山岸伸の「写真のキモチ」

第30回:続 わたしの心を震わせた昭和ロマン“白ばら”

“白ばら”そのものを写真に残す

前回お話しした、山形県酒田市にあるキャバレー 白ばらへ再度撮影に行ってきた山岸さん。もりだくさんな撮影を2泊3日で決行するという、かなりハードなロケだったとのこと。さて、今回はどんな撮影になったのでしょうか。(聞き手・文:rinco)

「高岡千恵さんは3年、人形は永遠、少女は未来」

前回の続きになりますが、白ばらがあまりに魅力のある被写体でしたので、前回(第29回)の掲載前にまた撮影に行って参りました。今回は、3年撮り続けた和彫アーティスト 高岡千恵さんのほぼ最終章を迎える作品を撮ること。それと、某カメラ誌のために、少女ユリヤちゃんのグラビア撮影をしました。

同行した佐藤倫子さんには、人形作家 大竹京先生の人形撮影と白ばら店内を撮影していただきました。

なぜこんなにたくさんの仕事を2泊3日のうちに撮影するかというと、自腹だからです。自腹でモノを作らなければ、前に進みません。「高岡千恵さんは3年、人形は永遠、少女は未来」。そういうようなテーマで撮っています。

“白ばら"そのものが、12月31日で閉館

交通費等を考え、飛行機、電車、車、と別れて酒田に入りました。僕は、車で酒田入り。助手は、マッハ佐藤くんとOBの山口くん。どのみち、酒田へ行ったら機材、人形を運ぶのにレンタカーを借りなければならないので、男3人は事務所のワンボックスカーで参りました。

撮影カメラはライカSL2-SとOM SYSTEM OM-1。照明にはプロフォトのB10X Plus、それにLEDリングライトなどなど。運搬上、なるべく機材を少なくしました。

実は白ばらそのものが、12月31日で閉館すると管理者の佐藤仁さんから連絡を貰っていました。それもあり、急いで撮影に向かったというわけです。僕は元々、思い立ったらすぐに行動するタイプです。

繁華街のど真ん中にある“白ばら"

もう一度、みなさんに白ばらをご覧いただきます。山形県酒田市は人口が約9万7,000人の街です。僕はここを3回訪れましたが、トータルで20人くらいしか、この旧市街で人と会うことができませんでした。

街そのものが郊外へ広がっていくのは仕方ないことですが、この街を寂しく感じました。その中で、白ばらは繁華街、ど真ん中に建っています。

もちろん、消防法など諸々の許可を取っている建物ではありますが、佐藤さん曰く、水漏れやカビがひどく、毎日のように店を開け空気の入れ替えをしているそうです。

とても中が想像できないような入り口です。

入り口からあちらこちらに、白い薔薇の造花が置いてあります。

店内ではブラックライトを点けて、バラを白く浮き上がらせるような照明が施されてます。この店内の大きさを写真で表現するのは、かなり難しいです。客席が40席ほどあり、音楽バンドが入れるくらいのステージがあります。

ここの照明は、管理者の佐藤さんが色を変えてくれます。撮影中は場内でマイクを使って、佐藤さんにその都度、照明の色を指示しながら撮りました。

デジタルになり色の確認がその場でできるので、非常に撮りやすくなりました。もしこれがフィルムだったら、どんなに大変だったかと思うと、ちょっと気持ちが寒くなります。

中に入ると、今回、佐藤倫子さんに紹介していただいた写真家 大西みつぐさんの作品が展示されてます。

いつもおいしいものばかり食べてはいません

この街で一番困るのは食事です。郊外のバイパス沿いに出ないと食べるところがほとんどないのです。旅館では、朝食をいただけますが、昼と夜は食事をするのが本当に辛いです。

そこで、昼に出前でラーメンを頼みました。今、山形ラーメンが人気あるらしいのです。見た目は色が悪いので美味しくなさそうに見えますが、実においしく、全員でラーメンを啜りながら撮影をしました。

2日間ラーメンというわけにもいかず、スーパーでおにぎりなどを買って食べました。外の空気を吸いたかったので、白ばらの玄関口で千恵さんと二人、食べています。一歩踏み出せば公道ですが、きちんと敷地内です(笑)。

撮影では、おいしいものをいただく時もありますが、おにぎりの時もあります。それが私の仕事のやり方です。いつも美味しいものばかり食べてはいません。逆に、質素なことが多いです。

さぁ、昼ごはんも終わり、撮影開始!

この場所が持っている空気

倫子さんが一生懸命、人形を撮ってくれています。こちらは前回の撮影では、僕は見つけられなかった場所でした。

佐藤倫子さんが撮影した人形

佐藤倫子さんが撮影した人形

倫子さんがここで撮っているのを見て、今回のロケの一番最後に高岡千恵さんを撮ったら、なんと素晴らしい、すごい作品が撮れました。

場所にこだわるという意味を、ここ“白ばら”は表現してくれます。全く同じようにならないようにと努力しますが、これだけインパクトある場所だと、前回と似たような写真になることもあります。

しかしここは、各場所で全く違うように写るという素晴らしさもあり、これはなんとも言えません。この場所が持っている空気です。もっとメイキング場面をお見せしたいのですが、写真的に刺激があり過ぎるので、お見せできません。

2日間、撮りまくりました。前回と合わせて4日間、この白ばら内で撮影しました。ユリヤちゃんには、日帰りで撮影に来てもらいました。

こちらの日和山ホテルに、今回もみんなで宿泊しました。いつの間にか、ここの家族になったような気持ちです。白ばらを管理している佐藤さんです。たくさんお世話になって、ありがとうございました。

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あえて、ピントを外してます。ボケもいいですね。本番はしっかりピントが合ってますが、皆さんにお見せするのは、ボケを生かしたイメージカットです。

OM SYSTEM OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO / 絞り優先AE / F3.5 / 1/15秒 / 露出補正:-0.7 / ISO800 / WB:オート

ブラックライトを当てていただきましたが、顔がブルーマンのようになってなかなか難しかったです。

ライカSL2-S / シグマ45mm F2.8 DG DN | Contemporary / 絞り優先AE / F2.8 / 1/3,200秒 / 露出補正-2.0 / ISO3200 / WB:オート

ユリヤちゃんも1点、お見せいたします。

OM SYSTEM OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 絞り優先AE / F2.8 / 1/20秒 / 露出補正:+1.0 / ISO800 / WB:3600K

撮影した写真は後日、作品として色々な媒体に掲載されますので、楽しみにしていてください。年内にもう一度、白ばらに撮影へ行ってみたいと思います。

ところで、SNSっていいですよね。「誰かメイクさん、白ばら撮影で一緒に協力してくれませんか?」と書いたら、山形出身のメイクさんが手を挙げてくれました。以前から一緒に撮影をしている方ですが、出身地などは聞いたことなかったので……。今度行くときは、このヘアメイクさんと一緒に行ってみたいと思います。

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【キャバレー 白ばら】

1958年 奥羽観光株式会社設立 グランドキャバレー「白ばら」を開業
1969年 現在の3階建てのビルが建てられる。
2015年12月30日 日本最北端の現役グランドキャバレーだった「白ばら」はファンに惜しまれながら、閉店。キャバレーとしての幕を下ろす。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。