中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
初心者でも楽しく撮れる!「はじめての鉄道お立ち台ガイド」vol.01
2020年7月25日 06:00
鉄道写真の世界には、「お立ち台」と呼ばれる有名撮影ポイントがたくさんあります。でもそうした条件の良い場所には百戦錬磨の鉄道ファンが多く集まるため、慣れていない方だとちょっと近寄りがたい雰囲気があるかもしれません。
そこでこの企画では、ふだん鉄道を撮らない初心者でも安心して撮れる、オススメのお立ち台をご紹介いたします。「撮影地が広く、たくさんの人が集まっても安心して撮れる」「カメラ位置が限定される車両アップではなく、風景と鉄道をからめて撮影できる」などなど、鉄道撮影がはじめてでも気楽に撮影できる条件のポイントを選びました。ふだんあまり鉄道は撮らないという人も、ぜひ鉄道写真にチャレンジしてみてくださいね!
はじめての鉄道お立ち台01:小海線「小淵沢の大カーブ」(山梨県)
中央本線の小淵沢から分岐し小諸に至る小海線は、清里や野辺山などの高原を走る風光明媚なローカル線。でも一番のハイライトは、起点である小淵沢駅を出てすぐのところにあるこのポイントです。
ここはSL時代から「小淵沢の大カーブ」として有名なポイントだけに、カーブの外側には南アルプス、そしてカーブの内側には八ヶ岳が望めるという絶景に囲まれています。カーブの内側、外側問わずどこからも撮影できるので、たくさんのカメラマンが集まって密になることもありません。まさに安心・安全な絶景ポイントなのです。中央自動車道の小淵沢ICからすぐの場所なので、撮影旅行の途中に手軽に寄れるのも魅力ですよ。
「小淵沢の大カーブ」は列車が高い位置を走る「築堤」になっているので、背後がハイライトになるシーンを選べば、列車をシルエットにすることができます。カーブの内側は田んぼなのですが、この写真を撮影した5月中旬になると田んぼに水が入り、水鏡を利用して幻想的なシーンを狙うこともできます。あまり低い位置になりすぎると築堤と列車の下回りが重なって、列車のシルエットがただの箱になってしまうので、作例のように車輪ごしに空が抜ける位置を選ぶようにしましょう。
こちらはカーブの外側から、道路脇のお花を前ボケさせて撮影。とにかくスッキリとした築堤が続くので、周りの風景をからめた撮影も楽しめます。こういうシーンでは南アルプスも入れた構図にしたくなりますが、山を入れようと構図を上に振ると列車がまんなかラインに来てしまうので、ここは思い切って山はカットした構図にしています。2枚目は撮影シーン。ゆる鉄写真では乙女ゴコロが大切なのです。こんなだから子どもに「おじさんはおばさんなの?」って聞かれちゃうんだろうなぁ(笑)
カーブの外側からは順光で撮影できます。こちらは青空を主題にした作品。高原の爽やかな空気が写っているようで、お気に入りの作品です。雲は絶えず動いていましたが、構図内で雲を左上に、列車を右下に配置することで、全体のバランスをとりました。こんなときは三脚を使わない手持ち撮影のほうが、構図の自由度を生かすことができるのでオススメです。
南アルプスをバックに、のんびりと走る小海線。手前に輝くススキを入れることで、晩秋の涼しい空気が感じられるような、臨場感のある作品になりました。近景のススキと遠景の山、そして列車を立体的に見せることで、奥行き感のある風景写真になりました。小海線は珍しい車両が入ることも少ないので、撮影する鉄道ファンも少なめで、初心者でも気兼ねなく鉄道撮影を楽しむことができますよ。
はじめての鉄道お立ち台02:五能線「第2小入川橋りょう」(秋田県)
秋田県から青森県にかけて、日本海側の絶景とともに走る五能線。ここは海をバックに鉄橋を渡る列車をお手軽に撮れるポイントです。五能線と並行して走る国道101号の橋からの撮影ですが、ゆったりと撮影できる歩道もあり、橋の青森側には見学者用の駐車場まで完備されているので、たくさんの撮影者がいても、快適、安全に撮影することができます。
これぞこの撮影地の醍醐味といえる構図。鉄橋の下の集落も絵になるポイントですが、完全に海バックになる鉄橋は貴重なので、ここでは思い切って海をテーマに撮るのがオススメです。海の向こうには遠く男鹿半島の山々が望めます。構図のポイントは水平線が傾かないようにすること。鉄橋にあわせてしまうと水平がずれてしまうので、あくまでも水平線を基準に構図を作るようにしましょう。
抜けるような青空の青と、海の青のコントラストがとても素敵だったので、大胆な構図で撮影してみました。鉄橋の下の部分も思い切って切ることで、まるで海の上を列車が走るような雰囲気にできました。空の部分にポエムを重ねたら、そのままJRのポスターになりそうですね(笑)
この作品のタイトルは「海に立つ橅」。五能線の観光列車「リゾートしらかみ」号のこの車両は、沿線にある白神山地のブナをモチーフにしたカラーリングが施されています。列車の横に大胆に描かれたブナが、日本海にどっしりと立っているというイメージで構図を作りました。
実はブナをさらに目立たせるため、列車の下回りの車輪の部分までカットしたこんな構図で撮ろうかと悩みましたが、列車の存在感がなくなると考え、鉄橋の上部まで入れた構図に思いとどまりました(笑)。こちらはトリミングで仕上げましたが、これはこれでアリかもしれません。まぁ何かを強調したいと思いついたら、とことん目立たせてみようと試行錯誤するのが、せいや流なのです。
この鉄橋の青森側は手前に森がかかってしまうのですが、それをうまく利用して撮影したのがこの作品。さきほどのブナと同じ考え方ですが、日本海に立つ森というイメージで構図をつくりました。列車はしっかりと写さず、木々の間からちょこっと見せるだけで、森が主題になるように目線をコントロールしています。この作品、評判はイマイチですが(笑)、五能線沿線の魅力を1枚に閉じ込められたような気がして、僕自身はとても気に入っている作品です。
長く鉄道を撮影していて、僕が見出した格言があります。それは「お立ち台の近くには宝あり」。こういうお立ち台では、作例となる写真も多いため、ついその定番のカットを撮ろうとしてしまいます。ローカル線は本数が少ないので、みんな定番カットだけを撮って移動してしまうことが多いのですが、もともと好条件が揃っていることが多いお立ち台だからこそ、秘めているポテンシャルは大きいのです。お約束の定番作品に縛られず、自分の意図を生かして、お立ち台に隠されたあなただけの宝を探してみてくださいね。