中井精也のエンジョイ鉄道ライフ

新緑の東北てつたび①

菜の花咲く大湊線へ

ソニーα7R III FE 24-70mm F2.8 GM(48mm) 絞り優先オート(F4.5、1/500秒) ISO 200 WB:太陽光 風景(大湊線/陸奥横浜〜有畑)

みなさんこんにちは。今回から私、鉄道写真家中井精也の新連載、その名も「中井精也のエンジョイ鉄道ライフ」略して「ジョイテツ!」がスタートします!この企画では、僕の撮影を通して作品に関する考え方や、テクニックなどをどんどんお見せしちゃいます。僕がふだん使っている道具や車、バイク、そしてグルメ情報など、カメラと鉄道以外の情報もどんどん発表したいと思います。

作品そのものや写真の技術だけでなく、僕が撮影を、もっと言えば人生をエンジョイしているところをご覧いただき、みなさんの撮影のモチベーションアップに繋がればとてもハッピーです。詳細な機材レビューなどはあまりありませんが、リラックスしてゆる〜い感じでご覧いただければと思います。

第1回は、青森県を走る大湊線と菜の花の撮影紀行をご紹介します。

埼玉県越谷市にある自宅前、朝5時でこのテンションです。最近おっさん化がすすみ、何もなければ夜の10時にはおねむになってしまう僕。そのかわり朝はどんなに早くても、目が冷めた瞬間からシャキーンって感じです(笑)。

目指すのは寄り道なしで724km先にある大湊線の陸奥横浜駅。ほぼほぼ1日移動ですが、そのまままっすぐ向かってももったいないので、途中の天気と相談しながら、何箇所か寄り道して撮影します。ただこの時点では、どこに寄るかはまったく決めていません。

いきなりですが、僕の取材車をご紹介しましょう。あまり見慣れない車だと思いますが、ロシア製のラーダ・ニーヴァというSUVで、2017年製のドイツ仕様車を新車で購入しました。並行輸入車で、価格は約300万円でした。サイズはジムニーをひと回り大きくしたくらいで、左ハンドル・マニュアルシフト。エンジンは1.7リッター直4ガソリンで、クーラー(エアコンではない)やパワーウインドウ、ABS、イモビライザーなどの最新?装備もついています。

僕がこの車を選んだのは、やっぱりそのデザインと日本の道にピッタリのサイズ感。40年以上変わらないそのデザインは、「走るシーラカンス」とか、「ソ連の生きた化石」とか言われたい放題ですが(笑)、今の車にはない浪漫が感じられます。

そもそも僕は「スタスキー&ハッチ」とか「刑事コロンボ」とか「ルパン三世」とか、車で個性を増幅させるキャラが好きだったので、どうしても車で個性を出したくなってしまいます。だから性能は後回しにして、あまり人が乗らない車を選んでしまうんですね。でもまぁそれもまた、僕なりのエンジョイの一部なのかもしれません。

基本はフルタイム4WDですが、センター・デフ・ロックと副変速機も装備しているので、どんな悪路もOK。日本の田舎道にあったサイズで、林道でも農道でもスイスイ走ります。

リアスペースは生活用品でぎっしり。
リアシートは機材置き場になります。

小さい車なので収納も少なめですが、1週間分の旅の荷物を入れても、1人乗車ならまだまだ余裕はあります。屋根には大型の三脚や、脚立が搭載されています。このへんの道具もそのうちご紹介しますね。

注目してもらいたいのがオレンジ色の合羽。まるで鉄道の保線員のようですが(笑)、反射材がついていて夜間でも目立ちます。夜に国道の狭い歩道部分での撮影するときや、バイクに乗るときなど、雨対策だけでなく、自分の場所を目立たせる目的でよく着ています。

このラーダ・ニーヴァに乗っていると、よく「故障しませんか?」って聞かれるのですが、自信を持って「故障しません」と答えています。そう、昨年の冬までは……。実は昨年末の12月29日、真冬の夜の飯山線撮影中に壊れました(泣)。原因としては雪溜まりに突っ込んだときにラジエターから大量の雪が入り、それがカチカチに凍ってファンが動かなくなり、ヒューズが飛んだだけだったのですが、原因がわからず吹雪の夜に四苦八苦しました。でもそれ以外はまったく故障なし! だから大丈夫と自分に言い聞かせています。

東北自動車道をどんどん北上しますが、雲が多めの天候。でも仙台を超えたあたりからお天気が安定してきたので、陸羽東線の鳴子峡へ向かうことに。僕の頭には撮影地のデータベースが入っていて、行程と天気にあわせて最もいい作品が撮れる確率が高い場所を選択します。

そして東北自動車道を約400km走り、10時30分に撮影ポイントに到着しました。撮影地周辺はまさに新緑まっさかりで、いい写真が撮れそう。思わず笑顔になってしまいます。今回の機材はライカSLと、ソニーα7R IIIの2セットです。

ライカSL (Typ 601) VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(54mm) マニュアル露出(F6.3、1/320秒) ISO400 WB:太陽光(陸羽東線/鳴子温泉〜中山平温泉)

ここは名勝鳴子峡と陸羽東線を撮影できる有名撮影地。国道の橋の歩道から撮影できるお手軽なポイントです。ちょうど新緑でとてもいい条件でした。こちらはライカSL+VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.の54mmで撮影しました。

こういう広い風景のなかで鉄道を撮るときに、一番気をつけるのは構図です。鉄道写真では構図づくりの段階では主題である列車が存在しないので、どうしても風景だけを中心に構図を作ってしまいがち。もし列車を目立つ位置に配置しないと、列車が風景に負けて目立たなくなってしまいます。

そんなときに僕が目安にしているのが、「せいや君構図」です。これは「レイルマン構図」と呼んでいましたが、僕がレイルマンフォトオフィスを退職してしまったので、改名しました(笑)。

せいや君構図

これは画面を縦に4分割する線と、対角線の交点である5点から、中心を除いた4点のどれかに主題を置くという考え方です。この広い風景の中のどこに列車を置こうか迷ってしまいますが、この4点のどこかに列車を置くと決めることで、構図づくりがとても簡単になります。

作品とせいや君構図を重ねてみると、ほぼほぼ右下の1点の位置に列車があることがわかると思います。真面目な人はこの点と主題が絶対に重なってなくちゃダメだと思ってしまいがちですが、だいたいこんな感じであくまでも目安として使ってもらえればと思います。

こうしてまず主題を置く位置を決めてしまえば、あとは周囲をどれくらい入れるかを判断すればいいので、構図づくりがとても簡単になるのです。

ソニーα7R III FE 24-70mm F2.8 GM(24mm) 絞り優先オート(F4.5、1/500秒) ISO 200 WB:太陽光 風景(陸羽東線/鳴子温泉〜中山平温泉)

こちらはソニーα7R III+FE 24-70mm F2.8 GMの24mmで撮影したカット。α7R IIIの4,240万画素という高精細な描写力を生かし、鳴子峡の渓谷の深さを主題として、列車は小さめの構図にしています。ここではせいや君構図の右上の1点に列車を重ねることで、小さくても存在感が失われないような構図にしています。

さぁ素晴らしい作品が撮れましたが、これは寄り道に過ぎません。1本だけ列車を撮影して、また北上開始です。

鳴子峡からさらに約150km移動して到着したのは、岩手県から秋田県へ向かう北上線のゆだ錦秋湖駅付近。ここは和賀川のダムである錦秋湖に沿って北上線が走る絶景ポイントで、真っ赤な鉄橋を渡る列車の風景はとても有名です。錦秋湖はちょうど雪解けの水が豊富に流れ込み、まるで湖の上に森があるような不思議な風景になっていました。撮る予定だった赤い鉄橋から変更して、ダムの水面に降りられるポイントを探して列車を狙います。

だいたい僕はパパっと構図ができるほうなのですが、ここでは構図づくりにかなり苦労しました。この場所の主題は、「水面から生えている木」の爽やかさですが、背景の森と木が重なっているため、構図によっては背景に溶け込んでしまいます。さらに薄曇りになったので、木の露出に合わせると背景の空が白く飛んでしまう状況に。画面に入れることでその部分の力を弱めてしまう白い空のことを、僕はいつも「白い空は親のカタキと思え」なんて言っているので、ここでも白い空はカットしたいところです。

でも空をカットしてしまうと、木が背景の森に完全に溶けてしまいます。画面の白い空を手で隠して見てもらうと、白バックに目立つ先端部分がなくなっただけで、木は背景に溶けてしまうのです。う〜ん、悩ましい!

さらによく見ると、木のまわりの水面は波立って白くなっているのですが、自分に近い方は風が弱く水面が緑色を反射してとてもキレイです。いっそ縦位置でこんなふうに撮ろうかと思いましたが、主役である木よりも水面のほうが目立ってしまうので、きっぱりとあきらめます。

このようなときは、「この風景の何が主役なのか」をきちんと意識しておかないと、いろいろなものを詰め込みすぎた欲張り構図になってしまいがち。自分の主題を目立たせるためにも、いつも心を鬼にして画面を整理するようにしています。

ライカSL (Typ 601) APO-VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/90-280mm(159mm) マニュアル露出(F4.5、1/320秒) ISO 400 WB:太陽光(北上線/ほっとゆだ〜ゆだ錦秋湖)

悩んで悩んで決めたのがこの構図。わずかに「親のカタキ」である白い空を少し入れることで右側の大きい木を背景から浮き立たせ、その存在感を残すような構図にしてみました。運良く単行(1両)の列車が来てくれたので、とても収まりのいい構図になりました。試行錯誤しましたが、幻想的な「湖に立つ森」の風景を、うまく表現できたのではないかと思います。

錦秋湖の風景はとても素晴らしく、そこに立っているだけでリラックスできそうですが、実は撮影中ずっと心穏やかではありませんでした。なんと、そこらじゅうヘビだらけなのです。毒はなさそうなヘビですが、これだけうじゃうじゃいるとヘビが特に苦手ではない僕でもゾワゾワしてしまいます。僕の立っているところは金網が貼ってあるのですが、その下のほうからも、何かが動いているようなガサゴソ音がするんですね。

そんな感じでビクビクしていて、ふと下を見るとカメラバックにヘビが! 思わず「ヒエ〜っ!」と声を上げてしまいましたが、それはヘビではなくα9につけているストラップでした(笑)。今後はヘビっぽくないストラップにしようと、心に誓った精ちゃんなのでした。

さぁここからは青森県の大湊線沿線のむつ市まで一気に移動します。

ライカSL (Typ 601) SUPER-VARIO-ELMAR-SL F3.5-4.5/16-35mm ASPH.(16mm) マニュアル露出(F5.6、1/800秒) ISO 400 WB:日陰(大湊線/有戸〜吹越)

まっすぐにホテルに向かう予定でしたが、日没に間に合ったので急遽大湊線を撮影することに。ここは陸奥湾をバックに列車を撮影できる有戸〜吹越のポイントです。まるで北海道のような雄大な風景に、ロングドライブの疲れも吹っ飛びます。

実はこの画面の右側の水平線に夕日が沈みかけているのですが、ここではあえて構図から外しています。実は夕日を入れると太陽に合わせた露出にせざるをえなくなるのですが、そうすると列車の下半分が地面と重なっているため、列車のシルエットが地面と一体化してしまい、列車の存在感が薄れてしまうんですね。陸奥湾に沈む夕日を入れないなんて、風景写真家だったら「もったいない!」と唸ってしまうシーンだと思いますが、僕にとっては、あくまでも列車が主役。列車の存在感を優先した構図を選びました。

そしてようやくむつ市のホテルに到着。自宅のある越谷から、陸羽東線、北上線、大湊線に寄り道して、走行距離876km。51歳のおっさんですが、意外にタフな精ちゃんなのでした。

ソニーα7R III FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(200mm) 絞り優先オート(F5.6、1/640秒) ISO 200 WB:太陽光 風景

朝目覚めるととてもいいお天気。心配だった菜の花もバッチリ咲いています。ここ大湊線の陸奥横浜駅周辺は菜の花の名所として有名で、あちらこちらが黄色いカーペットのように輝いています。はたして列車と絡めて撮れる場所はあるでしょうか。早起きして場所を探します。

そして見つけたのが道路からバッチリ撮れるこの場所。奥には陸奥湾も見えて、もう最高! 思わずソニーα7R IIIとライカSLの2台で欲張っちゃいました。

撮影していたら、「あなた鉄道撮る人だよね?」って、この畑のオーナーのおじさんが話しかけてくれました。聞けば、こんなにキレイなのに、これでももう花は終わりかけとのこと。1週間前に来ていれば「もっともっと黄色が鮮やかですごいぞっ!」って教えてくれました。これでも十分キレイで満足ですが、またひとつ満開の時期に来るという目標が増えました。

実はもうここの菜の花は刈り取る時期なのですが、「写真を撮る人が多いから残してんだ」という優しいお言葉。こういう優しさが、この風景をより美しくしているのだと感じました。ちなみに菜の花は連作ができないので、来年ここはじゃがいも畑になるそうです。

ライカSL (Typ 601) VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/24-90mm ASPH.(44mm) 絞り優先オート(F3.5、1/3,200秒) ISO 400 WB:太陽光(大湊線/陸奥横浜〜有畑)

そして列車がやってきました。黄色い菜の花と青空の間を、列車がのんびりと走り抜けていきます。あぁ僕はこの風景を見るために、はるばる走ってきたんだなぁ。鉄道っていいなぁ……、写真っていいなぁ……とあらためて実感できる、大満足の1枚になりました。

ライカSL (Typ 601) APO-VARIO-ELMARIT-SL F2.8-4/90-280mm(115mm) 絞り優先オート(F3.4、1/3,200秒) ISO 400 WB:太陽光(大湊線/陸奥横浜〜有畑)

こちらは望遠レンズで撮影したカット。手前にまんべんなく菜の花が入る位置を探して撮影しました。背景の陸奥湾のおだやかな表情も素敵です。写るはずのない菜の花のやさしい香りまで、写ったような気がしました。

目的の作品を撮れて大満足の僕。撮りたい作品を求めて、大移動しながらの撮影旅、いかがでしたでしょうか?次回のジョイ鉄!では、この旅の続きをご紹介しますので、お楽しみに!

中井精也からのお知らせ

中井精也と一緒に都電荒川線沿線を撮影する写真講座「ゆる鉄画廊 写真教室」を開催します。朝から夕方まで撮影と講評会で、ガッツリと写真を楽しめる教室になっています。初心者向けの講座ですので、鉄道の撮影がはじめての方でもお楽しみいただけます。8月9日以降の開催も予定しておりますので、決まり次第お知らせいたします。

日程

2019年7月26日(金)
2019年8月9日(金)

※午前10時開始〜午後6時ごろ終了予定
※講座内容はすべて同じです

参加費

1名様 …各回15,000円(税込)、都電一日乗車券付き

定員

20名 ※最小催行人数10名

撮影内容・スケジュール

10時:ゆる鉄画廊集合、 徒歩と都電で移動しながら撮影
12時:王子駅周辺で各自昼食、引き続き撮影
16時:三ノ輪橋へ戻り、商店街内「都電カフェ」にて講評会
18時ごろ解散

服装・持ち物

・カメラ一式 (コンパクトカメラ・スマホ可)
・歩きやすい服装。 徒歩移動をするので、履き慣れた靴でお越しください。
・基本的に三脚は使いません(持参可)

注意事項

・雨天決行、荒天中止とさせて頂きます。(中止の際はご返金致します)
・貸し切り電車ではありませんので、電車内での撮影はございません。
・スケジュールは状況に応じて前後する場合がございます。
・熱中症に備え、帽子と飲料をご用意ください。

お申込み・お問い合わせ

info@funtours.jp
※メール本文に、希望参加日をご記載ください。
※お申込み頂いた方へ、順次ご案内メールを返信致します。
※定員に達し次第、募集を終了致します。

中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。2018年5月、東京都荒川区に鉄道写真ギャラリー&ショップ「ゆる鉄画廊」をオープンした。甘党。https://ameblo.jp/seiya-nakai/

■TVレギュラー:「中井精也のてつたび」/NHK BSプレミアム、「ヒルナンデス!沿線フォトさんぽ」/日本テレビ、「ひるまえほっと てくてく散歩」/NHK総合、中井精也の「にっぽん鉄道写真の旅」/BS-TBS、カメラと旅する鉄道風景/CS各局