インタビュー
直営店運営のカギは「スタイリスト」にある? ソニーストア 銀座の店長に聞いた“心がけ”とは
2025年2月5日 12:00
ソニーが運営する直営店「ソニーストア」は、現在、全国5カ所に拠点を構えている。銀座をはじめとして、そのほかの拠点は札幌、名古屋、大阪、福岡天神だ。メーカーの直営店をこの規模で全国に展開するのは、他社にはない特異な取り組みといえるだろう。
後編となる今回は、ソニーストアの内部についてもう少し深く話を聞いていった。
前半はソニーストア全体の話を、ソニーマーケティング株式会社の新宮俊一氏(リテールセールス&マーケティング本部 本部長)と、島田麗太氏(リテールセールス&マーケティング本部 リテールマーチャンダイズ部)の2名に伺った。
そして後半は実際にソニーストア 銀座にお邪魔して、店長の宮崎千夏氏に取材した様子をお届けする。
ソニーストアのデザインコンセプトは?
——ソニーストアの店舗デザインは、何か統一されたコンセプトがあるのでしょうか?
新宮: 基調とするものはベーシックな部分として決まっています。しかしそれぞれの店舗でやはり立地も違いますし、お客様の層も異なりますので。お客様との関係構築という、我々がやりたいことを実現できる形を追い求めて柔軟に決めているというのが実情です。
その一方で、狙いを統一しているものもあります。例えば最近の事例で言うと、テレビの展示コーナーをリニューアルしました。これまでは、いわゆる量販店のようにいっぱい画面を並べるように展示していたのですが、それを実際にリビングで使っているシチュエーションを想定した、インテリアまでを意識した展示に変更しています。
以前は、「テレビが欲しい」と思って来店された方が、どのテレビがいいかを比較してもらえるような見せ方にしていました。しかし今はテレビを持たない人も増えていて、そういう方々にテレビの楽しみ方をイメージしてもらえるような工夫をしています。
——ソニーは異なるカテゴリーの製品につながりを持たせていますよね。例えばテレビのBRAVIAでは、αカメラで撮影した作品がみられるオンラインギャラリー「Creative Gallery on BRAVIA」を展開しています。そうした面を体験できるのも直営店の強みかもしれませんね。
新宮: 同じブランドの製品やサービスを一緒に使うと、ここまで価値が高まるのだということは、我々としてもぜひともお伝えしたいところです。
ストア運営の話
——実際にソニーストアの運営において力を入れていることは何ですか?
新宮: まずは販売員ですね。我々は「スタイリスト」と読んでいますが、要は単なるセールスパーソンではありませんという意味があります。製品のご案内を通して、例えばお客様のライフスタイルのスタイリングをお手伝いできるよう、そのように呼ぶことにしました。
我々が大事にしている“お客様に寄りそう”をスタイリストがしっかりと体現することが重要です。スタイリストとの会話は、お客様にとってはソニーと直接会話をする機会になります。そのように考えると、このストアの本質的な価値というのは、最終的にスタイリストそのものになっていくともいえると思います。
スタイリスト1人1人の献身
——スタイリストの取り組みについて、何か特徴的な事例はありますか?
島田: ソニーストアは、実は各店舗でかなり裁量を持って活動しているのですが、その中身は、スタイリストそれぞれのアイデアから生まれているものが多いです。
例えば直近では、ソニーストア 名古屋で印象的な取り組みがありました。スタイリストのひとりが、とよの山遊びさんというYouTuberの動画を見ていて、「この人にぜひ話をしてほしい」というところから、本人にアプローチをかけてリアルイベントの実施につなげました。実際のイベントはキャンセル待ちも発生してしまうくらいすごい人気で、大変盛り上がりました。
“お客様とつながりを作る”という点を繰り返し強調してきましたが、そのつながりの作り方というのは色々な形があると思っています。今回はスタイリストの熱意が、このような盛り上がりを生み出せたのだと思います。
——ひとりひとりのスタイリストが、日ごろからアンテナを高く張っているのですね。
島田: 我々は個々のスタイリストがどんな趣味を持っていたり、活動しているかということをとても大事にしています。個人として好きなものを、スタイリストとしての仕事に生かしてみようという視点です。
あるスタイリストが休日に趣味で撮影に行ったとき、たまたま店舗で接客したお客様と会ったらしいんです。「あっ、このあいだの!」みたいな(笑) そこから数日後にそのお客様がまた来店してくださったりと、そういったところからのつながりも生まれているようです。
——ソニーストアでは学生とのコラボレーションも積極的に行っていると聞きました。
島田: はい、最近では特にソニーストア 銀座が力を入れています。はじめはプロサポート会員でもある写真家の井上浩輝さんが、早稲田大学で教鞭をとることになったとき、カメラの使い方を学生に話してくれないかと相談を受けたのがきっかけでした。
写真で早慶戦をやろうと盛り上がったりもしましたが、学生さんもやはり“つながり”を求めている部分が強いそうで、学校の垣根を越えた活動が生まれていることに喜んでもらえています。
またこうした活動のひとつひとつが、学生さんの足をソニーストア 銀座に向けるきっかけにもなればと思っています。
——そういう具体的な企画も、店舗ごとにどんどん進行していけるのですね。
島田: 各スタイリストが泥臭く、足を使って色々なつながりを作っています。
ソニーストア 銀座を取材しました。
——ここからはソニーストア 銀座についてお聞きしましょう。店舗運営で心掛けていることや、大切にしていることはありますか?
宮崎: ご来店いただいたお客様には、スタイリストを通じて少しでもソニーに触れていただき、そこから何か新しい発見をしていただければと思っています。そしてソニーの製品を使ってみようかな、とか、またこの直営店に来ようと思っていただくきっかけ作りをしています。
お客様の来店理由はそれぞれ異なりますので、そのニーズをしっかりとスタイリストが把握し、最適な提案ができるよう心がけております。そのうえで、直営店全体のテーマでもある「お客様とつながり続ける」を目指しています。
——スタイリストの、いわゆるスタッフ教育に関して工夫していることはありますか?
宮崎: 接客するうえで大切な「商品知識」と「接客スキル」を、別のものとして分けて訓練しています。
まず「商品知識」についでですが、お客様がスタイリストに求めているものはやはり深い知識の部分です。それぞれの商品についてはみんなでしっかりと勉強していく。そして知識であったり、専門用語も含めて理解していくための時間をしっかり確保しています。
もうひとつの「接客スキル」においては、言われたことに応えるだけでなく、お客様の潜在的なニーズを認識することを心がけています。そのための質問の仕方だったり、お客様が話しやすい雰囲気をいかに作り出すかというところを、ロールプレイングなどを通して訓練しています。
また店頭には、障がいのある方など多様なお客様がいらっしゃいます。そうした方々にも寄り添って対応できるようアクセシビリティ研修も受けていて、例えば筆談の仕方なども学んでいます。
——店舗の作りやデザインについて工夫している点はありますか?
宮崎: アクセシビリティについてお話ししましたが、車いすでご来店くださった方も含めての導線設計をしています。
それから大事にしているのは“体験のしやすさ”です。余りに多くのものが店頭に置いてあると、お客様は何を触っていいのかがわかりにくくなってしまいます。必要最低限の情報に留めることで、お客様がぱっと手に取りやすくなるような展示の仕方を心がけています。
——カメラの売り場がとても広いですよね。
宮崎: カメラを楽しむお客様は年々増えていると感じています。カメラを持っていない、あるいはスマートフォンで撮影しているというお客様も、ストアに来て体験をしていただくと「カメラを使うとこんなにドラマチックな写真が撮れるのか」と感じてくださる方が多いです。
——売り場面積の割合は各ストアの裁量で決定するのでしょうか?
宮崎: 本部機能がありますので、全体的な方針はそこで議論されています。しかし現場レベルで「ここからここまでをカメラ売り場にしよう」といった細かい線引きは判断しています。
——ソニーストア 銀座におけるカメラの売り上げは、全体の何割ほどでしょうか?
具体的な数字は申し上げられませんが、上位には位置しています。ストアの役割にはコンサルティング的な部分も大いにあるため、スタイリストに相談していただきながら、購入を検討していただくケースが多いです。
その部分は、購入を前提として訪れる量販店と異なるかもしれません。まだ購入を検討する段階になくても、お気軽に相談にお越しいただければ幸いです。
ソニーストアが目指す、ユーザーとのつながりを実現するうえで重要な役割を果たしているのは、ひとりひとりの「スタイリスト」の努力によってであるということが見えてきた。話を聞いていると、実際には本当に泥臭く、根気強く課題に取り組んでいるのだそうだ。
直営店という存在が、ユーザーにもたらすメリットはことのほか大きい。その運営には多大なエネルギーを要することは想像に難くないが、ソニーの企業努力には今後も期待したい。
今回の取材ではソニーストア全体の話をメインに聞いていったが、どうやら各店舗でローカル性の高い、面白い取り組みがまだまだあるのだとか。引き続き取材を継続していくことで、直営店にかけるソニーの思いにより踏み込んでいきたい。