中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
ソニーα7R IVで撮る!北海道ツアー③
2019年10月10日 17:13
今回のジョイテツは北海道撮影ツアー3日目の様子をご紹介。今回の舞台は、なんと1日1往復しかない超・超・超ローカル線の札沼線(さっしょうせん)です。ジョイテツ!の第6回でもご紹介した札沼線ですが、そのときは訪ねたのが午後だったので、1日1往復の浦臼〜新十津川の区間では撮影できませんでした。今回はそのリベンジ。そもそもこの札沼線は、札幌の「札」と、留萌本線の石狩沼田の「沼」をとってつけられた路線です。つまり昔はその名のとおり、新十津川から石狩沼田まで列車が走っていました。ただその廃止年度は古く、昭和47年にはすでに廃止されてしまっていました。
我々は旭川に宿泊していたので、札沼線の廃止区間を見学しながら、新十津川へ向かうことにします。廃止から50年近く経過していることもあり、ほとんど線路が敷かれていた面影はありません。ガッカリムードのなか、ふと僕の野生の勘が働き、雨竜駅(うりゅうえき)に立ち寄ってみると……。
なんと!腕木式信号機の残骸が残っていたのです。残念ながら腕木式信号機以外に駅の面影はまったく残されていませんが、たしかにここに列車が走っていた証。こんな残骸だけだというのに、大の大人が大興奮しながら撮影しました。興味がない人からしたら、それはそれは不思議な光景に見えたことでしょう。
そのままだとまわりの倉庫や電柱などがバッチリ写ってしまうので、ゴロンと寝転がって超ローアングルで撮影。イメージは天空の城ラピュタのお花畑で立ちつくしている壊れたロボット(笑)50年近く経つ信号の残骸は、もう来ることのない列車を待ちつづけているように見えました。
さぁいよいよ札沼線浦臼〜新十津川の1日1往復区間に到着です。時刻は浦臼駅発9時6分、新十津川駅着9時28分の下り列車と、その折返しの新十津川駅10時ちょうど発で浦臼到着10時21分の上り列車のみ。たった2回しかないチャンスをどう生かすか?まずこれを決めることこそが、最大の難関かもしれません。
そして僕が最初に選んだのは、この写真の場所です。数少ない撮影チャンスなのに、なぜ絶景でもなければ、電柱だらけのこんな場所を選んだのでしょうか? みなさんこの写真をよく見て、考えてもらえればと思います。
その答えは「ハエたたき」です。国鉄時代、線路脇には木の電柱が立っており、碍子のついたその姿が似ていることから、「ハエたたき」と呼ばれていました。いつのまにか電柱はコンクリート製に変わり、碍子が目立つこのスタイルも見られなくなってしまいましたが、僕にとってこの「ハエたたき」は、国鉄時代のローカル線旅情を感じさせてくれる、魅力的な被写体なのです。津軽鉄道の一部区間など、今でもハエたたきが残っている場所はありますが、僕の知る限りここまで連なって残っている場所はありません。
というわけで、この木の電柱を主役に、貴重な2本の列車のうちの1本を撮影することにしたのです。ツアーバスのドライバーさんは、旭川に2泊もしているのに、旭山動物園も見ずに汚い電柱や信号機の残骸に興奮している僕たちを、宇宙人を見るような目で見ていました(笑)。
電柱が主役と決まれば、いつもは極力構図に入れないようにしている電柱が最大限目立つようなフレーミングで撮影します。奥には鉄道ファンの白い車が駐車されていましたが、それを電柱でうまく隠すように位置決めをしています。テーマがテーマだけに懐かしい雰囲気を強調するため、仕上がり設定は「ニュートラル」を選択し、コントラストと彩度を抑えめに、さらにホワイトバランスを「日陰」にすることで、落ち着いた色あいに仕上げています。
数少ないチャンスなので、通り過ぎた列車もキッチリ狙います。そのときの主題も、やはりハエたたき。こちらは順光なので、青空バックに鮮やかな色彩で撮影しました。
1日1往復の列車ですが、折返しの新十津川駅で32分間停車するので、その間に終着駅の風情をテーマに撮影することにします。このかわいい駅舎が、1日に1回しか列車が到着しない終着駅、新十津川駅です。
こちらが駅の時刻表。たしかに10時ちょうど発の1本しかありません。採算が取れないのはわかりますが、せめてもう1本、夕方か夜に列車がないと、いざ使いたいと思っても使えませんよね。「1日1往復のローカル線」という話題性はいいのですが、公共交通としては寂しさを覚えるダイヤです。
新十津川駅の車止め。とても旅情のある風景ですが、来年の初夏には、もうここに列車はこなくなると思うと、やはり寂しさを感じてしまいます。ここでは列車ではなく、車止めにピントを合わせてみました。ピントの位置は、撮り手の意思の表れです。写真を見る人に、写真のどこを見てほしいのかを、僕はピントを使って表現するようにしています。
こちらの2枚は同じ場所でピントを合わせる位置を変えて撮影したもの。1枚目の写真の主役はもちろん列車。そして2枚目の主役は、終着駅に咲く花です。作品の意味合いも、印象も大きく変わる、ピント合わせという行為。僕が大切にしているのは、ピント位置に必ず意味のある被写体を置くようにするということ。なんとなくホワ〜っとした雰囲気を出そうと、なんとなくぼかしても、なかなか意図が伝わらないのです。
普段ピントは何気なく合わせて撮ってしまいますが、自分の意図を明確にする手段として意識すると、その重要さがわかると思います。慣れるまではピントの位置をいろいろ変えて撮影し、撮れた写真が何を強調してくれているかを「逆算」するのもいい練習方法です。
新十津川駅10時発の「始発列車にして最終列車」は、さりげない田んぼ風景で撮ることを決断。こののんびりとした風景のなかを、たしかに列車が走っていたということを作品に閉じ込めたくて、風景を大きく入れた構図にしました。色も派手になりすぎないようにして、爽やかさと寂しさが同居したような、撮影しているときの僕の気持ちをそのまま写真で表現しています。来年の5月に廃止になるこの路線を、また撮影することができるだろうか? ふと、そんなことを考えて、寂しくなってしまいました。
ここで札沼線を後にし、根室本線とかなやま湖を撮影するため移動します。根室本線は道央と道東を結ぶ大動脈ですが、札幌と帯広・釧路を結ぶ特急は石勝線経由なので、今は鈍行のみが運行されるローカル線の趣です。さらに2016年の大雨災害以来、東鹿越駅と新得駅が不通になってしまっています。というわけで、さすがに1日1往復とまではいかないですが、列車の本数は数えるほどしかありません。ローカル線の列車待ちの間はたいくつですが、僕はその時間を使っていろいろなカメラの機能を試したりすることが多いです。そこで目をつけたのが、ソニーα6400のパノラマ撮影機能でした。
スマホではおなじみの機能ですが、本格的なデジカメで「パノラマ撮影」ができるんだなぁと再認識。さっそく試してみます。ただ撮っても簡単すぎるので、猿飛忍者サスケに夢中になった世代にしかわからない、パノラマ機能を使った「忍法影分身の術」に挑戦してみます(笑)。
パノラマ撮影の要領はスマホと同じで、カメラを横方向にパンすることで撮影できますが、そのカメラのパンとシンクロするように僕が横に移動すれば、きっと僕がたくさん写るはずです。真ん中に立ってパンしてもらうと、あれれ、ストラップしか写っていません。ツアー参加者のみなさんも、この講師は何をやっているんだと呆れ顔ですね(笑)。
分身の術の成功は、カメラをパンするときに、画角内のどの位置で写るかが鍵になっているようです。どのへんで写るかを確かめるため、少しずつ立ち位置を変えながらパンしてみます。どうやら画面の左隅ギリギリにいて、カメラの動きに遅れないように右方向に移動すれば、画面から消えることなく撮れそうです。
そして失敗すること数回。ついに分身に成功!
1人のセイヤが2人のセイヤ、3人4人……
5人!10人!!オウオウオウオウヤー!
というわけで、みごとに分身の術を使うことができました。よく見ると気持ち悪いけど。新しい鉄道写真の表現方法として、役に立たないこと間違い無しの技法ですが(笑)、列車待ちの時間にぜひお試しください。
根室本線に沿って北に進み、金山駅と東鹿越駅の間にある「かなやま湖」に到着。かなやま湖畔にはラベンダー畑がありますが、前回富良野で撮影した「ファーム富田」ですら早かったのに、満開になっているはずもありません。でも湖畔に近いラベンダー畑の一部がなんとか咲いていたので、そこで撮影することにします。
ラベンダーの咲きはいまいちなので、望遠レンズを使って花畑を圧縮してボリューム感を出してみます。ここでは2本の列車を撮影しましたが、やはりピント位置を変えて撮影してみました。ラベンダーと湖の鮮やかな色と、列車がよく似合います。列車メインか、ラベンダーメインか、みなさんはどちらのピント位置が好みですか?
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