イベントレポート

“3人1組”で戦い抜いた「写真甲子園2023」…高校生たちの爽やかな激闘の記録

写真といえば、至って“個人的なもの”であるという印象が強い。撮影という行為は自分一人でシャッターボタンを押すものだし、それにより生まれた写真は当然“自分の作品”ということになる。

去る7月28日、高校年代の写真部・サークルが写真の腕を競う「写真甲子園2023」(第30回全国高等学校写真選手権大会)が幕を閉じた。同大会はかねてより“3人1組”での作品制作がルールとなっている。もちろん、上述したように撮影という行為自体は個々で行うわけだが、それらを組み写真として一つの作品にまとめ、チームとして優勝を目指す。まさに団体戦。

仲間と共に作品をつくる過程、そして得られる勝ったり負けたりという結果が高校生のもつ独特の“青いもの”と相まって、長い大会の歴史の中で特別な感情やドラマを生み出してきた。

今回は第30回の記念大会だった。歴代優勝校の作品が展示されていた
町役場の塀にも、30回を記念する装飾が施された

史上最多の応募数

大会は、初戦審査会(5月)、ブロック審査会(6月)を経て、本戦となる「写真甲子園」への参加権が得られるという流れ。今回、初戦審査に応募したのは584チームで、これは歴代最多の応募数だったという。

ちなみに前回大会の応募総数は533チームで、これも当時は過去最高の数字だった。2年連続で“最高”を更新したということ。若い世代の写真文化への関わり方が積極的になっているのだろうか。いずれにせよ、前向きな変化であると捉えたい。

話を戻すと、全国を11区に分けた6月のブロック審査会に進んだのは計81校だった。ここではビデオ会議システムにより、選手の作品プレゼンと、審査員による講評・審査が行われた。その結果により、ブロック審査会の規定枠16チームと、ブロック審査会のすべてのチームから選抜された優秀2チーム、特別招聘1チームの計19チームが本大会に進むこととなった。

“心・技・眼”で競う写真の腕

写真甲子園の特徴ともいえるのがその審査方式だ。問われるのは“心・技・眼”。それぞれを次のように定義する。

  • 「心」(メッセージ・パワー)…テーマ性(テーマに沿った作品づくり)や着想(コンセプト力)
  • 「技」(テクニック・パワー)…写真の技術力、組み写真の構成力
  • 「眼」(オリジナリティ・パワー)…表現力、独創性、言葉にできない魅力

これらを各10点、トータル30点の相対評価による採点方式で審査する。

高校生の中に秘められた、「写真への可能性の目」を見つけるのがこの採点基準の趣旨。技術は機材の向上や写真と関わる時間と共に着実に身についてゆくものとして、それ以外の要素にも同じだけのウェイトを置くことで「何がすぐれ、何を鍛錬すれば、より写真が向上するのか」という目標を提示できるとしている。

また、それらは“高校生として、高校生らしい、高校生ならでは”という視点を前提として評価される。

さらに、本戦は各チームが同一の機材で撮影するという重要なルールもある。協賛各社の機材提供によるもので、選手たちに使用が認められているものは次の通り。

撮影関係
  • EOS RP(キヤノンマーケティングジャパン株式会社。以下同)
  • RF24-105mm F4-7.1 IS STM
  • RF24-240mm F4-6.3 IS USM
  • RF35mm F1.8 MACRO IS STM
  • スピードライト430EX III-RT
  • SDHCカード 16GB(ウエスタンデジタル合同会社)
  • COMPACTシリーズ三脚(ヴィデンダムメディアソリューションズ株式会社)
セレクト関係
  • imagePROGRAF PRO-G1(キヤノンマーケティングジャパン株式会社)
  • Surface Pro 7(日本マイクロソフト株会社)
  • ColorEdgeモニター(EIZO株式会社)

使用カメラは、初めてミラーレスカメラが採用された前回大会に引き続き「EOS RP」。参加選手には、実は予選はスマートフォンで撮影していて、本戦ではじめてレンズ交換式カメラを使うというチームもあったりする。普段からカメラを扱いなれているチームとの実力差が出てしまいそうなところだが、逆に“高校生らしい”柔軟な発想による作品が生まれる可能性も高く、写真甲子園ではそれが武器になる場合もある。

ハードに、清々しく…仲間と共に

前置きが長くなったが、読者の皆さんにお伝えしたいのはひたむきに写真に向き合う高校生の姿だ。それらはじつに清々しく、気持ちの良いものである。

撮影は大会を主催する東川町・美瑛町・上富良野町・東神楽町・旭川市で行う。公平性を期すため、撮影会場は直前に選手たちに伝えられる。毎年コース設定も変わるため、選手達は事前に予想して準備したり、計画をたてたりといったことが難しくなっている。

これは筆者の所感だが、撮影会場は「農場・自然」「商店街」「住宅街」の3つフィールドに大別できるように思う。

「農場・自然」では、北海道の広大な大地を舞台に、風景や作物、動物、農家(人)が主な題材になる。“北海道らしい”写真が撮れるエリアといえるかもしれない。全国各地から、初めて北海道の地を訪れた選手も多く、筆者としてはこの農場フィールドをいかに印象的に切り取ってくれるかという部分を最も楽しみにしていたりもする。

「商店街」と「住宅街」に関しては、少々似ている性格を持っているかもしれない。いずれも職業や家族を通じた“人の営み”がテーマになることが多い。このフィールドでいつも感心するのが、高校生たちのコミュニケーションの積極性だ。もちろん、近隣住民にはあらかじめ大会への協力が依頼されているため、撮影しやすい環境といえばそうだろう。しかし高校生たちは、礼節をわきまえながらも被写体と距離をつめ、ポージングの指示なども出せるのだから驚きだ。どうしたらより良い作品となるか、真正面から写真と向き合っているように思う。

選手たちは巡回バスを使って撮影会場内を移動する。4台のバスが連なって行くのはもはや風物詩といえるだろう。最初にロケハンとしてエリアを1周。その短い時間に選手たちは撮影場所にあたりをつける。どこでバスを降りるか。これが命運を分けることもある。

巡回バスに乗って移動する
SDカードの提出は時間厳守だ

各チームを観察していると、それぞれのスタイル・作戦で戦っていることがわかってくる。3人一緒に行動しているチームもあれば、メンバーがばらばらに散って撮影しているチームもあるのだ。

3人一緒に行動しているチームでも、役割の分け方が微妙に違ったりする。同じ場所でそれぞれが撮影し、(おそらく)のちにベストショットをセレクトするというスタイルのチームもあれば、広角/望遠担当をあらかじめ決めているチームもあったようだ。ちなみに今回優勝した大阪府立生野高等学校は、必ず1人は別行動をとっていたように見受けられた。

撮影会はとにかくハード。競技3日間で、5つの撮影会をこなす。気温の高い中、エリアも広いため自然と歩く距離も増える。取材陣ですら“きつい”と感じるレベルで、良い作品を撮らねばとプレッシャーのかかる選手たちはなおさら体力的にも、精神的にも追い詰められていったことだろう。

突然の夕立も

撮影が終わると待っているのが「セレクト会議」だ。2時間という短い中で、大量の撮影データから8枚の写真を組む。上述したように、散々撮影で歩き回った後ということもあり、選手たちにとっては大きな試練となる。途中、必要に応じて監督がアドバイスできるテクニカルタイム(20分)も用意されている。モニターや机に並べたプリントとにらめっこをしながら、チームで意見を出し合う。

「写真甲子園」の目玉のひとつが、公開審査会だ。審査員に向けて選手たちが作品をプレゼン。後にスライドに作品が投影され、審査員が講評する。審査員は作品の良い点、改善点、今後の撮影に向けてのアドバイスを送るわけだが、これを受けて選手たちには「次の撮影どうする」という心理的なプレッシャーが生じてくる場合もあるのだ。

大会中の公開審査会は2回。前述した“心・技・眼”の採点方式で、合計点の高いチームが優勝となる。時折、審査員から選手たちに質問が投げかけられたりというキャッチボールもある。審査員にかけてもらった言葉についつい笑みがこぼれる選手たちの姿もあり、こうした光景が多く見られるとよいなと感じた。

選手たちの作品は、「写真甲子園2023」の公式Webサイトからぜひご覧いただきたい。

体力・精神力を鍛えてきた大阪府立生野高等学校

2連覇を成し遂げた大阪府立生野高等学校のインタビューは印象深かった。

優勝した大阪府立生野高等学校のメンバー。左から監督の吉田充彦さん、辻みなつさん、白石琴乃さん、山本光さん

昨年の優勝メンバーでもあるキャプテンの白石琴乃さんは、初出場となる2人に支えられることも多かったと振り返った。昨年より撮影会場もハードで、うまく撮影できないこともあったが、メンバーで励まし合うことで戦い抜くことができたという。

メンバーの辻みなつさんは、セレクトに不安を感じていたが、自分が良いと思ったものを「これが好き」といえる雰囲気をキャプテンが作ってくれたと感謝した。

キヤノンスピリット賞(大会唯一の個人賞)を受賞した山本光さんは、受賞した写真について自身は「微妙かな」と思っていたそう。そんな中、メンバーの2人がセレクト時に“拾い上げて”くれたのだという。

キヤノンスピリット賞受賞作品:山本光さん

3人1組で取り組むことについて白石さんは「1人では絶対に8枚組は完成しませんでした。自分は良くないと思っていても、メンバーが写真を拾ってくれて学べることもありました。すごい楽しい時間を過ごさせてもらったと思います」と語ってくれた。

監督の吉田充彦先生に聞いた、写真甲子園に向けた具体的な練習方法も興味深かった。

大阪では過去の大会の撮影テーマからいくつかを選び、写真甲子園の疑似体験的な練習をしてきたという。3時間程暑い中で撮影をし、1時間かけてセレクトする。本戦出場が決まってからの1カ月半は、“きつい練習”をこなしてきた。

そこで培われたものは、テクニックというよりかはおそらく「フィジカル」や「メンタル」だろう。ハードな写真甲子園で結果を残すために重要なものが何であるかがうかがい知れる話だ。

3人だから出来たこと

公開審査会での立木義浩審査委員長の言葉が心に残った。

「3人でやっているのだから、(8枚の中に)それぞれの個性が出ていいんだ。本来、それが統一されている方がおかしいんだから」

これは、今後大会に参加する選手たちにとっても大きな指針になる言葉のように思う。3人で取り組むことの難しさが、面白さへと変えられるヒントになりそうだと感じた。

立木義浩審査委員長

写真甲子園を30年間支え続けた立木義浩審査委員長は、今大会を最後に勇退される。

写真甲子園の運営スタッフには、大会のOB・OGが多く参加しているのが特徴だ。彼らにとっては、写真甲子園や東川町は“帰る場所”となっている。立木氏が大切に守り育んできた場所が、末永く、多くの人にとっての大切な場所であり続けられるよう願うばかりだ。

西日本の本家甲子園に負けず劣らずの熱い戦いが、北の大地でも繰り広げられている。高校生が自分の好きなものと向き合い、それに全力を注ぐ姿はとても清々しく、爽やかな感動を覚える。一生懸命にカメラを構え、仲間とともにまぶしい時間を過ごす彼らの姿を目に焼き付けた筆者は、もう来年の大会に想いを馳せている。

本誌:宮本義朗