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高いコントラストと豊かな階調再現を実現した「ピュア W プリント」

自然光+透過光で奥深い色を表現

写真プリントに今までになかった方法で取り組む印刷会社がある。東京都中央区で創業した株式会社昇寿堂だ。70余年の歴史を有する同社がいま、その歴史の中で培ってきた技術を活かした新しい写真プリント「ピュア W プリント」を発表した。

豊かな階調とコクのある色再現が魅力

発表会場に入った瞬間に驚かされるのが、まず展示スペースがとても明るいことだ。プリント技術の発表会ということで、厳密に調整が施された照明下での展示を想定していただけに、ちょっと意外な印象を抱かされた。

だが、昇寿堂の発表した新しいプリント「ピュア W プリント」のミソは、ここにある。今回のプリント技術のポイントを聞いていった。

まず、1つ目のポイントは比較的薄い用紙の両面に、同じ絵柄の写真がプリントされている点だ。表面と裏面に寸分のズレなく同時に印刷することで、薄めの紙の上に、豊かな階調とコクのある色表現が可能となるという。これにより、片面だけのプリントでは得られない深みのある色味が再現可能になっているそうだ。なお、プリントには専用の印刷機が使用されている。

両面にプリントすれば深みのある表現ができるのであれば、手近にあるインクジェットプリンターなどで両面にプリントすればいいと思われるかもしれないが、ごく小さなズレでもピンボケしたような印象になってしまうため、実は極めて高い精度が要求される技術だ。

モノクロ作品の例を見せてもらった。上が両面にプリントしたもので、下が片面だけのプリント。このように比較できる状態でプリントされたいくつかの作品が透過光の投光パネル上に設置されるかたちで展示されている。一目見ただけでも高コントラストにもかかわらず階調が残っていることがわかる。

表側と裏側のプリント状態

2つ目のポイントは、この両面にプリントした作品は反射光と透過光の双方で鑑賞できるということ。一般的に写真のプリントは用紙の片面にするものであり、鑑賞の仕方もしっかりとした照明演出がなされた室内でするものとなっている。だからこそ、専用の展示スペースや演色性の高い照明の設置が必要とされていたわけだが、ピュア W プリントではここで透過光を利用した鑑賞スタイルを打ち出した点に画期性がある。

投光パネルを利用した場合
自然光を利用した場合

透明度のある顔料を使用

ピュア W プリントの豊かな階調と深みのある色再現を支えている技術的な特徴は大きく3つに分けることができる。1つ目は、両面プリントを実現する極めて精度の高い専用の印刷機が用いられていること。2つ目は、プリント用紙に半透明の特殊なシートが用いられていること。そして3つ目が、印刷に用いられているインクの特性によるものだ。

インクジェットプリンターによるプリント
上側が両面で下側が片面にプリントした状態

発表会のサンプルを撮影した写真家むらいさちさんのコメントとして「窓際で光にかざして見ると、透明感あふれる心地よさがたまりません。淡い色合いの中でもきちんと色を描き分けていて、僕の作風にぴったりなプリントだと思いました」と、その感想が紹介されている。

3つ目のインクの特性とはどういうことなのか、その詳細を聞いた。その説明によると、インク自体は顔料が用いられているものの、その透明度に違いがあるとのことだった。インク自体に透明性があるため、プリント時に色が重なっても濁りが出ず、またそれによってエッジが立ち上がりシャープネスも向上しているのだそうだ。実際にそのプリントを見た写真家からもシャープネスが向上しているとの感想が寄せられたという。

また、このプリントは水や紫外線に強いという特性も有している。実際に発表会場でも午後の強い光が直接プリントに当たる状態で展示されていた。両面にプリントすることでコクのある色表現への適性が高いことはよく分かるが、淡いトーンの作品には適さないのではないか、と思ったが、むらいさちさんのコメントのとおり、濁りがなく透明度の高いプリント表現は、淡い空気感の表現にも好適なようだ。

ほかにも、ポストカード大にプリントした作品もみられた。表裏両面から鑑賞できる利点をいかした提案だ。

どこでも展示空間にできる

美術館やギャラリーで多く見られるように、プリントした作品は額装して、壁に釘打ちなどをした上で展示されることになる。この場合、プリント費用に加えて額装に関わる費用と、そうした作品の展示に対応できるスペースを用意する必要が発生する。そして、こうしたスペースは管理された照明下でなければ、予期していたような作品の見せ方は叶わない。

もちろん、厳密に見せたい色や意図がある場合、それ以上の展示空間はないだろう。こうした点から見ると、ピュア W プリントの特徴がよりはっきりとしてくるように思われる。展示空間に縛られない作品の掲示と時間とともに変化する自然光や透過光の投光に用いるビューワーの演色性など、様々な演出効果を作品表現に加味できる、ということだ。

自然光下での鑑賞が可能であることをいかして、作品を掲示できる壁面スペースがないカフェのような場所などでも展示空間をつくることができるほか、森の中なども演出意図によっては展示空間とすることができるという。こうした作品鑑賞は室内でするものといったイメージを払拭したところに、ピュア W プリントの本質的な魅力があるように思われた。

プリント用紙自体がトレーシングペーパーのようなコシを有しているため、通常の紙のように額装を必要としないことや、光を透過する性質があることも、プリントを単体で鑑賞可能にしているポイントだろう。

もともとは電飾看板の技術だった

ところで、そもそもなぜこのようなプリントが生まれることになったのだろうか。

同社によると、もともとは店舗などの電飾看板に用いられていた技術なのだという。マクドナルドなどのカウンターで、上のほうにあるメニュー板をイメージしてもらいたい。このプリント技術を用いて写真のプリントをしてみたところ、驚くほど新鮮な印象の仕上がりになったことがきっかけとなり、一部の写真家に見せたところ、かなりの驚きをもって迎えられたのだという。

そして濃度の調整など最適なプリント方法の模索が続けられ、ついに今日の発表会に至ったのだとか。展示空間には数多くの写真家の名前とともに、ピュア W プリントで仕上げられた作品が並んでいる。

気になるのは、いつから、どれくらいの価格帯で利用できるようになるのかだが、このあたりはまだ調整中とのことだった。まずは、発表会を通じて、この新しいプリント技術を見て知ってもらいたい、と同社。発表会自体は、4月5日(金)と6日(土)の2日間だけとなっているが、会期終了後は、同社社屋に展示スペースが設けられる予定とのことだ。

展示されているプリントには、並木隆さん、むらいさちさん、吉住志穂さん、市ノ川倫子さんなど多数の写真家の作品がみられた。

筆者が訪ねた時間帯は直上近くからの光がささぐ午後の早い時間帯だったが、同社によれば、暗い状況であればもっとわかりやすくなる、とのことだった。変化し続ける自然光とともに写真の印象も変わって見えてくる、同プリントの発表会、1度ならず何度足を運んでも、またちがった作品表現に出会えそうだ。

本誌:宮澤孝周