写真展レポート

渋谷を舞台にした公募型アートプロジェクトが始動

TODAY is=“渋谷の今”をストリートスナップで見つめなおす

東京・渋谷駅周辺を舞台としたアートの共創プロジェクト「SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN(ネクストジェン)」が、6月6日よりはじまった。

本プロジェクトはソニー株式会社と東京急行電鉄株式会社が組み、写真家の森山大道氏が参画して実施される公開型のアートプロジェクト。8月に実施が予定されているメインイベント「SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN アートコンペ」と、渋谷を舞台に制作されたフォトグラファー8名による作品展示「TODAY is -Next Generations of DAIDO MORIYAMA-」(会期は7月29日まで)で構成されている。

プロジェクトのスタートにあたり、参画フォトグラファー各氏より作品制作にかける想いが語られた。以下、プロジェクトの概要とともに各氏のメッセージを紹介していきたい。

「SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN」とは?

今回のプロジェクトで核となるイベントで、「未来を担う次世代クリエイター(NEXT GEN)とともに、渋谷の街でヒトと街、アートなどが融合する、世代やジャンルを超えた表現の場」をつくりだす、というもの。

18〜25歳(国籍不問)を対象に写真や映像作品の応募をつのり、写真家の森山大道氏などが審査員となって、8月のイベント実施に向けて、一緒にプロジェクトをつくっていくクリエイターの選出がおこなわれることになる。

選出者は、8名のフォトグラファーの作品が展示されている商業施設「渋谷モディ」内の会場のほか、同施設に設置されている大型街頭ビジョンやSony Square NYC(アメリカ・ニューヨーク)などで作品が展示されることになる予定だという。

作品応募は公式Webサイト上ですでにはじまっており、6月30日までが受付期間となっている。

公式Webサイトのトップページ。
プロジェクト進行スケジュール。

TODAY is -Next Generations of DAIDO MORIYAMA-

8名のフォトグラファーが渋谷を舞台に制作した作品が展示されている。場所は、商業施設「渋谷モディ(MODI)」一階のエントランス入ってすぐのスペースだ。

参画しているのは市田小百合氏、川合穂波氏、草野庸子氏、顧剣享氏、小林健太氏、チャーリー・エングマン氏、三保谷将史氏、山谷佑介氏。

展示開始にあたって開催された内覧会では、6名の写真家からそれぞれが見つめた渋谷と森山大道氏が語られた。

展示室の様子。

渋谷モディ入ってすぐの場所が展示スペースとなっている。

それぞれがみつめた“渋谷”のすがた

草野庸子氏(展示テーマは「Transparent pictures」)は、渋谷という土地について、東京に来てから観光地としての場所から生活の場へと変わったとコメント。建て替えが急ピッチで進み変化し続ける街の姿や、川の流れも変わったりするなど、めまぐるしく変化している街だと感じていると話した。

「(変化し続ける)その中で改めて渋谷について考えてみる・写真を撮ってみるということは、意外と今までしてきたことがなく、自分にとっても新しい発見がありました」(草野氏)

撮影時は“森山さんなら渋谷をどう撮るのか”を意識しながら作品づくりをしていったという草野氏。自分と渋谷の街との間に森山さんの存在があったことで、これまでになかった感覚での作品づくりになったと振り返った。

草野庸子氏

自身も2年前まで渋谷に住んでいたという小林健太氏(展示テーマは「N-Tokyo」)は、今回の展示にあたって、それまでに撮りためていた作品と新しく撮りおろした作品をおりまぜて構成していったという。

「(作品づくりの)活動をしていくと、特に海外の方から“東京っぽいイメージ”として、(渋谷がその)アイデンティティーとして与えられていると感じることが多くて、自分たちが思っている以上に渋谷の風景が日本らしさとして流通していると感じていました」(小林氏)

海外の作家を通じて森山氏に行き当たったと語る小林氏は、その白黒の荒々しさの中に世代を経てつながる感覚があるとコメントした。

小林健太氏

山谷佑介氏(展示テーマは「Heliograph Project」)は、渋谷は最もよく遊びにくる場所だと言う一方で、しかし思い入れは全くないと話した。いつも変わっていく土地のため、どこが変化したのか、すぐに思い出せなくなる場所で、「さらっとした感じで、僕らの感情をとどめない」ところが渋谷にはあるのだと話す。

「新宿とかは玄人たちが多いですが、森山大道さんもそうですけれども、時代やアート全般でそうした人たちが行っていた場所とは、またちがった何かが渋谷にはあると思っていて……」(山谷氏)

山谷佑介氏

写真を始めた頃は森山氏の粒子感をどうすれば再現できるのかを友人と研究していたと振り返った山谷氏は、そうしたダイナミックな表現の中に人間らしい魅力があり、そこが好きなのだとコメントした。

三保谷将史氏(展示テーマは「ご自由にお取り下さい」)は、フリーペーパーやクーポンで作品づくりにアプローチしていったと話す。

「渋谷は新しい情報が更新されつづけている大都会といえるエリアで、そうした中で紙の広告物がまだまだあって、物理的なものが電子化されていく中で、紙という媒体がまだあるという意外性や、そこに情報がある混沌さが面白いなと思ってやってきました」(三保谷氏)

三保谷将史氏

ニューヨークを拠点に活動している市田小百合氏(展示テーマは「Uncovering Shibuya」)は、ふだんの創作活動ではフィルムカメラを使用しているとした上で、今回の作品制作ではα7 IIIを用いて制作を進めていったと話した。

渋谷という土地については、5年間東京に住んでいて通勤時にいつも通過していた場所だと振り返った。そして、帰国のたびに姿を変えつづけている東京について、今回の作品制作を進める中であらためてそうした変化に気づいたのだという。

作品の制作では、アウトサイダーの目をもって、傍観者のようなスタイルで撮影を進めていったのだそうだ。

市田小百合氏

コメントのトリを務めた川合穂波氏(展示テーマは「渋谷×SIMBOLISME」)は、今回の作品制作では曜日や時間を変えて通いながら進めていったという。

「ふだんはコマーシャルフォトをやっているので、つくりこんだものをつくりたいと思っていて、周りからもそういう作品のイメージを持たれていました」(川合氏)

「動画を見ている時にお気に入りの場面をスクリーンショットするんですが、渋谷の街がひとつの流れていくものとして捉えて、スクリーンショットを撮るようにして作品をつくっていきました」(川合氏)

川合穂波氏

来場者とともに渋谷の今をみつめる

8名のフォトグラファーによる展示内容は、毎日作品が追加され続けていくことになる。初日である6月6日はDay1として、最初の作品が壁面にとめられていた。これが54日間、毎日追加されていくことになるわけだ。

また作品に関する作家のコメントをウォークマンで聞きながら鑑賞できる試みも実施される。

渋谷モディの展示スペース中央には、大型のディスプレイ2面を用いたデジタル表示スペースがとられており、Instagramに投稿された写真がぞくぞくと表示される展示スペースとなっている。

一般の来場者も8名のクリエイターとともに展示テーマである「TODAY is」(渋谷の今)を体感してもらおうというコンセプトの取り組みだ。

本誌:宮澤孝周