写真展リアルタイムレポート

時代の変貌と、変わる風景。大西みつぐ写真展「島から NEWCOAST 2020-2022」

エプサイトギャラリーで10月26日まで

大西みつぐさん

大西さんは写真を始めてから一貫して東京、それも自らが住むエリアを中心に撮影してきた。学生の頃から生まれ育った深川や浅草、浦安でカメラを持ち歩き回った。街の何気ない風景には、その時代の気分や真実が写し込まれる。本展はコロナ禍が始まった2020年から現在まで、湾岸部で撮った写真で構成した。

彼をヘンなおじさんだと思いつつ……

撮影地は葛西臨海公園。大西さんの自宅から自転車でほんの数分ほどの場所にある。思い立つと、カメラを手にママチャリに乗ってこの公園に向かう。

「いつも同じ場所にソーラーバッテリーを使ってラジオを聞いているおじさんがいる。通り過ぎる時、大概、目が合ってしまう。そうなると撮れないんだよ(笑)」

彼をヘンなおじさんだと思いつつ、自分も彼とそう変わらない存在だと大西さんは思った。別の場所にはTバック姿で寝転ぶおじさんもいる。一人で来て一人で和んでいる。彼も同類だ。こっちは撮影した。

この公園は干潟の保全を目的に、埋め立てた土地に作られた公園で、1989年6月1日(写真の日ぢゃないか)に開園した。

「オープンしたての頃は東京の人が集まってきて一日中バーベキューをしていた。そのハレの光景が近所に住むおじさんには可笑しくて、サンダル履きで撮っていた」

2015年頃からは外国人観光客が増え、この地に移り住んだインド人やネパール人も加わった。その写真は2019年に写真展「NEWCOAST2 なぎさの日々」(コミュニケーションギャラリーふげん社)で発表している。

時代の変貌と、変わる風景

コロナが蔓延し、緊急事態宣言が発令され、風景は一変した。これまでも1980年代のバブル狂乱、ミレニアム(世紀末)を迎えた頃、そして東日本大震災など時代の変貌は経験してきたが、今回は勝手が違った。被写体である人がいない。

自転車で行ったり来たりを繰り返し、時折、立ち止まる。そのうちに、ざわついていた風がふっと止まる瞬間を感じたり、東京湾の海面を見つめていると、光が変化し、不思議な屈折が見えてくる。

「それは自分の心の動きに応じて見えてくるのか、環境が変化した結果として現れた風景なのか、僕もよく分からない」

埋立地とはいえ、人が行き来し始めてもう30年以上が経つ。

「今まで気にしなかった生き物が目に入るようになり、生き物の息遣いみたいなものがイメージとして加算されてきた。いろいろ撮れるじゃないかと思い始めた」

いくつものカメラやレンズを使い、写真的な光の作用で遊ぶ。フルサイズのカメラに50mmの明るいレンズを付けて、画面の隅々までシャープに描写する。AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gを使って、ポートレートを撮るように公園の木々やモノを写す。

最近、ようやく人が戻り始めた。海辺で遊ぶ人たちを俯瞰で撮った1枚がある。偶然が演出した演劇的な面白さのある光景だ。もう一枚、左端に親が見守る中、8~9歳ぐらいの女児が海へ向かって走る姿が入った写真を撮っている。

「それで完璧な風景なんだけど、その子は服を着ていない。このご時世、どう見られるか分からないので、泣く泣く自粛しました」

ネパールから来たタマン族の人々は、自分たちの祭りの光景を再現し、撮影していた。この映像をSNSで流し、コロナ禍で滅入っている同胞たちを元気づけたいと話す。

黒人の家族は父親がドラムを叩く横で、子どもと母親が遊んでいた。

「いろいろな角度から、良い意味でしつこく撮らせてもらった。夕焼けを背景に、彼らの背後から写した1枚が一番良かった」

この地に住む一人として

街中のスナップでは被写体に気づかれずに撮ることが多いが、ここでは事前に了承を得て撮ることが多い。自分は余所者でなく、この地に住む一人だと被写体に分かってもらいたいからだ。

「ここで撮っていると、自分自身が和み、少しずつ浄化されていく感じがある。僕にとってのある種、逃げ場であり、自分の写真について考える場でもある。大事な場所なんだ」

展示会場では、写真と同じ壁面にプロジェクターで動画も常時上映する。写真は瞬間の光景を見せるものだが、撮影者である大西さんはしばしその場にとどまる、佇んでいる時間が心地よく楽しい。

「その時間を再現したかった。動画がトレンドだからとか、若い人の真似をしているとかいうわけではないんです」と笑う。

大西さんはいくつかのシリーズを並行して撮影するのが常だ。最近は中央区や千代田区など都心部をモノクロで撮り始めた。

また向島など下町の深層部で、今も失われずに在る古い光景を撮りためている。

「例えば民家の裏口を開けて進んだ先に、とんでもない昭和の風景があったりする。表をただ歩いているだけでは目に入ってこない光景を粛々と集めています」

 ◇◇◇

大西みつぐ『島から NEWCOAST 2020-2022』

会場

エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリー
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1階

会期

2022年9月17日(土)~10月26日(水)

開催時間

11時~18時

休館日

日曜休館

大西みつぐ氏オンラインイベント「被写体と向き合うコツ!なつかしさの表現術」

開催日時

2022年10月5日(水)19時~20時

料金

1,000円(「エプサイトプレミアム」利用者は無料)

申し込み締め切り日

2022年10月3日(月)23:59まで

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。