山岸伸の「写真のキモチ」

第71回:山岸伸の仕事とファッション

必需品とお気に入り

沖縄にて、屋外や海辺・岩場で重宝する帽子はロケでの必需品

前回の車に続き、ファッションもまた仕事をする上で切り離せないもの。気を配る部分や仕事にフィットするお気に入りなど、山岸さんのファッション事情をお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)

第1に最低限の清潔感

前回した車の話が面白かったという感想をもらい、今回はファッションについて話そうと思う。ファッションと言っても私は仕事着=普段着。服は被写体や撮影環境に合わせてだいたい前日の夜に選ぶ。背広を着なきゃいけない、ネクタイを締めなければいけない、上着を羽織らなければいけないとか、撮影環境やシチュエーションによってケースバイケース。

少し肌寒い季節のグラビア撮影時なら自分も半袖にベストを着たりしてなるべく女の子の露出具合に合わせたり、最近は機会が少ないけど舞台やライブ撮影のときは目立たぬように黒い服装にしたり。

主にポートレートを撮るカメラマンとしては人との距離も近く接する機会も多い。最低限えりもとが綺麗で服に洗剤の匂いが残っているくらいの清潔感で行かなければ被写体や対応してくれる方々に不快感を与えてしまうと思う。それだけはいつも心がけて撮影へ向かっている。

最近のお気に入り

過去グラビアの全盛期などはほとんど短パンとTシャツで南の島通いをしていた。そんな時代のことを皆さんにお話ししても古くて笑われちゃうかもしれないのでここ数年を中心にお話ししよう。

ほとんどを伊勢丹のメンズ館で揃えている時期もあったが、最近は自宅近所のららぽーと豊洲にあるデサントのショップで購入することが多い。ここ2年でシャツ、Tシャツ、スーツ、ダウン、靴、バッグなど、ありとあらゆるものを購入している。デサントのいい所は洗濯をしても形が崩れにくく、私のウエストサイズにピッタリなところ。スポーツウェアの専門メーカーだからこその機能性、そして程よいキチンと感が何かと丁度いい。

この日はバッグから靴まで見事に全身デサント
中でもお気に入りのフード付きシェルコートは軽くて防風・防水性に優れ、様々な環境でオールシーズン使える。Tシャツはディーゼルやコム・デ・ギャルソン、ラコステなどを合わせることも多い
シャツタイプはサラッとした素材で程よく綺麗め。襟も崩れずちょっとした打ち合わせや食事会にぴったりでよく着ている

手放せない手袋

約3年前にバスケットシューズのような靴を履き、撮影中に転んで前歯を折った上に頚椎を痛めてしまった。今でも病院に通っているが手足が痺れて結構辛い思いをしている。その時から手袋をすると温かくて非常に楽なので夏も冬も年中この手袋を愛用中。

愛用中の手袋。嫁がネットで買ってくれて買い置きがあと3つくらいあるが2カ月に1つ破れていく。寝るときは色違いで白を使用している

食事、お風呂、トイレ以外は常にこの手袋をしている。握手を求められたときも手袋を外すようにしているが、そうできないときは相手に申し訳なくて少し困ることも。事前に握手をするシーンを想定できるときは極力右手だけは手袋を外している。

いろいろな形の手袋を試したが今つけている手袋が1番いい。サングラスは元々好きなアイテムだが、薬の副作用で目のむくみや充血が気になるときにかけることも
特に車の運転時や撮影時は手袋をしていると楽だと感じる

ロケでの必需品

クロムハーツのキャップとジャージ。同ブランドを好んで購入したりプレゼントでいただくことも多かった

都内での撮影時はほとんど帽子を被ることはないが、ロケに行けば帽子は必需品。1番の理由は日除け、2番は危険防止、3番は髪型が整わないときのクセ直し。特に海辺の岩場などでは帽子を被っていた方が安全。帽子を被っていたから岩に頭をぶつけてもケガをしないで済んだこともある。

北海道遺産 ばんえい競馬の撮影やロケ先にて

私はなかなかモノを捨てれない性格で帽子も洗って何度も被るし、アシスタントのOB達も誕生日に帽子をプレゼントしてくれたりしてその数はどんどん増えている。

去年の誕生日にアシスタントOBの横内君がプレゼントしてくれた帽子

帽子以外にフード付きのベストやコートをたくさん持っていて、咄嗟の悪天候も考慮してロケには絶対持っていく。いざというときに自分の身や機材を雨風や雪などから守れる。

風や厳しい寒さ、雪などが降るシチュエーションで
レインポンチョは天候に合わせて使用したり、撮影現場に鏡やメタリックな備品など反射しやすい物があった場合に映り込みを防ぐのにも使用できて便利

やはり足元は目に入る

「おしゃれは足元から」という言葉や「靴を見ればその人が分かる」と言われるように足元はよく目に入るし、撮影や用事によって靴を脱がなければいけないシーンもあるから靴と靴下には気を遣っている。特に私のライフワークである「KAO(瞬間の顔)」では被写体のご自宅や仕事場へ伺うこともあるので同行するアシスタントにも「明日の撮影場所は多分靴を脱ぐよ」と一声かける。

ロケで飛行機に乗るときは飛行機用の靴を履き、ロケ先ではいつ捨ててもいいようなスニーカーを履く。海辺では濡れたり岩場を歩くことなどを考えて安全を第一に、よっぽどでなければサンダルで歩くことはないね。

歩きやすさや着脱の有無、場所の安全性や汚れる可能性などを考慮する

先程撮影中に転んだ話をしたが、そのことを知ってアキレスの伊藤会長が「うちの商品の中で先生に1番いいと思います」とプレゼントしてくれたもの。軽やかに歩ける設計で仕立ての良いソフトな革靴なので非常に履きやすく、これさえ履いていれば転ぶことも無かったんじゃないかな。転ぶ前に出会いたかったね(笑)。ありがたく、たくさん歩く日に履いている。

アキレスのアキレス・ソルボは足の裏を歩くための形に持ち上げ、軽やかに歩ける設計で前へと進もうとする人の心をほどくレザーシューズ

家にはヴィトンやプラダやグッチなどハイブランドの靴もあるが最近は全然履いていない。ゴルフシューズのような何にでも合う靴はシルバーと白と黒を持っている。捨てられずについ長持ちさせてしまうがもう家の下駄箱がいっぱいになる。

左はヴィトン、右は色違いで白と黒も持っているが履きつぶしたので今回を機に処分しようかな

山岸伸、オリジナルTシャツ

柔道家の吉田秀彦さんが作ってくれたTシャツ

何年も前に柔道家の吉田秀彦さんが作ってくれたTシャツ。背面には吉田道場の教訓が書かれている。一時期は販売もしていたがLサイズから無くなっていき残りはSサイズしかないので今はよっぽど気に入った女子がスタジオに来たら差し上げたり。以前購入してくれた方が撮影会や私の写真塾に参加する際、未だに着て来てくれていて非常に嬉しい。

たまにアシスタントを含め全員で着ることもあるがやはり恥ずかしく、普段はパジャマ代わりに自宅で使用している。あとは海外ロケに行くときは自分の名前が記されているということで何かの役に立つんじゃないかという謎の心強さがあって持って行くけどね。

ハウススタジオでの撮影現場にて

番外編だけど、台湾でも友人の黄さんが私のために作ったTシャツを着て出迎えて私や倫子さんとアシスタントの分まで用意しプレゼントしてくれたことも。

台北にて、黄さんが用意してくれたTシャツを着て

歴代プロフィール写真

歴代のプロフィール写真から抜粋したものだが、その時その時で季節感も含めて自分がプロフィール用にと意識したものを着ているね。最近は必要になるとその都度アシスタントに新しい写真を撮ってもらって出しているけど、ある時期は古いものを長く使っていて「実物と全然違うじゃないか!」と言われたこともある(笑)。自分の顔写真を撮られるということは非常に難しい。アシスタントはいつもああ撮れこう撮れと指示を受け叱られながら撮っている。モデルの悪さは腕で補えるといつも信じているから(笑)。

右の写真は当時アシスタントだった留学生のジ君が撮影してくれて比較的長い間使用していたプロフィール写真
カメラの持ち方や背景もその時の雰囲気と用途に合わせて。プロフィール写真を撮ると決めて撮るときと、仕事のテスト撮影をして写りがいいなと思ったときにプロフィールも撮っておいたり

ファッションのエトセトラ

たまにはフォーマルな場でスーツを着たり、ロケや旅へ行くのにキャリーケースを引っ張ったりもする。

格式高い撮影現場やパーティー、コンテストの審査員をする場面ではスーツやジャケットを

企業のグッズやノベルティをいただく機会も多く、私はそれを集めることが趣味でもある。着用しているのはシグマからいただいたfp Lのパーカー。

シグマ fp Lのパーカーはシンプルで着心地がいい

服装だけではなく髪型の清潔感を保つこともとても大切。ここ4年は専属の美容師 まめちゃんにスタジオへ来て髪を切ってもらっている。相性がよく私の思い通りに切ってくれるのですごく楽なのだが、以前よりショートヘアになったので伸びるのが早い分カットの頻度も増えた。彼女の拠点は札幌で東京に仕事で来るときには必ず一声かけてくれて空いている時間の30分ぐらいで切ってくれる。東京でタイミングが合わないときもあるが、私がばんえい競馬の撮影で十勝帯広にいるときに彼女がバスや電車で帯広まで来てカットしてくれることも。

美容師のまめちゃん。最早彼女以外にカットしてもらった髪は考えられない

長持ちが1番

最近衣装を整理する機会があり、10年前にいただいて当時よく着ていたヴィトンのTシャツが出てきた。とても高価なものだと思うがいいモノはやっぱり長持ちするね。大事に着て、大事に取っておいて、また時が経って自分にしっくりくるときが来たり、懐かしい思い出を蘇らせてくれる。

私は自宅にある荷物の半分くらいが洋服。モノを捨てられない中でも特に処分できないのが洋服とカメラだが断捨離をしなければ本当にもう余裕がなくなってきた。つい先日もマッハ君にフラットヘッドのTシャツを古着だが5枚ほどと、ちょうど足のサイズが同じなので靴を1足差し上げた。また探し出してどんどんマッハ君にあげたいと思うが気に入らないと着てくれないのがちょっと残念(笑)。

衣装もそうだが、コレクションしたカメラ・時計・ソフビ、他にもたくさん集めすぎて家も倉庫のようにしている千葉のビーチハウスも大変。そのうち古物商でもやろうかな(笑)。

以前から古物商許可を得ている

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。