東京・品川のニコンミュージアムで、企画展「ニコン双眼鏡・100年の歴史」が9月29日まで開催されている。本稿では会場写真を交えて概要をお伝えする。
ニコンといえば言うまでもなくカメラのイメージが強いが、ニコンのカメラ事業がスタートしたのは第二次世界大戦後のこと。双眼鏡の事業は創業翌年の1918年から現在まで続いており、その歴史は今年で100年になる。
さらにニコン(当時:日本光学工業)の双眼鏡事業は、1909年に設立された藤井レンズ製造所(1917年に合併したうちのひとつ)の流れを汲んでいる。藤井レンズ製造所は日本最古の双眼鏡メーカーだ。となれば当然、ニコンが国内随一の長い歴史を持つ双眼鏡メーカーということになる。この100年間で世に出た機種数は700を超えるという。
今回の展示では、ニコンの様々な部署から集めたものや、個人所蔵の品など、300台以上が集められた。ほとんどのアイテムはガラスケースに入っておらず(触れることは禁じられているが)、いくつかの歴代製品はタッチ&トライのコーナーもある。
また、見た目に面白い点として、ずらりと並ぶマネキンの姿がある。1950年代から1990年代までの各年代について、ドレスと当時の代表的な双眼鏡を組み合わせている。ドレスはニコンミュージアムのスタッフ制服をデザインした杉野学園ドレスメーカー学院から借用してきたもので、ドレス以外のアイテムは時代ごとに別途コーディネートしたという力の入れようだ。
双眼鏡と服飾の両面から各時代のデザイントレンドを体感できる構成になっており、ニコンファンや光学機器の愛好家に限らず、幅広い層が楽しめる内容だ。以下に、各時代の主な展示品を紹介する。
軍用品からレジャーのお供に
双眼鏡はカメラに比べて機構がシンプルなため、外観デザインに工夫を施しやすい。軍用品からレジャーのお供になっていくにつれ、形や色に様々なアイデアが盛り込まれているのが面白い。
マグネシウムを採用して20%軽量化した"フェザーウェイト"の双眼鏡(1955年)。マグネシウムの採用はカメラボディより早い。レンズコーティングも施されるようになる。 観光用の双眼鏡。既存の双眼鏡ボディを流用し、対物側に焦点距離の長いレンズを採用して、15倍の高倍率を実現。三脚付タイプのものは、観光バスに積んで移動していたという。 双眼鏡が身近な存在になってきたと感じさせるデザイン(1962〜1967年)。 「Look 7×21」(1965年)は、ニコンF(1959年)と共にグッドデザイン賞に選ばれた。いわゆる"ティアドロップ型"の顔つきに時代を感じる。 1978年のモデルだが、現在のACULONシリーズにも通じる部分がある「CARNA 8×20D」。 1970年スタイルのマネキンが色違いを持っていた。 ジュージアーロデザインの「V LINE 8×23 CF」(1982年)。ラメ糸を織り込んだストライプ生地のパーティドレスとコーディネート。 ジュージアーロのデザイン案は左の案が製品化された。ジュージアーロが携わった製品としてニコンF3(1980年)も並ぶ。 眼幅の調整にあわせてカラフルな線が出てくる仕組み。セッティングの再現性が高くスマート。 1984年のニコン双眼鏡フラッグシップ「8×40D CF WP」。体験コーナーにも実機があった。 同時代のカメラのカタログに比べ、デザインに自由な雰囲気がある。 いかにも1990年代の製品らしい質感は、当時のAFカメラにも通じる。1980年代の角張ったスタイリングから一転して柔らかなシェイプが際立つ。 ニコン双眼鏡で初の非球面レンズ採用は「AS 8×23 CF」(1993年)。カメラレンズで実績のあった非球面レンズを取り入れた。 世界初のチタンボディという「5×15D CF」(1996年)。同時代の高級コンパクトカメラを連想する色合い。 1997年デザインのドレスに組み合わされた「5×15D CF」(1996年)。これは漆塗り限定品の紫古今カラー(当時税別6万5,000円)。 女性に使ってほしいとの願いで開発された「遊(YU)」(2009年)。館内に並ぶ多くのニコン双眼鏡の中でも圧倒的にスリムだ。 鮮やかなカラバリのACULONシリーズ(2013年)。ダハプリズム式のスリムさが際立つ。 ニコン100周年記念で登場し、超広視界として話題を集める「WX 7×50 IF」(2017年)。税別64万円。 2018年7月発売の新製品も並ぶ。広視界ながら周辺までシャープでクリアな点を特徴とする「MONARCH HG 10×30」および「同8×30」。