写真展レポート

生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代

東京オペラシティ アートギャラリー開催分 3館共同企画のひとつ

展示セクション12「両界曼荼羅」より

東京・渋谷の東京オペラシティ アートギャラリーで写真家・石元泰博氏の全体像を振り返る写真展が開催されている。会期は2020年12月20日まで。

3館による共同企画展

東京都写真美術館での展示開催を皮切りとしてはじまった、石元泰博氏の写真展。東京オペラシティ アートギャラリーと東京都写真美術館、高知県立美術館の3館による共同企画展となっている。

東京オペラシティ アートギャラリーでは、広大な展示空間をいかして比較的小さなサイズの作品から大型の作品まで、石元氏の広範な作品活動を俯瞰的に捉えることができる展示構成となっている。

展示内容は、同氏の写真家としての歩みで出発点となった作品が展示されているほか、初期のシカゴを捉えたもの、東京、桂離宮といった東京都写真美術館でも出展されている内容を含みつつ、同館でしか見ることのできない作品も多数含むかたちで構成されている。展示セクションの数は16。1階と2階の広大な展示空間をいかした、ひじょうに見応えのある展示数・構成で来館者を迎えてくれる。

同館ならではの展示としては、1960年代頃に手がけた三島由紀夫などのポートレート作品が展示されているほか、丹下健三や黒川紀章らが手がけた近代建築を捉えた作品、中近東からインドまでのイスラム文化圏を捉えたもの、両界曼荼羅、食物誌、伊勢神宮などが展示されている。

同館はこの展示アプローチについて、「伝統と近代」を切り口にしたとしており、「初期の作品からミッドキャリアに軸足を置き、多彩な被写体を貫く石本の眼差しに注目します」と説明している。以下、展示室の様子とともに作品内容をお伝えしていきたい。

初期作品〜桂離宮まで

シカゴは、石元氏が生涯にわたって撮り続けた都市だ。まず、初期の作品(セクション1)から「シカゴ I」(セクション2)の展示では、インスティテュート・オブ・デザイン(ID:通称ニュー・バウハウス)在学期の作品を展示。都市の風景や人々の姿など、街と生活を捉えた同氏の視点が紹介されている。

写真家としての出発点ともなったシカゴのビーチで撮影された作品
初期から造形的なものへの視点が高かったことを示す作品も

石元氏は東京も撮り進めている。「東京 I」(セクション3)では、1950年代の視点を紹介。造形意識とヒューマンな眼差し、社会的な眼差しが同居する、躍動感あるイメージを伝える内容で構成しているという。

造形的なモチーフや、街の姿に目線が向けられていることを伺い知ることができる

桂離宮のシリーズ(セクション4)は、1953年〜1954年に撮影された初期シリーズから展示内容を構成している。東京都写真美術館でも同シリーズは展示されているが、それは桂離宮の改修がおこなわれた後期を軸としたものとなっている。東京オペラシティ アートギャラリーでは、初期の視点を知ることができるというわけだ。

初期の頃は、空間というよりは、幾何学的な構造物の配置への視点のほうが強いように感じる。東京都写真美術館の展示室とは少し趣が異なる印象だ

東京と日本の産業風景

セクション5では再びシカゴ滞在時の作品を紹介。1958年から1961年にかけて撮影された作品が展示されている。この頃、シカゴは大規模な再開発の時期にあり、そうした都市の変貌を続けていく姿を捉えた内容となっている。

ライフワークといえる東京を捉えた作品では、1960年〜1980年にかけて撮影された作品がセクション6で紹介されている。石元氏は1960年代にシカゴから東京に戻って以降、亡くなるまでの60年間を東京を中心にして過ごしている。東京都写真美術館で展示されている「シブヤ、シブヤ」のシリーズもそうした中で生み出されたもの。

東京オペラシティ アートギャラリーの展示では、そうした中から高度経済成長期から大学紛争など、時代のうねりの中で撮影された作品を展示。大きくうねりひろがる社会の流れの中で、石元氏がどのような視点をもって見つめていたのかを伺い知ることができる構成となっている。

セクション7では「日本の産業」と題して、高度経済成長期の裏側が紹介されている。公害やゴミ、環境破壊など、現代に通じる問題に対して、石元氏がどのような視点で状況を見ていたのかを知ることができる。

民族芸能や暮らし

展示室は、ここから3階に移動する(スタートは4階から)。セクション8のテーマは「周辺」。石川県輪島市の「御陣乗太鼓」や東北、北海道の民俗や芸能に取材した作品が展示されている。

セクション9は「ポートレート」がテーマ。三島由紀夫や土方巽、唐十郎などの人物像に注目した作品が展示されている。

近代建築

セクション11は、丹下健三や磯崎新、黒川紀章などの建築家が手がけた建築物を捉えた作品で構成されている。

イスラム〜両界曼荼羅

セクション11「イスラム 空間と文様」では、イスラム寺院の空間や模様を捉えたカラー写真を展示。高知県立美術館の石元泰博フォト・センター所蔵のポジフィルムにより、その色彩やフォルムへの視点を紹介している。

セクション12「両界曼荼羅」は、京都の教王護国寺(東寺)の『伝真言曼荼羅』を接写で撮影したシリーズ。国立国際美術館所蔵の大型プリント(118点)を公開。天井高のある空間をいかした展示となっており、密教の世界が迫ってくるかのような感覚がある。

造形物への視点〜伊勢神宮

セクション13「歴史への遡行」と題して、日本各地の歴史や伝統への眼差しが紹介されている。

石元氏はもともとバウハウス流のデザインを学んでいたこともあり、造形的な視点も同氏の作品をみていく上で欠かせない要素となっている。セクション14「かたち」では、そうした造形や人工物に対する視点に注目した内容となっている。

セクション14「かたち」と同じ展示室で隣り合うようにしてセクション15「食物誌/包まれた食材」の展示がある。ここでは、ラップされた食材を捉えた作品がならぶ。同館では「石元の消費社会批判が読み取れる」と説明している。

さいごの展示は、「伊勢神宮」(セクション16)だ。伊勢神宮は2013年に62回目の式年遷宮がおこなわれていたが、展示作品は1993年の式年遷宮を捉えたものだ(式年遷宮は20年に一度おこなわれる)。

桂離宮をはじめとした、こうした「日本的」なるもののイメージはアメリカが好んだスマートな日本の姿であり、同じ時期の岡本太郎の活動にみられる縄文的なイメージ——どろどろとした通俗的な、民衆のエネルギーのようなもの、という対立しあう図式の中での取り組みであったと磯崎新氏は指摘している(磯崎新「伊勢神宮はなぜモノクロで撮影されたのか?——石元泰博の建築写真」〈『石元泰博 生誕100年』(平凡社、2020年10月〉)。

そうした石元氏の撮り方・捉え方について、磯崎氏は以下のように続ける。

石元さんの撮った桂離宮には。モノクロの『桂』(1960年、71年に改訂版)があり、その後1982年に桂離宮が解体され、新しくなったときのカラー版『桂離宮—空間と形』(1983年)がある。後者では、空間そのものが見えているという感じがあります。同じ人が撮っているけれども、新しい解釈がなされているのがおわかりかと思います。

(中略)

最初に石元さんが桂を撮ったときには、歴史的な流れを手法として身に付け、それが日本的なものとの絡みのなかであのような写真になった。その後、新たにカラー写真が世の中に普及してきた状況のなか、(それを適所で活用しつつ)やはり日本的なものの本質、あるいは自身の方法を追い詰めていくうえで、モノクロの伊勢になったのではないか、というように思っております。

(前掲書)

同一の対象を追い続けて撮り続けることの意味、また撮り続ける中での手法や視点の変化に関する指摘だが、展示会場を順を追って見ていく中で、そうした視点の変化を体感できる内容となっていることを示している指摘でもあるだろう。

会場の展示作品数はとにかく膨大で、石元氏の作品づくりはもちろん、その視点を通じてアメリカや日本の当時の姿を伺い知ることもできる。同一の場所やモノ・コトを見つめる視線は、同時に石元氏が捉えた世界のありようを示してもいる。

展覧会概要

会期

2020年10月10日(土)〜2020年12月20日(日)

会場

東京オペラシティ アートギャラリー(3階ギャラリー1・2、4階ギャラリー3・4)
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティ

開館時間

11時00分〜19時00分
※入場は18時30分まで

休館日

月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

入場料

一般1,200円、大学・高校生800円、中学生以下無料

来館にあたって

来館は日時指定の予約制となっている。詳しい予約方法については、同館Webページ上の「ご利用案内」から

本誌:宮澤孝周