写真展リアルタイムレポート
人とのつながりを記憶として残すために。卞敏写真展「思い」
エプサイトギャラリーで7月20日まで
2022年7月15日 11:00
「人は過去の記憶によって想いの深さや、豊かな感情が育まれると思う」と卞敏(ベンビン)さんは言う。
本展では中国で暮らす彼女の家族と、日本に来て知り合った友人たちのポートレートを中心に構成した。古い家族の記念写真は当時の時代の雰囲気をも蘇らせ、主の居なくなった部屋はかつてここで暮らした人の存在を浮き上がらせる。
そうした写真は時の経過や場所の隔たり、人と人の距離の不思議さを語りかけてくる。
中国から、日本へ
卞さんは子どもの頃から写真に興味があり、家族や日常を撮影していた。中国での大学時代は学校新聞でカメラマンをやっていたそうだ。出身は山西省だが、高校で天津に移り、大学は武漢、就職後は北京で暮らした。
「違う場所へ行くと、以前の友だちとのつながりは切れてしまう。だから出会った人たちを写真で残したいと思うようになりました」
大手IT企業のマーケティング部門で、約5年間働いた。「とても忙しい毎日でした。ある時、写真の道へ進んだら可能性が広がるのではないかと思い立ち、日本に留学を決めました」。
以前から上田義彦氏の写真が好きだったこともあって、氏が教鞭をとる多摩美術大学を選んだ。
撮影にはフィルムカメラを使用し、露出設定はマニュアルを選ぶことも多いという。「シャッタースピードと露出は光の状態を見て感覚的に選びます。たくさん写真を撮ってプリントしてきたので、分かるようになりました」。
「記憶として残すために」
普段からカメラを携え、気になる瞬間を収めていく。彼女が捉えた人たちに笑顔はなく、ただレンズを見つめ返している。
家族をきちんと撮ろうと思ったのは2018年からだ。大学が休みに入ると帰省していたが、ある時、祖父に老いを感じ、残された時間が限られていることに気づいた。
家族と一緒に過ごしながら、相手が自分の存在を忘れた時、シャッターを切ることが多い。
「家族と友人を撮る時は全く違います。父や母、祖父母とはたくさんの思い出があるし、深いつながりがある。そんな想いにとらわれた時にシャッターを押しているのかな。それは、うまく言葉にしづらい感覚です」
もちろんそうした撮影者の感情は写真に写り込むことはない。ただそうした背景があるとないとでは、写真が変わってくるとも感じている。
会場の一角では、プロジェクターで彼女の家族アルバムから選んだ写真を映し出している。見ず知らずの一家だが、昔の写真はどこか懐かしく、その頃の中国という国の在り様も感じ取れるようだ。
「私も、周囲の人も、家族も日々変わっていきます。私が撮った写真に私は写っていませんが、そこには私も存在している。記憶として残すため、写真を撮り続けていきたい」
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写真展概要
会場
エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリー
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1階
会期
2022年7月8日(金)~7月20日(水)
開催時間
11時00分~18時00分
※最新情報はWebサイトにて要確認
休館日
日曜日