赤城耕一の「アカギカメラ」
第138回:小さくて明るくて超望遠、しかも高画質。800mm相当でも手持ちで撮れる超望遠ズーム
2026年4月5日 07:00
めずらしく舞台撮影のご依頼をいただきました。
これまで音楽ライブや芝居、歌舞伎、講演会、記者発表や表彰式に至るまで、多様な舞台での撮影経験はあるのですが、毎度悩ましいのが機材選択でありまして、撮影条件や状況にもよりますが、普段は使用しない超望遠レンズの使用はマストとなり、なるべく開放Fナンバーの明るいレンズを選択するのがベストになります。
こうした撮影では撮影ポジションがどうしても限られますし、必ずしもリハーサルやゲネプロではなくぶっつけ本番での撮影になることもありますから、お客さまのご迷惑とならないよう、技術的、精神的にもハードルは上がります。
お仕事依頼はどのようなものでも喜んでお受けせねばならない立場なのですが、なにせ怠惰な筆者ですし、昨今は予算の関係から単独で撮影に赴くことも多いので、三脚や一脚なども使用したくないというか、携行するのさえ苦痛を感じます。
重量級の機材を使用しなければならない撮影ですと重たい腰を上げるどころか、腰痛になったりする可能性があり、年寄りゆえに最悪ですと再起不能になったりする危険もありますから、機材選択は非常に慎重になります。
で、かなり悩みました。デジタルでは高感度領域の撮影はずいぶんとラクになり、カメラも超望遠レンズも軽量にはなりましたが、35mmフルサイズのシステムのカメラと超望遠レンズを選択すると、ミラーレス機でも相当に機材は大きくなり重量級になります。
なんとかならんのかということで、考えた上で今回選択したのは、OM SYSTEM OM-1とM.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PROの組み合わせであります。35mm判換算で100mm相当から400mm相当の画角になる超望遠ズームレンズです。
重量は約1,075g(三脚座なし)とは驚きで、さらにすばらしいのはズーム全域で開放FナンバーがF2.8固定ということ。しかも最大7段分のIS(手ブレ)補正効果にも期待できますから、うまく使えば、一脚や三脚から開放された超望遠ズームともいえそうです。
本レンズ発表時にOMが意識してアナウンスしたのは自然風景、野鳥、野生動物やネイチャーマクロの写真家のみなさまに向けてでありまして、プライベートでは下町の道の曲がり角にある、古い板塀を撮影して喜んでいる筆者の目には入らなかったわけです。
昨今のOMはどうもネイチャー系写真家に向けての訴求が多く、筆者のようなお気楽にみえる街角写真家は相手にされていないようなところがありますし、実際に筆者には超望遠領域のレンズを必然としているわけではありません。
イレギュラーとはいえ今回は仕事で思い切り本レンズを使う機会があり、それが非常に良好な結果を出しました。
ネイチャー以外の撮影でも超望遠は生かすことができるのでは、ということで、この連載でも本レンズを選択し、街でのスナップ撮影を試みたというわけであります。
これはネイチャー分野での撮影以外にどれだけ楽しんで使用できるかに挑戦でもあります。ええ、いつものとおり素直ではない筆者であります。
結論を先に書いてしまうと、本レンズは驚くべき高い光学性能と期待以上のISの効果を示しました。だから撮影は当初の想像よりも楽しいものになりました。
まず強調しておきたいのはその画質です。筆者の判断では、絞りの設定で画質に影響を及ぼすことはないだろうと断言できます。
とくにテレ端だと、被写界深度のコントロールできる幅は大きくはありませんが、その昔の超望遠レンズですと、性能の定評のあるレンズでも、おまじない程度には絞りを絞りたくなったものです。
ところが本レンズは開放からギンギンで、針で突いたようなきめの細かい描写をします。
うーむ。これはすげえぜ。伊達にPROの名を冠するレンズではないですね。しかも従来のPROレンズ基準の画質よりも確実に向上している印象であります。
13群21枚のレンズ構成のうち、特殊レンズを多用し、色収差をはじめとした諸収差を徹底的に抑えたとOMはアナウンスしております。
具体的にはEDAレンズ1枚、スーパーEDレンズ2枚などを使用とありますが、画面の均質性は見事です。新開発の「ZERO(Zuiko Extra low Reflection Optical)コーティング II」を適所に施すことで、逆光下のゴーストやフレアを抑制したということですが、たしかに明るいライトが画面内に入ってもゴーストの発生はありませんでした。
しかもですね。今回は×2のテレコンバーターMC-20を装着しても使用してみましたが、実用的に性能低下を感じられないほど高い描写性能を発揮しました。
ISの効果もすばらしいですね。ボディ内手ブレ補正と協調する5軸シンクロ手ブレ補正に対応。
400mm相当のテレ端においても、最大7.0段分の補正効果を実現とのことです。舞台撮影では、被写体のブレよりも、カメラブレ、つまり手ブレが御法度となることが多くなります。意図しないかぎりは撮影者の技術力不足だと思われかねません。
本レンズのようなF2.8級の大口径超望遠を使用する場合は、余裕があるシャッタースピードを得ることができても、念のためISO感度設定を可能なかぎりあげてしまえ!と考えることが普通です。
マイクロフォーサーズの各種カメラは、以前より高感度領域の画質もかなり向上はしましたが、フルサイズのカメラに比較すればまだ弱含みの部分もあります。したがって、ISO超感度領域の設定には少し遠慮がちになることがあるわけです。
でも本レンズを使用するにあたって、被写体の動きが少ないお芝居とか音楽会などの撮影では、被写体ブレの不安は少ないので必要以上にISO感度を上げる必要はないでしょう。低輝度下条件での撮影でも中庸感度のまま撮影することができますから、高画質に期待できます。
さらに驚いてしまうのは、本レンズは単体で0.5倍の撮影倍率を誇ることです。最短撮影距離はズーム全域で0.78mになります。×2のテレコンを使用した時には等倍撮影ができる理屈です。これはもう立派すぎるくらいのマクロレンズということになります。
こうした総合的なパフォーマンスをもたらすものとしてきわめて重要なのが、レンズ単体で1,075g(三脚座なし)という重量ですね。OM-1とのバランスも最高で、これが35mm換算で400mm相当の超望遠レンズを扱っているのだと考えると、感動的ですらあります。
M.ZUIKO DIGITALレンズとしては少ない白い鏡筒を採用していることも気分が上がりそうです。PROレンズを示す青いラインがまた気持ち的にも効いていますね。
でも、大きいレンズではないので、威厳はなく、カメラマンがたくさん集まりそうな野鳥スポットあたりでは機材自慢できそうにありませんが、撮影者側としては、特別なものを扱っている気持ちになることは間違いないでしょう。
仕事では×2のテレコンMC-20も使用して、35mm判換算800mm相当のレンズを手持ちで撮影するというむちゃな使用もしてみましたが……。その結果は画質も手ブレ補正も問題ないわけでありまして、なるほど、これこそがマイクロフォーサーズならではの特性を生かした超望遠写真撮影であると結論できたわけであります。お仕事の写真なのでこちらでお見せできないのが残念ですが。
本レンズの魅力は、撮影時のみならず、収納や携行時にも感じるわけです。
ふだん、街歩き用の小型のショルダーバッグを筆者は愛用しているのですが、本レンズはこのバッグに入りました。今回の仕事で、この小さいバッグから取り出した本レンズを見た同行のスタッフは「ドラえもんのポケットのようだ」と言ったほどでした。おお、なるほど。キミにもわかるかこの素晴らしさが!
筆者はふつうは超望遠レンズを使う機会は少ないわけですけど、その昔のMF一眼レフ時代の400mmクラスのレンズはろくに使いもしないのにいまだに数本を所有しています。往時はスポーツ撮影や舞台も撮るというフレキシブルな仕事撮影をしていたからですね。
いまはMFの超望遠レンズなど、手放すとしても、二束三文の価値になってしまい“売りそびれた” 感があるわけです。購入する時はとてもたいへんだったのに。
筆者の若い時分、気力と体力が有り余っていた時代は、これらの超望遠レンズを持ち出し、それを必然としないような仕事であっても、無理に使用して溜飲を下げていました。
高価なレンズですから、使用することで投資のモトが取れたような気になるものですから、6畳ほどの部屋の中にいる人物を、ドアを開けた廊下から300mmで狙って撮影したこともあるくらいです。
今はもうそれらのレンズをケースから取り出す時点で、すでに苦痛に感じるほどであります。あ、デブだから体力や気力があふれているわけではありませんから念のため。
でも本レンズならばさりげない顔をしてバッグから取り出し、被写体に威圧感を与えることなく、超ドアップ撮影も可能になります。ここから新しい世界が開かれるかもしれません。
今回は久しぶりに超望遠レンズにハマった感がする筆者であります。唯一の不満は、カメラ側にありました。とくに低輝度下や最至近距離近辺においてAFの速度や、顔認識、瞳認識がウソをつくことがあること。これにはちょっぴりがっかりします。
もっともあらかじめ撮影者がこのことをふまえて注意していれば、リカバリーは容易でしたし、今回の仕事でも何ら支障はありませんでしたが、撮影条件によってはいちおう神経を使う必要はあるでしょう。
いまや他メーカーのミラーレス機のAFや被写体認識の精度が大幅に向上したため、失敗するのが難しいほどの時代になっています。
条件によってはOM-1でAF性能が少し見劣りしたこともありましたが、同時携行したパナソニックのLUMIX G9PROIIに装着して使用しみたらバッチリだったということもありました。
個人的には画素数や画質向上などはもうこれで十分なので、超高性能レンズのポテンシャルを完全に引き出すためのAFとは何かを考え、改良を考えたカメラが登場してもいいのではないかと思うわけです。
それにしても舞台仕事が頻繁に、いや、今回に続いてもうひとつでもあったら間違いなく本レンズを購入していたと思いますね。たとえ赤字でも(笑)。
引き続き舞台撮影のお仕事依頼をお待ちしております。






















