ニュース
ストックフォトの最新トレンドは「ローアングル気味のナメとカブセ」「真俯瞰構図」
「PIXTAクリエイターズAWARD 2017」より
2018年2月5日 09:15
ストックフォトサービス「PIXTA」を運営するピクスタ株式会社は1月27日、ユーザー表彰イベント「PIXTAクリエイターズAWARD 2017」を開催した。
PIXTAは、写真、イラスト、動画の各カテゴリの素材販売を行なうWebサービス。PIXTAでは、同サイト上で素材登録を行なうユーザーのことを「クリエイター」と呼称しており、ユーザーの素材製作などに関わるサポート業務も実施している。
本イベントは、2017年に素材販売数の多かったクリエイターを表彰する趣旨。今回で4度目の開催となる。
開会に先立ち、ピクスタ株式会社の古俣大介代表取締役社長は、同社の活動について振り返った。具体的なサービス内容に直接関係する主な活動は下記の通り。
2017年2月、韓国でストックフォトサービスを展開するTopic Images社を買収し、韓国市場に参入。7月よりPIXTA韓国語版のサービス提供を開始した。古俣社長は、中国をはじめとしたアジア市場への進出に力を入れる方針を明らかにしている。
5月には30日ごとに10点の素材をダウンロードできる「少量定額プラン」を開始し、これまで予算的な理由でPIXTAを利用するのが難しかった層への訴求を図った(これまでは素材の単体販売のみ取り扱っていた)。
10月からは、ロイヤリティフリーの楽曲や効果音などを音素材の提供も開始。2018年1月時点で8万点を扱っており、こちらも好調としている。
このほか、登録カメラマンの出張撮影サービス「fotowa」や、他社サービス内でPIXTAのストック素材にアクセスできる「PIXTA API」の開始、台湾版PIXTAの売上も約2倍に成長したことを挙げた。
「海外展開も徐々に進めていますが、これはまだまだ軌道に乗せる段階で、売上に占める割合は国内が大半です。今は定額制サービスの拡充と併せて、顧客単価と顧客数の増加に繋がるような施策を考えています。詳細はまだ話せませんが、それら施策の結果として、クリエイターさんへの還元をもっと増やしていきたいと考えています」
「クリエイターズAWARD 2017」では、写真部門、イラスト部門、動画部門、TOPヘアメイク、TOPモデルのそれぞれで表彰が行なわれた。このうちTOPヘアメイクは、人物モデルのヘアメイクオファー回数が最も多かったヘアメイクアーティストに贈られる賞。4回目となる今年から新設された。
写真部門とクリエイター総合で1位を獲得したトップクリエイターのushicoさんは、2017年に第2子の出産があった際のエピソードを披露し、昨年のクリエイター活動について振り返った。
「昨年6月に第2子を出産したのですが、病院内では行動範囲も制限されて、あまり動けないんですね。妊婦さんたちが入院していてつらいことの一つは『何もできないこと』だと思うのですが、私の場合は、写真を撮ることはできないまでも、PCを使ってタグをつけたり、セレクトしたりと、やれる仕事がものすごくたくさんありまして、とても充実した入院生活を送ることができました。もちろん、これは家族の支えがあってこそのことではあるのですが」
「子どもが2人いると、依頼を受ける形での撮影がとても難しくなります。でもストックフォトという新しい働き方をしていることによって、それでもカメラマンでいることを諦めなくてもいい、というのはとても幸せなことなのだと、今回の出産を通して強く感じました」
イラスト部門ではmakaron*さん、動画部門ではABCさん、TOPヘアメイクは村松美乃里さん、TOPモデルは木原真沙美さんがそれぞれ1位を受賞した。
このほか、各部門をまたいだ「総合TOP10」では、1位のushicoさん以下、2位xiangtaoさん、3位Graphsさん、4位w/bさん、5位kouさん、6位プラナさん、7位mitsさん、8位8x10さん、9位IYOさん、10位まちゃーさんと続いている。
出張撮影マッチングサービス「fotowa」に登録しているカメラマンとしては、売上の上位5名が発表された。1位を獲得した栗田広行さんは、2017年の目標を「fotowaで1位になること」に定めて活動したと話した。9月から12月にかけての報酬額は合計でおよそ270万円だったという。
「僕はこういうこと(金額など)をSNSとかでも平気で言ってしまうのですが、このときは10月、11月とほとんど休み無しで、死に物狂いで受注を受けたのを憶えています。今思えばかなり無理をしたなと思います。僕は昨年のPIXTAクリエイターAWARDにも呼んでいただいたのですが、このときは惜しくも2位だったので、今年こそはと思い、特に夏以降、下半期で集中的に仕事をしました。おかげさまで晴れて1位を獲ることができ、頑張った甲斐があったと感じています」
続いてのセッションでは、コミュニティマネージャーの鈴木慎悟さんから、ストックフォトに関する売れ筋の傾向について解説があった。
鈴木さんは、販売数の多い写真素材を「構図」、「演出」、「物撮り」、「色味」の4要素に分類し、それぞれの傾向について考察を述べている。
構図については、被写体となる人物の視線より低い位置から撮影し、臨場感を演出した写真が販売数を伸ばした。
「メインとなる被写体の前景にテーブルや椅子などの一部を入れ、なおかつローアングル気味に写した素材の販売数が増えています。『ナメとカブセ』の写真ですね。従来はホワイトボードや白バックなど、わかりやすくてシンプルな背景にキャッチコピーを入れることが多かったのですが、最近は前景のぼやけた部分を使うケースが多くなってきたようです。これをローアングルと組み合わせると、モデルさんの躍動感や、見る側の臨場感がよく出る印象を受けます」
素材写真としての演出面で起きている変化としては、主題を引き立てるように構図を作り込んだ素材が注目される傾向があるという。
「素材の段階からある程度の演出を加えたものが売れています。例えば横からのアングルで奥行きを意識させることによって、メインの表情を際立たせたりとか、あえて被写体周辺をフレームアウトすることで、メインの被写体を目立たせるようになってきました。(下図)左下の写真は親子の写真ですが、子どもにだけ注目させるような構図になっていますよね。これまではお客様の方でトリミングできるように、すべてを写し込んでおくのがセオリーだったわけですが、素材の時点で切っておいたものが売れるようになってきました」
文房具や料理、雑貨などを写した静物写真のカテゴリーでは、メインテーマに沿ったアイテムを複数並べ揃えた写真が好まれている。
「同じジャンルの被写体を色鮮やかに、規則正しく並べて、ひとつの画面に収めることで、テーマの印象を強める方向性ですね。これはInstagramにおけるテーブルフォトのトレンドがストックフォトに影響を及ぼしているのではないかと思っています。アングルを真俯瞰とすることは、モノ自体の情報を見せるのに有効な手法です。グッズが主役になる写真に向いています」
売れ筋になっている写真の色味は、画面が明るく、自然な印象のものが多いとした。
「コントラストが高く、かっちりとした色合いの、まさにストックフォトという感じの写真ではなく、ライフスタイル系の雑誌に見られるような、自然光を用いて、場の雰囲気をよく表現している写真が人気です」
鈴木さんの報告を聞くと、ストックフォトにおける売れ筋写真の傾向は、「余白を広く取り、顧客側で加工する余地のある素材」から「素材の時点で演出を加え、顧客の工数を減らすような素材」が売れる方向にシフトしているように思える。鈴木さんは素材写真の売れ方について「テーマのレベルで大きく変わることはないが、その中で単体の写真としての完成度が高い素材が選ばれている」と指摘する。
「お客様の写真を選ぶ基準が、『わかりやすくて使いやすい』から『この写真が好き』だから選ぶ、という風に変わってきている。これはSNSの普及によって人々が日常的に写真を目にする機会が増えた結果、みんなの写真を見る目が鍛えられたからだと僕は思います。従来から素材として使われてきた写真が持つ、どこかで見たようなわかりやすさを『わざとらしい』と感じる人が、以前よりもずっと増えているのです」
「PIXTAはWeb用途で素材を買われるお客様が多いのですが、直感的にクリック、あるいはタップしたくなる画像は、やはり優れた写真なんです。同じ意味合いの内容を表示しているのに、使う画像によって結果が全然違う。また、現在のデザインの潮流として、"テキストを少なめに"、"写真を大きく使う"ことが多いので、写真単体の"パワー"も重要になってきます。良い写真だから出る訴求力が強く求められているのです」
その一方で、必ずしも従来からある「ストックフォトらしい写真」の需要がなくなったわけではない、と鈴木さんは言う。
「例えば『エアコンを掃除している主婦』などといった、きわめて説明的な写真のニーズはそう簡単になくなりません。僕のセッションでは売れ筋傾向の変化に絞って説明しましたが、今でもトップクリエイターを支えているのは、昔撮った『売れ続けている写真』です。"何回も売れる"というのはストックフォトとして最も価値があることで、普遍性があります。"押さえておかなければならないカット"なのです」
「ストックフォトは、一回の撮影で良い写真が10枚あればOK、というものではなくて、一回の撮影でたくさんのバリエーションを用意することが、広告写真との大きな違いです。編集者やディレクターがいませんからね。何が当たるかはフォトグラファーの中で仮説としてしか存在しない。なるべく色んなカットを残して、当たる可能性を拡げていくイメージですね」
「なので、これからストックフォトを始めようと考えている方は、自分の強み、得意分野を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。いきなり1時間2万円とかのスタジオを借りられる人は限られていますから、まずは自分の周りにある環境を100%活かすことを意識しましょう。各社のストックフォトサイトを見て、どのテーマが足りていて、どのテーマが足りないのかを観察するビジネス的な視点も必要です。次にこの撮影はいくらだと記録して、収支を考えること。そして売れた写真と売れなかった写真を比較して、その原因を分析し、成功体験を積み重ねていける人が強いかなと思います」
続いてのセッションでは、2017年から今年にかけての顧客動向について、同社営業グループの白石哲也さんが概要を説明。大きく「Webメディアの拡大」、「デザイン制作支援プラットフォームの拡大」、「権利への意識向上」、「画像解析のための素材需要」の4テーマに言及した。
Webメディアにおける画像素材の利用は、従来から存在した市場となる。2018年も各企業のオウンドメディアをはじめ、報道系メディア、個人ブログなどで引き続き広く利用される見込み。
デザイン制作支援プラットフォームは、普段デザインの実務に触れない立場にいる人でも、Webサイトやチラシなどを簡単に作成できるサービスのことを指す。PIXTAではこれらのサービス上で同社が擁する素材へのアクセスを提供しており、実作業上で利用する素材の数が多いことから、この市場はこれから先も伸びると予測している。また、権利関係の顧客ニーズは別途クリエイターへのフィードバックとしても提供する予定。
権利への意識向上については、昨今問題になった一部のキュレーションメディアによる著作物の盗用を例に挙げ、メディアを運営する顧客の素材利用に関するモラル向上を受けて、広くユーザー向けに権利関係のセミナーを実施する方針。
「画像解析のための素材」は、機械学習向けに大量の画像が必要となる点に注目した、潜在的なストックフォト需要。研究用途という面でのあらたな市場の掘り起こしを進める意向を示した。
2017年に顧客からPIXTAへ寄せられた要望については、「人物素材」、「風景素材」、「その他」の3つに分けて紹介。共通して見られたのは、既存素材のバリエーション(別パターン)の拡充を望む声だった。
人物素材については主に「子ども」や「育児」といったテーマの写真をより多く望む声が高いとした。このうち「育児」は、「育児という大枠のテーマ性」を表現した写真は多い一方で、もっと日常的で具体的なシーンの素材が望まれている。
また、「肌荒れ」のようにネガティブな状態にある美容系の素材や、職業として調理を行なっている様子を写した素材、たとえば『チルド食品を作っている現場』のような、工場系の調理イメージも不足しているという。
風景素材では、見開きで使えるような観光地の写真が求められているほか、モバイルアプリ用途で「正方形にトリミングしやすい素材」の需要も高い。
その他では「動物」や「ペット」のカテゴリーで、「同一個体の別パターン」が求められているほか、アマチュアらしい、日常感のある写真の需要があるとしている。
白石さんは弊誌の取材に対して、デザイン制作支援プラットフォームで必要とされる素材について言及。制作支援プラットフォーム向けに新しく素材を販売したいクリエイターへのアドバイスとして、「商店街の個人店主が何を必要としているかをイメージすれば、大きく外れることはない」と話している。
「先に述べた通り、制作支援プラットフォームは、自営業の個人店主の方がWebサイトやチラシを作る際に利用するので、新聞の折込広告とか、近所のお店のポスターを参考にすると、なんとなく必要としているものがわかるんじゃないかと思います。ユーザーが素材をどう使うのかまで想像することが重要ですね」
「肌感覚としては、『地域性のある素材』が薄いと感じています。ストックフォトはどうしても普遍的なイメージが多くなるので、『都会の風景』というテーマはよく見かけるのですが、一方で、垢抜けない、『地方っぽい素材』は意外と少なかったりします」
売れ筋の素材として例に挙げられた「自然な、アマチュアらしい写真素材」という観点では「クオリティの高い素人写真」が狙い目だという。
「例えば『自撮りをしている女の子』というテーマはストックフォトでも多く見かけますが、『自撮りをしている様子』の写真はあっても、『自撮りで撮れた風の写真』は少ないんです。よく観察して『意外とないな』というスキマを自分で見つけていくことが大事です。アマチュアらしさのある写真というのは、つまるところ皆さんのスマートフォンの中にあるような写真なのです。これが意外となかったりする。それでいてクオリティの高いものが足りていません」