イベントレポート

カメラマン向けの「ニューボーン&マタニティフォト撮影セミナー」レポート

新生児の撮影時に注意すべきポイントとは?

会場の様子

ピクスタ株式会社は6月14日、カメラマン向けのセミナーとして「ニューボーン&マタニティフォト撮影セミナー」を本社のある東京都渋谷区渋谷 東建インターナショナルビルにて開催した。

同セミナーは、基本的に同社の「fotowa(フォトワ)」に登録しているカメラマン向けだが、一般のカメラマンでも参加可能。

fotowaは、2016年2月29日に開始した、個人の撮影希望者とカメラマンをマッチングさせる出張撮影マッチングサービス。七五三や入園・入学、成人式といった節目や誕生日などのお祝い事など、撮影してほしいタイミングに対して、登録されているカメラマンを任意に選んで撮影を注文できるのが特徴だ。

同社によると、一般のカメラマンが閑散期に仕事を求めて登録するケースも多く、今回開催したセミナーは、登録カメラマンのスキルアップやカメラマン同士の情報交換のほか、そういった一般カメラマンの様子見といった部分もあるという。

今回のセミナーでは、そのほとんどが登録カメラマンのようで、顔見知り・常連といったアットホームな空間といった印象を受けた。実際、セミナー後に行われた懇親会は盛り上がっていたそうで、参加カメラマンからも参考になったという声が多くあり、満足度が高かったという。

コミュニケーションを重視。高いリピート率

ニューボーン(新生児)撮影において、極めて重要なのがコミュニケーション能力。今回のケースだと新生児とカメラマンたる撮影者は赤の他人だが、言葉としてコミュニケーションがとれない時期ということもあり、「不安がらせない」「無理をさせない」といった基本的なことに加え、注意すべきポイントが多数ある。

同セミナーでは、撮影の技術的な部分ではなく、むしろそういった気を付けるべき点、依頼主からの信頼を得るためのポイントが多く語られていた。

また、同社の統計によると、依頼主のカメラマンへのリピート率は極めて高く、新生児から撮影を受けることで、カメラマンにとっては今後の撮影へに繋げられる。会社としては利用機会が増えるのではないかと期待しているとのことだ。新しく追加したカテゴリ(マタニティは2017年2月、ニューボーンは3月)ながら、全カテゴリの中でもすでに人気のカテゴリになっているという。

今回セミナーでは、「新生児&妊婦さんの撮影で気にかけておきたいこと」として、やちよ助産院院長の岩崎八千代さんが登壇。撮影時における新生児へのアプローチ、コンタクトの仕方などを解説した。本記事では、まもなく一児の父になろうという筆者の目線で、ポイントをまとめてみた。

やちよ助産院院長の岩崎八千代さん

まず確認しておきたいのが、今回のセミナーにおけるメイン被写体「新生児」だ。

新生児とは、出生後28日未満の乳児のこと。子宮外生活に適応していくための期間の真っ只中であり、外環境の影響を受けやすいというシビアな状態ともいえる。当然、カメラマンも細心の注意を払う必要がある。

また、免疫力などは大人と比べて段違いに低いため、外出はNG。産婦人科の担当医からOKがでても、基本的には母子共に安静にすべきタイミングでもある。従って、新生児撮影は、撮影希望者の自宅がメインだ。

生まれたての子供を「赤ちゃん」と呼ぶが、これは全身的には淡紅色で泣いた時に赤くなるからだそうで、少しでも青くなっている「青ちゃん」の状態はチアノーゼが出現していことから、呼吸状態の確認が必要。撮影時に親が立ち会っているとはいえ、カメラマンもこうした異常をいち早く察知する必要がある。

赤ちゃんは、呼吸中枢が未熟であるため、泣きひきつけを起こしやすく、鼻呼吸が主であるため、ミルクなどの吐き戻しに注意が必要。また、掛け物が顔を覆っても自力では外せないため、呼吸には気を付けるポイントが多い。

さらに、腹式呼吸なので、不自然な姿勢で撮影を続けると、おむつや着衣が腹部を圧迫する恐れもある。写りを気にするのでは無く、赤ちゃんの状況を第一に撮影を行おう。

泣いている時のあやし方として「抱っこ」は有効だが、その仕方にも注意が必要。岩崎さんによると、「脚伸ばしだっこ」と「コアラだっこ」は危険だそうで、赤ちゃんが快適に感じる酸素飽和度は98~100%だが、脚伸ばしだっことコアラだっこでは95%(生後4日目)に低下する。ひとつの指針として、90%未満は危険状態を指すそうなので、こうした間違った抱っこの仕方は特に気を付けたい。また、撮影時のポージングとしても、こうした点の考慮が必要だ。

体温調節も上手くできないため、大人が気を配る必要がある。例えば、新生児の体温は37度前後と大人よりやや高い。抱っこした時に、ほんのり温かく感じるのが正常だ。ただし、環境温度に影響されやすく、熱産生が少ないため、注意しないと低体温の状態になってしまう。低体温が続くと赤ちゃんは、哺乳力が低下し、元気がなくなってしまう。重度の低体温は死に至ることすらある。

体温喪失の原因として考えられるのが、外気温が低い時の窓や壁の近くにいることで起きる「輻射」、低い室温や隙間風に起因する「対流」、冷たい衣服や冷たい手で触ることによる「伝導」、濡れたことによる「蒸散」などが挙げられる。

対策としては、室温調整が重要。赤ちゃんが服を着ている時は、室温が24~25度、湿度が50~60%をキープする。裸の時は室温を32~34度まで上げることがポイントだ。

また、掛け物で調節するのも手軽な方法であり、風が直接当たらないポジションで撮影するように気を付ける。当然、エアコンの風を当てるはNGだ。意識外なのが自身の手の温度だろう。赤ちゃんに触れる時は、温めてからが基本となる。

岩崎さんによると、薬指を除く4本の爪の付け根をもう片方の手で押す(10秒程度の圧迫)ことで、手を温かくできるそうだ。ちなみに薬指を押すと、交感神経の関係で手の温度が下がるらしい。

授乳ペースを崩さないということも重要。新生児撮影を依頼するケースとしては、妊娠時なんとなく考えていることが多く、出産直後の撮影希望者は授乳ペースを把握しきれていない事がある。生まれたての赤ちゃんは、1日に十数回の授乳するということで、間隔的には2~3時間毎に授乳している事になる。従って、撮影は授乳と授乳の間で機嫌の良いタイミングに合わせられるとベストということになる。撮影前には、依頼者との打ち合わせの中で授乳間隔の話するといったことや、撮影当日の最終授乳時間の確認が重要なポイントとなるわけだ。

また、新生児の胃の形はとっくり型で吐きやすく、特に授乳のすぐ後はさらに吐きやすいため、撮影の小道具や衣類などは吐かれることを前提に考慮する必要があるという。さらに、吐いてしまった時には、焦らずに顔を横に向けてトントンしながら呼吸が落ち着くまで待つ。そして、体温が下がらないように濡れた衣類を着替えさせよう。

新生児の特徴として、感染に弱いということにも覚えておきたい。なんとなくイメージできることだが、大人なら問題にならない弱毒菌でも感染の恐れがある。そもそも、新生児は感染防護機能が不完全で感染しやすく、感染すると重篤化しやすい(肺炎、髄膜炎、敗血症など)そうだ。

では、その予防としてカメラマンができることというと、まず、感染の疑いがある人や物を近づけさせないこと。そして、撮影前後の手洗い・消毒。撮影時には清潔なエプロンなどの着用を徹底することだ。もちろん、撮影に利用する小物などは、清潔なものを使うが、できれば専用のものが望ましい。

気を付けたい事故として挙げられていたのが、吐物による窒息(乳児時期は誤嚥事故)や転落事故だ。撮影時に小物を使う時は、飲み込まないように注意するほか、吐いたものが口を覆っていないか、呼吸は正常であるかを注意しよう。

本来であれば注意深く行っている抱っこから、転落事故がうまれることがある。例えば、抱いている人がつまずいて服が脱げ落下。人から人への受け渡しの際に取り落とすなどだ。新生児サイズの服でも赤ちゃんによってはブカブカであることがよくあり、赤ちゃんを抱き上げる時に服を持ってしまうと、スルッと抜けて落ちてしまうことがあるそうだ。

そうならないためにも、しっかりと赤ちゃんの体を持つように心掛けたい。また、できることなら、撮影ポジションへの移動については親御さんにお願いしたい。

赤ちゃんが泣いている時の対処法として、カメラマンができることは? という題目については、まず原因を「お腹が空いている」「おむつが汚れている」といったことは想像できるが、それ以外については意外と思いつけないものとして、どうしたんだろう、なんだろうと想像力を働かせることが重要だと説く。

暑くても泣くし、寒くても泣く、姿勢に不満があっても泣く。特に新生児というのは、快適でないと泣くとされており、また、専門家の中には理由も無く泣くという話もあるそうだ。どちらにせよ、カメラマンの立場として泣き続けられるのは辛い。赤ちゃんが何を求めているのか、どう不快なのかをいち早く察知する視点を常に心掛けたい。

また、マタニティフォトについては、妊婦に無理をさせないことが第一であり、体が冷えないように注意するのが重要。短い撮影時間の中でも、こまめの休憩をとり、できることなら横になれる場所を確保したい。

岩崎さんの話はカメラマンへの注意喚起というよりも、新米パパへの助言としても受け取れた。カメラマンが踏み込むべき部分なのか、近くにいる依頼者(親)が対処すべき事柄なのか、そういった領域云々の前に、新生児と向き合う心構えとその重要性が凝縮されていたように思う。

質疑応答では、赤ちゃんにストロボ光を当ててもいいのかという質問があった。どのような影響がでるのか明確な数値が出ているわけでは無いと前置きしつつも、連続した光という刺激を当てるのは、影響がでる赤ちゃんもいれば、でない赤ちゃんもいると話し、立場上ハッキリとは言えないとしていた。ただ昨今、テレビなどの演出で連続したフラッシュに対して注意を促すテロップが表示されるように、カメラマンも配慮は必要だろう。

依頼主に求められる写真とは?

続いて、岩崎さんと組んでニューボーンフォト&マタニティフォトを撮影しているフリーフォトグラファーの小峯亜美さんによる撮影のポイントが紹介された。

フリーフォトグラファーの小峯亜美さん

こちらは、具体的にどういったポーズで撮影しているのか、撮影希望者との事前コミュニケーションの方法といった、fotowa登録カメラマン向けの実践講座となっており、実際に撮影を請け負っているセミナー参加者からは、時折納得の声が挙がっていた。

その中でも特に印象的だったのが、SNSの投稿写真と出張写真の性質の違いに対する言及だ。SNSの投稿写真の場合、セットを組んで1枚のベストショットを時間をかけて撮影したものが多いが、出張写真の場合は、(撮影希望者の)自宅の限られたスペースの中で、ある程度の枚数を撮影する必要がある。求める写真が異なるという話だ。

しかし、希望者はSNSの写真をみて、こんな写真を撮って欲しいと相談するというのだ。トラブルを避けるためにも、事前にできること、できないことを知らせるほか、こういった写真ができますといったような提案が重要だとしている。

また、実際に撮影希望者に送っているメッセージを見ながら、どういった意図があるのか、どのように重要なのかといった解説が行われた。

その中でもストロボ光について言及されており、小峯さんはストロボを利用しないことを明記していた。このことについては、実際の光が及ぼす影響についてはわからないが、赤ちゃんの目に障害があった時、あの時ストロボ光をたくさん使っていたと、結びつけられるのが怖いという。ストロボ光が使えないことで画質が悪くなろうが、暗く写ろうが、お母さんに対しても安心を提供できるのであれば、撮影時の工夫によって対処するのだという。

セミナー参加者からの質問が多かったという、撮影のバリエーションについては、赤ちゃんが起きている時のパターン、寝ている時のパターンなど、ほとんど同じパターンになるという。というのも、赤ちゃんは動きが少ないので、どうしても似たようなものになってしまうそうだ。服を脱がせる、服を着せるといったことも、赤ちゃん次第なので、そういった意味では苦労しているという。

赤ちゃんが泣いてしまった時、お母さんは焦るそうだが、泣いている写真をあえて撮ると、後で喜ばれるそうだ。というのも、新生児が泣いているとすぐに抱っこしてしまい、可愛い泣き顔を見ていないからだという。後になって、こんな可愛い顔で泣いていたというのがひとつの思い出になるということなのだろう。

また、両親が入っている写真(赤ちゃんを見ている親のまなざしが重要)や赤ちゃんが暮らしている環境と合わせて撮ることも喜ばれるという。

困ったこととしては、撮影希望者が用意したコスチュームの存在。小峯さん自身も被写体の性別に合わせて色布をもってくるなど、撮影時の小物を用意しているが、撮影希望者がコスチュームを2枚3枚と用意するのはプレッシャーになっているそうだ。というのも、コスチュームを着ている写真は、スタジオで撮られたものなので、それをイメージされるとイメージ通りの写真にならないからだ。

撮影時に意識してやっていることは、手を開く時など、声に出して説明することだという。こうすることで、お母さんに安心してもらえるのだという。

撮影時は専用の清潔な服装で行う。赤ちゃんに触れる時はその意図を説明するそうだ

撮影時の小道具としては、スマートフォンのオススメアプリ(SmiRing~赤ちゃん泣き止み音アプリ~)や映像(YouTubeの30分連続動画)など、実際に使ってみて、効果があるものを紹介していた。

今回のセミナーは、すでに働いているカメラマンが、急激に需要を伸ばしているニューボーン&マタニティフォトというジャンルに対して、どのような心構えで望めば良いか、どうやって撮影すれば良いのかを、かなり実践的な視点でもって行われていた。

とはいえ、その内容は自身の子供を撮影する時などにも有効であり、気を付けねばならないポイントも把握できたことだろう。

セルフィーが流行っている現在、自身の子供と一緒に写るということはできるだろうが、本格的な写真となるとこれは中々難しい。こうして切磋琢磨しているカメラマンに撮影を頼むのも有効な手段と言えそうだ。

飯塚直

(いいづか なお)パソコン誌&カメラ誌を中心に編集・執筆活動を行なうフリーランスエディター。DTP誌出身ということもあり、商業用途で使われる大判プリンタから家庭用のインクジェット複合機までの幅広いプリンタ群、スキャナ、デジタルカメラなどのイメージング機器を得意とする。