山岸伸の「写真のキモチ」
第48回:その町と、その町の女の子を撮る
2023年5月 山形県酒田市にて
2023年6月15日 13:00
その土地で、その土地の女の子を撮るという撮影の形をいつか実現してみたいと考えていた山岸さん。縁が深まり始めた山形県酒田市で、1回目の撮影が叶った。どのような撮影だったのか、お話を聞きました。(聞き手・文:近井沙妃)
酒田の町で
連載で思い出話ばかりするのもどうかと思うので最近の話をしよう。5月の下旬、他誌にて連載中の「新・農業女子に会いたい!」で山形県庄内地方へ2名の農業女子の方の撮影に向かった。
せっかく飛行機で行ったので疲れを癒すつもりで1日オフにしていたが、どうしても貧乏性でオフにできなかった(笑)。宿泊は以前に草野綾ちゃんの写真集撮影などでお世話になった酒田市のグランドキャバレー「白ばら」を運営していた佐藤さんが経営する日和山ホテルに。
佐藤さんへ電話をして「僕に酒田の町で写真を撮らせてくれる女の子はいないかな」と相談すると、さっそく白ばらの運営中に開催したヘアショーなどで知り合ったヘアメイクの堀美菜子さんにお願いをして2名のモデルさんを紹介してくれた。
山形ロケ1日目
この日は2名の農業女子を撮影する。庄内空港に到着し、そのままレンタカーを借りてから撮影まで時間があったので湯野浜海水浴場に立ち寄った。日本海の空気を吸いながら一枚。僕の目にはこんな風に見えていた。決してこれは正しい露出ではないが、正しい露出だけが写真じゃない。敢えてハイキーにしてなんとなく僕の気持ちを表現したかった。
鶴岡市で1名、新庄市で1名と撮影を終えて酒田市へ移動し、翌日の撮影場所をぐるっとレンタカーでロケハン。白ばらは昨年末で営業を終えたが、何か催し物があれば借りられるそうだ。表から1枚パチリ、そして日和山ホテルにチェックイン。
山形ロケ2日目
いよいよモデル2名を酒田の町で撮る。如何せん僕も彼女たちも初対面かつ初めての経験。急なお願いをした多忙な中で午前、午後の約2時間ずつ時間をいただけた。
僕の癖みたいなものだが、良い所を見つけると繰り返しそこに行って撮影をする。それは光を読んだり、撮影に適した環境かどうかを見たり、その町の1番良い所はどこかっていうのを考えながら定まっていく。今回酒田の町で撮影するにあたり、以前草野綾ちゃんの写真集を撮影した場所がいいだろうなと思っていた。
午前9時、ヘアメイクの堀美菜子さんと一緒に1人目のモデル 佐藤理美さんが待ち合わせの日和山ホテルに到着。この撮影の数日前、僕は「第2回 知っておきたい写真著作権&肖像権セミナー」に登壇し著作権や肖像権、写真の使用許可に関することをお話しした。
今回はこの撮影用に写真の使用許可を得るための書類などは用意せず、撮影前の挨拶時からの様子をVlogカメラで撮らせてもらうことに。撮影の意図や写真使用の説明をして、彼女も快く「はい、どうぞ。よろしくお願いいたします。」と返事をくれた。その会話が映像に残っている。
酒田の町を代表する場所と酒田の女性を一緒に撮りたいというとてもシンプルな撮影。写真の具体的な使用用途がまだ決まっているわけではなく、機会があればこういう撮影の仕方をしてみたいという憧れがずっとあったのだ。今回は第1回として頼める方に頼んで、僕が撮った写真を2人のモデルさんにプレゼントする、紹介してくれたヘアメイクさんにも作品として使ってもらえればいいなとスタートした。
カメラはキヤノンのEOS R5、ソニーのα1とα7 IV、シグマのfp Lの4台。他にアシスタントにはソニーのVLOGCAM ZV-1とOM SYSTEMのOM-1を持たせている。使用カメラはその時の僕の気分によって変わる。あとはクリップオンストロボとレフ板、三脚とハレ切り用の黒傘と白傘を持って撮影に。今回新しく記録メディアにNextorageのSDXC UHS-II NX-F2PRO を導入した。
いよいよ撮影スタート、最初はホテル近くの古びた理容室の前、そして港へ。何度かこの港で撮影させていただいたが、いつもより10mぐらい端にずれて撮影している。なぜかと言うとこの日は漁船が何隻も停泊していて僕の撮影イメージとは少し異なるし何より他の方々の迷惑になってはいけないからだ。
常にそうだがバリエーションを撮るようにしている。服は同じでも場所が変われば写真も変わるし、場所が同じでも服が変われば写真も変わる。とても単純なことだがそれなりに完成度は高いと思う。限られた短い時間で雰囲気を出すためにカラーとモノクロを使い分けることでもバリエーションを増やしていく。
続いて10分程車で走り、最上川の河口に。日本海に川の水が流れていくその土手で撮影。
天候が崩れそうに感じたので最後はホテルの近くの公園で。公園と言っても何かその町の象徴が無いと自分的にはあまり意味がないので遠くに灯台が写るように。佐藤さんはこの全4か所で撮影を終えた。
極力、こんなに仲良くやってるんだよっていう証拠ではないですが必ずいつでも記念写真を撮っています。
次のモデルさんの撮影まで約2時間、港にある大きな市場で豪華な握り寿司を買ってホテルに戻ると突然のとんでもない大雨。タイミングよく雨を避け、お昼を食べ終わった頃には晴れてピーカンになっていた。午前に撮影した写真をチェックし、次のモデルさんが来るのを待った。
14時半の約束で1人目のモデルさんとはまたタイプの違う齋藤麗菜さんが来てくれた。自分的には1日にタイプの違う子を撮るのって少し難しいんだけど、今回の2人は写真を撮られるということが好きな子たちで、僕が初対面でカメラを向けてもばっちり収まってくれるというか、すごく撮りやすかった。なんの雑味も無く、すーっとカメラに溶け込んでくれたんだ。
午後一番の撮影場所は山居倉庫。多分酒田で1番メジャーな観光地なんじゃないかな。たくさんの写真家や超有名な先生たちもここでスナップを撮ったり、JR東日本の「大人の休日俱楽部」のポスターにも使用されている場所。とても素敵で空気がいい所だ。
僕らも観光のようなものなのでそんなに特別変わったことをしない。平日でお客さんも少なく、一度クリップオンストロボを使ったくらい。倉庫の一番端の方で撮影したがそれでも十分作品になったと思う。
その後は白ばら近くの町並みを徒歩で軽く一周。町のスナップということを意識したんだけど、モデルさんの目線を外すということだけでスナップになるのかはちょっとわからない。無意識のうちに撮ったものがスナップなのか、意識して「ここにいて」「ここで撮るよ」ってモデルさんに伝えて撮るのはちょっとスナップとは言えないけども、それらしき写真になってしまうという面白さはある。
白ばらの駐車場を借りていたので戻ると、白ばらは観光地のようになっていて表でモデル撮影をされているカメラマンの方がいた。こちらに気づいて「山岸先生ですか!?」と声をかけてくれて一瞬大盛り上がり、私もモデルさんの撮影を少ししてしまった(笑)。カメラを持つと、陰に籠るタイプとすごく明るいタイプの両極端である場合が多い気がするが、僕は明るいタイプのひとり。
なんだか一瞬で溶け込んで、向こうも溶け込んでくれて、自分も少しみんなに顔を覚えて貰えるようになったんだなと思いつつ、町撮りを終えて最後に海沿いへ。
今回は時間が足りなかったが、鳥海山を背景にしたりまた酒田の有名どころでもう一回写真を撮ってみたいと思っている。
山形ロケ最終日
時間が余り、アシスタント達のリクエストで加茂水族館へ。ただ見学してもしょうがないのでみんなカメラを1台ずつ持って、僕はα7 Ⅳ、近井がOM-1、佐藤はα1で三者三様好きにクラゲを撮ってみた。その時Facebookに写真を載せたけど、誰がどの写真を撮ったか当たる人が誰もいなかった(笑)。僕が見たら、あ~自分だな、これは近井でこっちは佐藤だなって思う。
加茂水族館の屋上緑地広場で一息。その帰りに転んで痛い思いをしたけどすごくよかった。
最後はやっぱり写真を志す者として一度は見て欲しかった「土門拳記念館」。僕は5回ぐらい行ったことがあるので入らなかったけど、これはもう自費で見たほうがいいと思うのでアシスタントには自費で見てきてもらった。
ここに一冊の写真集がある。この写真集の中には僕の親父のことが一行でも書かれていて非常に名誉なことであり僕の宝でもある。興味があったら皆さんもぜひ見てほしい。
撮影できる幸せと感じた可能性
常にカメラを持って写真を撮るという行為ができている幸せ。カメラを持ったら重さに耐えるだけじゃなくて写真を撮るということがすごく大切だから。被写体は頼めばいっぱいいる、撮る場所もちゃんと考えればいくらでもある。人の迷惑にならないようになるべく人のいないところで、特別変わった撮影をしているわけじゃないから怒られることもない。
そういう意味で今回は自分のためになったと感じる小旅行だった。カメラを持って旅に出ようとか、カメラに付随してたくさんの物語があるけど、こういうことができるんだなって確認ができた。
また酒田に来れたらこんな撮影を重ねたい。そして酒田だけでなく北海道帯広市や自分と心の距離が近い町、また新しい町でこういうことができたらと思うのだった。