中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
新緑の東北てつたび③
灯台と列車を撮れるレアポイントへ
2019年7月25日 07:00
みなさんこんにちは。東北てつたび3回目となる今回は、青森県を走る八戸線が舞台です。撮影ポイントは、真っ白な灯台と青い海、そして列車をからめて撮影できるポイントです。
海沿いを走る路線はたくさんありますが、実は灯台と列車を撮れるポイントってほとんどありません。かなり昔に北海道の興浜北線という路線で、灯台と列車をからめて撮ったことがありますが、その路線も廃止になってしまった今、超広角レンズ必須とはいえ、バッチリ列車と灯台を撮影できるポイントは思いつきません。それだけここは、レアなポイントなのです。これから夏のシーズンにはピッタリの爽やかな撮影地ですので、ぜひ訪ねてみてくださいね。
今回の撮影の舞台となった「鮫角(さめかど)灯台」。昭和13年に建てられた灯台で、八戸港へ入る船の目標となっています。八戸線の鮫駅と陸奥白浜駅の間の岬を回る線路のすぐ上に建ち、日本の灯台50選にも挙げられるほど絵になる灯台なのです。こちらは灯台のアップ。よく見ると画面左下に、キジがシルエットで写っていますね(笑)。
駐車場に車を停め、5分ほど歩くと灯台に着きます。その目の前には広大な太平洋が! さっそくライカSLにスーパー・バリオ・エルマーSL 16-35mmの広角端で撮影します。狙うのは12時44分鮫駅発の下り列車。フルサイズ16mmでこの位置なので、かなりギリギリな構図ですが、灯台以外に人工物が入らないすっきりとした構図で撮影できました。
前の作品のあと、カメラを右にパンして、海と八戸線だけの構図も欲張って撮影します。こういう撮影をするために、僕は三脚を使わずに手持ちで撮影することが多いのです。こういう写真で水平を保つには、常に水平線を画面上でも水平になるように意識すること。超広角であるにもかかわらず歪みの少ないライカのレンズは素晴らしいですね。
八戸線で活躍するのはキハE130系500番代気動車。大好きなキハ40から新型気動車に変わったときはショックでしたが、八戸線専用の海に似合うカラーが爽やかな車両だと再認識。これでドアが両開きじゃなかったらなぁ……と思ってしまいます。
鉄道に興味のない方はピンとこないかもしれませんが、この車両のドアは真ん中から左右に開くタイプで、これだと都会の通勤電車って感じなんですよね。やっぱりローカル線は1枚のドアがガラリと開く1枚ドアのほうがいいですね。え?言っている意味がわからない? そう、僕たち鉄道ファンってそういう変なコダワリがあるんです。まぁ人によってそれぞれですが。
いきなりいい写真が撮れましたが、せっかく灯台と列車が撮れるレアなポイント。ほかに構図がないかウロウロしてみます。こういうローカル線って本数が少ないので、どうしても定番カットだけを撮って移動してしまうことが多いんですね。でも実はそんな場所にこそ、隠れた手付かずの名構図が隠れている可能性が高いのです。「名所のそばに隠された名所あり」これは僕の持論です。
というわけで灯台の入り口付近をウロウロしていたら、パッと見て行けないと思っていた丘のほうに伸びる遊歩道を発見。そこを進んだら、先ほどと反対方向から灯台を撮れるポイントを発見! これなら順光で撮影できます。やっぱりあきらめずに探してよかった。さっそく三脚を立てて、次の列車を待ちます。次の列車は……1時間半後です(涙)。
ようやく14時11分陸奥白浜駅発の上り列車が来ました。そのあいだずっと雲ひとつない青空だったのに、列車の直前になって変にまとまった雲が来ちゃいました。画面から外そうとすると灯台が切れてしまうので(笑)、泣く泣くそのまま撮影。1か所にだけ雲がある中途半端な構図になってしまいました。さらにPLフィルターが効きすぎて、青空に雲が生み出したムラが目立ってしまっています。順光なのにこんな現象が起きるんですね。これはもう1回トライ!
もう一回トライ!なんて軽く思いましたが、次の列車は15時37分鮫駅発の下り列車。なんとまた1時間半後。一瞬諦めかけましたが、ここでどうしても絵になる雲が広がる作品が撮りたい!というわけで粘ることに。
でもどんどん雲が広がり、一面曇り空になってしまいます。それでもあきらめずに待っていると、列車の時間が近づいてくるにつれ徐々に雲が抜けていきます。そして最終的にはとてもいい空の表情で撮ることができました。粘って良かった!こういうシーンではいつも、ソニーの色づくりの素晴らしさを実感します。α7R IIIで、クリエイティブスタイルは「風景」からコントラスト+1、彩度+1に調整し、さらにPLフィルターを効かせると、目が覚めるように鮮やかな作品に仕上げることができます。まさにこの灯台で撮りたかった一枚を撮ることができ、大満足です。
この場所に着いて、はや4時間以上が経過。そろそろ移動しようかな、と思った瞬間に目に入ったのがたんぽぽの綿毛。別に珍しいものではありませんが、海との組み合わせがちょっと素敵です。ただ一番綿毛が多いのが日陰になっています。諦めかけたのですが、太陽が動けば日が当たりそうな位置なので、またまた粘ることに。そう、僕はかなりしつこい性格なのです。
こんなときはいろいろ構図を試してみるのが"せいや流"。まず三脚を立ててしまう人が多いと思いますが、それをやってしまうと、三脚にカメラの位置が縛られてしまいます。そう、三脚を使う最大のコツは、三脚を立てる前に手持ちで構図をしっかりと決めることなのです。まずは手持ちで構図の試行錯誤を繰り返します。ここでは綿毛を小さめにして、画面の右上にちらっと列車が入るこの構図を作ってみましたが、綿毛と海という2つの要素がお互いに主張しあって、どちらも弱くなってしまっています。
陸奥白浜16時19分発の上り列車は、綿毛と海と空、そして列車という4つの要素を、できるだけバランスよく配置することを心がけたこの構図で撮影しました。太陽も西に移動し、綿毛にも光が当たってくれましたね。まるで綿毛が海風に乗って飛んでいきそうな、旅情感のある構図になったと思います。
さぁこれで終わりだと思ったのですが、夕方になるとどんどん雲が少なくなり、海が真っ青に輝いてきました。次の列車まで40分。それまで晴れている保証はありません。でもここまで来たら、この場所にとことんこだわろうと決め、粘ることにします。
16時58分鮫駅発の下り列車は、海バックで撮影。狙い目はドアの横にあるカモメマーク。ここでは灯台もタンポポの綿毛も引き算して、水平線だけをメインにした構図になりました。ただ列車の直前に、大きなタンカーが来てしまいました。海の写真としては最高のタイミングなのですが、ちょうど列車と同じ側に写ってしまったので、写真の左側だけが重い構図になってしまいました。列車の最後尾のカモメマークは違う位置に貼ってあるので、写りません。まぁ構図のバランス以外は問題ないので、これで妥協することにします。次の列車は日が当たらない時間なので、流石に撮影は終了です。
帰り道、反対側から見たらどんなふうに見えるかロケハンしたら、なんと背景が夕焼けになり、とてもいい感じです。でもこういうシーンでは背景の空に露出を合わせたローキーで撮りたくなりますが、列車は手前の岬を走るので、風景と列車が両方真っ黒に潰れてしまいます。こういうシーンでローキーで撮れるのは、ハイライトである空をバックに列車がシルエットで浮かび上がる状況だけなのです。
ただ地図を見ると、岬の奥で左に急カーブします。ということは、カーブの瞬間に列車の右側面に夕日が当たり、ギラリと輝く瞬間があるかもしれません。というわけで、列車が現れたときはローキーで、灯台の下に列車が来たらシャドー基準のハイキーで撮ることにします。鉄道写真は、どんなに小さくても、列車が主役。それにあわせて、露出もこまめに調整しているのです。
そして撮影したのがこちらのカット。カーブの瞬間、側面が夕日を受けて、ギラリと輝いてくれました! 列車はかなり小さいですが、その輝きのおかげで存在感もバッチリです。
灯台の下に列車が来たときには、列車の露出にあわせたハイキーに。白く飛んだ空に灯台が浮かび上がる、旅情たっぷりの作品になりました。それにしてもこういうときのライカの描写力ってすごいと思います。ライカSLには階調補正機能は搭載されていないのですが、淡いグラデーションが潰れず飛びすぎず、なんとも言えない調子で再現できています。このカットを最後に、こんどこそ撮影を終了。八戸のホテルに向かいます。
満足感とともに車でホテルに向かう途中、チラッと見えた踏切の風景が気になり、引き返します。それがこちらの踏切。なんてことない街中の踏切なのですが、背景の港が夕日に照らされ、なんともドラマチックに輝いています。そこで取り出したのが、ライカM-Pサファリ(Typ 240)です。
僕が憧れ続けたこのオリーブドラブのライカを買ったのは、2018年末。学生のころ、キヤノンの一眼レフカメラを使っていた僕は、キヤノンF-1 ODというカメラを見て、そのかっこよさにしびれてしまいました。それ以来オリーブドラブのカメラにほのかな憧れを持っていたのですが、2015年にこのオリーブドラブのボディを持つライカM-Pサファリセットが発売。値段のこともあり、憧れつつも簡単には手を出せなかったのですが、昨年末に出モノの中古が見つかり、もうこんなモデルは出ないだろうと判断、清水の舞台から直滑降し、購入しました。その半月後にライカM10-Pサファリが発売され、気を失いました(笑)。
レンズはライカM-Pサファリセットに付属のズミクロン35mm ASPH.ではなく、沈胴タイプのエルマー50mm F2.8で撮影しています。昼間に撮影していたような灯台の絶景ももちろん好きですが、僕にとってこういう踏切の風景は、まさに宝物のような風景。列車は写っていないけれど、線路とそのまわりにある生活感がドラマチックに表現されていて、大好きな作品です。奥の堤防に人が歩いていることで、生き生きした生活感もプラスされました。なんか寅さんがカバンを持って登ってきそうな、そんな踏切の風景。ずっと見ていたい風景です。撮影後、今度こそホテルにチェックイン。本日の撮影を振り返っていたら、あの灯台に朝行ったらいいのが撮れるんじゃ……って想いが沸々と湧いてきます。
と、いうわけで、朝にもまた同じ場所に来ちゃいました。ほんと自分のしつこさに呆れてしまいますが、海が朝日に輝いていい感じです。
そして撮影したのがこちらのカット。今度は明るい海をバックに列車がシルエットになる状況なので、思い切ったローキーにしています。灯台と朝日に輝く海、そして列車という、ドラマチックで旅情たっぷりの一枚になりました。
今回は1か所にこだわって撮影する様子をご覧いただきました。旅先で同じ場所に何時間もいるなんてもったいない!なんて思いがちですが、いいと感じたら最高の作品が撮れるまで粘ることの大切さを実感していただけたらハッピーです。
中井精也からのお知らせ
僕の作品を展示しているギャラリー&ショップの「ゆる鉄画廊」では、写真教室も開催しています。そこで使用しているテキスト「せいや流!撮影ハンドブック」を一般に向けて販売することになりましたのでお知らせします。
内容はカメラを買ったばかりの超初心者向けのものですが、それ以外の方も復習のためにぜひ読んでみてくださいね。「カメラバッグにいれておきたい本」がコンセプトなので、実際に撮影現場でこの本を見ながら、カメラのいろいろな機能を試してもらえればと思います。
写真教室の教材ということもあり、不要な情報を減らして、調整のコツをわかりやすく表示するように心がけています。ゆる鉄画廊店舗、ゆる鉄画廊オンラインショップのほか、Amazonでも販売予定です。ぜひお買い求めください。
書籍名
せいや流!撮影ハンドブック[入門編]
ページ数
48ページ[本文46p、表紙2p]
サイズ
A5判
カラー
全ページフルカラー
販売数
限定1000部
著者
中井精也
出版
株式会社フォートナカイ
発売日
2019年7月26日(店頭・オンラインショップ)
2019年8月上旬ごろ(Amazon)
価格
1,200円(税別)