イベントレポート

【CP+2019】大さん橋ホールで「PHOTO HARBOUR」が開催中

写真集・展覧会の特化イベント 日替わりでの写真集配布も

Photobook JPのPrint House Sessionで配布されている写真集の一部。壁面に貼り出されているのは、各写真集の色校正や刷り取り。

パシフィコ横浜で開催中のCP+2019。別会場の横浜・大さん橋ホールでは写真集に特化したアートブックフェア「Photobook JP」および「御苗場」が開催されている。会期はパシフィコ横浜会場と同じく2月28日〜3月3日まで。

会場となる大さん橋ホールへは、パシフィコ横浜から無料でシャトルバスが運行されている。CP+2019と共通パスで入場が可能だ。

写真集の出版社・ギャラリーが集結

Photobook JPは写真集に特化したイベントで、国内外から多彩な出版社やギャラリーが集まるというもの。今年の出展社数は41社を数える。各ブースでは、写真家のサイン会なども予定されているとのことだ。

また、4つの印刷会社と4名のデザイナーが組んで、写真家の横田大輔氏の作品「matter」をそれぞれ独自の解釈に基づいてデザイン・印刷を行い、1つの製本会社が製本を行う「Print House Session」という試みも実施されている。

都合4組の組み合わせがひとりの写真家の作品から、4つの写真集をつくりあげることになる、このプロジェクト、手がけるのは、山田写真製版所×加藤勝也氏、サンエムカラー×町口景氏、ライブアートブックス×田中義久氏、藤原印刷×町口覚氏の4組だ。造本の最終工程である製本は篠原紙工が務める。

つくられた写真集は会期中の4日間、毎日変わる。各日の配布部数は500部限定となっているとのことだ。また、各日100名限定でオリジナルのトートバッグも配布している。

まず、1日目(2月28日)に配布されていた写真集を見ると、一見片観音の変形版のような造本に見えるが、開いて見ると、その想像の斜め上をいく、かなり凝ったつくりとなっている。

少ないページ数の冊子の場合、通常は2つ折りにした用紙の中央部分をホチキスで留めた中綴じという形式が一般的だが、この冊子では4箇所で同じ加工が施されている。つまり、4つの冊子体の作品集が1つに合体しているわけなのだが、この試みの面白いところは、それぞれの冊子を開いた状態で、隣り合って見ることができるページの組み合わせが複数形成されるということ。それぞれを単体で見てもいいし、複数を組み合わせて、ひとつの作品として鑑賞しても良し、と読み手にかなり自由な鑑賞スタイルが与えられているといえるだろう。

さらに、この冊子では4箇所のホチキス留めでそれぞれ使われている針の色が異なるという遊び心もつまった仕上げとなっている。

針の色は黒、白、赤、金の4種類。

次に2日目(3月1日)に配布された写真集を見てみると、うって変わって和を感じる装いに。製本方法には和綴じが用いられており、印刷用紙にも和紙が用いられている。

印刷字体も凝りに凝ったもので、通常175線で印刷される(解像度350dpiの4色印刷をイメージしてください)のに対して、1,000線による超高精細印刷が用いられている。作品が印刷されたページを見ると、1色でしか刷られていないように見えるものの、色が沈み発色が悪くなることを防止するためにニスの印刷もおこなわれており、黒色の表現自体も3色の組み合わせで表現しているとのこと。

印刷は片面のみで、袋とじで製本されている。

3日目(3月2日)に配布が予定されているのは、蛍光オレンジが鮮やかな写真集。実際に手にとってみないと、なかなかその質感は伝わりづらいところではあるのだけれども、ふんわりとした触覚を覚える手触りとなっていた。

用いられている用紙は竹尾の「MBSテック」という不織布。紙とは趣の異なる独特な手触りとなっている。

印刷面は、後ろのページの文字が透けて見える。透けて見える文字は織田作之助の文章とのこと。裏写りの効果も作品として計算しているのだろう。

最終日の4日目(3月3日)に配布が予定されているのは、極めて薄い用紙を用いてつくられた写真集。用紙には、厚さ0.05mmの片艶クラフト紙が使われているそうだ。

展示されていたものは背の部分が破れてしまっていたが、本来は文字をプレスして圧着させることで製本しているのだという。

用紙自体がかなり薄いため、印刷機のスピードを上げて刷るなどの工夫が行われたのだとか。用紙にはロウ引き加工も施されいるそうだ。

発色はおどろくほど良かった。トーンが豊かで、緑青といえばいいのか、くすんだエメラルドグリーンと表現すべきか、印刷物が苦手としている緑の表現でここまで絶妙な色合いが出るとは。

13年目を迎えた御苗場

Photobook JPの裏手では御苗場が開催されている。

御苗場とは、「出展審査不要」を合言葉に誰でも参加できる写真展。2006年に初めて開催され、今回の横浜で24回目を数える。主催は株式会社シー・エム・エス。

撮り手が多くいる昨今の状況にあわせて、「出会うこと」をキーテーマにプロの写真家や来場者による評価システムを採用した写真展だ。

今年からは、これまで壁掛けのみだった展示方法にテーブルブースの出展が可能になったことと、出展者自ら作品を販売できるシステムを採用したこと。このほか、レンズカルチャー誌が来場して1名を選出して同誌上で紹介してもらえるようになった、とのこと。

実際に出展している何人かに出展の理由などを聞いていった。

1人目は、Kiiroさん。御苗場への参加は8年ぶりとなるとのことだった。

「以前、御苗場で2つの作品を出したのですが、その作品が賞を受賞したんです。それで、このやり方でいいんだ、と自信がつきました」

「自分の頭の中にあるイメージだけで作品をつくっていっても、どこかで見たようなイメージなってしまいがちです。そこに独自性を生むために、うまくつくろうとこだわらずにアウトプットしていくようにしていて、万華鏡をレンズにつけて撮ったらどうなるのか試してみたり、チョコレートケースに収まるように本をつくったらどうなるのか、といったように色々な試みをしています」

テーブルブースでの出展が可能になったことも、それまで様々な実験的な試みの中から生み出してきた本をならべることができるようになり、見せ方の幅が広がったと話していた。

Kiiroさん
自身の出発点となった作品を収めた写真集『OPERA』を手に。

2人目は、2018年の御苗場ソニー賞を受賞したKevin Yangさん。写真家を目指す中国の若手を支える活動をおこなっており、2人の写真家(Èmilieさん、Ylanさん)とともに出展していた。

右からKevin Yangさん、Èmilieさん、Ylanさん

「文字による表現では制約がありますが、写真であれば自身の内面を表現できます」(Kevin Yangさん)

現在の中国では写真家を目指すには困難が多く、そうした若手を支えたいというKevinさん。こうした困難な状況でも制約なく表現できる写真が救いになっているのだという。

3人目は、成瀬夢さん。お話をお聞きしたこの日が卒業式だったという高校生だ。この春からは写真の専門学校へ進むとのこと。

作品は自身もやっていたというバレエの場面を捉えたもの。被写体は友人だそうだ。3年間撮り続けてきたとのことで、お話を聞いている間も数名の来場者が足を止め、高校生が撮ったものだというと、一様に驚きを示していた。

PHOTO HARBOUR(Photobook JPおよび御苗場)概要

会期:2019年2月28日(木)〜3月3日(日)
会場:大さん橋ホール(CP+2019 PHOTO HARBOUR内)
神奈川県横浜市中区海岸通1-1-4
時間:10時00分〜18時00分(最終日17:00まで)
入場料:無料(Photobook JP) / CP+会場入場料1,500円(御苗場)

本誌:宮澤孝周