カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

化け猫伝説のある島で、猫に出会う旅(式根島・後半)

東京の竹芝桟橋から東海汽船のさるびあ丸に乗って、伊豆諸島のひとつ、式根島を旅しました。東京から南に約160km。

(これまでのねこ島めぐり)

式根島は、火山岩の一種である流紋岩で形成された島で、ちょっと掘れば、島のあちこちで温泉が湧くと言われる「温泉の島」です。

美しい海で泳ぎ、そのまま温泉に入るという楽しみ方をする人が多いようですが、なかには、猫に会いたくて来る人もいるそうです。

式根島は、路上のあちこちで、猫に出くわす猫島です。

私は、今回、式根島を旅するなかで、猫にまつわる不思議な話を聞きました。

ひとつは、前半にも書きましたが、満月の夜に猫が大集会をする神社があること。そしてもうひとつは?

(前半はこちら)

よその猫にも優しい島民

式根島を電動自転車で散策していると、路上で、民家で、猫と出会います。

ある民家で、猫たちがいたので、自転車を止めて写真を撮っていると、

「あらあら、猫が好きなの?」とおばあちゃんに声をかけられました。

「はい! あ、おばあちゃんちの猫ちゃんですか?」と聞くと、

「違うの、向こうの家の猫だけど、うちにご飯食べにくるのよ」とおばあちゃん。

私のそばに猫が寄ってきたり、自転車にすり寄るのを見て、

「あらあら、猫には猫が好きな人がわかるのねえ」と言って、

「ほら、可愛く撮ってもらいなさい」と猫に話しかけました。

おばあちゃんも、きっと猫が好きにちがいない。

「猫、可愛いですねえ」と言うと、

「増えても困るけど、懐くと可愛いもんですねえ」と愛おしそうに猫を見ていました。

それから、島で出会った移住者の女性と一緒に、地鉈温泉に行く約束をしたので、一度自転車を返すことにしました。

レンタサイクル「千代屋」さんです。

「こんにちはー」と言っても、誰もいないので、どうしようかなと思っていたら、通りすがりの軽トラが止まって、

「中の庭にいるよ!」と教えてくれました。

それで、中へとお邪魔すると、そこは猫の楽園。

おじいちゃんの周りに、猫がぎゅっと集まって、ぴたっとくっついていました。

「こんにちは~。あの自転車どうすればいいでしょう?」と、猫に囲まれているおじいちゃんに聞くと、

「そのへんに置いといてくださいな」と言われて、自転車を止めると、写真を撮ってもいいというので、遠慮なく撮らせてもらいました。

猫が、おじいちゃんの一番近くを取り合って、入れ替わり、立ち代わり、場所取り合戦をしているのが微笑ましかったです。

「おじいちゃんの足の上に乗っていますね」

「動けなくて困ります」

「猫ちゃんたち、おじいちゃんちの猫ですか?」

「いや、向こうの家の猫だけど、うちにご飯食べにくるからねえ」

なんと、先ほどのおばあちゃんと同じことを言うではありませんか。

結局のところ、だれかの家の猫だとしても、あまり関係ないのかもしれないと思いました。猫が好きな人が、ご飯をあげて、猫がすくすく育てばいいのでしょう。

島のなかで、

「この猫、昔ガリガリだったけど、ご飯をあげたら、もうすっかりムチムチになったよ」

という方にも出会いました。

島の人のなかでは、やっぱり猫が苦手な人もいるようですが、猫好きが多いのも事実です。

化け猫伝説とは

一方で、実は式根島には昔から「化け猫伝説」があるそうです。
島の人曰く、

「むかーしむかし、この島では化け猫が出るというので、本土から退治してくれる人を呼んだらしいです」と。

なぜ、化け猫がでるのか、その理由は謎だそうです。

さて、自転車を返して、移住者のAさんという女性と一緒に、地鉈温泉へ行きました。

193段あるという階段をくだり、鉈で割られたような岩山の間を抜けて、海岸のほうへ出ます。

すると、ふわりと湯気がたって、あつあつの温泉が見えました。

「ここ、湯坪が20個くらいあるらしいですけど、ぜんぶ温度が違うんですよ」

源泉が80度あり、海水が流れ込んでいい温度になっている湯坪を探さなくてはいけないのだとか。

とはいえ、そのときは運がよく一番大きな湯坪がちょうどいい温度だったので、入ってみることにしました。

「ああ、気持ちがいい~」

猫たちも、どうせ化けるのなら、一緒に温泉に入れたらいいのになあ、なんて思いながら岩を隔てた向こうを見ると、海。

そもそも、湯坪のなかも、海水と温泉が入り交じっているので、海に浸かっているようなもの。

こんなワイルドな温泉は、人生で初めてでした。

翌朝、民宿わたなべの女将さんと、アメちゃん、マロちゃんに見送られて、式根島をあとにしました。

猫に出合い、猫にまつわる不思議な話も聞いて、ちょっとだけミステリアスな猫旅ができました。

猫だけが知っている何かが、この島にはあるのかもしれません。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。