赤城耕一の「アカギカメラ」
第108回:年末カメラ整理で発掘した「GR DIGITAL IV」のしびれる描写
2024年12月20日 07:00
おはようございます。引き続き、いまも年末カメラ絶賛整理中の筆者なのであります。
年も押し迫ってまいりました。読者の皆さまはいかがお過ごしでしょうか。カメラの整理をしなくても家庭内は平穏に保たれているのでしょうか。問題がなければそれはそれで羨ましいことですが、筆者の場合は……。いや、やめておきましょう。
今回、機材整理作業準備中に思いがけないところから出てきたカメラ。これがリコーGR DIGITAL IVでありました。良い機会ですから今回はこのお話をしようと思います。
あわてないでください。「IV」のネーミングがありますが、GR IIIの後継機とは違いますから念のため。ええ、なかなか出てこないGR IV(?)に対する嫌味ではありませんから念のため。2005年から始まりましたGR DIGITALシリーズの4世代目ということになります。
この個体は自宅のデスクの引き出しから発掘されました。隣にはハサミとかボールペンも並んでいました。気の毒なDIGITAL IVであります。ええ、これも筆者が悪いんですが、なぜここに収納していたのかはまったく思い出せません。ホントです。しばらく行方不明だったこともここだけの話です。
GR DIGITAL IVの発売は2011年です。1/1.7型1,000万画素のCCDイメージセンサーを搭載していました。ところが2年後の2013年に“DIGITAL” の冠がはずれたGRが登場します。このため、GR DIGITAL IVの出番は減りまして、ヘンなところに収納されるはめになったと推測されます。
ご存知のとおり、GRは“28mm”レンズ搭載というキーワードで登場以来、ずっとやってきましたが、実焦点距離28mmレンズを搭載しているのはフィルムのGRだけであります。
つまりデジタル化以降は、いずれのモデルもセンサーサイズに合わせ、35mm判換算での焦点距離がおおよそ28mm相当となる単焦点レンズを搭載しているということになります。
このGR DIGITAL IV搭載レンズの正式名称はGR LENS 6mm F1.9です。6mmといえば、35mm フルサイズの交換レンズならば魚眼レンズくらいしか思い浮かびませんし、いまではスマートフォンに搭載されたカメラレンズの焦点距離というイメージが強いかもしれません。
レンズの焦点距離からみた特性を簡単にいえば極端に被写界深度が深くなりますから、どのような条件下でもパンフォーカス写真になりやすくなります。つまりボケの効果を生かしづらくはなります。
現在のGRがAPS-Cサイズのイメージセンサーを搭載したのは、高画質を追求する、高感度特性を重視するという理由もあるわけですが、搭載レンズの実焦点距離がセンサーサイズに合わせて18.3mmと長くなるため、ボケの効果を得やすいからということもあるのでしょう。
つまり、スマートフォンで撮影した画像とは写る範囲は同じでも、ニュアンスが異なる画像を制作しやすい、差別化しやすいということもあるのだと思います。筆者としてはこれは画質比べよりも写真制作において重要ではないかと考えています。
さっそく発掘したGR DIGITAL IVに充電したバッテリーを入れ、電源をオンにしてみると、眠りから醒めたようにするするとレンズが繰り出され、何事もなかったように正常動作しました。うれしいですねえ。
残念ながら設定を記憶しておくための本体内蔵電池がお亡くなりになっているようなので、バッテリーを交換するたびに日付は合わせ直さねばなりません。ま、これだけが手間ですが、我慢しましょう。
手にした感じでは、デザインは旧来のGRとほぼ同じなのに、GR IIIのサイズ感に慣れてしまったからでしょうか、少々頼りなくも感じますが、逆に凝縮感を感じる部分もあります。ただ、小さいカメラなのでポケットの中で存在が希薄です。忘年会に持っていって酔っ払って紛失したりしないようにせねばなりません。
GR IIIと撮り比べ(その1)
絞りをGR IIIの開放F値であるF2.8に合わせて、同じ撮影位置から撮影してみました。同じ絞り値でもレンズの焦点距離が異なりますのでボケの大きさは異なります。GR DIGITAL IVは絞り開放F値近辺での撮影を常に意識すべきかもしれません。
色気こそあまりありませんが、小さいのでかわいいヤツです。そうだ、GR DIGITAL IVにはホワイトエディションが1万台限定でありましたねえ。いまも欲しいぞ。ちょっとだけ中古相場を調べたら、タケー!もう忘れました。
カメラの設定をはじめてみますが、メニューの文字の大きさは老眼には少し厳しいものがあります。こんなに小さかったかなあ。
それになんでしょうかねえ。老人には使いもしないメニューが多すぎて、未整理状態な感じがします。これをささっと設定し、さくっと使いこなす粋な人は世界にどれくらい存在するのでしょうか。使いこなせないジジイが悪い? はいそうですよね。
GR DIGITAL IVを開発したリコーのエンジニアはおそらく若い人ばかりだったのでしょう。愛用のGR IIIも機能満載ですが、ユーザーの声を聞きつつメニューの整理というか見やすさを考えたのだろうなあと。だから多機能でも面倒なイメージがありません。
GR DIGITAL IVで素晴らしいのはセンサーシフト方式の手ブレ補正機構を内蔵していることです。
GR DIGITALシリーズでの手ブレ補正内蔵は本機だけ、GRシリーズではGR IIIとGR IIIxだけになります。
これは希少な感じがします。効き具合の判断は個人によるものかと思いますけど、筆者は手ブレ補正の有無によって、カメラの価値はかなり変わると考えているので、この小さい筐体に手ブレ補正機構を内蔵したのは大したものだと思います。
さらに、あらためて驚くのは、強力なマクロ撮影機能を備えることです。これは実焦点距離の短さを最大限に生かすぜという考え方でしょう。
本機は俗にいう1cmマクロが可能であります。これはすばらしいのですが、注意しないと、レンズが被写体に衝突してしまうほどであります。
GR IIIと撮り比べ(その2)
両機ともに開放絞り設定。松ぼっくりを被写体に最短撮影距離まで寄ってみました。GR DIGITAL IVのマクロ能力には驚いてしまいます。中心は素晴らしくシャープですが、周囲は少し引っ張られるような描写をします。
ただしワーキングディスタンスがこれだけ短いと、撮影条件によってはライティングに苦労したり、撮影者やカメラの影が被写体にカブったりすることも多くなります。
寄れれば寄れるほど良いカメラだと考える筆者はこれだけでも意味があると考えていますし、楽しく使うことができます。仮にマクロ至近距離で周辺画像が乱れたとしても誰も気になんかしていないと思いますよ。
さっそくGR DIGITAL IVを外に持ち出して撮影をはじめました。何年ぶりでしょうかねえ。久しぶりだぜ。
まずはAF速度にストレスがないこと、軽快に撮影できることがうれしいです。パッシブとコントラストのハイブリッドAFがうまく機能している感じですが、侮れませんねえ。
いや、いまはほとんどのカメラのAFは高速化しているから、とりたてて高性能であるということはありませんが、13年前のカメラという印象はまったくないのはすばらしいことです。
ところが使い始めて数枚撮影し、モニターをみてみると、なんだか画像がユルい感じがするわけです。困るなー。さてはAFが壊れているのかしら、ダメじゃんハイブリッドAFは。やはり経年変化に弱いのかデジカメは。あるいは当時の画質ってこんなものなのかよ。仕方ねえなと思いました。
けれどPCに取り込んできちんと展開してみると、あれれ、ちゃんとフォーカスが合っているぜと……。画質も悪くないし。早い話がですね。3.0型、約123万ドットの液晶モニターの表示画像がユルく、フォーカスの合焦確認をするために拡大表示するとぼやぼやになるわけです。
屋外で撮影している時など、モニターもよく見えませんし、シャッターチャンスを重視するとフォーカス合焦の成否は賭けに近いものがありますから、撮影者は不安になりますね。
撮影後に逐一フォーカスを確認するなど、撮影者のほうが甘えているのかもしれませんが、この時代ではこの程度モニター性能があたりまえのことだったのでしょう。
そういえば、フォーカスの合焦とは関係なくユルい画像も確認されました。はい、手ブレしてしまった画像です、恥ずかしいです。
いくらなんでもここは手ブレ補正機構が機能するから、補正された画像が得られるだろうと考えていたのに手ブレしているコマが散見されるわけです。
はい、これはカメラが壊れているわけではないのです。また、筆者の飲みが足りなくて手が震えたからという理由でもありません。
理由はとても単純でした。手ブレ補正は単写設定のときのみ機能するようです。連写だとダメ。この仕様はちょっとだけ暴れたくなりましたぜ。これも今さら言っても仕方ないことですよね。
画像設定はビビッド、スタンダード、白黒などのお馴染みなものと、ハイコントラスト白黒、クロスプロセス、ポジフィルム調、ブリーチ バイパスなどの今のGR IIIにつながるエフェクトの画像設定もできます。
でも、筆者はすべてPCで画像処理したい人ですから、どんなカメラでも原則としてJPEG設定では撮影しないのです。
本機にはカメラ内RAW現像の機能は搭載されていません。筆者はJPEGだけでは覚悟が決まらない姑息なヤツなんです。すみません。だから今回はエフェクトをカマした作例がありません。すみません。2回謝りました。
ワークショプでは、カメラ内でRAW現像して現場で参加者のみなさまに作例をお見せすることもよくありますし、カメラのレビュー記事では、同じ画像に対して、カメラ内で異なるRAW現像を行い、その違いを比べてみるという作例を制作することもよくあります。
時代が進めばカメラは進化し、今現在の愛機GR IIIはカメラ内RAW現像が簡単にできますからねえ。ユーザーの声をきちんと聞いて発展してますよね。えらいぞリコー。
ただね、本機をRAW設定して撮影すると、シャッターを押して撮影してから、次の撮影ができるまで、待ち時間が長くかかります。残念ですね。これは次のシャッターが切れるまでの時間に、おまえのこれまでの生き方を反省しろということなのでしょう。
実際のGR DIGITAL IVの画質はどうでしょうか。昨今は小さなCCDセンサー搭載のカメラで撮影した画像は“エモい”とかいうんですよね。本機で撮影した画像はぜんぜんエモくないですね。むしろ普通すぎるくらいの高画質です。で、これも前回もお話をしましたが、CCDだから味わいがあるとか、フィルムライクだとかいうのは、単なる都市伝説ですからね、よろしくご理解のほどお願いしますよ。
エフェクトを反映させればエモいの画像も出来るのかもしれませんが、筆者はあまりそういうことに興味ないのです。
個人的にはGR DIGITAL IVのデフォルトの設定画像は華美に走ることなくオトナな画質で好みです。GRのコンセプトは上位機と同時に使用しても同程度の品質の作品を制作できるということもあります。もちろんGR IIIの画質と比較すると細部の描写はやや雑駁な印象ですし、シャープネスも劣るでしょう。でも実用には十分ですね。
画素数からみれば極端なトリミングをするのは特別な目的でもないかぎり、行わないほうが無難でしょうね。
小さいセンサーだとダイナミックレンジ云々という話も聞きますが、けっこうないじわるな条件で撮影をしても実用的には問題ない画像になりました。ええ、これも個人の感想です。
画質向上のための本機の使いこなしのひとつとして、撮影条件にかかわらずISO 100〜200の中庸感度あたりで設定して、絞りは常に開放F値近辺になるように撮影しろというのが本筋なのかもしれません。通常はPモードでよいのですが、画質を重視する場合はAモードで絞りを意識しながら撮影した方がいいかも。
ISO高感度設定で高輝度の条件で絞りが絞り込まれてしまうと、レンズの回折のためか、若干画質がユルくなるようです。これは高感度設定時のノイズよりも個人的には気になるように感じました。すでに開放F値近辺で搭載レンズの描写性能は飽和しているのかもしれません。
感度をあまり上げずに撮影してくださいという意味でも、手ブレ補正機構を搭載したかったのかもしれないですね。夜間でも中庸感度に設定して、キレイな写真を撮ってくださいね、ということなのかもしれません。それと本機には内蔵ストロボもありますから、暗かったらISO感度上げずに積極的に使いましょうということなのかも。
いや積極的に使おうと思ったら、このストロボのGNは少々小さいですね。しっかりしたアクセサリーシューがあるんだから、単独のストロボを使えということなのか。内蔵ストロボのGNを上げるにはISO感度を上げるしかないもんなあ。
後のGRシリーズはストロボは内蔵していませんから、GR DIGITALシリーズと比較して、高感度に強いAPS-Cセンサーであることを主張したかったのかもしれませんね。GR DIGITALシリーズで言われたコンプレックスをGRにおいて払拭しようと考えたのかもしれません。
繰り返しますけど、GR DIGITAL IVの撮影画像は被写体と距離が離れると、開放絞りでも被写界深度が深いので、すべての画像がパンフォーカスにみえます。これを特性と考えて利用するというのが、使いこなしというものでしょう。
GR DIGITAL IVで撮影した画像をみて、なんだ、スマホとあまり変わらないじゃないかと判断される人もいるかもしれませんが、筆者にとってはスタンドアローンのカメラを使って撮影する気持ちは代え難いものがあります。いろいろうるさいことも書きましたが、好きなものを好きなように撮影すればOKです。
残念ながら、GR DIGITAL IVのメンテナンスは終了していますが、動かなくなるまで戦力として活躍してもらうつもりでいます。本機ならではの仕事をすると考えているからです。
ああ結局、手元のカメラの総数は減らないのか……。
今年もお世話になりました。読者のみなさま。よいお年をお迎えくださいませ。また来年にお会いしましょう。