コラム

富士フイルム「プレミアムプリントサービス」はどうやって作られるのか……プリントラボを見学してきました

プロによる補正と巨大な銀塩プリント機にびっくり!

東京都調布市にある富士フイルム イメージング プロテック株式会社の本社。ここでプレミアムプリントサービスを含む、数多くのプリントが作られています。

富士フイルムの「プレミアムプリントサービス」は、デジタル写真をプロのプリントマイスターが1枚1枚銀写真プリントで出力するサービスです。

私も先日、「プレミアムプリントサービス」を試したところ、プリントされた写真が自分で撮影したデータ以上に頭で描いたイメージに近くてビックリしました。

せっかくなので今回は、自分の体験したプレミアムプリントサービスがどのように作られているのか、富士フイルムのラボを見学させてもらいました。実際にプリントしていただいたプリントマイスターさんにもお話をうかがっています。

お話を聞いた富士フイルム イメージング プロテック株式会社の政司俊一さん(左)と、麻生憲仁さん(右)

自分の写真をプロがほどよく補正!

——富士フイルムのプリントラボは何箇所あるのでしょうか。

3箇所あります。調布、宇都宮、福岡です。そのうち大きいのが調布で、従業員は400名ほどです。弊社のプリント商材には今回体験いただいたプレミアムプリントだけでなく、写真年賀状やカレンダー、フォトブック、写真のパネル加工サービスのウォールデコなどありますが、この調布事業所でコンシューマー向けの商材のほぼ9割を手がけています。プロラボサービスのクリエイトで受付した作品も調布事業所でプリントしています。

——色に関する環境整備はどのようにされていますか?

画像補正に使うモニターは月に1回キャリブレーションを取り直して調整しています。室内灯もすべて色評価用のものを使用しています。外光の影響を受けないように窓のブラインドも閉め、日中でも夜間でも同じ色で見えるよう努めています。

作業エリアの一部。蛍光灯はすべて色評価用です。

もちろん、モニターと出力機のカラーマッチングも行なっており、出力機の方は出力前に毎回キャリブレーションをしています。それなりに時間がかかる作業ですが、絶対必要な作業と位置付けています。

——注文データが入ってきてから、補正する作業する流れを教えてください。

お客様がネットで注文した内容が、注文票として1枚の紙で出力されます。注文票には、元画像を補正なしでそのままプリントする「ストレート仕上げ」、補正エリアや指示を選択して補正する「選択仕上げ」、プリントマイスターがベストなプリントに仕上げる「ラボお任せ仕上げ」などが記されており、オーダーを元に画像を補正していきます。

——プリントが届いて、自分の想定以上にきれいに仕上がっていました。私のデータを実際にどのように補正したのですか?

プレミアムプリントサービスでプリントしてもらった私の作品。注文までの様子は前回の記事に詳しく書きました。

こちらの海の写真は「ラボお任せ仕上げ」ということでしたね。ご自分でレタッチとかされましたか?

——注文前に自分で彩度を上げました。

やはりそうですか。画像を見て、お客様の方で画像をお作りになっていると判断しましたので、「ラボお任せ仕上げ」であっても、大きく調整する必要はないと思いました。ただ、少し砂浜が飛んでいると思ったので、その部分を焼き込み、濃度を上げています。

左が補正前、右が補正後。
上が補正後、下が補正前。

——ソフトは何を使っていますか?

一般的なPhotoshopです。よく使う作業は「アクション」を作って用意しています。

——下の砂浜部分の濃度を濃くすると、傘や人物の陰影が出て画面に奥行きが感じられるようになりますね。

このような写真は手前が明るすぎると、ちょっと目障りに感じてしまうことがあります。「手前を少しおさえると画面が落ち着く」というのが、補正の傾向としてあります。

——モノクロのデータも送りましたが、どのように補正してもらえたのでしょう。

こちらも「ラボお任せ仕上げ」でしたね。同じように、ほとんど手を加えなくて良いと判断しました。ただ、少しだけ雲のディテールを強調し、雲間から射し込む光芒をハッキリさせています。

補正前
補正後

この補正は、お客様が作りたいであろうと私が想像したイメージで仕上げていますので、正解とはかぎりません。もし違うと感じた場合は、「リメイクオーダー」というシステムで、仕上がったプリントからお客様の意図をインターネット上で指示していただいて再注文できます。

——「選択仕上げ」をお願いした花の写真の場合、どのような調整をされたのでしょうか。

「選択仕上げ」では、9分割されたエリアごとに指示が出せます。私は花の多いエリアのコントラストなどを強くし、加えて全体の彩度の調整をお願いしました。

「全体の彩度を上げて」「赤色の濃度を上げる」という指示でしたね。まず全体のバランスを見て濃度を上げましたが、黄色が強く見えましたので、黄色を少し抜いて、最後に彩度を若干上げています。

また、花のピンクを出すために、マゼンタだけ彩度を上げて赤味が少し際立つように調整しました。いかがですか?

左が補正前、右が補正後。

——この作品は家で飾るため爽やかな感じにしたかったので、イメージ通りです! 注文者のイメージをくみ取る際、気をつけていることはありますか?

お店で受け付ける注文だと、色見本を付けていただき、手書きで具体的な指示を書き込んでもらえます。ですが、インターネットで注文するプレミアムプリントは、エリアを選んで補正項目とその値を選択する注文方法です。

注文時のオーダーから作者の意図をくみ取り、私どもの経験値から「どんな方が見てもキレイと思うプリント」を目指しています。ご自身の撮影イメージとプリント後のイメージに差異があることがあると思います。そこを我々の経験値で補正するのがプレミアムプリントの特徴です。

大型機材でこだわりの銀塩プリント

——プリント作業の流れを教えてください。

プリンターの色を管理するため、用紙を替えるたびにキャリブレーションチャートを出力し、濃測計に読み込ませてカラーマッチングをします。

——用紙を替えるたびにキャリブレーションをとるのですか?

同じロールでも製造年月で乳剤番号が変わります。乳剤番号が変わると写真の色が若干変化します。そのためロールを替えるたびにきちんと色が出ていることを確認すると同時に、乳剤番号ごとによる色の差を補正します。

——手動でプロファイルを作っているようなものですね。

そういうことです。まったく同じ面種と乳剤番号でも、今日入荷したものと3日前に入荷したものでは、環境の違いで多少違いが出ることもあります。この作業は、プリンターと紙のマッチングですね。色をしっかり管理しないと、どんなにモニターとプリンターのカラーマッチングをしていても出力する色が変わってしまいます。

——大判プリントはどのようにプリントしていますか?

幅1,270mmのロール紙が扱える大判プリンターで出力し、これにデータを面つけしてカットすることで、様々なサイズのプリントを効率よく生産できます。これも銀塩プリントです。

暗室に設置された露光機。露光されたロールは、壁面に見えるロールホルダーに暗闇の中でセットされる。
暗室でセットされたロールは、壁を隔てた外の現像処理機へ。

受付して、補正をおこなったマイスターが、出力機に紙をセットし、プリントが出てきたものをカットするまでを担当しています。

作品のカットまで、補正したマイスターが行います。

注文者の意図を考えて

——人気の面種はありますか?

光沢の「グロッシー」が、いちばん人気です。光沢系の「クリスタル」「MAXIMAグロッシー」も人気で、光沢系が注文の6〜7割を占めています。また、マットの面種を指名するお客様も若い人を中心に確実に増えていますね。

ディープマットのような質感は、コンシューマーの市場には今までほとんどなかったと思うので、新鮮な仕上がりだと思います。

凹凸のあるテクスチャー(キャンバス/リネン/レザー)は、最近発表した新しい面種です。また、「MAXIMA(グロッシー / マット)」もプロ向けに発売された面種で、去年秋に発表された紙です。

——プリントサイズで人気なのは?

A4が枚数的に多いですがが、プレミアムプリントという特性上、ほかのサービスと比べるとA3や半切が多いように感じます。一般的な家庭のインクジェットプリンターはA4サイズまでなのが多いので、自分で出力できないサイズを選ぶお客様が多いのかと思います。A4サイズで気にいっていただけたら、もっと大きなサイズで注文いただけるのではないかと期待しています!

——プレミアムプリントは面種が10種類選べますが、面種によって補正の仕方は変わりますか?

ペーパーごとに特性があります。例えば無光沢の「ディープマット」はコントラストがつきにくいので、光沢紙と同じ補正だと少しおとなしく見えてしまいますので、光沢より若干コントラストをつけた補正をしています。

しかし、撮影された方がこのペーパーを選んだ意図などを考えながら面種の特性を考慮して補正することが大切です。例えば「クリスタル」を選んだ方は、このキラキラした感じが欲しいのかな? とか、マット調の「ラスター」を選んだということはフワっとした感じに仕上げた方がいいのかな? とか。担当者が今までの経験から、撮影者の意図をくみ取って補正します。

Webでプレミアムプリントの面種見本帳が購入可能できます。オーダー前に検討されてはいかがでしょうか。

PREMIUM PRINT プリント面種見本帳
https://pg-ja.fujifilm.com/202416469.html

——今までの経験で、補正の方向性は決められるんですね。補正イメージを社内で共有することはありますか?

不定期ではありますが、同じ題材を使って補正コンテストのような場を設けています。それぞれ自分がキレイだと思うように補正して、普段プリントをしない上司や経理などの他部署の人も含めて点数を付けてもらいます。みんなが好きと選ぶ作品は、ほぼ一致するんです。だいたい同じ人が選ばれて(笑) その補正が万人に好まれる補正ということなので、コンテストで選ばれた補正をみんなで目指しています。

——プリントする人によって補正は変わりますか? 個性が出るものですか?

プリントする人で変わりますね。補正に正解はないのかもしれませんが、コンテストのような場を定期的に設けることで、人に好まれる補正の方向性の気づきになると思います。

——写真展へ出かけて他の人のプリントを見ることはありますか?

写真展はよく行きます。いろいろな写真展を巡ると、会場のライティングの違いや環境の違いもわかります。どのような状況で写真が飾られているかを知ることは、補正の勉強になります。

——プリントされて、お客様の反応とか聞くことはありますか?

ありがたいことに、「PCのモニターやカメラの背面モニターで確認した画像より、キレイなプリントでびっくりした」という声をよくいただきます。また、お店経由で感想のお手紙を頂くこともありました。お客様の声が「この仕事をやっててよかった」と一番励みになりますね。

まとめ:プロの技術+銀塩プリントの価値に納得

今回のインタビューでプレミアムプリントの「選択仕上げ」や「ラボお任せ仕上げ」は、プリントマスターが主観的にキレイに補正するのではなく、作者の意図をくみ取った上で、より美しく補正していただいていることがわかりました。

プレミアムプリントのラボは、モニターから出力機まで徹底したキャリブレーションでカラーマネジメントしています。一番驚いたことは、プリントしていただいた政司さんのモニターと、自分の家のモニターの色が違ったことです。モニターは購入時に正しく発色していても、経年経過で次第に色はずれてしまいます。恥ずかしい話ですが購入してから2年間、まったく調整していませんでした(知識ではわかっていましたが……)。改めて定期的にキャリブレーションする大切さを知ることができました。

美しいプリントを仕上げるため、どのような意図でどこをどう調整するのか詳しく教えてもらえたことで、とても勉強になりました。印象的だったのは、「補正に正解はありません」とのことば。確かに補正の正解は、作者の頭の中で思い描いたイメージです。しかし、プロに補正してもらうことで、自分がイメージした以上に作品の魅力を引き出してもらえることもあるのだと感じました。

InstagramやTwitterなどのSNSにアップされている写真を見ると、撮影だけでなく、PhotoshopやLightroomを使って思い描いたイメージを作り込んで楽しむ人が増えています。また、SNSにアップするだけでなく、写真展やフォトブック、ポストカードなど、作品をアウトプットして楽しむニーズも増えているそうです。

作り込んだ作品をそのまま出力する「ストレート仕上げ」もいいですが、作者の意図をくみ取った上でプロが美しく補正する「選択仕上げ」や「ラボお任せ仕上げ」もぜひ、試していただきたいです。

制作協力:富士フイルム株式会社

加藤マキ子

1981年生まれ。写真編集者。カメラ書籍を手掛ける編集プロダクションで女性向けのカメラ雑誌や書籍を多数手掛ける。その後、実用書系編集プロダクションを経て、2013年に独立。『光と色の写真の教科書 〜ふんわりフォトもこっくりフォトも思いのまま〜』『まりこ先生が教える やさしい写真の教室』などの企画・編集を担当。ときに、撮影や執筆も手掛けることも。仕事が好きで、マグロのように止まらず常に全力疾走中!