮影を進めていく中でそんなふうに思うことがダメだと思い、自分が主役にならなきゃと心がけました。撮影日は曇っていたのですが、温泉のシーンで陽が差してきてみんなで盛り上がり、「いま最高かも」と自分でも思えました。ここが撮影序盤だったのですが「よしいくぞー!」という気持ちになりました。

会場ではポラロイド風作品(左)や豪華版写真集(右)などが販売されている

――撮影を終えて気がついたことは?

普段の撮影会では盛れている“キメ顔”をしますが、福島さんは自信を持たせてくれる声かけでいろいろなポーズや表情を引き出してくれるんです。普段モデルをしているときにやったことがないことでも、福島さんは技術が確かなので任せられるからいろいろと試せるんだなと思いました。それで、自分でも知らない「こんな表情ができたんだ」という発見がありました。また、福島さんは作品にレタッチをしないので、「レタッチなしでもいけるんだ」という自信も付きました。

――最後に読者にひと言お願いします。

私のことを知らない人でも楽しめるような空間になっているので、ぜひ写真に溺れに来て欲しいですね。モニターとは違う、光を反射している写真。それを現代だからこそ味わって欲しいと思っています。それに、これだけ大きなプリントにはなかなか出会えませんからね。

電子書籍が出ているので、写真展に来られない方にもぜひ見て頂きたいです。「これを1日で撮ったんだ。うそだろ!?」と撮影の状況を想像しながら見てもらえたらと思います。

展示概要

会場

AtelierY -原宿-
東京都渋谷区神宮前3-18-30 KHPベーシックビル2階

開催期間

2022年3月4日(金)~3月13日(日)

開催時間

平日:13時00分~20時00分
土日祝:11時00分~20時00分

休館日

火曜日・水曜日

入場料

無料

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。