赤城耕一の「アカギカメラ」
第139回:標準ズームレンズの食わず嫌いを治した「シグマ24-105mm」という焦点域の思想
2026年4月20日 07:00
MF一眼レフ時代の標準ズームレンズの焦点域は1970年代の半ばくらいまではワイド端が35mmくらいでテレ端は70mmくらいのものが多かったですね。
ニコンが1975年に最初にズームニッコール28-45mm F4.5を発売した時はワイド端が28mmとなり、びっくりした記憶があるのですが、次第に他のカメラメーカーの標準ズームレンズもワイド端が28mmというのが当然となり、さらに24mmと広角方向へ広くなってゆきます。
ワイド端24mmから始まるズームレンズで筆者が最も愛用したのはキヤノンのEF24-105mm F4L IS USMでした。
あまりにも使用頻度が高いので、メンテのことを考え、同じものを2本購入したくらいですから、それはもう大活躍したものであります。このレンズはEOS 5Dのキットレンズでしたよね。
このレンズを使うまでは個人的に標準ズームレンズで、これはっ! と思うものは少なくて、便利なことがわかりつつも、どこか避けていた、食わず嫌いのようなところがありました。
これはね、画質の不安とかではないんですよね。もちろん筆者も昭和の年寄りですから、単焦点レンズ優位論みたいなことが、現在も頭の片隅にわずかに残っております。
けれど、それよりも自分のだらしない性格もあって、ズームを主に使うとどんどん怠惰になり、ただでさえダメな写真が、よりダメになるんじゃないかという恐怖や不安が常にあります。つまり、これを戒めようと考えているもうひとりのオレもいるのです。エラいぞオレ。
筆者はズームレンズを使用する場合にもファインダーを覗きながらズームリングを動かして画角を決めるということはほとんどなく、まずズームリングにある焦点距離指標を利用して、自分が使いたい焦点距離に設定してから、ファインダーを覗いて、フレーミングをすることが多くなります。このためフレーミングは自分の体を動かして決めるのです。
もっとも、24-105mmくらいの焦点域ではどの程度の画角かは想定できるので、この方法で問題はありませんし、感覚的には単焦点レンズの交換をしていることと似ています。
筆者が撮影時に求めるのは、画角の変化だけではなくて、それぞれの焦点距離によって異なる、被写界深度の違いやパースペクティブの変化ですから当然なのです。
これを踏まえて使えば、ズームレンズと単焦点レンズの優劣論議とかはあまり意味はないことになります。ただひとつ、バッグへの収納とか携行の便利さを考えればズームレンズが有利になるのはあたりまえですね。
標準ズームレンズでもズーム比が大きくなれば開放FナンバーはF4あたりが限界になるわけで、これでは大きなボケは得られませんから、表現の幅が狭まるんじゃないかと思うこともあります。で、結局は携行する標準ズームレンズと焦点距離が重複したとしても、開放Fナンバーの明るい単焦点レンズを1本バッグに入れてゆくのが定石となるわけですね。
たしかに当初はEF24-105mm F4L IS USMのほかにEF50mm F1.8も携行したりしていたんですが、忙しい仕事だとね、使わないんですよ、単焦点レンズ(笑)。
それにこの24-105mmは使い勝手と性能が良いので絶大な信頼を持っており、プライベートな制作で、EOS-1Vにモノクロフィルムを使うような時にも使用しており、マウントアダプターでEOS R系各カメラにも使用し、実用上は満足のゆく結果を残しています。
あ、すみません、いや、またしても前置きが長くなり。じつは今回はこのEFレンズの話ではなくてですね。2013年にキヤノン用が登場したシグマの24-105mm F4 DG OS HSM|Artの話をします。キヤノン以外にもこの焦点域のズームレンズは魅力あるものにみえました。というか、他のメーカーの24-105mmズームをみたくなったのであります。
筆者のもとにあるものはAマウント仕様で、手ブレ補正は非搭載。カメラボディに補正を任せるタイプですね。じつはα7CRを入手したのはいいけれど、これだけで力尽きてしまい、交換レンズの購入にまわす予算が不足してしまいました。
本連載でもすでにご報告しておりますが、うちにあるミノルタ時代のAマウントレンズをソニー純正のLA-EA5を用いてα7CRで使うということはかなり本気でやっていて、この時に軽く本レンズもご紹介しております。
ソニーの純正EマウントレンズにもFE 24-105mm F4 G OSSがあって、これも間違いなく優れたレンズで665gと仕様のわりにはすばらしく小型軽量ですが、筆者には少々お高いと感じました。
大きな声では言えませんが、本レンズはソニー純正の1/3くらいのアウトレット価格で入手いたしまして。もう、現状の筆者のお仕事の事情や経済的背景から考えれば、たいへんありがたいことでございまして、そのままお迎えしたわけです。
今回のご報告もまた前回同様にソニーの純正マウントアダプターのLA-EA5を使用し、α7CRに装着して使用しています。
この組み合わせでは両者のパフォーマンスを完全には生かしきることはできないでしょう。けれど結論からすれば、とても楽しく使うことができ、結果も満足したのでオーライとすることにしました。
ただですね、問題はあります。小ぶりなα7CRと本レンズの組み合わせは周りからみるとかなりのヘンタイ仕様にみえるらしく。そう、例のごとく本レンズは一眼レフ用でありますから、シグマとしても、販売を継続するのは辛いものがあり、アウトレットに回されたわけですが、そこを筆者がハイエナのように拾う、ではない、すくい上げたというわけであります。
実際に使用しての印象を述べてみましょう。レンズのみで885g(SAマウント用)となる質量、フィルター径は82mmですから、全体の印象は短い水筒みたいな感じで、たしかにカメラが小型だと、この組み合わせは絶望的にバランスが悪いですね。
カメラとレンズのデザインに美学を追求したい筆者としても、この大木にセミがとまるような姿、そして持ち上げるとううっとなる重さに驚くわけです。
おまえ、常々、重たい機材、カッコ悪い機材は性能が良くてもダメだと言ってるじゃないか? ですよね。
でもね、筆者の好きなマウントアダプターLA-EA5はメカニズムの知恵を感じさせること、これによって、独自の組み合わせの妙が生み出されたと考えると、趣味の上では感慨深く、これが楽しくなったりします。意外と筆者は隠れブス好きだったのかもしれません。
この組み合わせでは、LA-EA5の部分が細くなりますから、大きなくびれが生まれます。
これがね、けっこう個人的に好きなんですよね。いえ、くびれがセクシーとは言いませんよ。大丈夫ですヘンタイを自覚しておりますから何を言われても問題ありません。
今回も作例用のスナップ撮影のために当初は肩から下げて歩いていたのですが、バランスと取り回しが悪いので、主に鏡筒を鷲掴みしたまま持ち歩きました。
ところがいつものように本業の撮影仕事の合間にサクっと作例をスナップするみたいなわけにはいかず、そこそこ難儀しました。軽いダンベルを持ち上げる感覚ですね。ただ、筋トレにはなりそうですからガマンです。
本レンズ登場当時、いまはなき『アサヒカメラ』で筆者が本レンズのレビューを担当したのでした。
そのときにはEOS 5D Mark IIIに装着して使用したのですが、EFレンズに負けない描写に感動したことが強く記憶の隅に残っていました。
純正とモロかぶりのスペックの標準ズームレンズをあえて出してくるシグマの意気込みも感じましたし、本レンズは純正ではないので、ボディ内の収差補正は頼れない。けれど描写はすばらしく、その真面目で実直な姿勢が気に入りました。
現時点ではシグマのミラーレス用交換レンズのズームではまだ同じ焦点域のズームレンズがないこともあるのですが、繰り返しますけど、これは筆者的にはこだわりたい焦点域の仕様であります。
本レンズは名称にもありますけど「Artライン」に入ります。レンズ構成は14群19枚。うちFLDガラス、SLDガラス、両面非球面レンズを含むグラスモールド非球面レンズを使用しており、9枚の絞り羽根を採用し円形絞りとなります。相当に凝っています。
Art ラインのレンズということもあり、ビルドクオリティもよい感じです。
ズームリングは少々重めですが、携行時の自重落下も認められません。テレ端にした時の鏡筒の伸びた状態もズームとしては整っているほうで、筆者の美学でも許せる雰囲気でした。
またインナーフォーカス採用なので、撮影距離によって全長が変わることはありません。最短撮影距離はズーム全域で0.45mですから相当に頑張っています、これは一眼レフ用の標準ズームレンズとは思えないほどのスペックです。
AF駆動はHSM(超音波モーター)によるもの。アダプターを介しているせいもあるのか、AF速度は特筆すべきところはなく。またAFエリアが画面周辺に位置していると、動作が不安定になることも確認されました。もっともこのことを踏まえて中央寄りにAFエリアを置いたり、ゾーン設定にして広い範囲から攻めれば問題なく使えます。
こうした瑣末なことを欠点としてしまうのは筆者の本意ではありません。これも使いこなしのひとつと考えれば済むことであります。AFの動作は滑らかで筆者の実用上は問題ありませんでした。
使用にあたっては、ズームリングがレンズの前方、フォーカスリングが後方、しかもその幅は短いですから、他のズームレンズ感覚とは異なります。本レンズでMFの使用頻度は少ないから、フォーカスリングの幅を広くとらなくてもいいだろうという判断でしょうか。
でもね、救いなのは、ミラーレス用の多くの交換レンズで省略されてしまった距離指標窓があることです。一眼レフ用のレンズですから、筆者はこれだけで添い寝することができ、ついでに動作を見るだけで3杯は呑める、じゃない、本レンズを使う価値があるのではないかと考えているくらいであります。
ズームリングが前方にあることで設定焦点距離への意識がより強まる印象を感じますし、焦点距離を決めてから撮影に挑みたい筆者向けだと考えることにしました。でもね焦点距離数字はもう少し大きく表記していただかないと老人には優しくありませんし、プリントなのもいただけないですね。うちの個体は数字がすでに削れてきております。
実際の描写性能はどうでしょうか。開放Fナンバーが抑え気味ということもあるのか、絞り開放からコントラストが高く、シャープな描写です。線は少々太めですが、力強さがあります。筆者としてはフィルター径が82mmというところに描写性能に対する追求を感じるわけです。
とはいえ、こんなに大きなフィルター径でたくさんの光を取り込んでいるようにみえても、開放絞りではワイド端でもテレ端でも、少し周辺光量の低下がみられますね。
筆者は周辺光量の低下が大好きでありますから問題ありません。もっともカメラメーカー純正の同スペックレンズではカメラ内で各種収差を自動補正しているのかもしれません。
ワイド端では高周波成分の多い被写体では、画面のごく四隅の狭い範囲の描写がわずかにざわざわします。もともとの光学設計は一眼レフ用レンズですから、仕方ないのでしょう。言われなければ気づかない程度ですから問題にはしませんし、基本的には焦点域の違いで大きな描写の変化は感じられません。
最短撮影距離では、開放絞りではハイライトのエッジにわずかなにじみがありますが、画像をかなり拡大しての印象ですから、これも通常の使用ではわからないでしょう。もちろん少し絞ればにじみは消失します。
開放FナンバーがF4では、ボケ味うんぬんを言っても仕方ないかもしれませんが、それでもボケを意識して使う場合は、テレ方向に焦点域をセットすれば、おおむね満足することはできます。このあたりのさじ加減はズームでは自在になりますから工夫してみるといいでしょう。
本レンズ、ニコンFマウントにかぎり本稿執筆の時点では現行品であるようです。ニッコールはZマウントでNIKKOR Z 24-105mm f/4-7.1という製品が現在あります。
ただ、ニコンの標準ズームってFマウント時代から、焦点域24-120mmのものが有名であり、こちらのほうが強い製品思想を感じませんか? それでも本レンズはニコンFマウントにおいても独自の存在感を示せるという自信がシグマにあるのでしょう。
またパナソニックからもLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.(S-R24105)というレンズがありますが、こちらのほうが性能も優秀、思想が明確で、本レンズとの立ち位置の近さを感じます。これは気のせいかもしれませんが、ちょっと欲しいかもしれません。
いずれにしろ、24-105mmという焦点域のズームが、私の標準ズームへの食わず嫌いをなくしたと言っても過言ではないわけです。























