インタビュー

社長に聞く韓国レンズブランド「SAMYANG」の歴史とこれから

新レンズの特長は? シュナイダーとのコラボはどうなる?

話を聞いたク・ボンウク社長。LK SAMYANGブースにて

CP+2025の会期中、LK SAMYANGの社長ク・ボンウク氏にインタビューする機会を得た。ケンコー・トキナーが扱う韓国ブランドのレンズとして日本市場でも知られた存在の「SAMYANG(サムヤン)」だが、CP+2025において独自でブースを構えた理由や、ドイツのレンズメーカーであるSchneider Kreuznach(シュナイダー・クロイツナッハ)とのコラボレーションについて聞いた。

強みは“コストパフォーマンス”

——SAMYANGの成り立ちについて教えてください。

ク社長: 1972年設立の韓国WAKOという会社から始まって、53年の歴史があります。フィルムカメラ時代からSAMYANGオプティクスという社名で交換レンズ事業をやっていました。一時期はカメラも作っていましたし、監視カメラ用のCCTVレンズも作っていました。倒産しかけたり、事業を整理したりという歴史もあり、会社のオーナーが何回か変わっています。

そして2013年度に交換レンズ専門の会社として再スタートし、そこからはファンドが会社を保有していましたが、2023年度に私が株を全て買い取って、LK SAMYANGとなりました。もともとLKというグループ会社を保有していたため、頭にLKと付きました。

2013年まではOEM事業が多かったです。1980年代にはフィルムカメラの交換レンズをグローバル向けにOEM生産していました。

——どんなジャンルの製品を手がけてきましたか?その中で強みとなった技術などはありますか?

ク社長: 技術的な部分では競合が多いのですが、MFレンズの時代はコストパフォーマンスの良いレンズをたくさん出していました。価格帯も幅広かったです。

時代がオートフォーカスになってからは、軽くてコストパフォーマンスの良いレンズ開発を心掛けています。なるべくリードタイムを短くして、他社より早く出せることを強みにしています。

MFレンズとAFレンズでは、それぞれ市場での勝手が違います。AFレンズは競合が多く、簡単にはいきません。MFはカールツァイスしか相手がいませんでしたので、中国メーカーが出てくるまでは、市場の多くをSAMYANGのOEM生産したレンズが占めていました。

弊社のTinyシリーズは、軽くてコスパの良いAFレンズとして継続しています。AFズームレンズも手がけていますが、最初に2モデルほど出した時には差別化のポイントが見えていないところもありました。今回新たにズームレンズに取り組むにあたり、軽くてコスパが良く、競争力のあるものを発売して、ある程度の市場をそのレンズでカバーできるような体制を考えています。

ブースに展示されていた製品ラインナップ

——CP+というイベントをどのように見ていますか?

ク社長: 光学の分野は日本が世界一だと思っています。“フォト”の展示会にこれほどお客さんが集まるのは日本だけではないでしょうか。こうした写真映像関係のイベントは、全世界的に放送関係のほうへシフトしています。その中で唯一の写真専門イベントと言えるでしょう。“写真”という意味でCP+は大事なイベントです。

だからこそ、今回の新製品をここで初公開することにしました。今回CP+2025に出したレンズは、実はまだ韓国国内でも発表していないんです。

CP+2025でお披露目された「AF 14-24mm F2.8 FE」。フルサイズ対応の超広角ズームレンズ。開放F2.8のズームであることを見逃すような軽さ
前面にもシュナイダーのロゴが入る
ズームリングのパターンは、韓国語の発音記号に由来しているそうだ

“軽量”で差別化

——現在、SAMYANGが力を入れている製品は何ですか?

ク社長: サードパーティなので、どうしてもカメラメーカーの純正レンズよりコスパ良く製品化しないといけません。ただし、それでもスペック的には見劣りしないものを目指しています。会社としては「軽量」という部分での差別化を継続していきます。ユーザーの皆さんが望むものとして、幅広い価格帯の製品や、他社にないような製品を考えています。

——これからも面白い製品が登場しますか?

ク社長: はい。もう少しズームレンズに注力して、バリエーションを増やします。

ガラスケース内には、今後登場予定のレンズのモックアップも。標準ズームレンズ(右)が予告されていた

——差別化要因としている軽量化には、どのような工夫がありますか?

技術担当者: 金属を多く使ったほうが信頼性は高いと思います。しかしそれよりも、軽くして、かつ信頼性も持たせるための工夫を施して設計しています。現在はプラスチックをメインの素材としながら、いろいろ勉強しているところです。

「Schneider」とコラボ

——シュナイダー・クロイツナッハとのコラボはどのように始まりましたか?

ク社長: 最初はマシンビジョン関連での協業について、シュナイダーにコンタクトを取りました。2024年7月に戦略的協業についてMOU(基本合意書)を締結し、そこから具体的に話を進めてきました。どのような分野で協業するか意見交換していく中で、写真用レンズで協業し、ブランドも一緒に使うことにしました。技術的な提携も進めていき、マーケティングについても協業します。

シュナイダーは、現在の写真業界ですとフィルター以外にそれほど目新しいものがありません。そこで我々とコラボレーションすることで写真業界に復活することを考えています。そのお互いのタイミングが重なりました。

今後は製造ラインの検査装置など、光学関係でいろいろな協力関係を結んで製品を出していきたいと話しています。最初は検査装置のレンズで協業できないかコンタクトを取りましたが、実際にシュナイダーとOEMの話を進めるうちに、ますは写真レンズに取り組むという話になりました。

——今回のコラボで、SAMYANGにはどのような効果がありますか?

ク社長: レンズを設計したのはSAMYANGですが、これを発売するときにシュナイダーの名前も使いたいと考えました。ですがシュナイダーとしてはその名にふさわしいクオリティでないと世に出せませんから、製品をチェックしてもらって承認を得ました。弊社はAFズームレンズに関する歴史がそこまで長くなく、シュナイダーのような老舗にOKをもらえたことには大きな意味があります。

——シュナイダーと協業して、文化の違いを感じることはありましたか?

技術担当者: 一言で表すなら「保守的」です。私達は歩留まりや量産性を考えてスペックを決めることが多いですが、シュナイダーは自分達の決めた基準を超える光学性能でないと製品として認めません。これがチャレンジングでした。

——今後、シュナイダーとのコラボはどのように発展しますか?

ク社長: 今回発表した製品だけでなく、他にも継続していきます。特にズームレンズに取り組みながら、お互いのパイプを太くしていきたいと思っています。

——ズームレンズを強く意識する理由は何でしょう?

ク社長: ズームレンズのほうが市場が成長しているからです。付加価値も比較的高く、中国メーカーがまだそれほど入ってきていません。また、交換レンズ以外の領域にも技術を応用できそうだと考えています。

——技術力が中国メーカーとの差別化要因になるというお考えでしょうか?

ク社長: そうです。

日本でどう展開していく?

——2024年に日本法人を設立した背景は何でしょう。

ク社長: 韓国国内では技術者が足りていないんです。光学を専攻する大学も減っていますし、そうした技術を経験した人達も、レンズとは関係のない大手企業に行ってしまいます。光学技術であっても、車載用機器といった方面です。

そこで、韓国に比べて技術者の多い日本で人材を確保し、技術の拠点を作りたいと考えました。日本に拠点があれば日本のメーカーとも交流がありますし、市場の情報も得て、もっと良い製品を出せるようになります。

——SAMYANGの今後の展望について聞かせてください。

ク社長: 多くの人がスマートフォンで写真を撮っているので「デジタルカメラは終わった」という人もいますが、自分でカメラを手にして、レンズを手にして写真を撮り、表現したいという願望も強いと思います。

最近は中国メーカーの参入も多く、製品開発のスピードも速いので、短期的には彼らと競合する部分も多いです。しかし去年の実績を見ると日本のタムロンやシグマは業績が良かったので、差別化要因のある高付加価値の製品を作れば、彼らと一緒に市場を作っていけるのではないかと思っています。

もちろん、写真レンズ専業のメーカーになってしまうと危ういので、新分野にも取り組みます。産業用、車載用、衛星用のレンズや、ドローンのレンズも開発しています。

——今回のCP+で、特に注目の製品は何ですか?

ク社長: シュナイダーの14-24mmが一番の目玉です。また、少し変わった面白い製品としては、「リマスタースリム」があります。レンズモジュール交換式のAFレンズです。

技術担当者: 14-24mmは軽くてコンパクトで、超広角です。前面にレンズフィルターも付きます。AFズームの超広角レンズでは珍しいです。

過去のフィルムコンパクトカメラにインスパイアされたという、ユニット交換式レンズ「リマスタースリム」。ソニーEマウント用

——SAMYANGの名前を広めていくうえで、日本国内と他地域では戦略が異なりますか?

ク社長: 日本国内での販売はケンコー・トキナーに引き続きお願いしますが、マーケティングやブランディングは弊社独自のやり方でやろうかなと考えています。その観点から今回も(ケンコー・トキナーとは)独立したブースを出しましたし、シュナイダーと協業したレンズも初めて披露しました。

例えば、同じ製品でも「LK SAMYANG」ブランドのものと、「Schneider Kreuznach認定」のブランドでは、どれだけお客さんの反応に差があるのかに興味があります。そういった、いろいろな試みをしているところです。

ライター。本誌編集記者として14年勤務し独立。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究