赤城耕一の「アカギカメラ」
第46回:気づけば干支が一回り。フォーサーズ最後のフラッグシップ「OLYMPUS E-5」を見直す
2022年5月20日 09:00
このところ、オリ……じゃないOM SYSTEM OM-1の話を書く機会が多くて、本誌でも近いうちに悪口、じゃない独自のレビューをして褒めてやろうではないかと画策していたところであります。なんせ、カメラグランプリ2022では全票をOM-1に投じておりますゆえ。
で、OM-1に装着できるズイコーデジタルレンズって、フォーサーズマウントもあるんだぜということで、純正のマウントアダプターMMF-3をつけ、OM-1につけて撮影していたりしているのですが、フォーサーズレンズを探していた時のことでした。レンズを収納していたバッグの底に巨大な黒い塊を発見したのであります。
おやおやー、これはということで引っ張り出してみると、ボディには「OLYMPUS E-5」と書いてあります。ふぎょぎょ。そう発掘してしまったのです。
お目にかかるのはたぶん5年ぶり、いやもっと前でしょうか。フィルムカメラとは異なり、デジカメは後継機が出るとすぐにさよならしてしまうのですが、E-5はなぜか残っていました。
この記憶を探ると、売りそびれたというか、下取り査定に出したら、失神しそうなほど廉価な額を提示されたので、それならば持っている方がいいやということで持ち帰ったのでありました。ま、あらためて言うまでもなくデジカメの場合は売り時、タイミングが重要ということであります。
で、おお、E-5くんお久しぶりということで、バッテリーを充電して、スイッチを入れてみると、きちんと動作するじゃないですか。おー!ということで軽く使用してみることにしたわけです。
本機を使用していたのは発売と同時なはずで、2010年からということになります。おそらく2013年まではそれなりに使用頻度高かったんじゃないかなあ。でも、すでに誕生から干支がひと回りしていますね。デジタルカメラでは十分にクラシックに分類されるということになりますか。
ご存知のとおりオリンパスは2013年、マイクロフォーサーズのミラーレス機OM-D E-M1発売と同時期に新規の一眼レフの開発を中止しました。これによりE-5は事実上、一眼レフの最後のフラッグシップになりました。たしかE-M1の発表時に開発途中だった、E-6(?)のモックを見せていただいたこともあったのですが、これは見た感じもうーむ……。という印象だったことを覚えています。
もうすっかりE-5のスペックなんぞ忘れているんで改めて調べてみますと、センサーは、4/3型・有効1,230万画素のハイスピードLiveMos。特徴として、改良した光学フィルターと画像処理エンジン「TruePic V+」による「ファインディテール処理」で解像感を向上したとあります。
もうね「ファインディテール処理」ということだけでも懐かしいわけです。筆者なんか、新しいオリンパスのマイクロフォーサーズ機が出るたびに開発のみなさんに「ファインディテール処理はどうなったんですか?」と聞いているのですが、最近はそれを表に強く謳わないだけで、OM-1でもちゃんとやっています。「当たり前じゃねえかよ、いい加減に覚えろよ」という呆れ顔を、毎度開発陣のみなさんにされています。なんせ年寄りは粘着ですし、物覚えが悪いものですから逐一確かめないと気が済まないわけです。たぶんOM-2が出ても同じことを聞くことになると思うので、どうぞよろしくお願いします。
このファインディテール処理は単純にいえば、ローパスフィルターの効果を弱めて画像処理エンジン「TruePic V+」によって偽色やモアレの低減処理を行なうことで、従来よりも高い解像力を実現したというものですね。従来型ローパスフィルターの撮像素子に換算して、1,400から1,800万画素相当の解像力が得られるとのことでした。また記憶によれば、回折による画質低下もファインディテール処理で軽減するみたいな話を聞いていましたから、私は画素数向上による解像感よりもこちらに期待したりしました。
一部のアナウンスによれば、オリンパスの誇るSHG(スーパーハイグレード)のズイコーデジタルレンズのポテンシャルを完全に生かすのは、当時このE-5だけらしいですぜ。
で、発掘したE-5ですが、レンズを装着して手にすると重たくてデカいですね、やはり。趣味のフィルムカメラなら、漬物石くらいの大きさ重さでも逆に文句を言いながら楽しく使うことができますが、アサインメントに使うデジタルカメラは基本的にデカくて重いのは許せないんです。
今さらいうのもなんですが、E-5はマイクロフォーサーズのセンサーサイズに対して、カメラボディやレンズの大きさが巨大なんで釣り合わないわけですよ。だから、フォーサーズ規格はミラーレス機に移行したんじゃねかよ、というのはそのとおりなんですが、それを言うと今回のこのネタも終了なので、とりあえず続けますね。
で、E-5のファインダーを覗きます。当たり前ですが、光学ファインダーですね。思わず、おっ、と声が出ましたよ。久しぶりだし、なんだか新鮮で。そう、しかもそれなりに視野が結構デカいんですよ。視野率は100%、ファインダー倍率は1.15倍、アイポイントも20mmあります。
これね、裏を返せば、35mmフルサイズ一眼レフとかAPS-C一眼レフのファインダーへのコンプレックスを少しでも払拭するためなんじゃないかと思うわけです。センサーサイズが小さいんだから、光学ファインダーも小さくて当たり前じゃん、という宿命をなんとか打ち崩そうとしたわけですね。昨今ではリコーのPENTAX K-3 Mark IIIもファインダー倍率を頑張りました。ここはスペックではあまり重要視されない地味な要素ですが、大切ですね。
所有のE-5はファインダースクリーンが方眼マットに交換してありました。これね、筆者は人生こそ曲がったままですが、写真の画面が曲がるのは嫌いなんで、方眼マットに交換したと思われます。自分ではできないのでサービスステーションに頼むわけです。こういうことも記憶から完全に欠落しております。
AFポイントは11点の全点クロスですね。方眼線と合わせてなんだかスクリーン上は賑やかです。スクリーンは、ネオルミマイクロマットタイプというやつで、フォーカスの切れ込みがいいとされていますが、じゃあ前機種のE-3と比べてどうなのさと言われるとよくわからないですね。老眼ですから。
シャッター速度は最高速1/8,000秒です。シンクロ速度は1/250秒以下。コマ速は5コマ/秒です。背面のLCDは、3型約92万ドットのフリーアングル式で、ライブビュー撮影はフツーにできますね、遅いけどね。
でも、往時でも筆者はライブビューに否定的だったわけです。一眼レフなのに、ファインダーから目を離してどーするんだよ、というジジイの頑固さによるところもありますね。せっかくデカいファインダー視野を見ることができるのだから、アイピースから目を離すんじゃねえよと思うわけです。
ライブビュー時のAFはコントラストAFなんで、一度、合焦の最良点を通り過ぎてから戻ってきて合わせる、みたいなサーチ動作が画面上に見えることがあります。これ、結構疲れます。潔くズバッといかんかいと言う感じですが、仕方ないですね。
E-5をネタに選んだ責任上、外に持ち出して撮影することにしましたが、すぐに後悔しました。ものすげー重いです。ボディ単体で800g。当然バッテリーを入れて、標準ズームをつけると1kg超えじゃないですか。首から下げると首がもげそうですよ。
12年前は多少はデカい重いと思いながらも耐えたのだと思いますが、還暦を超えた今では、1kg以上のカメラというのは人殺し(by木村伊兵衛)の重量です。しかも筆者はデブですが、あまり手は大きくない方ですので、E-5を手に掴んで歩くと指が疲れます。グリップ感も今ひとつなんですよね。今のOM-1よりも浅い感じがします。
縦グリも用意されていたみたいですが、発売当時でもいっさい筆者の視野には入りませんでしたねこれは。わざと重くしてどうする!という感じになるからですね。Mっ気のある人だけじゃないですか?こういうの装着するのは。
毎度使っているカメラバッグに標準ズームレンズをつけたまま収納しようとしたら入りません。仕方ないので中仕切りの位置を変えて収納しました。
撮影時の使用感は悪くないです。携行するときだけ、アシスタントが欲しいですけど。AFの速度もまずまずじゃないのかなあ。ただ、SWMじゃないレンズですと駆動音がデカめです。長いこと使用しているものもあり、油が切れているんでしょうか。
悲しいのはシャッター音ですね。“カタッ、カタッ” と軽い音で、なんだかボディの大きさとそぐわないんですよ。お願いしますよ、せっかく我慢して持ち出したんだから。安っぽい音では気持ちが萎えるじゃないですか。
音はべつの時にもしますね。メインスイッチを切ると、ゴトゴトと音を立てながらボディから手のひらにわずかに振動が伝わります。センサーを振動させて付着したゴミを落としているようですね。「サボらずに一生懸命掃除しているんですよ」と自己主張している、いや、これはE-5くんのパフォーマンスのひとつかもしれません。昨今のOM-1とかOM-DとかPENもしっかりゴミを落としていると思いますが音は出ません。静かなものです。
フラッグシップ機のくせに、ストロボも内蔵してます。OM-1には入ってないぞ。こういう無駄なことして、ただでさえペンタプリズムがどんどんデカくなります。顔というかアタマがデカい昔の人みたいですね。マーケティングからの意見は無視できないというやつでしょうか。E-5はセンサーシフト方式でシャッター速度5段分の手ブレ補正機構を内蔵しているのですから、基本的にはアベイラブルライトで撮影したいところですね。
ズイコーデジタルレンズの多くもデカいです。一部のズームレンズにはプラスチックを採用していますが、重さを嫌ったんでしょうか。個人的には興ざめな質感ですが、軽量化と現実的な価格設定のためには仕方ないということなのでしょうね。
レンズの性能は大きさに比例するという話もあるのですが、これもオリンパスの矜持というか、35mmフルサイズの画質と比較されても遜色ないようにという設計思想でがんばったのだと思います。でもね、おかしいなあ。フィルム時代のOMズイコーレンズは他のメーカーの同じスペックのレンズと比べて小さくても光学性能は高かったですぜ。
別に誰も、センサーのサイズの異なる画像を比べて細かく優劣を指摘するなんて、本気ではやらないでしょう。目的に応じて使い分けるだけです。こういうところにも35mmフルサイズへのコンプレックスを感じるわけですが、数字を追い込むエンジニアのお仕事ですから当たり前のことなのでしょう。ま、こうした話も昔話になりつつありますね。
今回は一度に多くのレンズを携行するのがイヤなので、少しずつ撮影してみましたが、次第に大きさと重量にも慣れてきました。
一眼レフの位相差AFは、場合によってはミラーレスのコントラストAFや像面位相差AFより精度的に怪しいんじゃないかと思うこともあるのですが、これはおおむね35mmフルサイズフォーマットの一眼レフにおいて感じています。
E-5はフォーサーズ規格のため、各交換レンズの実焦点距離が短く、被写界深度が深くなりますので、位相差AFによる合焦誤差のリスクは小さくなる理屈です。特に標準レンズクラスの実焦点距離は20-25mmくらいですから、大口径レンズを位相差AFで使用しても合焦精度が高く感じます。それでも心配な場合はライブビューに切り替えて、コントラストAFによる測距をすればいいわけですから、問題はないのではないでしょうか。反面、大きなボケを得づらいということはあるのですが、これは創意工夫すべきでしょう。
そして画質を見てみると、なかなか良いのです。今の筆者の本業にも使えますね。ただ、すでにISO 800あたりで、空とか暗部をみるとノイズが確認できます。手ブレ補正もあるからあまり感度を上げないでね、よろしくお願いしますよということでしょうか。そこへいくと最新のOM-1はもう信じられないくらい高感度性能が高いわけです。
色再現はi-Finish設定だと、たとえば最新のOM-1と比較してもかなり“盛った”印象です。記憶色重視ということですか。昔「オリンパスブルー」と言われていたことを思い出しました。
仔細に見ますと線は細いものの、エッジが少々シャープに出てくる印象ですが、これはファインディテール処理のためでしょうか、少し硬すぎる感じもするのですが、これはレンズにもよるのでしょうし設定を変えればいいわけですね。画素数的には筆者には十分すぎるくらいです。階調はやはり最新のOM-1と比較すると、再現が詰まり気味な感じはします。比較しても意味ないけど。でも推奨感度近辺で撮影するのであれば、実用上はなんら問題は感じませんでした。
なんだかE-5の悪口の羅列みたいにとられてしまうかもしれませんが、カメラ的な作り込みとしては良いところもありますね。OM-1よりもいいんじゃないかと思う箇所もあるくらいです。もうE-5を第一線で使用することはありませんから趣味の漬物石のひとつとして楽しむことにしました。存在感ありますから、仲間内の飲み会に連れていけば懐かしさもあってウケがとれるかもしれません。
それにですね、やはり年寄りには“一眼レフ”の郷愁が感じられて、たまにはE-5を使うのも良いなあと思いましたね。「おかえりE-5」という感じであります。
一眼レフは当たり前ですが光学ファインダーの見え方が重要、命といえるものですから、これを満足させるにはトレードオフとして大きさ、重さに我慢せえ、ということなのでしょうね。筋トレしながらクリエイティブな創作活動をしているのだと考えれば、E-5を使うときにも少しは溜飲が下がるんじゃないでしょうか。