写真展レポート

「好きなものを守りたい」――“高校生動物写真家“が伝えたいメッセージ

藍沙写真展「東京の野鳥たち&いきもの大好き」(万願寺交流センター)

“高校生動物写真家”の藍沙(あいしゃ)さんによる写真展「東京の野鳥たち&いきもの大好き」が万願寺交流センター(東京都日野市万願寺4-20-12 万願寺中央公園内)で12月26日まで開催されている。開催時間は10時~17時(最終日は15時まで)。入場料は無料。

藍沙さんは2006年生まれの現在高校1年生。富士フイルムの若手写真家応援プロジェクト「写真家たちの新しい物語」(第21回)の応援対象に選ばれ、2020年8月には富士フイルムフォトサロン東京にて、同会場で歴代最年少となる個展を開催した。同年には第12回野生動物写真コンテストで入賞、第37回「日本の自然」コンテストで朝日新聞社賞を受賞。また、毎日小学生新聞にて、動物たちの生態やそれを取り巻く環境問題について取り上げた記事を連載している。

本稿では、高校生ながら写真の世界で既に多くの実績を残している藍沙さんに、撮影活動を通してご本人が“見つめているもの”について聞いていった。

展示作品より「チョウゲンボウ」

動物写真との出会い――“動物の目線”になって撮る

藍沙さんが写真を撮り始めたのは小学2年生の頃。お父さんと一緒に行った恐竜展で、自分で写真を撮ることの面白さに気付いたことがきっかけだったという。野鳥撮影を始めたのは小学5年生の時。幼いころから元々動物が好きだったという藍沙さんは、家族で関西から東京に引っ越してきた際に、「東京でもこんなに野鳥がいるんだ」ということに興味を持ったのだそうだ。本写真展の展示作品に写し出された野鳥も、すべて東京の多摩エリアに暮らす動物たちの姿なのだという。

藍沙さんはお父さんの紹介により動物写真家の小原玲さんと出会ったことで、野鳥撮影にさらにのめりこむようになったという。小原さんからは、野鳥撮影の練習としてカワセミを撮るように勧められた。カワセミは身近にいる鳥ではあるが、動きが速いうえに、水面に出たり入ったりと撮影の難易度が高く、練習にはうってつけの被写体なのだという。藍沙さんもカワセミの動きを予測しながら、かつピントをあわせてうまく撮影できるようになるまで1年くらいの時間を要したのだそうだ。

藍沙さんは、動物撮影において小原さんから一番最初に教えてもらったことを今でも大事にしている。それは「動物の目線になって撮る」ということ。人間同士が会話をするときと同じように、動物とも目線の高さをあわせることでより身近な存在に感じられるのだという。

藍沙さんが地面に這いつくばって“目線を合わせた”というルリビタキの写真と

カワセミは“美人なモデルさん”

写真を撮るときは色を大事にしているという藍沙さん。主役となる動物たちを引き立たせるために、背景には特にこだわっているのだと話す。

藍沙さんが被写体としてもお気に入りのカワセミ。最も多く撮影してきたことで愛着もあるというカワセミは、元々きれいな色の羽をまとった野鳥だ。まさに「美人なモデルを相手にしている感じ」と語る藍沙さんは、その主役の色を際立たせるために、その脇役として背景を工夫しているという。

下の写真はピンク色の紅葉を背景にカワセミを撮影した作品。背景にはピンク色のほかにも、まだ色が変わっていない葉の黄色などが組み合わされ、そこに主役となるカワセミが存在感を放ちながら佇む印象的な作品だ。藍沙さんは「色を加えるとこんなに写真が変わるのか」と、この作品が撮れたことでさらに写真が好きになったのだという。ただ動物を撮るだけでなく、“動物をよりきれいに見せること”を考えるキッカケになった作品なのだそうだ。

ピンク色の紅葉とカワセミ。藍沙さんもお気に入りの作品だという

野生動物を撮影するうえで難しい点のひとつは、動物たちといつ出会えるかわからないということ。動物たちが元々持っている美しさを表現するために、それを引き立たせられる背景をイメージしながら準備をする。当然、毎回の撮影で必ずしもイメージしたように動物たちが登場してくれるわけではないため、それらに出会えた時の喜びは格別なのだという。

“動物たちを守りたい”――作品に込めたメッセージ

撮影を通して動物たちと向き合う中で、藍沙さんは自然環境の変化を肌で感じるようになったという。紅葉の時期の遅れや台風被害の変化など、人間以上に動物たちの生活は大きな影響を受けていると藍沙さんは話す。

赤色の紅葉とカワセミ。その年の台風の状況などにより、紅葉の色も変化するのだという。先に登場したピンク色の紅葉とは別の年に撮影している

動物が好きだから始めた動物撮影。今では「好きな動物たちを守りたい」という気持ちが芽生えたという藍沙さん。何かを守りたいという気持ちは「好き」という気持ちから生まれるもの。自分の写真を通して動物を好きになってもらい、環境問題にも関心を向けてほしいというのが藍沙さんの願いだ。

また、この写真展をとおして、東京でも身近にきれいな動物たちが暮らしていることを知ってほしいと語る藍沙さん。お気に入り写真のピンクの紅葉の木は、今は伐採されており、しばらくは鳥たちも姿を消していたという。人間のふとした行動で動物たちの暮らす環境も変化してしまう。人間が暮らす環境の中にも、そこには動物たちがいて、「今も一生懸命生きている」ということを伝えたいのだそうだ。

「同世代の写真仲間が欲しいです……」

藍沙さんが愛用しているカメラは富士フイルムの「X-T3」と「X-T4」。軍艦部に備えられたダイヤルで直観的に露出を変えられる点がお気に入りだという。富士フイルムの機材は「X-E2」から使っており、操作性と色味はこれからも変わらないで欲しいと話す藍沙さん。

レンズは同じく富士フイルムの「XF100-400mm F4.5-5.6 R LM OIS WR XF35mmF1.4R」。野鳥撮影を始めた当時から使い続けており、35mm判換算で最大600mm相当の超望遠にしては重量の軽いレンズだが、当時は小学生、手持ち撮影にはやはり大変さもあったという。お気に入りのレンズではあるが、「同等の焦点距離でさらにF値が明るく、軽いレンズがあるとうれしいです(笑)」と藍沙さんはリクエスト。

展示作品より「チョウゲンボウ」

目下の悩みは同世代の野鳥撮影仲間がいないことだと漏らす藍沙さん。同世代の写真仲間を増やしたいということもあり、高校では写真部に所属している。しかしこのコロナ禍で、部活動はほぼできていない状況だという。新型コロナウイルスの影響によりメジャーな運動部の全国大会が云々……といったニュースを耳にする機会は多い。陰に隠れがちだが、こうして大事な活動の時間を制限されているのは文化部も同じだ。

スマートフォンなどで簡単に写真を撮ることはできるが、そうではなくカメラで撮る文化も若い世代に広がってほしいと藍沙さんは話す。機材購入に対するハードルや撮影の難しさなど大変なこともあるが、それ以上にカメラで写真を撮ることは楽しく、達成感のあること。それを多くの人に知ってもらいたいのだという。

写真の世界で生きていきたい

藍沙さんの将来の目標は“有名な動物写真家”になること。自分が大好きな動物たちが暮らす環境を守るため、自身の知名度を上げて多くの人に写真を見てもらいたい。そして世間の環境問題への関心も高まっていってほしいのだと藍沙さんは話す。その道の厳しさを覚悟しながらも、「写真の世界で生きていきたい」のだと意気込みを語った。

今はその夢を叶えるために、撮影技術を日々磨いているのだという藍沙さん。当面の目標は、国際的なコンテストで賞を取ることだそうだ。

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15歳にして明確に自分の夢を描く藍沙さん。元々は“動物が好き”や“写真が面白い”という理由でのめりこんでいった動物撮影の趣味が、環境問題への関心につながっていった。目の前に直面する課題に対して、“自分にできること”は何か。それに向かって行動しつづける藍沙さんの活躍に、今後も注目していきたい。

本誌:宮本義朗