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2020年度の写真新世紀グランプリに樋口誠也氏
日本とシンガポールの歴史に材をとった映像作品
2020年11月4日 10:00
![](https://asset.watch.impress.co.jp/img/dcw/docs/1286/830/top.jpg)
キヤノンは11月2日、同社が主宰するフォトコンテスト「写真新世紀」の2020年度(第43回)グランプリ受賞者を発表した。グランプリを獲得したのは樋口誠也氏。受賞作品は『some things do not flow in the water』(動画)だ。
受賞作品は日本とシンガポールの歴史に材をとった映像作品。「水に流す」という言葉をキーワードに、プリントとともにシャワーを浴びながら、「そこに写っていたものを思い出す過程を映像で記録した」ものだという。制作意図によせて、樋口氏は「証拠がないからといってその事実が消えるわけではない」とコメントを寄せている。
43回目の開催となった今回は、2020年3月18日から5月31日の募集期間を経て、国内外から2,002名(組)の応募があったという。
6月に優秀賞の選出審査会が開かれ、優秀賞受賞者7名と佳作受賞者14名が選出された。そして10月30日のグランプリ選出公開審査会で、樋口氏のグランプリ受賞が決定。奨励金100万円および副賞のほか、次年度の新作個展開催権が贈られた。
これら各作家の作品は東京都写真美術館(東京・恵比寿)で11月15日まで展示されている。また、公開審査会の様子についても、後日写真新世紀のWebページ上での紹介が予定されているという。
写真新世紀は、同社が主催する新人写真家の発掘・育成・支援を目的とした文化支援プロジェクト。1991年の開始から数えて、本年で30年目を迎えるもので、新人写真家の登竜門としても知られている。
受賞にあたり、樋口氏のコメントと、審査員をつとめた椹木野衣氏の選評も公開されている。以下引用にて紹介したい。
受賞コメント
自分の作品をこのような場で多くの方々に見ていただけたことだけでも非常に嬉しく思っています。さらに審査員の方々からも鋭い指摘やコメントをいただくことができ、今後の活動の参考になりました。嬉しさとともに、今後に向けたプレッシャーもあります。今後も自分が気になったことに純粋に興味を持って、無理に言葉を繕うことなく真摯に作品をつくっていきたいと思っています。
審査員(椹木野衣氏)コメント
見事にグランプリを獲得された樋口誠也さん、誠におめでとうございます。今年はコロナ禍で応募数がどうなるか心配していましたが、過去最多の2,002点の応募があり、過去最大の競争率の中でグランプリを獲得したのは見事な成果だと思います。彼の展示の本当の魅力は、方法論的なことだけではなくてコンセプチュアルな行為をあえて写真と裸の付き合いとして自らの身体を使って試み、言葉のセンスも感じられました。どうしても固くなりがちな主題ではありますが、そこにユーモアと言って良いような柔らかな視点が感じられたことも評価に値します。
今年の総評としては、今年のキーワードともいえる「距離(distance)」が応募作品全体的の傾向として感じられました。人と物との距離をどのようにして“とる”のか、これは写真に限らない問題であり、大きな一つのテーマだと思います。今まで写真というのは「遠くの物を近くに見えるように撮る」という技術で発展してきたと思いますが、かえって「近くの物を遠くにして撮る」といったことが主題として浮上し、これからの写真にも影響を与えると考えられるような作品が数多くありました。
依然として未知の時代に我々が直面していることは間違いなく事実で、表現する人は一歩前進・一歩後退という試行錯誤を恐れずに、果敢に新しい写真の可能性を探究してほしいと思います。
写真新世紀展2020
会場
東京都写真美術館 地下1階展示室
東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
会期
2020年10月17日(土)~11月15日(日)
開館時間
10時00分~18時00分
休館日
毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館)
入場料
無料