赤城耕一の「アカギカメラ」
第40回:大阪から連れ帰ったPENTAX Q-S1
2022年2月20日 09:00
日頃の行いが悪いためか、リコーイメージングスクエア大阪で1月27日から開催しておりました写真展「録々」は会期半ばの1月31日をもって中止になってしまいました。憎いのはズミクロンじゃないオミクロン株であって、誰のせいでもありません。そのうちまた機会もあるでしょうから、アテにすることなくお待ちください。
ところで、写真展の多くは作者が在廊していることが多いですよね。ご来場のお客様に作品解説したり、おもてなしをするというのが主な目的かと思うのですが、これもなかなかタイヘンなんですぜ。
私も写真展会期前半にリコーイメージングスクエア大阪に在廊しておりました。幸いに多くのお客さまにご来場いただきご挨拶できたのですが、時おり、お客さまがふと途切れることがあるのです。
そうなるとやることなくて暇ですから、場所が場所だけに、展示されているペンタックスのカメラをいじくったり、新しいペンタックスの交換レンズを試したり、リコーGR IIIxのコンバージョンレンズで遊んだりしておりましたが、ふと筆者の目に留まったカメラがありました。
ペットショップでかわいい犬や猫と思わず目が合ってしまい、家にお越しいただくことになってしまったという事例は、よくあることらしいですが、読者のみなさまもよくご存知のように、中古カメラ店でも同じ現象がみられることがあります。
そんなことなら、その種の危険な店には近づかねば良いわけで、昨今では筆者もなるべくその種の店には寄らないよう心がけ、ココロの平和と家庭の平和を維持するようにしております。ええ、この時期の銀座の松屋は日本国内では最もデンジャラスな地域に認定されていますので、良い子は近づかないようにしてください。
それにしてもですね、まさか新品のカメラが展示されているカメラメーカーのギャラリーでコレに出会ってしまうとは。たしかこのカメラはもうディスコンになっているのでは? あまりにも不意打ちでありました。
よく見るとそのカメラが展示されているウィンドウには「アウトレット」の文字がございました。アウトレットといっても、売れそうもないデザインのストラップとかGRの手拭いとかじゃないんですよ。正真正銘のカメラなのです。しかもかなり小さいものです。
はい、毎度のごとくムダに話を引っぱってまいりましたが、疲れますよね。もういいでしょう。この出逢ったカメラがPENTAX Q-S1でございました。内蔵ストロボの発光部が意味なくポップアップされ、ウィンドウの中に収まっていたのですが、まるで「お願いです。私を一緒に連れていってください」と手を挙げているように見えました。
情に厚い筆者ですから、これはどストライクなシチュエーションです。しかも最近は加齢によって涙もろくなっています。そんなことはどうでもいいのですが。
結論として筆者はQ-S1さんを東京に連れ帰ることにいたしました。目が合ったんだから仕方ないじゃないですか。というよりもアウトレットで提示されていたお値段がかなりお買い得だったからです。困りますね、こういうことをされてしまうと。無視したくてもできないじゃないですか。
現役の時にはまったく目に入らなかったペンタックスQシリーズですが、その理由はレビューの依頼が多くなかったので、使う機会が少なったからじゃないかなあと思っていました。しかし調べてみるとそうではなくて、筆者は初代PENTAX Qを休刊になった『日本カメラ』でレビューしていたようです。いま読むと褒めてますね、わりと(笑)。ジジイに向けたカメラじゃない感じがして、その後の興味は持続しなかったようです。
この時に撮影した画像をみると、かなりの高画質です。キレーなモデルさんが写っているので、ここでみなさんにお見せできないのが残念ですが。実際にQシリーズは若い女性をターゲットにしたかったのでしょうか。でもしつこいようですが、若い女性に向けたカメラだからって、ジジイが使ってはいけないという法律はないわけで。
しかし筆者自身も、小さいカメラが好きとはいえ、コンデジ並みのちっこいセンサー搭載のレンズ交換式カメラを本気で使うなんて個人的にはありえないぜと考えおりましたので、そのレビュー記事以降は気にもしておりませんでした。
食わず嫌いとはこのことでした。うちにお越しになったPENTAX Q-S1さん、ここ二週間ほど常に筆者と共にあるのですが、かなり良い仕事をすることがわかりましたので今回あらためてご報告したくなったわけです。
少しおさらいをしておきますと、ペンタックスQシリーズはいずれもレンズ交換式の、今ふうにいえば小型のミラーレス機ということになるでしょうか。
初号機Q(2011年)とQ10(2012年)が1/2.3型のCMOSセンサー搭載で、Q7(2013年)と、このQ-S1(2014年)が1/1.7型のCMOSセンサーを搭載。いずれも有効1,240万画素であります。
Q7からはセンサーが大きくなったことに加えて、新しい画像処理エンジン「Q ENGINE」の採用でレスポンスがえらく向上したと、当時の記事にありますねえ。ちなみにスペック的にはQ7とQ-S1はほぼ同じようです。これも知りませんでした。筆者はプライベートでは解像力とか画質の鮮鋭さのみを追求するタイプではないので、問題なくニュートラルな普通の写りをすれば、それで基本的には満足してしまうほうです。
レビューで触る機会が少なかったことが関心を寄せなかった理由のひとつでもありますが、もうひとつ思い当たる理由は画質の問題ではなく、センサーサイズに合わせて用意された交換レンズの焦点距離があまりにも短かったこともあるかもしれないですね。
この焦点距離域ではレンズを交換して撮影しても、写真のほとんどがパンフォーカス状態になり、スマホのカメラと大きく差別化はできないのではないかと考えていたように思います。「ボケコントロール(BC)モード」はカメラに内蔵されているんだけど、こうしたカメラ内のデジタル処理でボケを作るって、反則技みたいな感じしませんか? もう今どきは自由に考えればいいのかもしれないですけど、なんか気が進みませんね。
筆者が購入したレンズは3本です。単焦点の8.5mm F1.9レンズは「01 STANDARD PRIME」と呼ばれる標準レンズで、35mm換算39mm相当の画角になります。それと「02 STANDARD ZOOM」ですね。これは実焦点距離5-15mm F2.8-4.5で、35mm換算23-69mm相当になります。さらにもう1本が「06 TELEPHOTO ZOOM」という実焦点距離15-45mm F2.8のレンズで35mm判換算69-207mm相当になります。おおっ「01 STANDARD PRIME」は、流行の40mm相当の画角に近いではないですか!
このレンズ番号の01とか02って、背番号みたいな考え方のようですが、35mmフルサイズとかAPS-Cのカメラを使っている人には馴染みづらいんじゃないですかねえ、今さらですけどね。先に述べたように、機種によってセンサーサイズが異なり交換レンズごとの画角も変わってしまうため、35mm判の換算画角を強調しても仕方ないという話だったようです。筆者はまた別の意見で、実焦点距離を意識してレンズを使い分けたほうがいいのではないかと考えてしまうのです。
PENTAX Qシリーズは事実上ディスコン扱いのようですし、これから“一眼レフ”に特化して攻めたいリコーイメージングとしては、いまさらこの話題を掘り起こされるのはイヤかもしれません。しかし実際に使い始めたQ-S1は、歴史的にも“なかったこと”にはできない個性的なモデルであることがよくわかりました。
まずは、小型軽量なので、どこにでも持ち運べますね。小さいバッグとか、ジャケットの内ポケットにも入ります。カタチ的にはコロコロしていますから、ポケットの中でも存在感を示します。でも紛失に注意ですね。
そしてレンズ交換が可能ですが、まず「02 STANDARD ZOOM」を装着しておけば困ることはありませんが、男気をみせるなら「01 STANDARD PRIME」1本でゆくという手もあります。画角は35mm判換算で40mmくらいですが、実焦点距離が短いからGR IIIxよりも被写界深度は断然深いんだぜ。
撮影はなかなか軽快に行うことができました。カメラを持って歩いていることを忘れてしまうほどなのです。それでいて、カメラの作り込みや仕上げは悪くないので、楽しいですね。写真仲間にも飲み屋でパフォーマンス可能です。購入した3本のレンズなんか、ちっこいけどちゃんと金属マウントなんですよ。どこぞのメーカーに見せてやりたいぜ。これを決断した人と握手したいですね。
繰り返しになりますが被写界深度が深めなカメラシステムなので、露出はプログラムAE、AFは自動選択にして、合焦位置とか精度とかをあまり気にせず、撮影後の画像確認もせずにどんどん撮ってみます。ここぞという写真を制作をしたいときは背景がうるさくならないように、多少は被写体の周りや後ろの様子くらいは配慮しますが、これは難しい顔をしてキメた写真を制作するカメラではありませんね。少しずつアングルを変えて、ぽんぽん撮影するのがいいみたいです。
動作はもうちょい機敏な感じが欲しいところではありますが、これも撮影者の体で合わせてゆこうという気にさせます。カメラの容姿がかわいいからでしょうね。すごく得をしています。それに登場から8年を経過していますから、細かいところを突っ込むのはやめましょうね。
面白いのは、レンズシャッター搭載のレンズでは、内蔵ストロボによる日中シンクロが気軽にできることです。何か新しい表現ができるのではという可能性を感じました。
小さいセンサーによる画質的な不安は、鮮鋭性よりも階調の繋がりに不自然さを感じる部分があることや、高感度領域でのノイズですが、筆者の使い方ではとくに大きな問題を感じませんでした。極端な設定で画質についてアレコレいじるというのは筆者の趣味ではないですね。「今日の撮影はちょっと条件の難しい、厳しい状況になるな」と予測が立てられる時は、APS-Cなり35mmフルサイズセンサーを搭載した別のカメラを持って行きますよ。いちおう筆者は職業カメラマンでもありますから、それくらいの知恵は持ち合わせています。
それに筆者は今もフィルムカメラもふつうに使うので、Q-S1を一緒に携行しても、ストレスを感じないのです。これはいいです。撮影の合間や移動中にも、何かイメージを拾えそうな気にさせてくれるカメラって、意外に少なくて、小さければいいというものでもありません。カメラを持ち歩くことに対して、面倒なことであると感じさせず、常に共にあり、いざというときはきっちりと存在感を示して、スマホとは違う写真が制作できるQ-S1のあり方っていいですね。これまでそれはスマホの役でしたから、実用上は問題なくてもなんとなく釈然としなかったんですよね。
Qシリーズに対しては、もう少し長い目で見てあげることができたらよかったなあと思いますねえ。今さら言うなよと怒られてしまうかなあ。操作性などに言いたいこともなくはないのですが、とにかく使って楽しめるならそれでいいと言う結論になります。カメラに万能性を求めてしまうとカメラを買う理由がなくなってしまい、つまらないですぜ。CP+2022の直前に、こういうカメラを紹介しちゃマズかったかなあ。なにせリコーイメージングのペンタックスブランドはこれからも“一眼レフ”で行くんだぜ的な宣言してますからねえ。あ、これは嫌味ではないですから念のため。
うちに来ていただいたQ-S1くんはポケットの中で常時転がしている状態ですから、家の鍵や硬貨と擦れあったりして、まだ短い時間しか使用していないのにけっこう傷だらけになってしまいました。もう1台うちに来ていただくかなあ。たしか大阪のリコーイメージングスクエアのアウトレットコーナーにはQ-S1のカラバリの在庫があと2台あったような気がしますが、おそらく気のせいでしょう。早く忘れよう(笑)。