赤城耕一の「アカギカメラ」

第86回:35mmフルサイズとマイクロフォーサーズを使い分ける理由

発売と同時にパナソニックLUMIX G9 PROを使い始めましたが、OM SYSTEM OM-1を導入してから、最近は留守番になることが増えました。この理由は単純で両者の挙動が異なるので、同時に使用すると戸惑うことが増えたからです。どうも年寄りになると対応能力が鈍くなっていけませんね。

G9 PROには責任は一切ありませんし、スペックの優劣とか、使いやすさとかそういう問題ではまったくありません。筆者が気になったのは、シャッターのフィーリングの違いなんですね。これはあたりまえのことなのかもしれませんが、とくに両者を共用していたりすると、戸惑うことになるのです。

OM-1と異なりG9 PROはシャッターボタンに触れただけで先走ってすでに仕事をはじめてしまうという感覚がありまして。筆者はスポーツなどを撮る機会が減ったこともあり、AF-ONボタンなど滅多に使わなくなりまして、旧来のシャッターボタンの半押し感覚をとても重視しているわけであります。

個人の感覚としてはG9 PROは触れるだけで“暴発”している感がありました。これ、ある意味では、シャッターチャンス重視みたいな思想からくるものなのでしょうか。むかーしのコンタックスRTSとかオリンパスXAみたいですよね。誰も知らないですね。まあいいけど。

もちろんG9 PROだけで今後の人生を歩むならば、慣れれば済むことです。実際にはよい仕事をしてくれていたので、満足ではありましたよ。ただ、ご存じのとおり、カメラ浮気性な筆者ですから、カラダに合う合わないということが、カメラを持ち出す最後の決め手になることがあります。

だからG9 PROのシャッターフィーリングが、もうちょいとなんとかならんのかなあとぼんやり考えていたまま時が流れていったのでした。

そうしたら突然、後継機のLUMIX G9PROIIが昨年秋に登場しました。いやこれは正直嬉しかったですね。パナソニックは35mmフルサイズに傾注しているようにみえましたので、新たにマイクロフォーサーズ機を出す気は薄いのかしらと思っていたからであります。

よく35mmフルサイズとマイクロフォーサーズの画質の違いが論議されますが、筆者はそのことは大きな論点になるとは考えておりません。常に巨大なポスターを制作するとか、広告の“素材”として加工することを前提として写真を提供するとか、舞台写真が多いから超高感度設定で常時撮影するとかいう機会はないので、高画質を目的として35mmフルサイズカメラを選ぶという意識が薄いわけです。

だから、筆者は使用するレンズの焦点距離特性によって写真のニュアンスが異なることに着目しており、このためにフォーマットサイズの違いでカメラを使い分けることが多いのです。

35mmフルサイズの標準レンズは50mm前後の焦点距離になりますが、マイクロフォーサーズでは25mmになりますから、「標準レンズ」といっても、被写界深度や空間構成の違いによって、写真から得られる両者のニュアンスは変わります。

つまり被写体や撮影条件によって、両者を使い分けることで、より仕事上の効率が上がるのではないかと信じています。またフォーマットを変えることで、新鮮な気持ちになれることもたしかです。

LUMIXの場合はAPS-Cを挟まずにマイクロフォーサーズから35mmフルサイズに特進するわけですから両者の写真のニュアンスの違いが大きく、わかりやすいわけです。だから両者のシステムを欲しくなるという大問題もありますが。

マイクロフォーサーズ機でもGHシリーズは動画向けであり、G9 PROは静止画というか写真を撮るほうに軸足を置いている印象がありましたから、G9PROIIの登場というのは個人的にも喜ばしい印象でありました。

G9PROIIのセンサーは新開発の有効2,521万画素Live MOSです。画像処理エンジンは最新世代のヴィーナスエンジンを搭載しています。あとは、ココがすごい大事なんですがGシリーズでは初となります像面位相差AFを搭載しているのです。

ただ、筆者はすぐにG9PROIIをみて、デザインにちょっとがっかりすることになります。それはウチにすでにあるLUMIX S5IIXと同じスタイリングだったからです。

これでは新型カメラとして新鮮味を感じないと同時に、一般的に考えれば、同じ筐体デザインを採用しているということは大きなコストダウンにつながります。これはまあ百歩譲って、すごくよくわかります。

G9PROIIとS5IIXを比較してみます。外装は同じ大きさ、同じパーツを多用していますが、センサーとマウントの径の大きさには当然差がありますね。前面のボタンの位置関係も違います
S5IIのマウント周りに化粧板を貼ってマイクロフォーサーズ機であることを、ごまかしたかのような印象はまったく感じさせないことはとても良いと思います。

ただS5IIXは言うまでもなく35mmフルサイズセンサーを搭載していますが、G9PROIIはマイクロフォーサーズであります。

マイクロフォーサーズ機こそ、小型軽量を追求せねばならんというのに、このザマはなんだ! とか、ねちねちと追求したくなる、もうひとりのいじわるな自分がここにいるわけであります。性格悪いですね。

さて、どうしてやろうか。

でも、実際にG9PROIIを手にしてみると、まさにいつものヤツ、すなわち昨今は出撃回数が増えましたS5IIXのそれなのであります。

両者ともに同じデザインなんだからあたりまえじゃねえかよ、といえばそれで話は終わってしまいますが、なんか自分の中で自然な印象なんですよね。これは予想外でありました。

当初はG9 PROに採用されたボディ上面のLCDが存在しなくなり操作に戸惑うことになるのではと予想していたのですが、そんなことも皆無でありました。

今回は多くのカットをカメラにお任せのAFを使っているのですが、こりゃダメだぜ、というシーンがほとんどありません。この撮影も同じ模様の被写体があると悩むのかなと思い、そのままフォーカスしたら絶妙な画面手前1/3の、常識に乗ったところに合焦し驚きました
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(50mm・F11・1/500秒・-0.7EV)/ISO 400
その昔、建機の広告の仕事をしていたので街中でこうした建機を見るとつい撮影しちゃいます。青空に黄色が映えるわけです
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(12mm・F8・1/2,000秒・-1EV)/ISO 400
順光ベタという筆者の好きな光でありますが、G9PROIIは、後ろ姿の二人を見つけてそちらにフォーカシングしようとしたので、タッチAFで左の壁にフォーカシングしました
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(18mm・F8・1/2,000秒・±0EV)/ISO 400

EVFは約368万ドットの有機ELパネルですからかなり繊細な印象です。というかこれも当たり前ですが、S5IIXと同じ印象でみることができます。異なるのはアスペクト比くらいです。これ、光学ファインダーの一眼レフカメラ同士だったらこうはいきません。フォーマットが小さければ視野の大きさで勝つことは難しいので、こうして考えてみるとミラーレスの恩恵はとても大きいですね。

ファインダーアイピースが思いきり大きくて好きですね、マイクロフォーサーズだから謙虚に小さく、なんてことは必要なしです

背面のジョイスティックはG9 PROから引き続き採用されています。S5IIXと同様に、8方向に素早くAFエリアを移動することができます。

でも、あれほど好きだったジョイスティック操作も、ファインダーから目を離して、ライブビューにして、タッチAFしちゃえばいいじゃん、くらいの知恵は筆者もついてきましたので以前ほどこだわりが薄くなりました。でも、ないよりはあるほうが当然いいわけです。

背面のグリグリですが、そう頻繁には使わなくなりました。AFの精度が高いので、「おいおい、それじゃねえだろう?」とカメラに向かって叫ぶことも少なくなりました

AFは像面位相差AFとコントラストAF+DFDテクノロジー(空間認識AF)が採用され、条件で使い分ける感じです。パナソニックが像面位相差を嫌ったのは、高画質の維持のためだと言われています。

これ簡単にいえば、AF測距用の素子のために像面に欠損があって、そこを穴埋めしてごまかしているような気持ちになるからでしょうか。これね、気持ちの問題だけじゃないかしらと思います。実用上画質への影響はわからないと思いますぜ。

AFエリアは像面位相差AFで779点、コントラストAFで315点ととても幅広いです。画面全体での自動選択のおまかせのAFって、LUMIXに限らず、筆者も最近になってやっと使ってやろうじゃないか、と思うようになりました。色々なメーカーのものを試していますが、実用になります。

以前は自動選択のAFなど、思想のないヤツが使うのだとバカにしていましたが、撮影者側の気持ちがわかるような位置にスパっと合焦すると、信頼というよりつい甘えたくたくなるわけです。もちろん万能、パーフェクトとはいいませんが、撮影者もラクしたいじゃないですか。他に考えなければならないこともたくさんありますし。

暖冬のためか、街を歩いていると、生き残りの薔薇を結構見かけます。飽きられてしまったのでしょうか北側に鉢が放置されていたのですが、その姿が健気だったの撮影してみました
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(60mm・F8・1/80秒・±0EV)/ISO 400
路地裏の、誘拐されたかのような猿ぐつわをされたタヌキの置物。12-60mmのズームって絶妙な焦点距離ですよね。他のレンズも携行したのですが、一度も交換しませんでした
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(40mm・F11・1/80秒・-0.7EV)/ISO 400
物干し台も見なくなりましたねえ。AFの自動選択に任せたら、奥にフォーカスせず、手前の手すりに張り付いたようにフォーカシングしました。すごいです
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(17mm・F8・1/1,600秒・-0.7EV)/ISO 400

みんな大好きなAF追従の高速連写は電子シャッターで約60コマ/秒、メカシャッターでは約10コマ/秒が撮れるそうですが、大量の撮影のコマの中からでどうやって最良のコマを選ぶのでしょうか。謎です。筆者は高速連写とか1ミリも関心がないので数字だけ、とりあえずご報告申し上げますわ。

筆者は連写速度のいちばん低い設定で撮影しております。単写をしないのはフィルム時代のクセみたいなものですね。筆者は手持ち撮影を基本としているので、一度決めたフレーミングを変えることなく、とくに人物撮影では変化する表情を逃したくないからです。

最近はもはや不要といわれることも増えたメカシャッターを残してあることも、筆者としても嬉しいですね。ホンモノのメカシャッターの動作音を聞くことができるからです。

まっすぐなものはまっすぐに写らないとイヤという律儀な性格のレンズですね。いや、ボディ側も協力しているのかもしれませんが、真面目なヤツです
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(25mm・F8・1/2,500秒・-1EV)/ISO 400
さて、こういう時、G9PROIIのフォーカスはどこに行くのかなと思ったらちゃんと左手前の鉄骨に合焦するわけです
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(12mm・F8・1/2,000秒・-1EV)/ISO 400
山茶花は咲いている時は綺麗なんですが、花びらが落ちるとだらしない感じになるので微妙ですね。日陰の条件ですが、合焦も問題なく見事な高画質に驚いています
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(25mm・F5.6・1/80秒・-0.7EV)/ISO 400
モノトーンぽい景色でしたのでモノクロに変換しましたが、ここでも優等生ぶりを発揮しますね。シャドーの調子も素晴らしい。黎明期のフォーサーズ機なんか困ったもんなあ
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(12mm・F8・1/1,600秒・-1EV)/ISO 400

ハイレゾモード撮影もG9 PRO同様にできます。センサーをシフトさせながら8回連続で自動撮影した画像をカメラ内で自動合成するそうです。そうすると最大約1億画素相当の高解像写真が生成されると。手持ち撮影にも対応しています。

と、ほとんど人ごとみたいに語っていますが、長焦点レンズを持ち歩くのは重たくて面倒だから、ハイレゾ撮影して、1億画素にして、必要なところだけ切り出せばいいみたいな考え方もあるのかもしれません。ダメか。

もっともハイレゾは手持ち撮影が可能となっても、動体の撮影には使えないし、風景撮影でも風がソヨとふいて木々や葉や花が動いたら、それでもうハイレゾの意味がなくなりそうです。でも、役立つ人には役立つに違いありません。頑張ってください。

と、いうわけで、最初はS5II系と皮を同じにしたG9PROIIの位置を低くみておりましたが、S5IIがなければ、もしかするとG9PROIIの実現も厳しかったのかもしれないと考えるようになりました。こうなると納得もいくわけであります。

ボディ上部。仮にS5II系カメラと、G9PROIIを共用するようなことになったら少し煩雑かもしれませんね。取り違えそうです
うちのS5IIXくんと共用できるバッテリーですが、かなりの枚数を撮影することができます。予備のバッテリーに交換することもありませんでした

ただ、G9PROIIとS5II系のボディデザインがほぼ同じということは、マウント違いの交換レンズの取り違えというトラブルが発生はしないかしらと妄想しちゃうわけです。うちの仕事場には両者のレンズがコロコロしていますが、これらの相互互換性は当然考えられていないわけですから、もし間違えて携行してしまったら、まったく救いはありません。

G9PROII、まだ導入をしてもいないのに、つまらない心配をしている筆者なのであります。何かネガな部分を探さないと、この勢いで買ってしまいそうです。どなたか筆者を止めてください。

螺旋のスロープのある駅。面白いので撮影しましたが、おや、人がいますねとカメラが反応して合焦しにいくわけです。もっともワイド端ではそんな必要もないんですけど
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./プログラムAE(16mm・F6.3・1/4,000秒・-0.7EV)/ISO 400
手前に白い建物があって、顔をのシャドー部をうまく起こしてくれています。自然のレフということです。おかげさまで品格の高い写真になりました。そうでもないか
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./絞り優先AE(18mm・F5.6・1/1,000秒・+0.7EV)/ISO 400
耐震鉄骨が剥き出しのビル。筆者の好きな錆、ボルトが良い感じに中のイラストの色と呼応しております。これは意図的に塗装をしないんでしょうね。今度きちんと撮影しておこう
LUMIX G9PROII/LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S./絞り優先AE(60mm・F8・1/800秒・-0.7EV)/ISO 400
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(EPA)会長。著書に「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。