中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
東京でゆる鉄!
2020年7月10日 06:00
僕のライフワークである「ゆる鉄」は、決してゆるい品質の鉄道写真という意味ではなく(笑)、ローカル線の沿線や車内に漂うゆる〜い雰囲気や、鉄道のまわりで感じる旅情を被写体とした作品のことです。目には見えない「雰囲気」や「旅情」は、そのままカメラで撮影することができないものなので、いかにそれを作品から感じてもらえるかがポイントになります。
ゆるさを表現するために、懐かしい景色や花などを入れ込んで撮影することが多い「ゆる鉄」では、どうしてもローカル線が舞台となることが多いですが、なかには都会で撮影した作品もあります。そんななかから、今回は東京都内で撮影した「ゆる鉄」作品に限定してご覧いただきたいと思います。大都市東京で、どんなゆる鉄が撮れるのか。日常生活に隠された「ゆるさ」を感じてもらえればハッピーです。
※虫眼鏡マークのついた写真は、クリックで拡大表示します。
まずは東京のランドマーク、東京スカイツリーが主役の作品です。天気が悪く半分雲に隠れたスカイツリーが、まるで異世界へと続く塔のように見えました。ホワイトバランスを「電球」モードに変えて、見た目よりも幻想的な雰囲気に仕上げています。スッキリと見える日もいいですが、雲がスカイツリーの光を拡散してくれるこんな天気の日もまた撮影日和なのです。僕は毎日のようにスカイツリーを目にしていますが、実際にスカイツリーの真下に行くと、何度でも驚いてしまいます。まだ真下に立ったことがないというあなた、ぜひ訪ねてみてくださいね。
今度は東京スカイツリーにのぼって、スーパー俯瞰撮影。スカイツリーからだと浅草方面にカメラを向けて東武スカイツリーラインを撮影するのが一般的ですが、僕はウロウロと探し回り、ちょうど反対側で東武亀戸線を発見! アーバン感あふれる浅草側の風景とは正反対に、こちらはほとんど高い建物がなく、下町感が半端じゃないですね。東武亀戸線はこの大都会には珍しく、2両編成という短い電車が走っているので、ひと味違う東京の風景になりました。
これは東京に暮らしている方ならご存知「アメ横」の風景。東京はスタイリッシュで洗練された看板が多くなりましたが、ここアメ横は昔のまま昭和ちっくな看板が多く、とってもカラフル。そこであえてハイキーにして、彩度をあげて赤みを強めることで、色飽和したような街の雰囲気を強調してみました。こうしてよくよく見ると、アジアらしいエネルギッシュな風景だなぁ。
ちなみにいつも僕が履いている取材用のブーツは、アメ横の老舗のミリタリーショップ「中田商店」で購入しています。「ベイツ タクティカルブーツDELTA-6」という靴で、カラーはコヨーテ。ゴアテックスなので水にも強く、何よりシンプルなカラーなのでどんな衣装にも似合います。サイドにチャックがあるおかげで靴紐をいちいち解かなくても履けるので、出過ぎたお腹で窒息しそうにならない(笑)すぐれものです。ネットでも買えますよ。
市ヶ谷と四ツ谷の間にある松林ごしに総武線を撮影したカット。これはもう東京の風景とは思えませんね。この先市ヶ谷から飯田橋にかけての区間も外堀沿いに沿って電車が走るので、大都会とは思えない広々とした鉄道風景を見ることができます。これって世界的にみても珍しい風景なのでは? と思っています。そういえば昔、市ヶ谷駅で電車を待っていたら、なんと線路をタヌキがトコトコと歩いてきました。近くに皇居の手付かずの自然があるからだと思いますが、都心って意外にワイルドなのです。
まるで氷の都市のような世界の底を、黙々と走る電車。これは文京区役所のある文京シビックセンターの25階展望台から撮影したもので、走っているのは東京メトロ丸ノ内線です。大きな明暗差がある日だったので、あえてシャドウ部に露出をあわせハイライト部を白く飛ばし、またまたホワイトバランスを「電球」にすることで、現実離れした風景に仕上げています。ビルのハイライト部分が白飛びすることで、街にあふれるさまざまな色が整理されたのも、思わぬ効果でした。通常なら露出ミスとなるこんな撮り方も、使いかたによっては、新しい表現を生んでくれるんですねぇ。
羽田空港国際線ターミナルの屋上駐車場から見た風景。観光バスがずらりと並んでいたので、その手前にあえてモノレールをチラッと入れて、インパクトのある写真に仕上げてみました。この写真には、最初バスだけに注目させて、あれ? 鉄道はどこにあるの? という感じで、見る人に鉄道を探させるという「しかけ」がしてあります。超望遠レンズを使うことで情報を圧縮し、迫力ある構図にしてみました。バスに似た塗装の車両が来てくれたのもラッキーでした。
こちらはだまし絵のような一枚。画面の真ん中のラインを中心にシンメトリーな世界が広がっていますが、右側が実像で、左側はビルの壁面に写り込んだ虚像です。ちょうど日傘をさした女性が通りがかってくれたので、下の人物にも目が行くようになったのも幸運でした。ここはバスが信号待ちで行列しがちな場所なので、こんなにスッキリとした構図を撮るまでには、けっこう時間がかかりました。デパートの壁に長時間へばりつく僕は、かなりの不審者っぷりだったことでしょう(笑)。
これはずいぶん前に田町駅のホームで撮影したもの。ホームの奥にあった、今となっては懐かしさを感じる複合機の広告看板ですが、「現場に愛を」というキャッチフレーズと、その手前に立つサラリーマンのシルエットが妙にシンクロして、まるでこの人の思いが現れたような、面白い写真になりました。これはいわば街の広告の借景写真。都会の撮影では、広告をうまく利用することも定番のテクニックなのかもしれません。
色づいたイチョウ越しに湘南新宿ラインを撮影しましたが、前ボケさせたイルミネーションと、運良くゴージャスな金色の傘を持った女性が通りがかってくれたことで、ある意味奇跡的な一枚になりました。ほかに歩行者がいないのもラッキーでした。こうした都会のスナップって、本当に運に恵まれないと、これだ! というカットになりません。また、そういう瞬間に巡り会ったときに逃さず撮れるようにしておく「カメラ慣れ」も重要かもしれません。都会的で、しかも季節感のあるお気に入りの一枚です。
山手線は国立代々木競技場の横を走りますが、ここはイチョウやつつじなどが咲き、"ゆる山手線"を撮影するのにもってこいの場所。ただ高い金網があるので、それをどう避けるかが一番のポイントになります。真っ赤に色づいた葉っぱと、山手線をパチり。東京にも季節感はあるんです。
御茶ノ水駅のすぐよこにある聖橋。歴史あるその橋のデザインを生かして、大胆なフレーミングで撮影してみました。構図のほぼすべてを橋で埋め尽くし、列車が入るちょこっとしたスペースを空けておく「主題ポケット」構図で撮影しています。都会に隠されたデザインを見出し、それを主役にする撮り方に気づくと、やみつきになりますよ。
僕の「ゆる鉄画廊」のすぐそばにある都電荒川線の三ノ輪橋電停。そのすぐ横の踏切を、お祭りのお神輿が渡ります。実は踏切内で大きく御輿振りをするのですが、それが終わったあとの、祭人の満足した表情がとても爽やかだったので、お気に入りの作品になりました。まさに三丁目の夕日の世界。こんな下町の風景を、いつまでも残したいな。
最後も画廊の近所を走る常磐線で撮影したもの。と言っても電車は写っておらず、水たまりに写った勾配標が主役です。でもこれも僕にとっては、立派なゆる鉄作品なのです。フツーに歩いていると気づかないようなことも、カメラを持って歩いていると、目に飛び込んでくるから不思議です。僕たちが暮らす大都会のなかに隠された、ゆる〜い被写体を探す「ゆる鉄TOKYO」シリーズ、これからも撮り続けていきたいと思います。