中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
「旅のシェルパ」キハ40を撮る!
2020年3月25日 06:00
JRのダイヤ改正前日である2020年3月13日に、只見線からキハ40が引退しました。そんなわけで今回は全国のローカル線で活躍してきた「キハ40」気動車がテーマです。鉄道専門ページでもないのに鉄分の濃い内容で申し訳ありませんが(汗)、鉄道に興味がない人でも、一度は目にしたことがあるであろうこの魅力的な車両がある風景を、今一度みなさんにたくさんお見せしちゃおうと思います。まだまだ撮影できる路線もありますので、ふだん鉄道を撮らない人もぜひ一度レンズを向けてもらえれば嬉しいです。
キハ40は1977年から1982年にかけて国鉄が製造したディーゼルカー。どうでもいい情報ですが、僕が最初に乗ったのは栃木県の烏山線でした。烏山線は早くからキハ40が導入され、ピカピカで20系気動車よりも急行型っぽいスタイルに一目惚れしたのを覚えています。片運転台のキハ48や、キハ47などを含めれば、今もJRで活躍する国鉄時代の気動車として、全国各地で活躍しています。今回の記事ではキハ40のことを愛情こめて「旅のシェルパ」と呼んでいます。青春時代から今まで、鉄道の旅の案内人のように僕を運んでくれたキハ 40へのリスペクトから生まれた表現だと思って生暖かい目でお読みください(笑)。
以下ではキハ40の運用情報を掲載していますが、現在は変更になっている可能性もありますので、確認のうえおでかけください。
最初は、北海道の宗谷本線の塩狩駅近くのポイントから撮影したこのカット。近くに踏切があるのですが、そこからだと真正面は狙えないので、線路の正面になる場所まで線路脇の雑木林の中を雪中行軍しました。その年は雪が多く、比較的積雪が少ない森の中でも一歩進むごとに腰まで沈み、かなり過酷な状況。そしてやっと正面の場所についたら、思ったより線路の位置が高く、また40分ほどかけて車に戻り、大型の脚立を掘った雪の中に立てて撮影しました。そうこうしているうちに背景の木々の雪が溶け始めてしまったのは残念でしたが、苦労しただけに思い出深い作品です。宗谷本線は稚内まで行く鈍行はキハ54ですが、名寄まではキハ40が健在なので、昔ながらの旅情を味わうことができます。
次は打って変わって南国の海の風景。鹿児島県の指宿枕崎線で活躍するキハ47です。ここは鹿児島湾をバックに壮大なイメージで撮影できるポイント。蕎麦屋さんの手前の精肉屋さんの裏手の丘に登って撮影します。お店の横から獣道のような道を通るので、お店の方がいたらひと声かけて撮影させてもらいましょう。車歴が長くなり、更新工事などで印象が変わってしまった車両も多いキハ40ですが、九州の車両は窓枠も登場時のままでいい雰囲気。ただひとつ、屋根のベンチレーターが取り外されてツルツルな感じなのがちょっと残念なところ。まぁまだ現役で活躍してくれているだけでもラッキーと思わなくちゃいけませんね。
薩摩富士と呼ばれる開聞岳のまんまるな山容とキハ47。なかなか異国感のある風景ですね。指宿枕崎線でも先端のこの区間は本数も少なく、なかなか効率よく撮影できませんが、北海道とはまた違う感じの雄大さがあって大好きな撮影地です。山川駅から枕崎駅までの末端区間は、僕の知る限りキハ40系だけが走っているので、狙い目です。
まるでタイムスリップして国鉄時代に戻ったかのような作品ですが、2019年に撮影したカットです。山陰本線の大岩駅は広大な桜並木の横にあるので、ホームからでもこんなふうに撮影できるのも嬉しいところ。山陰本線の鳥取周辺も、キハ40系列の運用はだいぶ減ってきましたが、鉄道ファンに「タラコ」と呼ばれる、塗装が国鉄時代の赤色一色の懐かしい姿なのが嬉しいところです。
この2枚はJR東日本の津軽線で撮影したカット。津軽線のキハ48はカラーリング以外はほぼ原型をとどめているので、「乗って良し」、「撮って良し」のキハ40の楽園です。ちょっと寂しい感じがたまらない、終着駅の三厩の雰囲気も最高。考えてみれば、こんなにロケーションがいい路線も、今や貴重だと思います。噂では2020年内に新型に置き換わると言われているので、撮影はお早めに。
こちらは2011年に旅した僕の作品集「DREAM TRAIN」の、早朝の帯広駅での一コマ。駅のホームに停車中で、列車に朝日が当たるはずのない状況なのに、側面がギラギラと輝いています。それはなんと、ホームのミラーに反射した朝日が、列車の側面を照らしているからなんですね。この奇跡のようなライティングに、たくさんの人の夢を乗せた列車が光り輝いているように思えて、感動で泣きそうになりながら撮影したのを覚えています。豪雨の影響で不通区間はありますが、根室本線の富良野〜釧路はキハ40天国です。
この写真は五能線のキハ40。有名な小入川橋りょうでの撮影ですが、定番のカットではなく、感動的な新緑の森の美しさを主題としました。まるで海から森が聳えているようなイメージで、列車はチラッと見えればいいやっ!というスタンスで構図をつくりましたが、意外と列車に存在感もあり、お気に入りの写真となりました。五能線のキハ40も津軽線と同じタイミングで新車に置き換わると言われています。
こちらは2011年のペンタックスカレンダー用に撮り下ろしたカット。霧がいい感じになるまで、1週間くらい粘って撮りました。川のすぐ横を走るこの区間は、災害により長期の不通が続いていますが、復旧が決定しています。キハ40ではなくなってしまいますが、またここで撮れる日が、今から楽しみです。
ここは只見線の只見川第三橋りょう。以前は只見線を代表する撮影地でしたが、今は只見川第一橋りょうに人気を奪われ、撮影する人も少ない印象です。でもこうしてみると、やっぱりいい!一面の緑の世界を横切るキハ48は、本当に絵になりました。
どこまでも続くかに思える流氷をバックに走るキハ40。日本にもまだまだこんな風景があるんだと思わせてくれるダイナミックなシーンです。このカットは釧網本線の北浜駅に近い白鳥展望公園の展望台から撮影できたのですが、手前の木が伸びてしまい現在は撮影できないのが残念。車窓から海を眺めている人の感動のため息が、聞こえてきそうな1枚になりました。釧網本線はほぼキハ54というステンレスの車両がメインですが、網走〜知床斜里ではまだキハ40も運用されています。
北海道の太平洋に沿って走っていた日高本線。とても絶景が続く路線でしたが、海から近すぎたがゆえに2015年1月の暴風雪により大きな被害を受けて以来、ずっと運休が続いていました。そして先日とうとう復旧されることなく廃止されることが決まってしまいました。ここは中学生のころから何度も通ったポイントで、海岸線ギリギリのところを走る迫力あるシーンは、間違いなく日本の鉄道の名シーンの一つでありました。撮れなくなってしまったこともショックですが、「本線」と呼ばれる路線が廃止されてしまう現実に、打ちひしがれる思いです。
こちらは5月7日をもって廃止になることが決定してしまった、札沼線で撮影した樹氷のカットです。今は1日1往復になってしまいましたが、撮影当時は1日3往復運行されていたので、まだまだこんなカットを撮る余裕がありました。この日は-10度まで冷え込み、林の奥にある小川から気嵐が立ち上り、その水蒸気によって生まれた氷が、樹氷を生み出していました。
ここは札沼線の終着駅、新十津川駅。まだ廃止が決まっていないころに撮影したので、のんびりとした雰囲気です。太鼓を叩いて踊っているのは、近くの病院に併設された保育所の子どもたち。1日1本しか来ない列車を出迎え、見送る様子は、とても心温まるシーンでした。出ていく列車に向かって一生懸命太鼓を叩いたこと。この小さな街に列車が走っていたこと。この子達が大人になるまで、覚えていてほしいな。
中井精也からお知らせ
「ゆる鉄倶楽部」は鉄道写真家中井精也の作品を存分に楽しめる会員制写真総合サービスです。今回のジョイテツのように、中井精也のオススメ撮影スポットや、旅のエピソードなどを掲載したメールマガジンを月2回配信しております。
このほかにも、中井精也から写真作品のアドバイスがもらえる「ゆるくらアルバム」への投稿資格や、さまざまな特典が盛りだくさん!詳細は「ゆる鉄倶楽部」Webサイトをご確認ください。皆様の登録をお待ちしております!
ゆる鉄倶楽部公式ページはこちら。
http://foto-nakai.net/
中井精也のYouTubeチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/channel/UCgw0djQyo