赤城耕一の「アカギカメラ」
第82回:ライカRレンズはライカLマウント機でこそ本領発揮するか?
LUMIX S5IIX+SHOTENアダプターで検証
2023年11月20日 09:00
「Lマウント」というと、おじいさんは訳知り顔で、ライカのL39規格のねじマウントのことだろ。と答えてしまいます。
ところが、いまではLマウントとはライカとパナソニックとシグマが2018年に締結したアライアンスに基づいたミラーレスカメラ用のマウント規格のことを指します。
もともとLマウントは当初は2014年に発売されたライカT用に“ライカTマウント”として登場したものです。規格は直径51.6mm、フランジバック20.0mmと定められました。
旧来のL39のねじマウントのカメラとレンズは、以前から欧米では「ライカスクリューマウント」と称してM型ライカのそれと区別していました。日本ではこれらをバルナックライカとか、マウントをLと独自に呼んでいました。
このために、筆者だけかもしれませんが混乱が生じてしまい、最近ではL39のねじマウントを採用したカメラとレンズシステムはライカスクリューマウントと意識的に呼ぶようにして、現在のLマウントのそれと区別するようにしています。
ところで、新マウントを採用したミラーレスカメラを展開するときは、どこのメーカーも、ユーザーの不利益にならないように、マウントアダプターを用意し、自社の旧レンズが使用できるように対応するのがふつうです。これは当面の救済策であり、必ずしもオールドレンズのポテンシャルを引き出すため配慮されているわけではありません。
設計の古いレンズ、とくにフィルムカメラ用のレンズの場合は、ミラーレス機に使うと収差が増大したり、周辺に色被りが生じたり、色収差によるフリンジが出ることがあります。フィルム時代は高い評価を受けていたのにデジタルでは低い評価になるという事例を筆者自身も少なからずみてきています。その悪しき描写をレンズ独自の味わいとして考えることもできますが、レンズ本来の性能を引き出せていないようにも思うわけです。
この画質悪化の原因のひとつとして、カメラ側のセンサー前のカバーガラスの存在があります。カバーガラスとひとくちに呼んでいますが、センサー保護のほかに、ローパスフィルターやUV/IRカットなどの効果が、センサーの前面には仕込まれています。
デジタル専用設計レンズは、このカバーガラスのファクターを考慮して設計されていますが、フィルム時代のレンズに当然それはありません。カメラメーカー各社ともにカバーガラスの厚みは異なるため、レンズメーカーは異なるマウントのレンズを設計する場合、どのカバーガラス厚に向けて設計するかを判断する必要があります。Lマウントでは、カバーガラスは極薄に設計されているのでは? と考えられます。
これはライカTにこのマウントの規格が採用された時、旧来のライカMやRレンズを装着しても性能を保てる配慮が行われたからだと想像できます。どちらもフィルム時代のレンズ資産があり、対称型の広角レンズなど、射出瞳が後ろにあり画面周辺にいくほど光線が斜めに入射する、デジタルセンサーが苦手とする特性のものがあるからです。そのためデジタルのライカMシリーズとライカSLシリーズにおいては、それらのレンズでもなるべく本来の画質が得られるようにカバーガラスを極限まで薄くしていることが発表されています。
ちなみにライカからは純正のM-LマウントアダプターやR-Lマウントアダプターが用意されています。高いけど。大きな声では推奨はしないけれども、よかったらお使いくださいみたいなイメージでしょうか。すでに失われたライカRシステムの交換レンズの救済が目的ということもあるでしょうし、ライカMマウントの大口径レンズや長焦点レンズでは、ミラーレスのSLシリーズを使用したほうがフォーカスの精度が期待できるからでしょうか。
このことを考えますと、アライアンスの3社であるライカとパナソニックとシグマのLマウント採用機では、カバーガラスの厚みは統一されているのではないかと想像されます。他ならぬライカ自身がライセンスするマウントですから、これらの3社のカメラのどれを使用したとしても、旧来のフィルム時代のライカレンズの性能はそれなりに発揮されるのではないかと推測できるわけです。
そこで今回はLUMIX S5IIXにフィルム一眼レフ用のライカRレンズ各種を使用してみることにしました。現役時代は初期のライカフレックス、その後のライカRシリーズも積極的にアサインメントに使うくらい入れ込んで、お世話になっていました。もちろんいまもライカフレックスSLやRシリーズは現役使用していますが、これらはフィルム一眼レフですから、制作の過程はデジタルとは異なります。
また以前本連載でも紹介した、ライカR8/R9用に開発されたデジタルモジュールRも使用しているのですが、さすがに画素数1,000万のセンサーであること、画像処理エンジンを古く感じること、センサーサイズがAPS-Hであることなど、ライカRレンズのパフォーマンスをすべては生かせていないのではと考えていました。
LUMIX S5IIXは、そのルックスをロゴまで塗りつぶした黒づくめのステルスカメラであります。ライカSL2-SもLEICAロゴを黒く塗るなど、同様のデザインコンセプトを先に採用しました。ブランドに強く依存しないストイックな姿勢をみせているようにもみえて筆者としてはかなり気に入っています。出自や謂れは異なりますが、“ノーネームコンタックス”みたいでいいんじゃないかと。つまり、これならば、どのようなライカRレンズを装着してもデザイン的な違和感を感じることなく使うことができるのではないかと考えました。
仕様的にもライカお墨付きのLマウント採用ですから、マウントアダプター経由でライカRレンズを使用しても、そのパフォーマンスをフルに生かせる期待があります。
ライカRレンズをLマウントに装着するライカ純正の「L用Rレンズアダプター」のお値段は息が止まるくらいでしたので、今回はサードパーティ製の「SHOTEN LR-LSL-A」を用意して使いましたが、価格的には純正の1/20程度で入手可能でした。レンズ取り付け側に少々遊びがあるのですが、実用的には問題はないようです。カメラとレンズを組み合わせた時のルックスも大きな違和感がないのはご覧のとおりです。
先に結論を申し上げてしまうと、その結果は予想以上のものがありました。
LUMIX S5IIXにおいては、過去、筆者自身がデジタルモジュールRや他のマウントのカメラにマウントアダプターで装着したライカRレンズの描写とは、少々違う印象に感じました。薄いベールが剥がれたようなクリアなイメージなのです。
もちろんライカSLとLUMIX S5IIXではマウントは同じで互換性があったとしても、画像処理エンジンを共同開発していても、最終的な絵作りにはそれぞれの思想が反映されますから「LUMIX S5IIXじゃ、ライカレンズの良さはわからねえぜ」というライカユーザーの方もいらっしゃるに違いありません。
ケチをつけた人に「“ライカ”らしい描写とは何だか説明してください」と意地悪にツッコミを入れてもいいのかもしれません。が、つまらない論争になりそうなのでやめておきますが、筆者のスキルではライカSL系とLUMIX S5IIXの画質の見分けはつかないかもしれません。そのうち機会があればご報告したいと思います。
それにしても今回、思いがけずライカRレンズを楽しく使えたのは、LUMIX S5IIXのアダプター装着時の優れたUIによるところも大きいのです。
ジョイスティックをプッシュすることで瞬時に画面一部を拡大しフォーカシングできることや、装着レンズの焦点距離を入力することで正しく機能するボディ内手ブレ補正。レンズ名称も手動によって登録可能になっています。
こうした少し王道から外れたレンズのお遊びもしっかりとフォローしてくるところに、パナソニックのカメラに対する考え方や、趣味としても楽しむアイテムでありたいという設計思想を強く感じることができたからです。
ライカRレンズ10本を実写(モデル:ひぃな)
現在では20mmより焦点距離の短いレンズも珍しくありませんが、本レンズの現役時代は19mmといえば、かなり特殊な部類に入りました。
前玉が大きく迫力のあるこのスタイリングに惚れました。重量は500gあります。フードはものすごくデカくて、子供の顔くらいの大きさがあり、装着するとカメラが見えなくなります。カメラを見せびらしたい方はフード装着は不向きです。なお、枠の厚いプロテクトフィルターを装着すると四隅がケラれます。ぎりぎりの鏡筒設計みたいですね。
作例のためにこのモニュメントに思いきり近づいて最短撮影距離の0.3mで撮影したら、レンズ径が大きいためでしょうか、モニュメントの上側にレンズがカチっとわずかに当たってしまったことは内緒です。画面センターはすごく良い描写をしますが、四隅は捨てた感じです。お断りしておきますが実用にならないという意味ではありません。合焦点のキレ込みは悪くありませんしボケ味もまずまず。本レンズはエルンスト・ライツ・カナダ製ですが、誰もELCANとは呼びません。
19mmよりは小型軽量ですが、同名のMマウントレンズに比べると大きいですね。重量は410g。作りこみはかなりすばらしいですね。
名前からおわかりのとおり、シュナイダー・クロイツハナッハ製です。過去に出版された一部のライカ指南書をみると、往時のライツは超広角レンズを設計する技術がなくて、製品化するにあたりツァイスやシュナイダーの力を借りたみたいなことが書いてあるんですが、ウラは取れてませんからつまらないことを詮索するのはヤメましょう。本当はライツでも設計できたけど、これまでの義理もあるから、シュナイダーにお願いしたのかもしれないし。
ただMマウントのそれと異なり、本レンズの構成はレトロフォーカスタイプ。構成は8群10枚です。歪曲収差補正は弱めとされるけど、大丈夫、ほとんど真っ直ぐに写りました。筆者基準なのですが(笑)。
1980年のカメラ毎日「カメラ・レンズ白書」(毎日新聞社)における本レンズの評価は、“周辺ガタ落ちの旧式レンズ”とさらっと書いてあります。失礼ですね、実写を見るかぎりそんなことはないと思います。ただ、フォーカスリングの回転角が大きく、至近距離から無限遠まで動かすのに時間がかかります。
作例は近所の里芋畑の周り。マリーゴールドが咲いていたので撮影してみました。最短撮影距離0.2mですが合焦点のシャープネスも問題ありません。F値が暗いのでボケは少々重たいですがそこがまた面白い。
フードが組み込まれた新しいタイプのRレンズです。とはいえ登場から20年は経過しておりますからクラシックな設計ですよね。なぜこのレンズを購入したかまったく記憶がありません。困るなあ。
組み込まれたフードは少しでも触るとすぐに引っ込む奥ゆかしい性格の設計で、これではフードとしてなんの役にも立ちませんが、せっかくのライカのレンズなのですから怒らないことにします。
フォーカスリングにはゴムが巻かれていますが、これがデザイン的にもいまひとつですね。いずれの条件でも素晴らしくよく写りますが、同じくらいよく写る同スペックの28mmレンズは宇宙で星の数ほどあります。正直、だからどうしたという感じもしますけど、純正ライカレンズという安心感は強いものがあります。開放からコントラストが高く、描写は意外に印象に残ります。至近距離でも性能は維持されますね。画質の平坦性も良好。R交換レンズとしては軽量な方です。
球面レンズだけの構成で、しかもレトロフォーカスタイプですが、予想以上に良い性能です。ただし鏡筒が太く、660gとかなり重たいので持ち出す時は覚悟が必要になります。レンズ構成は9群10枚でフィルム時代としてはかなり凝ったレンズですね。最短撮影距離を0.5mにとどめているのは、至近距離においての球面収差の増大を嫌ったのでしょうか。
Mマウントの同種の球面タイプのレンズよりも間違いなくこちらのレンズの方が描写が上ですが、このスペックの35mmレンズですと、開放絞りではハロが残り、ポヤポヤでないとライカユーザーは許せないんじゃないですかねえ、知らんけど。
ボケが暴れまくるみたいなこともありませんし、歪曲収差もよく補正された優等生レンズであります。これまでまったく注目されたことがないレンズですが、もっと評価されていいものだと思います。スチールリムの35mm F1.4で喜んでいる人に、このレンズで撮影した画像を見てもらいたいものであります。ライカレンズへの妄想癖がなくなるかもしれません。開放からコントラスト高く優秀ですが、このあたりが逆に評価されない理由になってしまうとしたら皮肉なものですね。
このレンズはかなりヤバいです。MマウントのズミクロンM 50mm F2こそが至上だと思っている人にこそ一度は体験していただきたいなあと思います。
レンズ構成は4群6枚のオーソドックスなものです。開放からコントラスト優秀で線が細く、しっとりとした描写になるのがとても不思議であります。少し絞り込んだだけでさらに繊細になるのがいいですね。
撮影者の気持ちが素直に再現されるような名玉だと思います。本レンズは1964年に登場しています。つまりライカフレックス初代から用意されたオーソドックスなものですが、フィルムでの描写の感動がそのままデジタルで得られます。
作例は背景が明るく、レフも使っていないのにうまく光を拾い、自然に繋げています。ルックスもよく作りこみも素晴らしく、小さいのに凝縮感あるのも魅力です。
本レンズには見る人を惑わすための特殊な粉が硝材に練り込まれ、それが光子に乗り撮影者の網膜に到達しているのではないかと思わせるほど感動が大きいですね。褒めすぎかな(笑)。
筆者所有の個体は何故かコントラストが低めのようです。肉眼で見た限りではクモリなどないように見えますが、撮影してみると、特に逆光ではわずかに薄く霧がかかったような描写になりました。鏡筒内部で光が気ままに遊んでいるんじゃないでしょうか。マクロレンズなのにこれでは困るのですが、昆虫とかは撮らないので、別にそのままでもいいのですが。
ただ、このままでは面白くないので、本レンズの作例はスタジオにて大型ストロボを使い、絞り込んで撮影してみました。絞り込みに応えるように素晴らしい線の細い滑らかな繋がりのある描写をしました。
こうなると前言撤回で、さすがのマクロレンズであると見直すことになりました。この個体、本来の力を引き出すために、OH依頼をしてみようかなと現在考え中です。
75mmはMマウントに、90mmもMとRマウントにあるので、中間を狙う80mmとして用意されたものでしょうか。この程度の違いではさほど意味はないのかもしれませんけど画角に個性を感じます。レンズ構成は5群7枚で重量は625g。最短撮影距離は0.8mです。
開放ではわずかに線が滲む感じがしますが品格がありますね。コントラストは良好で、大口径の中望遠レンズとしては十分に優秀なものです。少し絞ると全体が落ち着いてくる印象です。絞りのコントロールが効くレンズって、現代の製品においては希少なものに感じますので、使いこなしの妙があるのがいいですね。
フードは組み込み式なので、逆光時にはあまり役立たないのが大きな問題ですが、レンズ全体のルックスは良い感じなのが救いになっています。フォーカスリングのフィーリングもとても心地よく、フォーカスを追い込むのが楽しくなります。全体はズミルックスR 35mm F1.4にも似ています。この作例はLED照明で撮影していますが、残存収差による軟らかさがよい感じで効果を上げています。ボケ味もとても美しいですね。
長いことズミクロンR 90mm F2を使用してきて不満はなく満足はしておりました。ただ、うちにある個体は初期のもので、寸胴で重たいことが、ちょっとだけ引っかかっておりました。常時携行するには辛いからです。
本レンズは比較的最近になって入手したものです。その小型なルックスに負けました。レンズ構成は4群4枚。重量は475g。性能を軽んじて見ていたのですが、実際に使用してみると素晴らしくよく写り、良い方に裏切られ驚きました。合焦点は線が細く鮮鋭です。
鏡筒は細め。逆光時には若干、鏡筒内の内面反射による影響が多めのようで、余計な光が入らないように工夫する必要があると思います。
ライカRレンズとしては携行、収納性よいことも高く評価したいところです。製品の価値としては、少々弱めの存在なのかもしれませんが、ライカRレンズの中では廉価に購入することができますので、ライカレンズの入門としても多くの人におすすめすることができます。
現役当時は入手しづらいレンズとして有名でした。6群8枚構成。アポクロマートタイプのマクロということで、生産本数が少なかったのでしょうか。高価だったこともあり大切に扱われているのか、いまも中古市場で見かけることが少ないですね。最短撮影距離は0.26mです。
マクロレンズですからシャープでなければならぬというのは当然ですが、なるほど巷の評価どおり、実に素晴らしい描写をします。ボケ味とのバランスが良いことも高く評価したいところで、さすがですね。
硬いというイメージもなく、作例のように合焦点はとても繊細で驚かされます。フォーカスの合わせやすさも性能の裏づけになっているようです。ボケ味も自然で万能の中望遠レンズとして使用することができるでしょう。
デザインも綺麗ですが、フード組み込みというところが少々弱いですかねえ。中望遠マクロ好きには自信を持っておすすめすることができるレンズであります。
個人的には本当はこのタイプより一つ前の太い鏡筒のものも魅力的でしたが、こちらの小型軽量とデザインのスマートさに負けてしまいました。ルックスはきれいですね。最短撮影距離は1.8m。重量は825gです。
フィルム時代は満足した性能でしたが、デジタルでは逆光だと少々線が太いというか、わずかに線が滲む感じがします。作例ではハレには気をつけたつもりでしたが同様の結果になりました。もちろん実用上は十分であります。ボケもとても美しく、イヤなフリンジもこの条件では出ていません。
以前、写真家の岩合光昭さんを密着取材した時、本レンズの後継であるアポタイプのものを岩合さんが使用しておられ、これが素晴らしく性能が高いことを知りました。いつかは欲しいのですが最近はほとんど見かけることが少なくなりました。入手することを人生の目標とします。