山岸伸の「写真のキモチ」
第73回:ポージングで変化する写真の質感
モデル 清水麻里と残す作品
2024年6月30日 12:00
ふと、これからはもう少し作品撮りもしてみようかと考えたとき「久々に彼女と撮影をしたらどう写るんだろうか」と思い浮かんだのは、モデルでありポージング講師としての活動歴も長い清水麻里さん。作品撮りを通して山岸さんが再認識したポージングの重要性とは。(聞き手・文:近井沙妃)
約3年ぶりの撮影へ
清水麻里ちゃんとは2016年に知り合い、DVDや広告撮影などで何度か仕事をしてきた。彼女はフリーランスモデル、ポージング講師、スタジオ経営など多方面で写真に携わっていて、モデル歴は約9年、ポージングに関する著書は4冊とキャリアも長い。今回は作品撮りをお願いして約3年振りの撮影へ。
都内スタジオにて、この日の主な使用機材はライカSL3、レンズはSIGMAの50mm F1.2 DG DN|Artと105mm F2.8 DG DN MACRO|Art。そして最近気に入って使用しているOMNI(オムニ)クリエイティブフィルター。作品撮りは仕事と違い、自分がこだわりたい部分や1シーンの精度を上げることに時間をかけて集中できる。
ポージングが写真の質感を左右する
今日麻里ちゃんと撮影して気づいたことがあるんだ。それはポージングが如何に大切かということ。ポートレート撮影において切り離せないのがポージングだが、そのふり幅は極シンプルでナチュラルなものから身体の曲線美を最大限強調するようなものまで様々だ。カメラマンが撮影イメージに合わせてリクエストをしたり、モデル自身が得意なポージングを持っていたり雰囲気に合わせてポーズを取ったり、互いに引き出し合ったり。
普段ポートレートやグラビアの撮影ではモデルの長所を引き出すことが最優先で、仕事となればポージングは写真の使用用途や必要なカット、バリエーションなどに準ずるので自分から特別凝ったリクエストをすることはあまり無い。「腕を体に押し付けると太く見えるから軽めにね。」とか「もう少し上半身をひねった方が綺麗だよ。」とかは言うけどね。
今日みたいに作品撮りで何もかも自由な場合、当然ポージングの自由度も広がる。そこでモデル歴が長くポージング講師も務める麻里ちゃんと久々に撮影をしたらどう写るかなって。このスタジオ環境でポージングを重視したときに果たしてハマるだろうかという一抹の不安もあったんだけど、いいのが撮れたからポージングって大切だなって再認識したんだ。ポージングができれば綺麗に写し写される。そして条件が揃えばアートの域に達する。
3フロア+屋上があるハウススタジオだが、今回は1番好きな1フロアのみで撮影を終えた。このスタジオは撮影会などで利用されることが多い印象だけど、プロでこんなに使ってるのは俺だけなんじゃないかな(笑)。
麻里ちゃんと写真談義
山岸: 改めて久々にポージングが如何に大切かって思ったね。わざとらしくないように見せるとか、古く見えないようにするのもすごく難しいことだよね。
麻里: ポージングにも古いポージングがあって、そこまでしなくても体を反らすだけで綺麗に見えるのに勿体ないなって思うこともありますね。色んな写真を見ていて特に気になるのが指先。ぐちゃぐちゃっとしていることが多い印象で、その部分だけでも知っていれば指先以外がナチュラルでもやっぱり写真が生きてくるんです。
山岸: ポーズもそうだけど、カルーセル麻紀さんは手に年齢が出るって言って撮影直前は手を心臓より高い位置に置いている。そうしておけば撮影時に血管が浮き出てこないからね。
麻里: 基礎が全くない状態でモデルをしている子が多くて、ポージングができるモデルさんも必要だけど指示できるカメラマンさんも必要だと感じて両方への指導をさせていただいています。
山岸: 麻里ちゃんは長く仕事ができているっていうことが実力で、魅力があるってことなんだと思う。地方のカメラマンからの撮影依頼も多いよね。
麻里: この撮影の前日も広島と岡山と島根に行っていました。そしてまた伊豆、宮古島、大阪、また宮古島に行ってきます(笑)。各地域で写真文化が広がるといいなという思いが大きいですね。
山岸: 旅をしながら写真を撮る人はいるけど旅をしながら被写体になる人はなかなかいないよね(笑)。
麻里: どの撮影でもいい写真を撮ってもらえることはもちろん嬉しいんですけど、カメラマンさんたちが「いいのが撮れたよ~!」って笑顔で帰られるのが特別嬉しいです。
山岸: そもそもモデルになったきっかけは?
麻里: 大学生の頃に読者モデルに憧れていて、特にファッションが好きだったんですけど低身長では難しくて。芸能事務所に3年ほど所属もしていたのですがテレビの仕事が多く、写真関係の仕事に携わりたいと思い1度辞めて、34歳のときに「写真の仕事が多いですよ。」と説明を受けて再度事務所に所属したんですけど実際は少なかったのでフリーで始めたんです。
山岸: ちょうどSNSが盛んになったことも影響しているのかな。じゃないと難しいよね。
麻里: まさにそうですね、タイミングが良かったです。
山岸: 写真家もモデルもSNSで仕事を多く得た人がいっぱいいる。麻里ちゃんはフリーモデルが出始めた先駆け的存在だよね。
山岸: 一緒にグラビアDVDを出したのが8年前、九十九里と都内で撮影したね。
麻里: 懐かしいです。「シルエット」ってタイトルで、アート的な要素も感じられるものになりましたよね。
山岸: ポージングが綺麗な麻里ちゃんだからこそ、自然とシルエットって表現につながったんだと思う。
山岸: 2017年にはカメラマンの薮田織也さんとポージングの教科書を出していたよね。
麻里: この本を出したことで今でもいろんな方からポージングを教えてって声がかかりますね。他にはセクシーポーズブックを3冊出版しました。
山岸: 印刷物は証として残るよね。俺が意外と写真集や印刷物にこだわる理由っていうのは出版できたことが俺たちの証明であり大切な部分だから。
麻里: 全てをただSNSに流してしまうとどこか軽んじられてしまうというか、重みの違いを感じます。
山岸: 2019年にGallery LE DECOで行われた麻里ちゃんの写真展「清水麻里展 2nd ~24Colors~」に参加した時に撮影した作品。カメラマン各自テーマカラーがあって、ゴールドを担当することになったのでアクリルの絵の具を体に塗ってもらったね。
麻里: DMにも山岸先生の写真を使用させていただきましたね。
山岸: 今日撮影した写真はHASEOさんが主催するリアルポートレート東京2025に出展するので是非皆さんに会場で見て欲しい。
目指せ、生涯現役
山岸: 色んなことにトライし続けていて楽しい?
麻里: 楽しいです!
山岸: だよね、楽しいから続けるんだよね。写真の歴史がまだ100年ちょっとだからこれから世の中どうなっていくかわからないけど、麻里ちゃんは50歳くらいまで続けるのかな?
麻里: あと5年ですね(笑)。
山岸: 最後に目標を聞いて終わろうか。
麻里: 新しいモデルさんやカメラマンさんの成長にご協力することでこれからの新しい世代がまた写真文化を広げてくれるといいなと思って活動しています。モデルとしても今のところありがたいことにご依頼があるので、需要がある限り生涯現役を目指して頑張ります!
山岸: お互い生涯現役、まだまだ頑張っていこう。