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改ざん・不正利用を防げるのか…写真データの信頼性を確保するアドビの「来歴記録機能」とは
対応ファームウェア搭載のZ 9がお披露目
2022年12月21日 07:00
「誰がこの写真を撮って、どういった編集が行われたか」。そうした撮影、編集の履歴を画像内に埋め込むCAI(コンテンツ認証イニシアチブ)。フェイク画像への対抗策としてAdobeやニューヨークタイムズ、Twitterが2019年に立ち上げたこの取り組みに、ニコンが賛同してカメラでの履歴情報埋め込みをテストしている。
今年10月に米国で開催されたAdobe MAXの会場でもニコンのデモが披露されたが、日本で説明会が行われ、ニコン「Z 9」を使った機能紹介が行われた。なお、現時点で、ニコンカメラのCAI対応がいつになるかは決定していない。
CAIは現在、マイクロソフト、BBC、クアルコムなど、多彩なメンバーを加えて、800社以上に拡大している。写真の撮影時に撮影者や撮影日時、使用機材、サムネイル画像、著作権情報といったExifデータに加えて、信頼性を担保するためのメタデータなどのハッシュタグが画像に埋め込まれる。こうしたデータは公開鍵暗号方式と呼ばれる暗号方式を使ってカメラ内で処理され、安全な形で埋め込まれる。
CAIの仕組みと目的
生成される画像自体は通常と変わらないが、CAI対応の画像編集ソフトなどで埋め込まれたデータの読み取りが可能になる。対応ソフトで画像編集を行うと、その編集履歴が全て同様に埋め込まれ、履歴という形で追記されていく。
こうして埋め込まれた履歴を確認することで、その画像の真正性を確認できる、というのがCAIの目的だ。ニューヨークタイムズが含まれているとおり、元々カメラマンなどからメディアに入稿された画像がフェイクでないことを証明するといった目的があった。
編集履歴は、例えば露出やホワイトバランスのような画像補正から、別の画像の合成、切り取りなどの履歴が全て記録されるため、元画像に付け足したり、色を強調したり、変形したりといった画像の編集履歴が外部でも確認できるようになる。
これによって報道機関側は、画像がフェイクや悪意のある書き換えが行われていないかを証明できる。撮影履歴、編集履歴は追記されていくので、上書き保存をしても既存の履歴が書き換わることはない。もちろん、非対応ソフトで履歴そのものを消してしまうことはできるが、そうした画像は安全でない画像として紙面で利用しないという使い方ができる。
SNSのプラットフォームとしてTwitterが参加したのも同様で、例えばCAIによる履歴が埋め込まれて確認された画像は、「フェイク画像ではない」とタグ付けをして優先的に扱うといった動作ができるだろう。ただし、Twitterは買収騒ぎの余波で社内が混乱しているとの報道もあり、現状、CAIに対する取り組みが進んでいるかは定かではない。
ニコンがカメラメーカーとして参加
カメラメーカーとして初めてCAIに所属したニコンは、まずは試験用としてプロ向けカメラのZ 9用に対応ファームウェアを開発し、CAIの埋め込みに対応させた。ただ、ハッシュを生成して埋め込むにはCPUを活用するため、カメラへの負荷が高いという。画像処理の速度に影響するため、連写速度が遅くなる可能性があるとのこと。
こうしたことから、当面は画像処理エンジンの速度が速く、バッファメモリの量が多い上位機種の方がターゲットになるとニコンでは見ている。報道機関のニーズが最初にあったため、プロ向けでまずは対応していくことになりそうだ。ただし、現時点では開発中で、どの機種にいつごろ搭載するかは決まっていない。
必要に応じて編集履歴を確認可能
対応する画像編集ソフトはAdobe Photoshop CC。現在ベータテスト中で、「間もなく正式版になる」(同社)予定。現状はPhotoshopだけだが、今後Lightroomや動画向けのPremiereでも対応を拡大していく計画だという。
画像の編集履歴は、PhotoshopだけでなくCAIの運営する「Verify(確認)」サイトでも確認できる。このサイトはすでに日本語化されてオープンしており、履歴データが保存された画像をチェックできる。
このサイトでは、アップロードした画像の撮影者と編集者、その履歴などが表示されて真正性をチェックできる。履歴データは、Photoshopで画像自体に埋め込むだけでなく、確認サイトにも保存可能。こうしてオンライン保存された履歴データを使って、アップロードされた画像と似たデータも探すことができる。
現時点では、画像自体にユニークIDを埋め込み、インターネット上にアップロードされた画像に同じユニークIDを持つ画像が盗用されていないかを検索する、といった用途までは想定されていない。それでも、あらかじめ確認サイトにアップロードしておけば、盗用画像を見つけたときの証拠として使うことはできそうだ。
CAIの履歴データの仕様は公開されており、企業がこれを活用したサービスを提供することも可能。ユニークIDが埋め込まれた画像が盗用されていないかを検索して通知してくれるようなサービスを、事業者が開発することもできるという。
現状ではカメラメーカーとしてはニコンのみで、OSとしてはマイクロソフトのみが参加しているが、Android向けカメラアプリを使ったCAIのテストも行われているとのこと。現時点でAppleやGoogleはCAIに参加していないが、アプリレベルでの対応も可能なようだ。
ハードウェアに対する負荷が高いことから、カメラメーカーの対応は容易ではないかもしれないが、フェイクや盗用の問題は続くだろうと予想されることから、今後の展開を注視したい。