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第43回木村伊兵衛写真賞授賞式で小松浩子さん・藤岡亜弥さんがスピーチ

制作に対する想いを語る

第43回木村伊兵衛写真賞を受賞した小松浩子さん(左)と藤岡亜弥さん(右)

第43回木村伊兵衛写真賞の授賞式が4月24日、東京・千代田区の如水会館で開かれた。

今回の候補は233名の推薦人から推挙された64名。女性は18名だったが、最終審査に残った6名は全て女性だった。

審査は写真家の石内都氏、鈴木理策氏、ホンマタカシ氏、作家の平野啓一郎氏。過去にも作家の安倍公房氏、吉行淳之介氏が審査に加わったこともある。

新しいことを常に試す

小松浩子さんは音楽活動を経て、30代から写真を始めた。街にある工場の資材置き場を撮影し、モノクロームに焼き付けてきた。2009年から個展やグループ展を開いてきたが、2009年6月には自主ギャラリー、ブロイラースペースを立ち上げ、毎月10回連続の個展を開いている。

「展示のたびに何か新しいことを試みた」と小松さんは話す。ロール紙のまま天井から吊るす。床にプリントを敷き詰める。その一つの到達点が今回、受賞対象となった日本とイタリアでの展示だった。

小松浩子さん「人格的自律処理」ギャラリーαMでの展示 撮影:木奥恵三

「空間そのものを知覚経験する場として提示した。撮影対象の物語性を排除し、記憶に依らない純粋な視覚となることを目指した実験だったと私は思う」と審査員の鈴木氏は評した。

「写真をイリュージョンとして綺麗に額装して発表し、可愛くない値段で売っている私としては、小松さんの展示から写真の価値観を挑発されたようで、とても面白かった。受賞後はどんな展開を見せてくれるか、期待して一票を投じた」

小松さんは受賞の言葉で、制作の舞台裏を話した。これまでにプリントしたロール印画紙をざっと計算したら1,000mには達する。

自宅の風呂場を暗室にして、1人でプリント作業を行なうが、ロール紙への焼き付けは1人ではできない。

「そのすべてを写真家の金村修さんがアシスタントとして手伝ってくれています。これからも何百mも焼くと思うので、また手伝ってください」

小松浩子さん

故郷・広島を題材に

藤岡亜弥さんは身近な日常を捉えた作品を発表してきた。1996年、ガーディアン・ガーデンが主催する写真「人間の街」プロジェクトで発表した『なみだ壺』が初個展だ。

今回の受賞作の一つ写真集『川はゆく』は広島が題材だが、「意気込んで始めたものではなかった」と藤岡さんは言う。

「帰郷後、広島に対する照れなどがあって、なかなか素直に向き合えなかった」

藤岡亜弥『川はゆく』の掲載作品

鈴木氏はこの写真集について以下のように評した。

「現代の我々の感覚を反映するように、一定の距離感を保ちながら広島を見つめているが、時折、虚実ない交ぜにするような光景が鮮やかに示され、広島に対する問題意識を曖昧にしている私たちを目覚めさせる。広島に対する記憶の在り様を、写真の魅力によって揺さぶる作品集だ」

写真は時代とともにあり、流行や新奇さに目を惹かれがちだ。

「重要なことは自らの制作に対する迷いのなさと私は考えます。受賞者の2人はそれを備えた人であり、今後の活躍を期待しています」

藤岡さんは「いつももうダメだダメだと思いながら写真をやってきた」と告白する。初個展以来、楽しい場所であり続けたガーディアン・ガーデンとスタッフたち、出版社の赤々舎、叱咤激励し続けてくれた写真家の土田ヒロミ氏らの存在が後押しになった。

「お世話になった人、大切な人たちに、ここでお礼を言えることが嬉しい」

藤岡亜弥さん

第43回 木村伊兵衛写真賞受賞作品展

ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 新宿1

住所:東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階
開催期間:2018年4月24日(火)〜2018年5月7日(月)
開催時間:10時30分〜18時30分(最終日は〜15時00分)
休館:日曜日、5月3日(木)〜5月6日(日)
入場料:無料

ニコンプラザ大阪 THE GALLERY 大阪

住所:大阪府大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
開催期間:2018年6月14日(木)〜2018年6月20日(水)
開催時間:10時30分〜18時30分(最終日は〜15時)
休館:日曜
入場料:無料

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。