インタビュー

全国展開する「ソニーストア」…直営店運営にかけるメーカーの想いを聞いた

ソニーストア 銀座

ソニーが運営する直営店「ソニーストア」は、現在、全国5カ所に拠点を構えている。銀座をフラッグシップストアとして、そのほかの拠点は札幌、名古屋、大阪、福岡天神だ。メーカーの直営店をこの規模で全国に展開するのは、他社にはない特異な取り組みといえるだろう。

そこで今回、ソニーの「直営店を構える」という点にかける想いを取材したので、前・後編の2回に分けてお届けする。

前編は主にストアの運営における理念について。話を聞かせてくれたのは、ソニーマーケティング株式会社の新宮俊一氏(リテールセールス&マーケティング本部 本部長)と、島田麗太氏(リテールセールス&マーケティング本部 リテールマーチャンダイズ部)。

ストア設立の背景

——ソニーストア設立にはどんな背景があったのでしょうか?

新宮: ソニーストアの歴史を振り返ると、その前身は「ソニースタイル」というECサイトから始まっています。当初はパソコンがメインで、いわゆるBTOでお客様が自分の好きなパソコンの構成を選択して、購入していただくといったサービスも展開していました。お客様に合わせて商品をカスタマイズしたり、あるいはスペシャライズしてお届けするためのオンライン上のプラットフォームという形でスタートしています。

そして2007年頃から、直営のリアル店舗を展開していきます。ソニーの製品であったりサービスというものを“体験していただく”ということを重要視した結果です。そのためにはECサイトではなく、リアルのお店を構えることで、お客様にはまずリッチな体験をしていただきたいと考えました。

カメラで素敵な写真や動画を撮ってみたい。大きなテレビで見てみたい。高音質なヘッドフォンで好きなアーティストの曲を聴いてみたい。そうしたお客様の希望に寄り添いながら、ある種の成功体験を積んでいただく。“ソニーファン”というありがたい言葉もありますが、その成功体験を積み重ねていくことで、ブランドに対する信頼感や親しみ、エンゲージメントを高めていきたい、それによって次の購買につなげていただきたい、といったサイクルを強めていく意図があります。

新宮俊一氏(ソニーマーケティング株式会社 リテールセールス&マーケティング本部 本部長)

運営理念は?

——その形態が色々と変遷してきた直営店ですが、その運営において大切にしている理念はどんなものなのでしょうか?

新宮: その根底にあるのはやはり「お客様が何を期待しているのか」ということで、それをきちんと我々が把握、認識するということが大事だと考えています。その意味においてお客様といい関係性を構築し、それを継続的に維持していくことを目指していました。

では、一体どのようにしてお客様を認識していくかというところで、My Sony IDを持っていただくなど、ストア発足当初からその仕組みの整備などを継続的に行ってきました。

ソニーストアに期待する役割

——ソニーストアは製品の販売はもちろん、セミナーを実施したり、プロサポートを展開するなど多くの機能を持っています。直営店に期待する役割をどのように考えていますか?

新宮: 「ソニーストア」という名前から、“販売”という役割があることはわかりやすいかと思います。しかし、先に申し上げたような“関係性の維持”であったり“成功体験の積み上げ”という部分も重要視しています。例えば製品の購入後にも、それをどのように使うか、という提案やサポートが我々にはできます。

その意味で言うと、“販売”というのはお客様の成功体験を積み重ねていくうえでの通過点とも言えます。ソニーストアではその後もお客様とつながり続け、サポートを続けていくことでエンゲージメントを高めていくことを目指しています。“ソニーストア”というひとつの場所で、販売からその後のサポートまでのすべてを提供する、ということが期待されているといことです。

セミナーやプロサポートの体制も、そうした考え方の中から生まれてきたサービスであり、機能のひとつです。

ソニーストアでは、カメラやレンズの全ラインアップを体験できる(写真はソニーストア 銀座)

直営店を全国に構える意図

——ソニーストアは全国5か所に展開しています。国内のカメラメーカーでは珍しい取り組みのように思えますが、“全国展開”という部分にどのような思いがありますか?

新宮: お客様は、人口の分布と同じような割合で各地にいらっしゃいます。多くのユーザーと接する環境を作りたいと考えた時に、やはり東京や大阪だけでは足りません。今は5カ所ですが、各所に拠点を持たなくてはいけないという思いは根底にありました。

——例えばソニーストア札幌では、この数年でプロサポートの会員が大幅に増えたという話を伺いました。各地に営業拠点を構える意味はとても大きそうですね。

新宮: とくにカメラのユーザーには、静止画や動画を制作するプロのクリエイター、あるいはクリエイターを目指しているという方が各地に増えてきました。そういう方たちをしっかりとサポートして寄り添っていこうと思うと、遠距離では難しい部分があります。リアルにコミュニケーションをとることは重要なことだと思っています。

——全国5カ所というのは、まだまだ足りないなという感覚ですか?

新宮: 数については色々な議論があります。直近の優先課題は既存の店舗をまだまだ進化させなくてはならないということです。銀座には銀座の、名古屋には名古屋の、各ストアでまだやれることがあると思っています。既存のストアが成長して、ある閾値を超えた後にどうなるか、そこはすごい楽しみに思っている部分です。

——ソニーストアの店舗を各地に構えるということで見込んでいた効果は、現状で得られているのでしょうか?

新宮: 先ほどプロサポートの話もしていただきましたが、その会員数が増えているというのも効果のひとつです。また、一般のお客様に関しても、関係を持てている、つながりを作れている、というお客様の数は増えてきています。そういった意味では効果を感じているし、手応えも感じています。

オンラインも含めてですが、直営店にお越しいただいたお客様は、その後もソニーの製品を購入いただく頻度が上がっているというデータもあります。

あと面白いことに、例えばカメラのユーザーだと写真や動画を撮る頻度も増えているようです。つまりソニーの製品を使っていただける頻度が上がっているということ。購入後のサポートまでを企図してるストアとしては、手応えを感じている部分です。

——ソニーストアは今後、店舗数を拡大する予定はあるのでしょうか?

新宮: まずは先ほど申し上げたように、今はお客様との関係を作りながら、よりエンゲージメントを高めていきたいという段階です。そのためにはお客様のことをもっと知らなくてなくてはいけません。そのことをソニーグループでは「人に近づく」と言っています。

我々からお客様に近づいていき、知るための環境づくりを進めていく。それがあるレベルまで到達したときに、その先に何を見ていくかということで“拡大”ということは議論になると思いますし、もちろんそれを目指しているというのも事実です。

ストアの売り場の話

——それでは次に“ストアの中”のお話を伺いたいと思います。ソニーストアの売り場を見てみると、カメラ製品が占める面積の割合が非常に大きく感じられるのですが、どのような意図がありますか?

新宮: カメラ製品の話で言うと、近年の大きな動きとして動画の需要が顕在化してきています。これまで静止画だけをメインとしていた売り場に、動画の要素を拡充して、結果的にカメラの売り場面積が拡大してきたというのは事実です。もちろん、αシリーズや交換レンズのラインアップがますます充実してきたというのも並行しています。

ソニーストア 銀座のカメラ関連の売り場

——“動画”を目的とした来客も増えているのでしょうか?

島田: はい、増えています。プロとして映像を制作しているという方だけでなく、例えば、とある企業の方がプロモーションや配信を内製化したいと来店されることも多いです。

ソニーストアでは割と早い段階でライブ配信をしていましたし、そのための設備を展示していました。私は当時、銀座店で配信の担当をしていたのですが、来店されたお客様に「これは何? これはどうしてるの? ソニーが自分で配信してるの?」などという質問をいただくことも増えていました。実際に自分がやってみて感じたことをお話しながら、お客様とコミュニケーションをとっていました。

コロナ禍を経て、今は自分で配信をしたいという人が、仕事やプライベートを問わず増えてきています。その目的は多様になっていますね。

島田麗太氏(ソニーマーケティング株式会社 リテールセールス&マーケティング本部 リテールマーチャンダイズ部)

——ソニーの製品カテゴリーの中において、「カメラ」の立ち位置に変化はありましたか?

新宮: ソニーグループは、“人”や“クリエイター”と一緒に業界を盛り上げながら、感動をお客様に届けていきたいというミッションを掲げています。その意味においても、カメラは非常に重要だし、その重要性はより高まってきていると思います。

例えば優れた音響機器でよい音を録音することも重要だし、最終的に制作したコンテンツを大画面できれいに再現するということも重要です。それぞれの場面において、それぞれが重要であることには変わりありませんが、そうしたクリエイティブな世界の入り口にカメラがあるのだと考えています。



ソニーストアの運営において大事にしているのは、ユーザーとの関係性の“構築”と“維持・継続”であるということのようだ。オンライン上だけではない、リアルの場としてその接点を作ることの意義をソニーは重く捉えている。

後編では、その思いを実現するうえで重要なファクターとなっている現場スタッフ、つまり「スタイリスト」に焦点をあてて話を聞いた。実際にソニーストア 銀座で取材を行い、その実態について深掘りした話をお届けする。

本誌:宮本義朗