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PIXTAの「売れる!ストックフォトセミナー」レポート
いい写真≠欲しい素材。用途を想像できることが重要
Reported by 関根慎一(2014/11/14 09:00)
ストックフォトを始めとした素材サイト「PIXTA」を運営するピクスタ株式会社は、PIXTAが監修する書籍「写真で稼ごうハンドブック」シリーズの出版記念イベント「売れる!ストックフォトセミナー」を11月7日に開催した。
写真で稼ごうハンドブックは「ストックフォトのはじめ方」「季節・風景イメージ編」「人物イメージ編」「雑貨・フードイメージ編」の4冊からなり、ストックフォトで写真を売るためのノウハウや売れる作品の傾向などをカテゴリーごとにまとめたガイドブック。発行はマイナビ。
当日は男女問わず幅広い年代の参加者が集まり、登壇者の話に熱心に耳を傾けていた。セミナーは3部構成で実施。第1部はPIXTAによる「売れる写真のコツ」講座、第2部はクリエイターとデザイナーのパネルディスカッション、第3部はプチ撮影会とフォトレビュー。
趣味の作品と売れる写真は別物。必要なのは想像力
第1部では、売れる写真素材の条件をPIXTAのスタッフが解説した。
PIXTAによれば、ストックフォトで売れるクリエイターとして大事なことは、機材や撮影技術以上に「写真の用途を想像できること」だという。
例えば花を撮る場合は、一枚の写真としての完成度を追求するのではなく、図鑑や生花店のWebサイトなどで使われることを想定した写真を撮るという風に、作品撮りとは視点を切り替えて、構図や撮り方を変えることが重要とした。
実際にストックフォトが利用される一例としては、Webサイトでの商品・サービス紹介のイメージ画像やパンフレットのほか、書籍や映像ソフトのパッケージ、テレビ番組のテロップ差し込み画像といった事例を紹介した。
売れる写真を撮るうえで押さえておきたいポイントとしては「作品単体で状況を説明できる分かりやすさ」と「意識を変えること」を挙げた。
「分かりやすさ」とは、どのような被写体であっても、何をとらえたものかがひと目で分かる写真であることと説明。分かりやすさを示すひとつの目安として「タイトル付けに迷わないこと」を紹介した。例えば人物の写真であれば、笑っているのか、泣いているのか、何を考えているのかが分かりにくい表情や雰囲気の写真は売れにくいという。
「意識を変えること」は、アマチュアもプロも等しくクリエイターという立場であると自覚すること。素材の販売価格は一定であり、販売の審査を通った時点で素材として扱われる点は同じだが、売れ行きに差が出るのはなぜなのかを考える視点が必要だとした。
担当スタッフはこの話題の最後に「自分の作品は価格分の価値があるのかどうか、写真を買う立場の視点で考え、作品のクオリティや方向性を変えることで、より売れやすい作品を用意できるようになる」と結んだ。
たくさん撮ることと、他にない方向性を狙うことが大事
第2部では、PIXTAのトップクリエイターとしてUshico氏とYNS氏が登壇した。最初のトークのテーマは、両氏の撮影スタイルについて。
YNS氏は都内近郊の風景やブツ撮りのカットを中心に販売している。ストックフォト用の作品は仕事の合間などに暇を見つけては、使えそうなカットを撮影するという。作品撮りに使用しているカメラはコンパクトデジタルカメラのキヤノンPowerShot G1 X。コンパクトカメラを使うのは、撮影にかかる負担が軽いことが大きな理由になっているという。
「一眼レフで撮影しようとすると、バッグを開けてカメラを取り出し、適切なレンズを装着して撮影し、終わったら片付けるという一連の動作が必要なので、撮影するのが億劫になってしまいます。なので、ちょっとしたものだと『まあいいかな』と撮るのを諦めてしまいがちです。でもコンパクトなら、カメラをさっと出してすぐにしまえるので、気持ち的にも楽だし、最終的に撮れる枚数も違ってきます」(YNS氏)
人物写真は1つのカットが何百点も売れるということもあるが、風景やブツの写真では1枚がヒットすることはあまりないので、撮影できるチャンスがあれば、できるだけいろんなものを撮っておいて、品揃えを増やすことを心がけているとのことだ。
最近はいろんな需要があるので、意外な写真が売れることもある。
最近売れたYNS氏の作品は、旅館の布団や民家のアンテナ、自動車の修理工場、外付けハードディスクドライブのブツカットなど。「せっかくブツがあるので撮っておこう」と考えて撮ってみたものが予想外に売れた格好だ。
「自分の身の回りに起こったことや出会ったことをチャンスとして捉え、それらをどのようにストックフォトとして売れるように用意するかを常に考えて、撮影に臨んでいます」(YNS氏)
Ushico氏は人物の作品を中心に撮影している。空き時間にはモデル撮影のプランを考えたり、PIXTAに登録されていないテーマの写真を検索するといったリサーチに充てているそうだ。
そうしたリサーチの結果、本業のモデルではない「普通の人」の写真があまりないことに気づいたという。
「モデルさんを撮った写真はたくさんありますが、普通の人をちゃんと撮っている作品は意外と少ないんです。エキストラ事務所に登録している俳優さんたちをモデルとして撮った写真が意外と売れています。他にはない被写体が狙い目ですね。そういった意味では、セルフポートレートも実はおすすめ。必ずしも全身を撮る必要はなくて、工夫次第では後ろ姿や手元だけという写真も売れます」(Ushico氏)
素材として使える写真を撮ろう
デザイナーの秋葉秀樹氏を交えたトークのテーマは「いい写真≠欲しい素材」。秋葉氏は広告でストックフォトを利用する例を挙げたうえで、広告として使うときに使いやすい素材と、一枚の写真としての完成度は直接関係ないと話した。
「広告として伝えたいものは何なのかを考えたとき、写真以外の要素を入れ込むことを前提にすると、写真単体の完成度は高くても、レイアウト上使いにくい構図の写真はある」(秋葉氏)
例えば市街地を写した写真の中に文字を入れたい場合は、写真単体のバランスよりも、構図として空を大きく取った写真の方が使いやすいという。
では素材として使いやすい写真とは、どのようにして撮ればいいのだろうか。風景を中心に撮影しているYNS氏は一例として、街と青空を入れた素材写真の撮り方のコツを紹介した。
「天気のいい日は逃さず撮ることです。ただこれも時期を選ぶ必要があります。というのも、これからの季節は緑がなくなるので、青空はあってもストックフォトとしては使いにくい写真になりがちなのです。逆に緑の多い時期は雲が多くなる。夏頃に来る台風一過の青空などは狙い目ですので、カレンダーと天気予報はチェックするようにしています」(YNS氏)
ちなみにレタッチでも雲は消せるが「空のグラデーションにどうしても違和感が出るので、無駄な抵抗はしないで機を待つようにしている」とのことだ。
Ushico氏は、切り抜いて使われることを想定した作品作りを心がけている。
「写真素材なので、切り抜くことを考えて余白は多めにとっています。切り抜きと白バックの両方で使える素材とするために、絶対に被写体の一部が切れないように気をつけます。影を活かしたまま切り抜くケースも考えると、影が切れないように撮ることも大事です」(Ushico氏)
写真の中に人物の一部だけが写っていることが求められるケースもある。秋葉氏の挙げた例によれば、家電の写真がこのパターンに当てはまるという。
「家電と部屋の写った写真だけでは寂しい印象になってしまうが、人の顔を入れてしまうと、どうしても人物に目が行ってしまいます。だから手だけであったり、後ろ姿であったりといった写真には一定の需要があるのです」(秋葉氏)
その後の質疑応答では、風景写真に一般人が写り込んだ場合やライティングについての質問が挙がった。
写り込みについては、YNS氏が回答した。
「風景写真などで看板の企業ロゴや一般人の顔などが意図せず写り込んだ場合、素材としては審査に通らなくなるケースが多いです。かといってぼかしなどをかけると、今度は不適切な処理を行なったとして審査に落ちやすい。この場合は、地面や人が入らない構図で売れる写真を撮ることを考えましょう。あるいは、信号の変わり目などで人の流れが変わる瞬間を狙って撮る手もあります。そのような場合は超広角レンズを使うと、人が小さくなり審査に通りやすい写真が撮れる可能性も上がります」(YNS氏)
ライティングについては、Ushico氏が回答。同氏は光の状態をあまり気にせずに済むことから、スタジオでストロボを使って撮ることが多いというが、基本的にはどのような光の状態でも撮影できるよう腕を磨くことを勧めた。
「ストックフォトでは数とバリエーションがたくさんあるのが強みになるので、カテゴリーはひとつに絞っても、方法論は絞らずに、なんでもできる人になることが大事だと思います」(Ushico氏)