インタビュー

舞山秀一さんに聞く「撮った写真をプリントする大切さ」

舞山秀一さんの仕事場にて。プリント作業を見せてもらいながら、お話をうかがいました。

当サイトの読者なら、デジタルカメラで写真を撮る楽しさは十分ご存知でしょう。しかし、撮影したデータをプリントするとなると、二の足を踏む人もいるのではないでしょうか。また、店頭で小さなサイズをプリントすることはあっても、本格的なプリンターで大きな作品にする機会がない読者もいるかと思います。

一方、写真を撮っていると「プリントは大事」「プリントすることは写真の上達につながる」とよく耳にします。撮るだけでなく、プリントすることで、何が得られ、何が変わるのでしょうか。

この記事では、写真家の舞山秀一さんにプリントに対する考え方を聞いてみました。写真展やプリント販売を精力的に手がける舞山さんだけに、そのプリントへの情熱と思想には、我々アマチュアにもハッとさせられる考え方が込められていました。ひとつの例ではありますが、プリントについて消極的だった方への参考になればと思います(聞き手:松岡佳枝)。

舞山秀一

1962年福岡県福岡市生まれ。1984年九州産業大学芸術学部写真学科卒業、株式会社スタジオエビス入社。同年、半沢克夫氏に師事。1986年、独立。1988年、第22回APA展にて奨励賞受賞。現在、ポートレートを中心に広告や雑誌、CDジャケット、写真集などで活動。同時に作品集の出版や写真展などを定期的に開催している。

©︎舞山秀一
©︎舞山秀一
©︎舞山秀一

プリントする意義・重要性

——現在、スマートフォンやPCで作品を見たり発表する方法があります。舞山さんがプリントにこだわる理由は何でしょうか。

プリントにはいろいろな役割があります。僕の場合、展示するためのプリント、ギャラリーなどをまわるための営業ツールとしてのプリント(ブックと呼ばれる作品をまとめたもの)、デジタルデータ入稿時の色見本などです。仕事をする、あるいは作品を発表する上でプリントすることは必然で、これはデジタルカメラ、インクジェットプリントになっても変わりません。加えて自分のプリントそのものの販売も行っていますから、プリントは自分にとって当たり前のことなんです。

——プリントすることで新たに見えてくるものや、拡がるものがあるのでしょうか?

PCやタブレットなどで写真を観るということは、色や明るさなど、皆違うものを見ることになります。でも、プリントは“そのもの”ですよね。プリントとして作品を完成させることで、赤は赤、緑は緑に見える。もちろん部屋のライトなどプリントに当たる光によっても違いは出ますが、プリントさえあれば、人間の目の力で評価光を使わなくても感覚的には90%以上再現できます。

デジタルの場合、PCの中にあるデータは作品ではなく、ネガと同じです。つまり記録しただけということです。そこからセレクトして現像、レタッチし、プリントして初めて作品になるんです。

——SNSの写真とプリントの違いは何でしょう。

SNSは自分が生きている時間や空間、ミニマムなことをミニマムに手軽に共有できます。さまざまな瞬間をモニター上で見るわけですから、プリントより手軽な上によく見えてしまうかもしれません。でも、SNSというのは撮ったその場でその瞬間を誰かと共有するための、いわば共有財産です。

プリントはそれとは違い、プリントした人自身を知って欲しいという個人財産です。だから、プリントは他人のためではなく、自分の好きにやれる、本当の自己表現なわけです。プリントに自分のクセや個性が出ていれば、それはひとつの世界観になりますから素晴らしいことです。いい写真ということだけで言うと敵わないこともあるかも知れませんが、個性的な作品であれば、作品集であれば、なおさらプリントにはその特性が出ます。

用紙に対する考え方

——プリントが上手くなるには大きなサイズに挑戦した方が良いのでしょうか。

まずは2Lにある程度セレクトの済んだ写真をプリントします。
それから本格的に最終セレクトをして、選んだカットの濃度やトーンを合わせます。それらが揃って初めてA4にプリントをして、レタッチする場所を決めレタッチを進めて、最後に大きいプリントをします。実は、2Lをプリントしている時には既に大伸ばしを想定した現像をしています。実際プリントするサイズで、最初からRAW現像していないと綺麗なプリントは難しいのです。

——舞山さんの場合、写真に合わせて用紙を選ぶのでしょうか? それとも使いたい用紙が先にあるのですか?

写真のテーマによって変えることはあります。基本的には、バライタ系かマット紙か和紙系ですが、その時々の気分とテーマによって用紙を決めます。

僕は市場に出ている用紙は数多くテストしているんです。新しいものが出たら随時テストして、自分なりの評価をする。それは自分の作品に使うものですから、結果を安定させたいということからでもあります。

ハーネミューレのバンブーやフォトラグバライタ、イルフォードのゴールドやシルバーなどの用紙は表面のディテール感の差から選択しますね。ピクトリコのソフトグロスペーパーの色再現もいいです。価格も手ごろだと思います。写真作品として販売するものでなければ、極論を言えば用紙はなんでもいいんです。まずはコスト的にも無理のない、しかし好みの写真ができそうな紙を選べばいいと思います。

エプソンプロセレクションについて

——これまでどのようなプリンタで作品づくりをしてきましたか?

エプソンプロセレクションでいえば、SC-PX5VII、PM-4000PX、PX-5800を使っていました。いまの主力はA2サイズがプリントできるSC-PX3V、PX-5800ですね。

——顔料、染料インクは使い分けていますか?

写真を販売するため、保存性の高さから顔料インクのプリンターを使っています。エッジもしっかり出ますし、ドットをドットとして再現してくれますね。そう言えば、エプソンのスーパーファイン用紙はテストプリントでよく使います。フォトマット紙ほど高価ではないのですが、サイズの確認とか、構成をする時の見本には問題なく、意外なくらい優しいトーンでプリントができます。

今回、仕事場で見せてもらったエプソンプロセレクション「SC-PX5VII」。A3ノビサイズのプリントに対応した顔料プリンターだ。

——アート紙が使用できるなど、一般的な複合機よりもエプソンプロセレクションの方が用紙の幅を広げられます。これにより作品の幅も広がると言えるのでしょうか?

僕は、紙のコシ、表面のディテール感、色再現性の高さ、あまりテカテカしすぎていないものといった点で用紙を選びます。用紙によって、プリントに“存在感”を持たせることができると思いますし、作品の幅が広がると言えばそうだと思います。

フォトコンテストの審査などもさせていただいていますが、応募作品の用紙も変わってきましたね。強度のあるもの、和紙などの風合いのある用紙での応募も増えています。和紙も面白いと思うのですが、紙が主張してしまい、テーマと合わないということもありえます。僕も和紙のインクジェット用紙はすべてテストしました。同じ写真をプリントして、自分に合った紙を探すというのは、写真をセレクトすることと同じくらい大切なことだと考えています。

プリント作業しながら

——写真のセレクトや現像はどのようにされていますか? また、使用ソフトはなんですか?

PCでの作業は基本的にすべてAdobe製品ですね。セレクトはAdobe Bridgeで行います。RAW現像はAdobe Photoshop CCのCamera RAWです。

EIZO ColorEDGEを中心とした作業エリアの風景。右手前はプリントを確認するための評価用ライトスタンド。

——写真データの保存はどうされているのでしょう。

NASと外付けHDDでバックアップしています。納品時にはDVD-Rを使用することもあります。データ保存ということで言えば、プリントこそ保存データと考えています。A3程度にプリントしておけば、最悪それをスキャンすることで、またデータを作ることができます。すべてのデータがなくなってしまっても、ネガがあるということと同じですね。

——自分でプリント作業をするときの注意はありますか?

まずはとにかくプリンタの管理です。ギャップの補正とドット抜けが、意外と有ります。しっかり補正を行わないと、にじんだりカラーバランスが壊れたプリントになってしまいます。プリントする前には必ずノズルクリーニングを行い、ギャップ調整をします。小さなご家庭向けのプリンターだと、使用頻度が低い場合にはなおさらこれが大事です。

プリントの前にノズルチェックパターンを出して入念にチェック。

——プリント時の余白はどの程度に設定していますか?

僕の場合、余白は作品ごとに違います。裏打ちをするのでカットしてしまいますから、手で触るための余白をつけているだけなんです。

余白の白でイメージを作りたいときは、マットボードでバランスを取るようにしてます。そうしないと紙に支配されてしまうためです。最終的なイメージサイズは展示ごとに揃えていますね。これまで、2:3や4:5などさまざま出してみたのですが、いまは9:13という比率に落ち着いています。どんなフォーマットのフィルム、センサーサイズで撮影しても同じサイズで展示するために、プリントを出しながら決めた比率です。

プリントすることで写真への集中力がつく

——繰り返しプリントすることで良い写真、良いプリントについて考えるようになるのでしょうか?

撮って終わりではなく、そこからひと工夫してください。例えば何かスマートフォンのアプリケーションを使ったような加工でもいいんです。プリントで確認することによって、出来ることと出来ないことが明確に表現につながって、またそれを自分で見直したり人に見てもらうことで、本当に目指したい方向性がはっきりしてくるのです。何か自分なりの工夫をしていくことですね。ひと工夫するということは、記録から作品に変えていくという作業につながります。

それは“写真を見る目”もそうです。写真を撮り、セレクトして、RAW現像、レタッチし、そしてそれをプリントしてチェック。自分の思うプリントになるまで、またRAW現像に戻りそれを何度も繰り返すわけです。僕も評価光でプリントを見て、少ない時でも、2〜3枚多い時には10枚近く、本当に理想のプリントができるまで繰り返し出力をしています。

——意識してプリントを続けていると、写真の上達につながるものでしょうか?

やはり、プリントするには紙代もかかりますし、インクなどコストがかかりますから、迷いながらも、テストプリントを繰り返しながら集中力を失わないよう自分らしいプリントを心がけることで、自分の好みが見えてきます。それが最も大切なことだと思います。プリント作業は、自分らしさを探す作業のようですね。インクジェットプリンターでプリントするということは、フィルムの写真を暗室でプリントするのと大きくは変わらないですね。

今回プリントで使用したプリンターは……

SC-PX5VII

エプソンのインクジェットプリンターの中でも、プロ写真家・写真愛好家向けのシリーズに位置付けられる「エプソンプロセレクション」。その中での中核モデルが、「SC-PX5VII」だ。8色顔料インクを採用する四切/A3ノビ対応モデルで、プロも写真展などで使用する高品位モデルだ。ライトグレー/グレー/ブラック(フォトおよびマット)インクの「Epson UltraChrome K3インク」による深い黒の表現と豊かな階調には定評がある。エプソン純正紙をはじめ、幅広い写真用紙に対応するのも特徴。Wi-Fi接続やスマートフォンからのプリントなどにも対応する。

CP+2019エプソンブースで拡がるプリントの世界を紹介

いよいよ開幕するCP+2019のエプソンブースでは、高品位プリンターによる作品制作のノウハウから、写真で暮らしを彩る活用法まで、多様なシーンにおけるプリントの可能性と楽しみ方が紹介されます。プリントに興味のある方はぜひご来場を!

CP+2019
会期:2月28日(木)〜3月3日(日)
会場:パシフィコ横浜

制作協力:エプソン販売株式会社

松岡佳枝