赤城耕一の「アカギカメラ」

第39回:SIGMA fp Lと「28-70mm F2.8|C」に宿る、写真制作ツールとしての美

みなさんこんにちは。このクソ寒い週末、いかがおすごしでしょうか。筆者は現在、リコーイメージングスクエア大阪で写真展「録々」を開催中のはずでしたが、スタッフから1名コロナ感染者が出てしまいまして、念のためスクエアは休業となり、写真展も中止となったため帰京してこの原稿を書いております。再開への期待もむなしく、会期途中での展示中止は残念至極でございます。写真展開催について尽力いただいた関係者の皆さまにも、こちらをお借りしてお詫びいたします。

で、気を取り直して「アカギカメラ」を始めますが、もうね、寒いから寄る年波には勝てず、腰は痛いし、あんよも痛いし、出歩くの面倒なんで、またリコーGR IIIxかなんかを取り上げて、お茶を濁そうとしたりしたんですが、もうこれはさんざっぱらやりましたのでネタが枯渇しております。

そこで、ずーっと気になっていた、軽い小さいSIGMA fp Lをお借りしていたことを思い出しましたので、これまでの使用した印象をお話ししようかと。レンズはSIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporaryにしました。理由は本文にあります。では始めることにしますね。

SIGMA fpって、私的写真制作に使うツールとして気に入っているのでとくに不満もありません。余計なものがついていなくてシンプルなカメラは筆者の大好物です。だいたい、使いもしない機能を試すのは新製品のレビュー記事のためだけですから、私的には新しいカメラが出るたびにまた余分なものがくっついてきた、くらいの感覚で考えています。面倒じゃないですか? 新しいツールを使いこなすのにメニューから設定するのとか。好きな人はそうでもないのか。

で、ここに像面位相差AFを搭載した約6,100万画素のセンサーを積んだ「SIGMA fp L」が出てきました。筆者としてはfpの有効約2,460万画素で十分お腹いっぱいなんですが、気になったのはfp Lのセンサーの高画素数よりも像面位相差AFの方なんですよねえ。

fpのコントラストAFの動作でも別段困ることはなかったのです。たしかにフォーカシングの時に気を使わねばならない動作をすることが時々あり、優しい筆者はこういう時に文句を言わずにカメラを手助けします。そんなことは1ミリも苦にならないわけです。でも、fp Lなら像面位相差AFにより根本から解消されているのではという期待がありました。もうひたすらその興味のためだけに、今回はfp Lをお借りしてみたというわけであります。すみません。

正直なところ、fp Lをもってしてもニコンやキヤノンの先進の超絶AF性能には及びませんが、使用にはかなりストレスが減ったように思います。筆者みたいに、プライベートな撮影では捨てられた自転車とか古い銭湯の煙突とか赤錆びた門扉とかを撮るには十分すぎる性能であることはわかりました。

fp Lを試すにあたり、使用レンズはどうしようかなあと思ったのですが、ここはLマウントの大口径標準ズームレンズ、シグマ28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryで勝負にすることにしました。この舌を噛みそうな長い名前のレンズは、お仕事の撮影でパナソニックのLUMIX S5に装着してよく使っているのですが、これまでの経験ではとてつもなくよく写ることに感心しています。ほんと、お仕事撮影には安心できるレンズですが、コイツをプライベート撮影に持ち出したわけです。

ひたすらヌケの良い描写で、遠くの遠くまでよく見えます。いろんな部分を拡大して「すげー」とか喜ぶために高画素機は存在します。ええ、嘘です。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F9.0・1/1,000秒)ISO 400
至近距離撮影でも画質は変わらず。撮影距離で画質変わるのは悪だと思う人もいるかもしれないけど、いいんですよ、撮影距離や絞りで異なる再現をしても。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F9.0・1/1,000秒)ISO 400
遠くからこのマネキンを見つけて、なんだろうと近づいたら、単なる看板みたいですね。窓枠なんか歪みは許さないぞ、的な優等生的描写です。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F11・1/1,600秒)ISO 400

24mmスタートの標準ズームも当たり前となった今、“ワイド端が28mmでは足りない”というアナタ、本当に24mmの画角を使いこなせていますか? 正直なところ、筆者は35mmだけあれば本当は今後の人生をやっていける自信は十分にあるのですが、お仕事の場面では28mmの画角が欲しいこともあると自覚しております。こういう時は便利ですね、間違いなく。

もちろん24mmがあっても余計なことではありませんが、24mmの画角って、作画に気を使いますよね。お気軽感が薄れるというか、アングルに気をつけてしまうワタシが出てきてしまいます。ちなみに21mmになると使用にも覚悟が必要となります。パースペクティブをねじ伏せる戦いが出てきますから、こちらが弱っている時は疲れる画角ですね。実際はお気軽に撮れないということです。

若い読者の方はご存じないでしょうが、フィルム一眼レフの標準ズームのワイド端って、35mmがフツーだった時代が長かったんですぜ。それが28mmになった時にはえらく感動しましたね。しかも開放F値がF2.8になった時に、こんなことしたら、広角の単焦点レンズが売れなくなるんじゃねえのか、と心配したら案の定その通りになったわけです。

で、昨今では本レンズのように、またワイド端を24mmから28mmに戻した標準ズームレンズをチラホラ見かけるわけであります。これは単焦点の24mmとか21mmとかを売りたくなったのかどうかは知りませんが、おそらくバカデカくなった標準ズームレンズに反省したからじゃないんですか? 筆者としてはとにかく、このコンパクトなサイズ感に感動してしまったわけですよ。なんだよヤレばできるじゃねえかと。

レンズを含めて一見すると無機的な装置なんだけど、手にしてみると、良いツールだと感じるわけ。あれこれ設定したりすることが好きな人にはつまらないですかねえ。機能面でも十分だと思いますけどね。

とにかく手にした瞬間、小型軽量にグラっときました。35mmフルサイズ対応で、ズーム全域開放F2.8固定でこれは凄いわけです。こんなに鏡胴が細くて大丈夫なのかキミは。と心配になるほどなんですね。

レンズ構成は12群16枚、FLDガラスを2枚SLDガラスを2枚、非球面レンズを3枚とした豪華な感じですが、外観からはそのゴージャスなレンズ構成はわからないですね。あたりまえか。

画質面で足りないところはカメラとレンズがお互いに協力して、ダメなところはワタシが受け持って補いますからアナタは自由にやってね的な、電子による画像補正がカメラ内で行われているようです。このため本レンズは情け無用なほど、収差が残る形跡を感じさせません。仮に多少の情緒(収差)があっても許容量が広くなったジジイ的にはOKですけどね。

壁面を複写するような感じで。こういう写真も意味深にしたくなるのですが、小手先でいじったところで対して変わりはしません。素晴らしく均質性の高い像ですね。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F8.0・1/1,000秒)ISO 400
ボケがどうのという作例が今回ないから慌てて撮影したり(笑)。問題がなさすぎて語ることがないんですよね。合焦点はこんなにシャープだと女性に嫌われるかもしれんし。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F2.8・1/6,000秒)ISO 100
伝統の「煙突のある風景」なんですが、私の予想ではもっと怖めに写るはずで、あれこれ加工しちゃおうかと思ったんですが、ま、加工しやすいニュートラルな画ということでこのままに。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F10・1/1,600秒)ISO 400

光学技術だけをもって収差野郎を叩き潰してやるぜ、的な考えで設計されたレンズでないと、光学ヲタクの方の中には萌えない人もいるのでしょうけど、「高画質の写真のためならなんでもやるぜ」と割り切って考えるのが、現代のカメラ開発陣の設計思想かもしれません。

もっとも、この最新鋭レンズの描写を知り、これに共鳴できるからこそ、ピントが悪く、ボケは汚くて、点光源が絶望的なカタチとなり、カスミがかかり、色が偏り、周辺像が流れまくる、オールドレンズの“個性的描写”に快楽を感じる立派な変態になることができるわけですね。

絞りは9枚羽根と円形絞りになるので、ボケ味にうるさいアナタのためにも配慮されていますが、筆者はプライベートではどちらかといえばチリチリと絞り込んだ写真の方が好きなんで、絞りは光量さえ調整できれば問題を感じない人であります。

で、実際にSIGMA fp Lに28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryをつけて街に持ち出しました。もうね、シツコイようですが。全体のサイズ感に感激します。最初はもう少し鏡胴の質感が高くてもいいとは思ったのですが、それで重たくなるとイヤなので、これでいいです。そういう鏡胴の質感を求めるときは同社の「Iシリーズ」とかを使えばいいわけでして。

カメラとレンズがまじめに収差補正しているのに、撮影者がカメラを傾けて画面が曲がったりすると夜も眠れなくなるので真っ直ぐ撮りました。あ、画素数高いから画面が曲がってもあとでトリミングして修正してもいいだけど、そこは潔く。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F10・1/1,600秒)ISO 400
レンズフードはそんなにこだわった形状や材質じゃないんですが、逆光の時には役立ちますね。光線状態の変化でも性能が変わらない優秀な標準ズームレンズですね。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F8.0・1/2,500秒)ISO 400

fp Lは、もう今回は素の状態のまま、余計なアクセサリーをつけずに行くことにしました。ネックストラップも使いませんでした。小さいバッグにfp Lと28-70mm F2.8 DG DN | Contemporaryはそのまま横置きで入ります。素晴らしいですねえ。

正直なところ、あの合体式の外付けEVFを使うかどうかは悩ましかったのです。晴天下でも被写体を見やすくなるし、カメラを顔でも支えれば、手ブレ補正機構がないfp Lでも高解像度のポテンシャルを引き出しやすいかもしれないからです。でも今回はとにかく小型軽量が正義と考えて、装着するのを我慢しました。結果は正解だったと思います。こういうオプションパーツは宴会で装着したり取り外すことで、芸になりますから、用意はあったほうがいいと思います。コロナが収まったら、宴会の時に持ってゆきますね。

画質面では余裕というか、奥行きみたいなところを感じるのは確かです。それが高画素のためなのかどうかは筆者にはわかりませんが、あれこれ画像をいじくり回してもトリミングしても、耐性は強いですねえ。

どちらかといえばSIGMA fpシリーズは動画需要に重きを置いて企画されているような印象が強いわけですが、fp Lでは静止画というか写真の方でも、きっちりとした個性ある像を出してきているのがとても良いと思います。

余計なことを考えなくても済むハード面のシンプルな魅力と、余裕ある高画質、小型軽量の標準ズームレンズの組み合わせは、写真を撮るのに本来はこれで十分ではないか思わせてくれるわけで、筆者のカラダに合うものでした。

ボディ上面にはモードダイヤルもないし色気はありません。筆者の街歩きスタイルだとPモードに設定して、気に入らなければダイヤルでプログラムシフトさせちゃうという考え方ですね。シャッターボタン周りのダイヤル大型で回しやすくシフトには便利です。

でも、ファイルをあれこれ取り扱っていると、先に登場したfpでもぜんぜん大丈夫じゃないかなあと思えてきたこともたしかです。つまりfpに像面位相差AFが採用されると、筆者にとっては完成型カメラとなりそうです。ただ、どうだろ、メカシャッターはあったほうが良くないですか? 機能というより動作音的な問題で。あの電子的な合成音を聞きながら人気のない街を歩いてスナップしていると虚しくなる時があるし。

あと、これからはどんなレンズをつけても、片手でサクッと撮影しても大丈夫なように、できれば手ブレ補正機構だけを内蔵してください。ただし、ボディサイズはこのままで。他の機能はまったく必要ありません。よろしくお願いします。

カラーモードをFOVクラシックブルーに設定しました。なかなか深い青空が味わえます。ワイド端画像で周辺光量補正も減らしましたが、意外に落ちないですね。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F8.0・1/1,250秒)ISO 400
好物の錆ですが、なんか問題ありますか。カラーモードを「ティールアンドオレンジ」にして錆を強調してみました。青空の方に影響出ますけどね。やはりノーマルで大丈夫かしら。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F9.0・1/1,250秒)ISO 400
お待たせしました。古い家です。拡大すると木目が楽しめる仕掛けになっています。カラーだとリアリティがありすぎるのでモノクロにしてみました。
SIGMA fp L 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary(F7.1・1/800秒)ISO 800
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)