赤城耕一の「アカギカメラ」
第86回:35mmフルサイズとマイクロフォーサーズを使い分ける理由
2024年1月20日 07:00
発売と同時にパナソニックLUMIX G9 PROを使い始めましたが、OM SYSTEM OM-1を導入してから、最近は留守番になることが増えました。この理由は単純で両者の挙動が異なるので、同時に使用すると戸惑うことが増えたからです。どうも年寄りになると対応能力が鈍くなっていけませんね。
G9 PROには責任は一切ありませんし、スペックの優劣とか、使いやすさとかそういう問題ではまったくありません。筆者が気になったのは、シャッターのフィーリングの違いなんですね。これはあたりまえのことなのかもしれませんが、とくに両者を共用していたりすると、戸惑うことになるのです。
OM-1と異なりG9 PROはシャッターボタンに触れただけで先走ってすでに仕事をはじめてしまうという感覚がありまして。筆者はスポーツなどを撮る機会が減ったこともあり、AF-ONボタンなど滅多に使わなくなりまして、旧来のシャッターボタンの半押し感覚をとても重視しているわけであります。
個人の感覚としてはG9 PROは触れるだけで“暴発”している感がありました。これ、ある意味では、シャッターチャンス重視みたいな思想からくるものなのでしょうか。むかーしのコンタックスRTSとかオリンパスXAみたいですよね。誰も知らないですね。まあいいけど。
もちろんG9 PROだけで今後の人生を歩むならば、慣れれば済むことです。実際にはよい仕事をしてくれていたので、満足ではありましたよ。ただ、ご存じのとおり、カメラ浮気性な筆者ですから、カラダに合う合わないということが、カメラを持ち出す最後の決め手になることがあります。
だからG9 PROのシャッターフィーリングが、もうちょいとなんとかならんのかなあとぼんやり考えていたまま時が流れていったのでした。
そうしたら突然、後継機のLUMIX G9PROIIが昨年秋に登場しました。いやこれは正直嬉しかったですね。パナソニックは35mmフルサイズに傾注しているようにみえましたので、新たにマイクロフォーサーズ機を出す気は薄いのかしらと思っていたからであります。
よく35mmフルサイズとマイクロフォーサーズの画質の違いが論議されますが、筆者はそのことは大きな論点になるとは考えておりません。常に巨大なポスターを制作するとか、広告の“素材”として加工することを前提として写真を提供するとか、舞台写真が多いから超高感度設定で常時撮影するとかいう機会はないので、高画質を目的として35mmフルサイズカメラを選ぶという意識が薄いわけです。
だから、筆者は使用するレンズの焦点距離特性によって写真のニュアンスが異なることに着目しており、このためにフォーマットサイズの違いでカメラを使い分けることが多いのです。
35mmフルサイズの標準レンズは50mm前後の焦点距離になりますが、マイクロフォーサーズでは25mmになりますから、「標準レンズ」といっても、被写界深度や空間構成の違いによって、写真から得られる両者のニュアンスは変わります。
つまり被写体や撮影条件によって、両者を使い分けることで、より仕事上の効率が上がるのではないかと信じています。またフォーマットを変えることで、新鮮な気持ちになれることもたしかです。
LUMIXの場合はAPS-Cを挟まずにマイクロフォーサーズから35mmフルサイズに特進するわけですから両者の写真のニュアンスの違いが大きく、わかりやすいわけです。だから両者のシステムを欲しくなるという大問題もありますが。
マイクロフォーサーズ機でもGHシリーズは動画向けであり、G9 PROは静止画というか写真を撮るほうに軸足を置いている印象がありましたから、G9PROIIの登場というのは個人的にも喜ばしい印象でありました。
G9PROIIのセンサーは新開発の有効2,521万画素Live MOSです。画像処理エンジンは最新世代のヴィーナスエンジンを搭載しています。あとは、ココがすごい大事なんですがGシリーズでは初となります像面位相差AFを搭載しているのです。
ただ、筆者はすぐにG9PROIIをみて、デザインにちょっとがっかりすることになります。それはウチにすでにあるLUMIX S5IIXと同じスタイリングだったからです。
これでは新型カメラとして新鮮味を感じないと同時に、一般的に考えれば、同じ筐体デザインを採用しているということは大きなコストダウンにつながります。これはまあ百歩譲って、すごくよくわかります。
ただS5IIXは言うまでもなく35mmフルサイズセンサーを搭載していますが、G9PROIIはマイクロフォーサーズであります。
マイクロフォーサーズ機こそ、小型軽量を追求せねばならんというのに、このザマはなんだ! とか、ねちねちと追求したくなる、もうひとりのいじわるな自分がここにいるわけであります。性格悪いですね。
さて、どうしてやろうか。
でも、実際にG9PROIIを手にしてみると、まさにいつものヤツ、すなわち昨今は出撃回数が増えましたS5IIXのそれなのであります。
両者ともに同じデザインなんだからあたりまえじゃねえかよ、といえばそれで話は終わってしまいますが、なんか自分の中で自然な印象なんですよね。これは予想外でありました。
当初はG9 PROに採用されたボディ上面のLCDが存在しなくなり操作に戸惑うことになるのではと予想していたのですが、そんなことも皆無でありました。
EVFは約368万ドットの有機ELパネルですからかなり繊細な印象です。というかこれも当たり前ですが、S5IIXと同じ印象でみることができます。異なるのはアスペクト比くらいです。これ、光学ファインダーの一眼レフカメラ同士だったらこうはいきません。フォーマットが小さければ視野の大きさで勝つことは難しいので、こうして考えてみるとミラーレスの恩恵はとても大きいですね。
背面のジョイスティックはG9 PROから引き続き採用されています。S5IIXと同様に、8方向に素早くAFエリアを移動することができます。
でも、あれほど好きだったジョイスティック操作も、ファインダーから目を離して、ライブビューにして、タッチAFしちゃえばいいじゃん、くらいの知恵は筆者もついてきましたので以前ほどこだわりが薄くなりました。でも、ないよりはあるほうが当然いいわけです。
AFは像面位相差AFとコントラストAF+DFDテクノロジー(空間認識AF)が採用され、条件で使い分ける感じです。パナソニックが像面位相差を嫌ったのは、高画質の維持のためだと言われています。
これ簡単にいえば、AF測距用の素子のために像面に欠損があって、そこを穴埋めしてごまかしているような気持ちになるからでしょうか。これね、気持ちの問題だけじゃないかしらと思います。実用上画質への影響はわからないと思いますぜ。
AFエリアは像面位相差AFで779点、コントラストAFで315点ととても幅広いです。画面全体での自動選択のおまかせのAFって、LUMIXに限らず、筆者も最近になってやっと使ってやろうじゃないか、と思うようになりました。色々なメーカーのものを試していますが、実用になります。
以前は自動選択のAFなど、思想のないヤツが使うのだとバカにしていましたが、撮影者側の気持ちがわかるような位置にスパっと合焦すると、信頼というよりつい甘えたくたくなるわけです。もちろん万能、パーフェクトとはいいませんが、撮影者もラクしたいじゃないですか。他に考えなければならないこともたくさんありますし。
みんな大好きなAF追従の高速連写は電子シャッターで約60コマ/秒、メカシャッターでは約10コマ/秒が撮れるそうですが、大量の撮影のコマの中からでどうやって最良のコマを選ぶのでしょうか。謎です。筆者は高速連写とか1ミリも関心がないので数字だけ、とりあえずご報告申し上げますわ。
筆者は連写速度のいちばん低い設定で撮影しております。単写をしないのはフィルム時代のクセみたいなものですね。筆者は手持ち撮影を基本としているので、一度決めたフレーミングを変えることなく、とくに人物撮影では変化する表情を逃したくないからです。
最近はもはや不要といわれることも増えたメカシャッターを残してあることも、筆者としても嬉しいですね。ホンモノのメカシャッターの動作音を聞くことができるからです。
ハイレゾモード撮影もG9 PRO同様にできます。センサーをシフトさせながら8回連続で自動撮影した画像をカメラ内で自動合成するそうです。そうすると最大約1億画素相当の高解像写真が生成されると。手持ち撮影にも対応しています。
と、ほとんど人ごとみたいに語っていますが、長焦点レンズを持ち歩くのは重たくて面倒だから、ハイレゾ撮影して、1億画素にして、必要なところだけ切り出せばいいみたいな考え方もあるのかもしれません。ダメか。
もっともハイレゾは手持ち撮影が可能となっても、動体の撮影には使えないし、風景撮影でも風がソヨとふいて木々や葉や花が動いたら、それでもうハイレゾの意味がなくなりそうです。でも、役立つ人には役立つに違いありません。頑張ってください。
と、いうわけで、最初はS5II系と皮を同じにしたG9PROIIの位置を低くみておりましたが、S5IIがなければ、もしかするとG9PROIIの実現も厳しかったのかもしれないと考えるようになりました。こうなると納得もいくわけであります。
ただ、G9PROIIとS5II系のボディデザインがほぼ同じということは、マウント違いの交換レンズの取り違えというトラブルが発生はしないかしらと妄想しちゃうわけです。うちの仕事場には両者のレンズがコロコロしていますが、これらの相互互換性は当然考えられていないわけですから、もし間違えて携行してしまったら、まったく救いはありません。
G9PROII、まだ導入をしてもいないのに、つまらない心配をしている筆者なのであります。何かネガな部分を探さないと、この勢いで買ってしまいそうです。どなたか筆者を止めてください。