写真を巡る、今日の読書
第34回:写真家が“写真に添える文章”
2023年5月31日 08:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
写真家の文章
今回は、写真に関する書き物をいくつか挙げてみたいと思います。写真家の書き物というのはこの連載でも多く取り上げてきましたが、何かを見て、記録し、伝えるという作業が多い写真家という仕事と文章は、元来非常に相性の良いものであると言えるでしょう。
もちろん写真だけで成り立つ作品や作家というものも多くありますが、特にドキュメンタリーの分野では、写真家によるテキストがあることで、さらにその写真のメッセージや意味を深く理解できることがあります。
『折口信夫と古代を旅ゆく』芳賀日出男 著(慶應義塾大学出版会・2009年)
一冊目は、『折口信夫と古代を旅ゆく』です。写真と文は、写真家の芳賀日出夫によるものです。芳賀は、日本や世界の祭りを始め、日本各地の暮らしについて民俗学的なアプローチから多くの仕事を残した作家です。
本書は、柳田國男の薫陶を受けた民俗学者/国文学者の折口信夫が研究対象としたゆかりある土地を訪ね、まとめられたものになります。「折口学」とも呼ばれた、古来の日本の探究が一冊を通じて非常に良くまとめられた、ダイジェスト的な書き物であるとも言えるでしょう。各地の祭りや風習、あるいは熊野や沖縄といった土地の記録に加え、折口の代表作である小説『死者の書』について巡る旅などが収録されています。
また、後半では折口が教鞭を執った大学での講義に関するエッセイなどもまとめられており、その影響や独自の姿勢が芳賀の視点から語られているのも興味深いところです。歴史や民俗学、国文学に興味のある方にはきっとハマるのではないかと思います。
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『1985−1990 赤瀬川原平のまなざしから』赤瀬川原平 寄稿(りぼん舎・2023年)
二冊目は、『1985−1990 赤瀬川原平のまなざしから』。本書は、赤瀬川尚子夫人と編集者の吉野千枝子氏によって編集された写真とテキストによって構成された一冊です。
超芸術トマソンや千円札裁判でその名前を知っているかたは多いかと思いますが、写真界隈においても非常に近い場所で活動してきた赤瀬川の、1985年から1990年に撮影されたスナップを眺めながら、様々な場所で発言されたその特徴的な言葉が連ねられています。
路上観察学会での活動を感じさせるマンホールや看板、トマソン的建築物に加え、町の風景や人々、動物を含めたスナップが含まれています。写真とテキストが並置されることで、前衛と言われたその姿勢やテーマ、コンセプトがより直感的に理解できるように思います
一冊の写真集としても非常に見応えがあり、読んだ後には自分の目に飛び込んでくる町の景色にも変化があるのではないかと思います。赤瀬川原平の視点を追体験するための良書として、是非手に取ってみてほしいと思います。
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『Cameraholics select フィルムカメラ放蕩記』赤城耕一 著(ホビージャパン・2020年)
最後は、赤城耕一がアサヒカメラで約20年に渡って書き連ねた、フィルムカメラに関する連載をベースにまとめられた『フィルムカメラ放蕩記』です。
前世紀からの銀塩ファン、カメラファンにとっては取り上げられているカメラ名だけでハッとするタイトルが並んでいるのではないかと思います。私自身、実際に使っていたニューマミヤ6やハッセルブラッド553ELXあたりのテキストを読んでいると、そのボディの重さやシャッター音が鮮やかに蘇ってくるように思いました。
第三章では、著者自身の半生におけるカメラや写真雑誌との関わりが語られています。ある時代の、写真を職としようとする一人の若者の現実は、また同じように若い時代をどうにか切り抜けてきた私にとっても響くものが多くありました。きっとそれは、読者それぞれが生きてきた経験とも重なり合う部分があるでしょう。
結びに書かれた『アサヒカメラ』に書き忘れたという一言は、フィルムカメラを愛する全ての人の心を反映させたものであるように感じられました。是非一読を。