写真展リアルタイムレポート

学生時代に住んだ街をもう一度……。山下恒夫作品展「田園都市 GARDEN CITY」

ソニーイメージングギャラリーで10月20日まで

山下恒夫さん

全国各地にニュータウンは存在する。土地を造成し道路を作り、マンションや家を建てていく。山下さんは大学時代、多摩田園都市のエリアにある鷺沼に住み、変化していく街を撮影した。その40年後、あの風景がどうなったのかが気になり、街を再び歩いて写真に収めた。

学生時代に住んでいた街をもう一度……

山下さんは写真の仕事をしながら、日常の中で気になる題材を撮影してきた。町のスナップも日々行ない、35mmフィルムカメラのミノルタCLEなどを使い、モノクロで撮る。

「みんながマスクをし始めて撮る意欲が薄れてしまい、どうせなら人のいない風景を撮ろうと思いました」と山下さんは話す。

そこで思い出したのが学生時代に住んでいた街のことだ。何もなかった場所に道路ができ、送電塔が建てられた。

「自宅周辺を撮った4枚が気になっていて、そこに向かいながら、周辺を歩いてみました」

建物や街の光景を高精細に撮ろうと、富士フイルムの中判ミラーレスカメラ「FUJIFILM GFX 50S」を選んだ。撮影は手持ちだが、建築写真のように垂直をきちんと合わせた。

「家を持つとはどういうことなのか」

「グーグルマップを見て面白そうな場所を探したりもしました。住宅地の中に畑があったり、造成途中の土地などです」

40年前、変わりゆく街を見ながら何を感じていたか。さまざまな思いの中に、新しい街が生まれていく期待はあったはずだ。かつて撮影した4枚からは、当時とまた違う風景が現れてきている。

「撮影していくうちに、家とは何だろう、家を持つとはどういうことなのかを考え始めました。日本家屋というスタイルを手放し、手に入れたものは何だったのでしょうね」

人によってはここは憧れの街で、こんな家に住みたいと思うかもしれない。ただ、どの家も明るい色合いで、家の設えもどこか似通って見える。商店街の代わりに、全国展開するチェーン店が建ち並ぶ。

「先祖代々が暮らしてきた場所ではなく、古くて祖父の代が移り住んできた街。薄っぺらな感じもするし、どこか滑稽でもある」

街の風景には、そこに住む人々の暮らしや文化が現れてくる。

「ちょっとした違和感やアンバランスさを感じる光景を中心に選びました」

撮影も終盤近く、マンションのエリアで撮影していたら、住民から声を掛けられた。

「撮っていることを注意されるんだと思い、どう切り抜けようかと焦っていたら、高校時代の同級生でした」

住人の一定数は、自分と同じ世代であり、自分もこの街に住んでいたかもしれない。この街の景観や佇まいは自分たちが作り上げてきたものでもある。

また数年後、この街を歩いてみるつもりと山下さんは言う。

カメラとの出会いは小学生時代

山下さんが写真を始めたのは9歳。当時流行っていたコダック「インスタマチックX-15」を買ってもらい、小学校5年で一眼レフの「ペンタックスSP」を手に入れた。

「近所のカメラ店で分からないことは教わりました。店には写真サークルがあって、よく撮影に連れて行ってもらいました」

小6でフィルム現像をやり始め、中学では写真部に入り、引き伸ばしも始めた。実に早熟だ。

プリントを展示するとともに、約140点をモニターに映し出している

進学した日本大学芸術学部写真学科では同級生に宮嶋茂樹さん、渡部さとるさん、1学年下に小畑雄嗣さんがいる。当時、写真学科は就職先から引く手あまたの時代だ。

「報道か広告へ行くか、迷っていました。その頃はファッションフォトグラファーが一番人気があった。みんなこぞって300の28(300mm F2.8のレンズ)を買っていましたね」

作家志望は異端児扱いされた時代でもあったらしいが、同世代では尾仲浩二さんと金村修さんがその道を突き進んでいた。

山下さんは新聞社の内定を得ていたが、日本デザインセンターに合格して広告の道に進んだ。

「高梨豊さんや沢渡朔さんへの憧れがあったから。入ってみるとちょっと違うなと思って1年ほどで辞めてしまったけど、今、考えればもう少し我慢していれば良かった」

その後は2年ほど、ファッション系の写真家のアシスタントに就き、1987年にフリー。師匠はananやエルジャポンで活動していたことから、フリーになってからは女性誌を中心に仕事をしていたそうだ。

日常を撮り続ける

プライベートでは中学生以来、日常を撮り続けている。なぜ撮るのかを問うと「分からない。楽しいかというと疑問だしね。僕にとっては当たり前の日課なんだよね」と笑う。

初個展は大学1年の時、キヤノンサロンでの「高校日記」(1980年)。5年前には中学時代に撮った写真で個展「15歳の日々」、今年には20歳から数年間、高校野球の予選応援席を撮った「七月の応援席 1982-1989」を開いている。

「昔の写真を見ると、今より全然良いものも多い。もうこんなのは撮れないなと思う。その頃はセレクトする眼がなかったから、まとめられなかったんだよね」

今も1990年代から通う沖縄を撮り続けている。当初は沖縄の各地を回っていたが、2012年に写真集『島想い』(リバーサイドブックス)を出版してからは、鳩間島と西表島の船浮集落に絞っている。

「人口が40~50人しかいないから、全員が知り合い。何でも撮らせてもらえる。旅先だけど、今や日常の延長になっています」

オーソドックスな写真が楽しめる空間だ。

 ◇◇◇

山下恒夫作品展『田園都市 GARDEN CITY』

会場

ソニーイメージングギャラリー
東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6階

会期

2022年10月7日(金)~10月20日(木)

開催時間

11時~18時

休館日

会期中無休

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。