赤城耕一の「アカギカメラ」

第23回:再検証、ライツミノルタCL

このところ私の周囲で、ライツミノルタCL(1973年発売)やミノルタCLE(1981年発売)をもう一度見直す気運が高まっているように感じています。

これらはライカMマウント互換のコンパクトなレンジファインダーカメラなのですが、最近になってこれらを購入した人が続出しているのです。同業者をはじめカメラ好きの編集者、さらにはライターさんと複数人に及んでいます。みんなで示し合わせたわけでもないのに同時期に偶然こういうことが起こるのはとても不思議なことです。

特定の機種に対するカメラ熱って、突発的に感染爆発することがあります。はっきりとした理由はわからないのですが、デジタルカメラの中にCLやCLEの代わりになるMマウント互換機がまだ存在しないということもひとつの理由になっているようですね。

いやいや、でもご存知のように「ライカCL」は現行機として存在します。私はいじわるなので「CLはデジタルライカの現行製品としてあるのだからそちらを選んだ方がいいんじゃないですか?」とこれら2機種に興味を示した人の本気度を測るために水を向けてみるのですが、みなさん首を思い切りプルプル横に振るわけです。中には「代わりになんかなりませんよ!」と怒りだすも人もいます。怖いです。

自分がジジイになったと痛感するのは、ライカMPと聞いたら1956年の、あの文化遺産級のモデルになるし、SLといえばTTLメーターを初めて内蔵した1968年発売のライカフレックスSLを想起してしまうし、ライカMDってのは1963年に登場した、眼を省略したライカのことじゃないかと思うわけです。

昨今の同姓同名ライカって、もうちょいなんとかならんのかと思って見ていますけどね。いいんですかね、こんなので。混乱するのは私だけなのか。やはりMマウントのレンジファインダーカメラで可能な限り小型化した最新のデジタル“CL”を望むが多いみたいですねえ。あ、私も欲しいです。嫌味になってしまいました、すみません。

ああ、ここまでお読みになられて、なんのことかわからない方。正常です。これからも正統派の写真趣味人として生きてゆくことができましょう。少しでも反応を示された方は、当診療所に早めにご予約をお取りくださいませ。

で、今回はこういうニッチなカメラに興味を示された方へワクチンを打つことにしました。ライツミノルタCL編です。久しぶりに私も防湿庫の奥底からライツミノルタCLを発掘し、その魅力を思い出すように思い切り使ってみることにしました。

私自身、メディアへのデビューは1982年の『カメラ毎日』7月号(毎日新聞社/休刊)の「アルバム」であり、これに掲載された作品の多くはライツミノルタCLで撮影していました。したがって思い入れの強いカメラでもあります。使用期間はもう40年を超えることになりますが、私の事実上の“初ライカ”ということになります。いやいやライツミノルタCLはライカじゃないよという声も熱心なライカユーザーから多く聞かれますが、ライカの神様である木村伊兵衛が「あれはライカだよ」と発言していたことをどこかで読み、なんだか自信を深めました。じつに単純です。

ライツミノルタCLは「ライツ」と「ミノルタ」というカメラメーカーのダブルブランドネームですが、これは日本市場のみのネーミングで、海外では「ライカCL」という名前で1973年に発売されました。

CLとは「コンパクト・ライカ」の意味といわれています。つまりMマウントを採用した小型のレンジファインダーカメラの意味です。用意された交換レンズはMロッコール40mm F2と90mm F4。

CLの製造はすべて日本で行われました。1970年に当時のエルンスト・ライツ社(現ライカカメラ社)がミノルタにCLが生産できるかを打診して、ミノルタがこれを受託したのです。

すでにライツではCLの試作機は出来上がっており、ミノルタは生産委託というという形で引き受けたといわれています。両社の提携が公式に発表されたのは1971年です。ちょうど半世紀前です。ライツとしては、可能な限りコストを下げてCLを生産したかったのでしょうね。当時の日本はまだドイツよりもお安くカメラを製造できたということなのでしょう。

Mシリーズライカのアイピースは丸窓ですが、CLは四角いですね。スペースの関係でしょうか。視度補正レンズは共用できません。
左から巻き戻しクランク、底蓋キー、リワインドボタン、フィルム種別窓ですがライカM5のお子様みたいな意匠です。
LICENSED BY LEITZ WETZLARの文字が背面にあるのですが、なんだか上から目線的な感じがしちゃいませんか?

それまではライツが認める純正Mマウント互換レンズとしては、一部にシュナイダー製のスーパーアンギュロンやツァイス製のホロゴンもあったのですが、これでロッコール名も加わることになります。でも、日本を除く海外ではライカCLに用意されたレンズはそれぞれズミクロンC 40mm F2とエルマーC 90mm F4という名前になりました。レンズブランドでランクを分けておこうかという考え方かもしれませんが、同じ光学設計のレンズです。ただ、40mmはロッコールとズミクロンではフィルター径やフードの形状が違うようです。いやらしいですね。

ですが90mm F4はロッコール名のレンズも含めてドイツ製ですね。みんなどうでもいいと思ってますけど。ちなみにライツミノルタCLより「ライカCL」の方がエラいと思っている人はいまも多くて、見せびらかされたり自慢されることがあるのですが、全然エラくはありません。海外では「ライツミノルタCL」名のモデルの方がコレクターズアイテムになっていますよ。

Mロッコール40mm F2は描写は好きです。本来はモノクロの階調が特に好みなんですが、今回は間に合わないのでカラーポジフィルムで撮影してみました。ギンギンのシャープさと言うよりやや厚みのある線の描写。ボケも良い感じです。
ライツミノルタCL Mロッコール40mm F2(F2.8・1/125秒)フジクロームプロビア100
至近距離0.8mで撮影。周辺光量の落ち方も中心の主題を高めてくれる感じで好みです。ボケは至近距離でもクセが出ることがありません。立派な描写です。バランスの良い準標準レンズです。
ライツミノルタCL Mロッコール40mm F2(F4・1/1,000秒)フジクロームプロビア100

用意された両レンズともに、距離計連動用のカムが傾斜しています。コストダウンのためと言われていますが、そうなのでしょうか。

ライカのレンズは昔からダブルヘリコイドを採用していました。これはフォーカシングに必要な繰り出し量と、カメラ側の距離計のコロを押すのに必要な移動量が標準レンズ以外は異なるので、これを二重のヘリコイドでカバーし、整合させようという考え方に基づいて考えられました。このためコロに当たるレンズ側のカムの面は平面で問題ありません。

ところがCL用の2本のレンズはシングルヘリコイドのためにコロの当たるカムを傾斜させ、その角度の位置の違いでレンズ側のフォーカス量をカメラ側に伝える仕組みになっています。

CLではこの距離計コロの位置は一定のところにありますが、M型ライカの場合は距離計の調整機構の中にコロの位置を左右にずらす工程が含まれているため、個体よってはコロの位置が中央から左右どちらかにズレて調整されているものがあります。このコロが中央位置にないM型ライカに傾斜カムのCL専用レンズを装着すると、フォーカスの精度に不安が生じてくる可能性があります。

一部を除けば、CLには多くのMマウントレンズが装着できるのですが、逆にCL用に用意されたこれら2本のレンズの使用はCL以外のMマウントカメラには推奨されていません。もちろんレンズを装着し、無限遠で二重像が正確に合致すれば問題なく使用することはできますし、それでも心配ならば少し絞り込んで撮影すればいいのですが、基本的にはCL用レンズは片側互換と考えた方がいいでしょう。

ゾナー40mm F2.8(左。L-Mリング付き)とMロッコール40mm F2(右)のカムを見比べました。Mロッコールはカムの距離計コロに当たる面が思い切り傾斜していることがわかると思います。

ライツとミノルタではカメラ生産に関する考え方が異なり、CLの生産には苦労したという話を当時のミノルタの関係者から聞いたことがありますが、大量生産に向く、効率重視のミノルタの考え方と、細部にまでこだわりのあるライツの考え方の違いが問題になったらしく、製造工程に関しては苦労が多く、さまざまな興味深いエピソードがあったようです。現実的にもうウラを取ることもできませんから、ここで細かく騒動を書くのは控えておきますけど、緊急事態宣言が終了したら、酒場のヨタ話としてどこかでお話しすることもあるかもしれません。

CLを実際に触れて操作してみると、他に類を見ない独自の布幕縦走りシャッターを採用していたり、レンジファインダーカメラでTTLメーターを実現するために、ライカM5と同様に、フィルムの直前に腕木の先につけたCdS受光素子を置き、露光直前に腕木を退避させるという方法をとったりと複雑なメカニズム機構を採用したことなども、生産を難しくした理由としてあるようです。

レンズを外して、この剥き出しのCdS直接肉眼で目撃すると、見てはいけないものを見たような気持ちになることがあります。ライカM5ではCdSはレンズを外すとボディの中に引っ込む仕様となっていますから大柄な図体のくせに奥ゆかしさがあるのですが、CLは小さいのに露出癖があるのでしょうか。キケンですね。

シャッターチャージすると、収納されていたCdSがうわっと出てきます。レンズ後玉の直後で測光しますから、これが本当のダイレクト測光ではないかと思うのです。

私がCLをはじめて意識したのは北井一夫さんが『アサヒカメラ』で「村へ」を連載されていた1970年台の前半の頃でしょうか。使用機材としてライツミノルタCL+キヤノン25mm F3.5をよく使われていて、あの粒子が粗く、シャドーが鉛のように重厚に描写された作品がココロに響いたのでした。ここでも、メーカーの垣根を越えた組み合わせがとてもカッコよかったですね。トポゴンタイプのレンズ構成のキヤノン25mmが北井マジックを生み出したのでしょうか。これはいつかは入手せねばならない機材であると確信したわけです。ちなみに北井一夫さんは、この作品で第一回の木村伊兵衛賞を受賞しています。

キヤノン25mm F3.5をL-Mリングを使いCLに装着しました。勝手に「北井一夫モデル」と命名しましたがなかなか良い感じです。大昔のSF映画に出てきそうな宇宙服のヘルメットみたいなファインダーが好きです。
「北井一夫モデル」で撮ってみました。中心部はソリッドな描写です。画面の均質性はよくないし、階調のつながりもいまひとつですが印象的な写真になります。ライカM10でも周辺の色被りの心配がなく実用的に使える広角レンズです。
ライツミノルタCL キヤノン25mm F3.5(F8・1/250秒)フジクロームプロビア100

ライツミノルタCLを自分でも積極的に使い始めた理由は北井さんの影響もあるけれど「常に自分と共にあるライカ」になるのではないかというイメージが持てたからでしょうか。M型ライカだって、一眼レフと比較すれば十分にコンパクトなんだけど、さらにCLは小型化を突き詰めたコンセプトさが良かったわけです。

外装は金属なんだけど、ちょっと厚みが不足気味で、軽く当てただけでも凹みやすいのは難ですね。コストダウンと軽量化のためなのでしょうか。それでも品があるというか、表面の仕上げが美しいのです。さらにクリアなファインダーや、エッジのはっきりした二重像合致式のレンジファインダーの使いやすさに、手にした時は感激したものです。

着脱式の底蓋を外しました。屋外でフィルム装填する時とか、この底蓋はどうするんだって疑問を感じたりするのですが、基本的にはストラップをボディ側と同時に通して使用しますから問題ないでしょう。でも屋外でもしゃがむなどして落ち着いてフィルム装填しましょう。
古いカメラですからMR-9の水銀電池使用です。今は互換タイプを使うか電池アダプターでSR44あたりを使えます。底蓋の中にバッテリー室があり、フィルムが入っている時は交換できません。

裏蓋をスライドして外し、フィルム交換をするのも考えてみれば面倒なんですが、その当時としては珍しくて、フィルムの圧板をパタンと倒してフィルムを置いて、装填するというのも特別な儀式をしているみたいで良い感じなのです。

小さいボディなのにシャッターボタンはそこそこ重く、シャッターを切った瞬間にその振動がフィルム巻き上げレバーに伝わる感じが独自ですね。あまり気持ちは良くないんですが。

CdSのついた腕木を露光直前に逃すので、このためにタイムラグが生じるから、レンジファインダーのメリットが失われるという論評も読みましたけど、私には気にはなりませんでした。ゴルフのインパクトの瞬間を撮ろうというわけでもなし。CLで最も気に入らない点は、小刻み巻き上げができない点です。これはM型ライカと共用する場合に個人的にかなり違和感を感じさせます。

シャッターダイヤルはボディ前面にあるので、スクリューマウント時代のライカの低速シャッターみたいですね。長年の使用で手垢によってエングレーブされた数字が埋もれています。今回、一生懸命掃除したのですが、これが限界でした。

Mロッコール40mm F2の描写は開放でも十分な性能があって、厚みがあって好きなのですが、本当はファインダー内には35mmのフレームが欲しかったですね。ファインダー全体の視野を見ると35mmという慰めの言葉をどこかで見つけたんですけど、これはなんだか納得ができませんでした。もっとも単独の35mmファインダーをつければいいわけですけど。

私はフルメカニカルカメラを使用する場合、ほとんどバッテリーをカメラに入れていません。TTLメーターは参考程度というか、あまりアテにしていないからです。精度が悪くなっていることに気づくのもイヤだからということもあります。半世紀近く写真をやってますし、モノクロフィルムでの撮影なら露出を大外ししてものすごく困ったということはさすがにないですね。カラーポジフィルムを使う場合には単体露出計を使いますが、よく携行するのを忘れてしまいます。

したがって、CLにもバッテリーを入れて使うことはほとんどないのですが、精度とは関係なく、本来は内蔵されているものは動かないとイヤなほうなので、稀に電池を入れて、メーターの指針の動きを確認することがあります。CLのメーターは応答速度の遅いCdSを採用していますので、せっかちな私は、ますます気に食わないのですが、スポット性が強いためか針の動きは被写体の反射率が少しでも変わるとブンブン反応します。被写体の反射率や色を見極めないと適正露出は得られません。これはビギナーにはさぞかし扱いづらいだろうと思います。

ローライ35RF用の標準レンズとして登場したゾナー40mm F2.8を装着しました。あのローライ35に搭載されたレンズをライカスクリューマウントに仕上げたものです。まるでCL向けに用意されたレンズみたいによく似合います。

CLのファインダーはなかなかに凝っています。M型ライカと同様に二重像合致部分のエッジは明確なので、二重像合致と上下像合致、どちらのフォーカシングも可能になります。視野率は無限遠で80%、至近距離で90%くらいですからまずまずなところでしょう。小うるさいことをいうとレンジファインダーカメラを使う意味はありません。余分なものが写って面白くなった、くらいに考えた方がいいと思います。

ブライトフレームは40、50、90mmがありますが、40mmと50mmのフレームは同時に表示されます。90mmレンズを装着すると50mmのフレームは消える仕組みですね。50mmのフレームは邪魔くさいという人もいますけど、水平、垂直を確認するのに便利なので、気にしないで使っています。

ファインダーの倍率は0.6倍と、少し小さいですね。基線長は31.5mmですから、ファインダー倍率0.6を掛けますと、有効基線長は18.9mmになるので、長焦点レンズには苦しい精度ですが、ライツは、こういう場合は二重像合致よりも上下像合致の方がフォーカシングの精度は高いといってましたからこのフォーカシング方法を積極的に使いたいものです。それでも私の経験からすると、Mロッコール90mm F4を絞り開放で撮影した場合は少々厳しくなる印象です。一眼レフのようにファインダー像が拡大されるわけでもないので、はるか彼方に被写体がいる感覚です。ま、基本的にCLに長焦点レンズなんかつけちゃダメなわけですよ。ワイドレンズを装着して街に斬り込んで行くのが正しい使い方だと思います。

ちなみにフォーカシングに合わせて、右側のメーター指針のあるスケールの横幅が動いて変わります。単純にフレームが動いてパララックスの自動補正が行われるためにこうなると思うのですが、この横幅の違いで撮影距離がわかるから便利だとと書いている人がいた記憶がありますが、その人は正直天才だと思いました。

ゾナー40mm F2.8を使用してみました。ローライ35Sに採用されたレンズで、日本で鏡胴を設計し、本体を組み入れライカスクリューマウント互換レンズにしました。ローライ35は目測カメラですから、絞りを開いた条件でレンズのポテンシャルを引き出すには神経を使いますが、このレンズなら大丈夫です。
ライツミノルタCL ゾナー40mm F2(F8・1/250秒)フジクロームプロビア100
40mmのレンズの見え方って、久しぶりに使うと新鮮です。35mmレンズ派の私は、ああ、そうだそうだこんな画角だったと、目玉が思い出します。標準ズームレンズを使えば40mmの画角は設定できますが気持ちが違います。目についたものをポンポン撮影したくなる画角です。
ライツミノルタCL ゾナー40mm F2(F5.6・1/500秒)フジクロームプロビア100

ライツミノルタCLは、登場時の話題とは裏腹に、いつの間にか静かに消えたという印象があります。想定よりも数は出なかったのでしょうか。久しぶりに使ったCLによる撮影は楽しいものがありました。

コンパクトカメラを使用しているような感覚ですが、フィルム装填が面倒だったり、シャッターダイヤルの位置関係がヘンだったりすることもあるのですが、ファインダーを覗くとそこに間違いなく「ライカ」の世界が展開されます。カバンからすっと取り出して気軽に撮影できることは間違いありません。これ、かなり強みです。35mmレンズフリークの私ですが、40mmの画角もけっこう好物で、今回思い切り撮影したらシアワセ感がありました。

冒頭に述べたように、CL仲間が増えるのは嬉しいのですが、地球上に限りある個体は大切にせねばなりませんので、どうぞユーザーの方は大切に扱っていただきますように、よろしくお願いします(笑)。

次回はライツミノルタCLが変異、じゃなかった、AE化したミノルタCLEの話をしようと思います。

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)