写真展レポート

西本喜美子写真展「遊ぼかね」レポート

自撮りで世界的に話題の89歳写真家 本格的な企画展がスタート

©Kimiko Nishimoto

奇想天外な自撮り写真で注目を集めた西本喜美子さんが東京・新宿のエプソンイメージングギャラリー エプサイトで写真展「遊ぼかね」を開催中だ。会期前日に開かれた特別内覧会には海外メディアも集まり、彼女の作品が海を越えて話題を呼んでいることを実感させた。

展示は自撮りのシリーズと、幻想的なテーブルフォトが彼女の年齢と同じ数の89点並ぶ。ユーモラスなだけではない西本ワールドが広がる。

西本さんの自撮り写真がインパクトを与えるのは、単に荒唐無稽な光景を高齢の女性が演じているからだけではないだろう。ユーモラスな演技に紛れて、どでんとタブーが存在する。

お婆さんが手押し車でクルマと並走し、つり輪で十字懸垂をこなす。まただらしなくビールを煽るかと思えば、仏壇から霊として現れる。

©Kimiko Nishimoto

これらの写真を目にした時、自分の中にあった老人に対する先入観が脆くも崩される。そしてそれまであった視点がごく一面的だったことに気づく。

デジタルで本格的に開眼。被写体は自分で探す

西本さんが写真を始めたのは72歳から。17年ほど前のことだ。きっかけは息子の和民さんが主宰する写真講座「遊美塾」を受講したこと。息子さんが誘ったわけではなく、そこに通う塾生が声を掛けたらしい。

最初はフィルムカメラから入り、ほどなくしてデジタルカメラに切り替えた。

左から西本喜美子、息子の西本和民さん。

「フィルムのころは撮る時に『勿体ない』とよく言っていました。デジタルになって、急に激しく撮るようになりましたね」(和民さん)

撮影してすぐに画像が確認できる。それが西本さんの制作スタイルに合っていたのだろう。

自宅内にスタジオを作り、そこで小物などを撮影する。そうしたテーブルフォトはフィルムカメラ時代からだ。被写体となる小物は、出かけた際に見つけてくる。

「足が悪いからそう長くは歩けないが、仲間と遊びに行くと、とにかくキョロキョロして何かを拾ってくる。食べに行ったお寿司屋さんで、いらない貝殻をもらったり。そんなガラクタが部屋中に置いてある。本人は宝物だっていうんですけどね」(和民さん)

©Kimiko Nishimoto

「面白い、キレイと思ったものを見つけた時、どう撮ったらより良くなるかを考えます」と喜美子さんはいう。

「小物を撮ったデータを見ると、同じ被写体がどんどん進化しているのが分かります。色や光を足したり引いたりして作り上げていってますね」

「塾で教わったことをやっているだけです」と喜美子さんは話す。自撮りを撮り始めたのも塾でセルフポートレートの講義を受け、宿題を出されたことが最初だ。

発想の源泉の一つは、目にしたものから連想したイメージだ。例えば自動車を見た時は、「ここで轢かれた人がいたら面白いかも」と思ったらしい。

「うちの塾では彼女だけでなく、個性的な人がたくさんいます」と和民さんはいう。

塾の方針が「型にはめない。それぞれが持つものを伸ばしていく」ことだからだ。

「誰かの好みに嵌めて行ったら、その芸術は閉ざされる。そこから新しいものは生まれません」(和民さん)

©Kimiko Nishimoto

Photoshopでの画像処理も自分で

カメラの操作方法や撮影技術は最低限のことしか教えない。画像処理もそうだ。

「僕自身、Photoshopは日本版ができる前の1.0から使い始めました。必要なことを感覚的に覚えていったから、教える時もその人が使う事だけを教えています」

喜美子さんが画像処理に費やす時間は思いのほか短い。

「やりたいことが決まっていれば5分程度。少し考えても30〜40分で済みます」(喜美子さん)

自撮り撮影はそれより時間をかけているそうだが「そんなに繰り返しは撮らない」という。撮影は基本的に1人で、リモコンかセルフタイマーでシャッターを切る。その時、一番気にしているポイントは「表情」だ。

「どうしても笑えちゃうから、そこはちゃんとなるようにします」

©Kimiko Nishimoto

多くの人が気になるのは、彼女の発想、創作意欲がどこから湧くのかだろう。本人の口から明かされることはなく、それは喜美子さんの半生から類推するしかない。

結婚前は美容師を経て、競輪選手となった。弟が競輪選手で、全国を飛び回る姿に憧れたからだという。ただ27歳で結婚してからは写真に出会うまで、趣味は持たず専業主婦として家事と子育てに専念してきた。

「塾に入ってから、持っている扉がすべて開いた感じです」と息子である和民さんはいう。

喜美子さんの何よりの楽しみは、週に一度のバー通いだ。

「バーボンを飲み、タバコを吸い、友だちと話す。年寄りなのに朝が遅いんですよ」と和民さんは明かすと、「自由に遊んでいます。大の不良です」と喜美子さんは返す。

現在、地元に写真好きが集まるバーを開店させるべく、仲間たちとクラウドファンディングを立ち上げている。期限は12月30日。

喜美子さん愛用の手押し車。デジタル一眼レフカメラが掛けられていた。

西本喜美子写真展「遊ぼかね」

会場

エプソンイメージングギャラリー エプサイト
東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル1階

開催期間

2017年12月15日(金)〜2018年1月18日(木)

開催時間

10時30分〜18時30分(最終日は14時まで)

休館

日曜日、年末年始(12月28日〜1月4日)

入場料

無料

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。