クルマとカメラ、車中泊
モーテルから見えるアメリカの車旅 ~映画『バグダッド・カフェ』4Kレストア版~
2024年12月7日 07:00
今回は映画の話題を。
1987年公開(日本公開は1989年)の「バグダッド・カフェ」が4Kデジタルレストアされました。試写会に行ってきたのでご報告。
- バグダッド・カフェ 4Kレストア
- 監督: パーシー・アドロン/脚本:パーシー&エレオノーレ・アドロン/出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト/ジャック・パランス/CCH・パウンダー、ほか/主題歌:「コーリング・ユー」ジェヴェッタ・スティール
- (1987年/⻄ドイツ/108分/英語、ドイツ語/カラー/1.66:1)
- © 1987 / Pelemele Film GmbH - Pro-ject Filmproduktion im Filmverlag der Autoren GmbH & Co. Produktions-Kommanditgesellschaft München - Bayrischer Rundfunk/BR - hr Hessischer Rundfunk
- 12月13日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
- 提供:是空/TCエンタテインメント
- 配給・宣伝:ALFAZBET
- HP:https://alfazbetmovie.com/bagdadcafe4k
アメリカの砂漠地帯にあるモーテル「バグダッド・カフェ」を舞台にアメリカの地方住民とドイツ人女性旅行者の交流を描いた作品。 主人公ヤスミンのアプローチをきっかけにモーテルの女主人ブレンダは心を開き友情が芽生えてゆく。モーテルに集う客たちからも人気を得たヤスミンを中心に、人種や国籍、さまざまな個人的事情を超えてコミュニティが生まれ、緩やかに連帯してゆくようなストーリーだ。
特に社会的メッセージを含んだストーリーではないのだけれど、80年代アメリカという大きな色合いから見れば異色であり、分断の時代と言われる今これを見ても古さを感じずに受け入れられるのではないだろうか。 でも、なんといっても印象的なのは、作中何度も流れるJevetta Steeleが歌う「I'm Calling You」の気だるい旋律とアメリカの地方の風景が印象的なんだよね。
この映画のポスターだけど、主人公ヤスミンがバグダッド・カフェの給水塔を掃除するシーン。冒頭の画像はとても記憶に残るシーンだし、この映画をとても象徴している良い絵だと今も思うのです。
さて、僕のこのページ、大枠では車関連な訳ですが、車で旅行したい道・場所を挙げてみるとまず間違いなく、アメリカ大陸横断なんてことが出てくるんじゃないだろうか。どこまでも真っ直ぐ荒野の中を突き進む道なんてイメージだよね。「バグダッド・カフェ」にも、そんな風景がたくさん出てくるので、広報資料の中からお借りしてきました。以下全て広報資料から。
「バグダッド・カフェ」全景。個人経営のモーテルという設定。地方にある小規模なモーテルでは食堂、ガソリンスタンド、モーテルを兼ねている。モーテルは車旅行者のための宿泊施設という立ち位置だから、当然だしありがたい。日本のように24時間営業のファミレスなんてないしね。
2000年代の記憶で恐縮なんだけど、こうした小規模のモーテルは中小規模の都市郊外では見かけず、よりアウトバックに近い村という規模の人口しかない地域では見かけました。都市郊外で多く見かけるのはチェーン展開しているモーテル6やらデイズインとかだったな。ともあれ、夜遅くても空きがあればベッドと食事にありつける便利な施設というわけです。
カフェの前に停まっているトラックはシボレーC/K。恐らく60年代のモデルだと思うのだけど、2000年代ではまだ見かけることができました。今は流石にないかねえ。なんともノスタルジックな味わいだよね。
「バグダッド・カフェ」の前に続く道。真っ直ぐどこまでも続く電線、電信柱。僕はこういう風景が好き。自分の作品では電線や電信柱を取り込んだ風景をよく撮っているんだな。アメリカ中西部ではこういう風景をよく見かけるんだけど、それは寂しさを感じる風景でありながら、電線の先には必ず人が住んでいるわけで、ちょっとした安心感を感じたりもするんです。そのバランスが好きなんですよ。この僕の気持ちの原点が「バグダッド・カフェ」にあるわけではないのだけれど、「バグダッド・カフェ」の中で見ることのできる風景に強く心惹かれてしまうんです。数は少なくなっても今も残っていることでしょう。
「バグダッド・カフェ」に集う大型トラック。アメリカの大型トラックはボンネットのあるタイプが主流だよね。この大きなトラックが荒野の一本道を疾走する姿はそれはそれはかっこいいのです。こうしたトラックを見かけるだけで、ああアメリカに来たんだなあって気がしますよ。
バグダッド・カフェの裏手にはインターステーツがあり、トラックが行き交う姿が何度も映し出されるんだけど、その様子は時間の経過を表しているんだろうね、穏やかに日常が過ぎてゆく感覚がやるせなく、けれど安堵を感じてしまう表現であったことも印象的です。
「バグダッド・カフェ」に集う画家が暮らすトレーラーハウス。エアストリームですね。日本でもトレーラーハウスやキャンピングカーが増えてきたけど、中でもエアストリームは憧れちゃうよね。でも、アメリカでは比較的所得の低い人々の家になっていることもよく知られているし、映画にもよく出てきます。地方に行くとトレーラーパークといって集落を形成しているところをよく見かけるね。さすがに近寄りがたく、そうした集落に立ち入ったことはないのだけれど、リアルにどんな暮らしぶりなのか気になるのです。映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」の中でその暮らしぶりを垣間見ることができるでしょう。
以上、映画「バグダッド・カフェ 4Kレストア」はハートフルで文化的にも色々考えさせられる映画ですが、その中で見られるアメリカの車や風景を抜き出してみました。いつかアメリカをドライブ旅行してみたいなんて気持ちが少しでもあったら、この映画の風景は深く心に刺さると思います。
試写会後のトークショーで聞いたところによると、1987年の公開後も世界中でディスク(当初はレーザーディスク現在はブルーレイ)がコンスタントに売れているそうなんですがその中でも日本は常にトップ3くらいの売り上げなんだそうです。日本人受けのいい映画ってことだね。キーパーソンを中心にハートフルなストーリーって寺内貫太郎一家や水漏れ甲介といった70年代日本のホームドラマに通じるし、意識してなくても西部劇をたくさん見て過ごしてきて荒野の風景に憧れを感じるしで、刺さりやすいんじゃないかしらんと思ってるんだけど。どう思います?
そして最後にちょっとハートフルな思い出話を。とあるチェーンのモーテルでの話。仕事の出張のおりコロラドの田舎のモーテルに泊まったんだけど、ダイナーが閉まっていて外に飯を食いに行けとのことで、歩いたら20分とのこと。まあ、夕飯にはお酒も飲みたいので徒歩ですな。真冬のことで路面は凍結。支配人は足元に気を付けて行けと、いうなり今度はちょっと待てと言い出したんです。しばらく待っていると、レストランまで送ってやるとのことで支配人が運転する車でステーキハウスまで送ってもらいました。そしたら今度は帰りは電話しろという。なんと帰りも迎えにきてくれました。外はー10℃くらいだったかなあ。嬉しかったなあ。