山岸伸の「写真のキモチ」
第44回:楽鉄俱楽部
夢は続くよどこまでも
2023年4月15日 13:00
楽鉄俱楽部、開設
大袈裟に言うつもりはないのですが、2021年9月4日にFacebookで「楽鉄俱楽部」という会員限定のグループページを作り、知人友人を中心に会員を募集しました。現在会員は132名。楽鉄俱楽部とは、楽しく気楽に、鉄道や駅の風景などとにかく身の回りにある鉄道関係全般の写真をグループページに投稿や共有して楽しむ会です。
普段はSNS上での活動が中心になっていますが、2021年の12月に一度私のギャラリーで「楽々写真展」と題した展示をしました。倶楽部会員の有志の方だけで開催した写真展で、大々的な告知などもしていない本当に身内の写真展。しかし、第1回目にして全国からたくさんの方が作品を送ってくださり大盛況に終わりました。それ以降オフラインでのイベントはしていなかったのですが、日々SNSに投稿される皆さんの鉄道写真を見て楽しんでいます。
鉄道に惹かれたきっかけ
さて、私が鉄道に興味を持ち始めたのはごくごく最近です。それは東京駅研究家である佐々木直樹さんの影響をかなり受けてのこと。彼がペンタックスの宣伝部にいた頃に私がカメラマンとして知り合い、1997年前後に645NやMZ-3、MZ-10などの広告を撮影させていただいた縁で非常に仲良くなったと思っています。当時彼からアメリカ西海岸を走る電車の写真を額入りでいただきました。大切にしまっていますがそれぐらいの感覚で、あまり鉄道というものに強い興味を持っていませんでした。
その後、私はライフワークである「瞬間の顔」を撮り始め、佐々木さんには東京駅の駅長さんから始まり現在に至るまでたくさんの鉄道関係の方をご紹介いただいています。
ある時は「機関車の運転士さんを撮影したい」と相談し、JR東日本の盛岡支社に繋いでいただいて盛岡車両センターへ撮影に行きました。機関車の上に乗って撮る記念写真は初めて。働いている皆さんが一生懸命この国鉄C58形蒸気機関車をオイルで磨いて、ピカピカの状態で撮らせていただき感動したことを覚えています。今年6月でこの機関車も最終運行を迎えるということでとても残念に思いますが、記録と記憶に残る一枚を撮ったと私は思っています。
こちらは伊豆急ホールディングスの社長さんを撮影した際、記念に撮ったTHE ROYAL EXPRESS。営業運転前の試運転です。超有名な撮影ポイントで天気も良く気持ちのいい一枚が撮れました。この頃から少しずつ「鉄道写真、いいなぁ」なんて思うようになり、時間があり環境が許す限り撮ってみようという意識が芽生えました。
このヘルメットをかぶっている写真は中村雅俊さんのCDジャケット撮影時のもの。「どこへ時が流れても」というタイトルに、なんとなくレールや70年代にかえったような写真が撮りたいと思い、八潮にある東京貨物ターミナル駅の中で撮影。こちらもこの撮影の前に、佐々木さんにご紹介いただいて駅長さんの瞬間の顔を撮影しています。
身近に、鉄
私のスタジオと事務所は千代田区神田駅の近所、スタジオは中央線が真上を走る高架下にあります。数分おきに聞こえる電車の音も今では心地よい子守歌に聞こえるくらい、毎日毎日この音を聞きながら仕事をしています。
中央線が走っている真下、安全面を考えると火を使わない方がいいとのことでガス無しのスタジオです。その点は近くに事務所があるのでなんとかなるため、スタジオとしてこの高架下を選びました。この場所を選んだ他の理由は昔ニューヨークロケでブルックリンの橋の下で撮影をしたときにとてもいい撮影ができて、なんとなくレンガや雰囲気に似たものを感じたから。もはや16年が経ちました。
機会を作る、重ねる、実験的に撮る
ある時、スタジオの斜め前で大きなビルの解体工事が始まりました。事前に現場監督や皆さんが挨拶に来てくれて、そこから約3年がかりの大工事。現場監督と仲良くなり、ビルの基礎作りをしているときには現場を背景にバンド「T-BOLAN」の森友嵐士さんの瞬間の顔を撮らせていただきました。
その後美しいビルが建ち、思い付きで「あの上から電車を撮れたらいいな~」と現場監督にお願いをしたら「超ご近所ですし、内覧も兼ねて一度上がってみますか」と言われてアシスタントの佐藤君と一緒にカメラを持って上がれることに。なんと素晴らしい。初めて俯瞰から見た景色、神田を通る電車の多さに驚き。あまりの凄さに夢中でシャッターを切った覚えがあります。
それから幾度となくお願いをしてビルの上から電車を撮ったのですが、今そのデータを見返すと、とても珍しくとても凄い。自分でもこんなに? と思うほど。多いときは東北新幹線から中央線まで入れると5-6本の電車を一度に写したこともあります。その写真を探していたのですがなかなか出てこず、今回はこの真俯瞰の写真をお見せします。
高い所は意外と弱いので腰が引けていますが、この高さから見る東京を走る電車、多分この辺のビルの方は日々目にしていると思うのですが、果たして写真を撮って残しているかどうかはわかりません。
この頃、鉄道写真はカメラのテストには最適と言ったら失礼かもしれませんが、スピードや色、運行ダイヤの時間的間隔、その諸々が新型カメラのテスト撮影にはピッタリでした。カメラに入っているアートフィルターなどの効果とも相性が面白く、よく試したものです。テストの気持ちがどこか強かったのですが今見るといい作品。そのうち発表できるくらいになったらいいなと思っております。
先日、佐々木さんやハービー・山口さんにこの写真を見せたら「いいね~このブレ具合」と言うので、「これ、ジオラマで撮ったんですけど」と返すと驚いていました。ジオラマにもピッタリの鉄道写真でした。
だんだん病みつきに
さて、段々エスカレートしてきました。私はとかち観光大使をしていて、定期的に帯広へばんえい競馬を撮りに行きます。帯広へ行ったときに踏切や十勝本線などの電車が目に入るようになり、撮ってみようと1年前の夏に初めて本格的な装備をして鉄道写真の撮影へ。これはおもしろい、これは綺麗。しかし十勝に行く一番の目的はばんえい競馬です。ばんえい競馬の早朝から始まる朝調教を撮影すると、電車とのタイミングがなかなか合わず、撮りたい撮りたいという気持ちだけではなかなか鉄道写真を撮りに行けませんでした。
この冬、一度雪のある景色の中で電車を撮りたいと思いまた足を運びました。雪の影響でダイヤの乱れや欠航があり、電車が来る時間、太陽、すべてが上手くいかないと一枚の写真として完成しなく、難しい。「よし、この次こそ」と思い、ここでまたさらに鉄道写真にハマっていった自分がいます。
この3枚のうち1枚の写真をSNSにアップしたところ、鉄道写真家の助川康史さんがいい写真だと褒めてくれました。これまた嬉しいですよね。私は鉄道写真家ではないので本当にアマチュアの方たちと気持ちは同じです。鉄道写真を撮るにはルールやマナーがあります。撮る立場・撮られる立場を考えると安全が一番なのでとにかくやってはいけないことを確認しながら決して行わず、ひたすら今はこの世界を勉強中です。
新たな夢を見る
鉄道写真のレジェンド、広田尚敬先生がふらりとスタジオに顔を出してくれました。約30年以上前から先生と知り合い現在に至りますが、先生がまさか私の神田のスタジオにカメラ1台ぶら下げて、ふらりと現れるとは夢にも思いませんでした。そこで先生に楽鉄俱楽部のことを説明し、皆に先生の話をお聞かせしたいとお願いしたら「いいですよ~」と快く引き受けてくださり、今年3月中旬に楽鉄俱楽部の会員のみを対象とした特別トークイベントを私のスタジオで開催しました。
限定20名で募集をかけましたが約25名の方が来てくれました。その中でなんとまずはハービー・山口さんがゲストで来てくれると、続いてなんと相原正明さん、そして東京駅研究家の佐々木さんが加わり、私が司会進行をしました。こんな豪華なトークイベントはまずなかなか実現しないと思います。
や~、楽しい。約一時間半のトークイベントとなりましたが、なんとも楽しいひと時。何か話すたびに最前列の女性陣の笑い声が賑やかで、まあ盛り上がりましたね。最後にみんなで記念写真。これだけの人数の方がなんと私のスタジオで座って話を聞けたということは、なかなか私のスタジオも広いなと(笑)。中央線の高架下をバックにみんなで楽しい記念写真を撮りました。
この倶楽部ではそのうちみんなと楽しく写真が撮れればいいなと思っていましたが、トークイベントが終わってお客様が帰った後、広田先生が「またやろうね」「今度みんなで本も出そうね」と優しくおっしゃって、それはなんと夢のようなお言葉。実現するためにはどうしたらいいか現在検討中ですが、とにかく数カ月に1度くらい楽鉄俱楽部でこうして写真を見ながらまずは楽しむことから始めたいと思います。今回こうして鉄道写真のレジェンド、広田先生を迎えることで皆さんがこんなに喜んでくれて、最高の時間でした。
その後日、ハービー・山口さんと佐々木さんが別々ですがスタジオに来てくれました。また広田先生を囲んでトークをしよう、この神田周りで電車の写真を撮ろう、もっとスケールを大きく写真展をやろう、本を出そう、と限りなく夢が広がりました。この歳になってこんなに楽しい夢を見せていただくとは夢にも思いませんでした。
過去の純粋な出会いに、いま改めて勇気づけられる
最後に初めて先生と知り合った時です。第2回 東川町国際写真フェスティバルというイベントでたくさんの写真家が集まった時に、広田先生から「写真を1枚撮って」と声をかけていただき撮って差し上げたのがこの写真です。この写真を先生の本の中に使用してくださり、今回先生からこの本を贈ってもらったのですが、ちゃんと僕の名前まで入っていて、今自分が撮った写真をまじまじ見ています。この時にもう1枚撮った写真が下にありますが、写真家の嶋田忠さんと秋月岩魚さんの後ろ姿が写っています。その時は有名な写真家がたくさんいて、このような写真を残したことで生まれた繋がりがあります。写真家・カメラマンが繋がっていく、最も純粋な出会いだったと思います。
鉄道写真へハマっていき、楽鉄俱楽部という倶楽部を作り、今回の広田先生を迎えたトークイベントを経て、今までにない盛り上がりと気持ちの良さを感じています。歌にも「線路は続くよどこまでも」とあるように、私たちの夢はどこまでも続いていきますね。もう1度広田先生とみんなで写真を撮ってみようという勇気が湧いてきました。