イベントレポート

サラ ムーン写真展「D’un jour à l’autre 巡りゆく日々」レポート

日本未公開の近作が中心

La main gelée, 2000 © Sarah Moon

サラ ムーンの写真からは時代がきれいに抜け落ちている。被写体に選ばれた人や動物、木々や建物の存在だけが写し出されている。ファッション、モードですらそうだ。

未来ではなく、通り過ぎてきた時間の中にひっそりと在り続ける。だからこそ、時を経ても朽ちることはない。

フランスを代表する写真家の一人である彼女が初めてシャネル・ネクサス・ホールで展示を行なう。このギャラリーでは最も多い展示点数となる約120点で、その多くが近年制作された日本未公開のものだ。

サラは写真とともに、映像作品もいくつか手がけている。会場には昨年来日した際、撮影された映像作品「SWANSONG」も上映されている。

川崎の工場地帯を撮った作品も

「最近、インダストリー、工業的なモノに興味があり、今、取り組んでいる最中です」とサラは話す。

予断なく、その映像を見た時、撮影地が日本だと思わないに違いない。時代すら特定できないかもしれない。

東京湾を出港し、川崎の工場地帯を巡って撮影された。

「理由は分からないが港にも惹かれる。出発のイメージがあるからかもしれない。港、工場は昔からあるもので、コンテンポラリー(時代的)なものだが、時代から離れて在る。私がずっとテーマにしている『時』に関係している」

「SWANSONG」はオリンパス製のデジタルカメラで撮影したものだ。数年前から撮影にフィルムは使っておらず、アナログはネガ付きのポラロイドフィルムだ。

大判のカラー作品はインクジェット出力されたもので、ほかはカーボンプリントなどだ。

どのような出力方式であっても、定着されたイメージには変わりなくサラ ムーンの世界観が広がっている。

Dunkerque I © Sarah Moon

外と内の距離が亡くなる瞬間

サラが尊敬する写真家の一人にアンリ カルティエ=ブレッソンがいるようだ。インタビューで彼の2つの言葉を引用している。

写真家として長く活躍する秘訣を問われた時。幸運に恵まれること、撮る欲求があることなどを上げた後、ブレッソンの次の言葉を口にした。

「あなたが写真を撮るのではなく、写真があなたをつかまえる」

彼女は被写体を選ぶ時、「見るものと感じるものとの間に電気が流れる」と表現する。何度も見る光景でも、「心の内で何かがピンときて、外と内の距離がなくなる」。

ブレッソン曰く「…写真…は目と心と頭で作られる」

シャネルのリシャール コラス社長は子どもの頃、雑誌『フォト』でサラの写真を初めて目にしたという。そのイメージに刺激され、どうにか自分でもサラ風の写真が撮りたいと考え、カメラのレンズにクリームを塗った過去を告白した。当然だが、1枚も思い通りのイメージは得られなかったそうだ。

会期中の一部期間、ショップの3階と、10階にあるレストラン、ベージュ アラン・デュカス 東京でもサラの作品が展示されている。

Baigneuse II © Sarah Moon

Anonyme © Sarah Moon

Adrienne sous la neige © Sarah Moon

Femme voil e © Sarah Moon

サラ ムーン写真展「巡りゆく日々」

会場

シャネル・ネクサス・ホール
東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4階

開催期間

2018年4月4日(木)〜2018年5月4日(金)

開催時間

12時00分〜19時30分

休館

無休

入場料

無料

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。