赤城耕一の「アカギカメラ」
第12回:録々と6×6
2020年12月20日 09:00
12月18日から、東京・新宿のオリンパスギャラリーで写真展「録々」が始まり、ただいま絶賛開催中(新型コロナウイルス感染拡大を受け、11〜16時の時短営業中)なのですが、なぜにこのタイトルなのかという質問がたくさん寄せられるようになりました。
これはとても単純な理由です。ほぼすべての作品を中判フィルムカメラ、しかもフォーマットが6×6(通称ロクロク)判のカメラを使用して撮影しているからです。ええ、「録々」はジジイのダジャレと捉えていただいても構いません。
これらのカメラのアスペクト比は1:1の正方形ですね。このため35mmフルサイズ、いや、ここでは"ライカ判"の方がいいのかな、長方形のフォーマットとは撮影時のアプローチが少し異なるわけです。
自分でフォーマットに縛りをかけて、肉眼での世界とは異なる世界を記録、つまり"しるす"ことが、今回自分のやりたかったことなわけで、6×6判カメラを選択したというわけです。プライベートな時間に仕事を思い出すデジタルカメラは見たくもない、という理由も少しだけありますけど(笑)。
私にとっての6×6中判カメラとは
6×6の中判カメラは、私が仕事を始める頃は一般的なものというより、すでに少し特別な位置にあったような趣味カメラという存在になっていました。仕事で使用するフォーマットが正方形の縛りがあったのでは、誌面のレイアウトに自由度がなくなるからでしょう。6×6判カメラで撮影すれば、あとでトリミングして縦でも横でも使えるという消極的な考え方が以前にあったわけですが、そんなうまいこといくはずがありません。
6×7とか6×9判などの中判カメラも各メーカーから用意されているのですから、仕事ではそれを使えば済むことなのです。正方形のまま雑誌の記事広告などに使われることはかなり稀です。最終的にはトリミングすることが必然だと考えると、6×6判カメラを積極的に選択する理由がないわけですな。毎度毎度デザイナーさんの手間も増えて迷惑をかけるし。でもシリアスなフォトグラファーは正方形のフォーマットを崩さずに仕事をしていました。須田一政さんとか鬼海弘雄さんの作品とか憧れましたねえ。お二人とも広告の仕事ではありませんが。
現在は高解像度のデジタルカメラがたくさんあり、しかもフォーマットの切り替え、つまりトリミングは自由自在だから、あえて6×6判の中判フィルムカメラが必要なのかよ、と言われることもありますが、でも違うんですよ。
たとえばマイクロフォーサーズ機で撮影した写真を正方形にトリミングした写真は、フィルムの6×6判カメラで撮影したものよりもシャープで美しくヌケが良いことは間違いありません。じつは今回の写真展でも、とある作品はマイクロフォーサーズのオリンパスPEN-Fで撮影し正方形にトリミングしています。おそらく見分けはつかないと思います。被写体が平面ぽいということもあるのですけどね。
けれど、立体物を撮ると両者の写真の持つ雰囲気は異なってきます。フォーマットのサイズに対応するレンズの焦点距離の違い、その特性が変わることがその大きな要因ですね。同じ画角でも被写界深度が大きく異なるわけです。このためにアングルや構成にも影響を及ぼすかもしれません。
したがってフォーマットの異なるカメラを使用して同一のテーマで作品を作る場合は、被写界深度のコントロールするための絞りの設定や、空間構成も変化することがあります。これがけっこう気になるわけです。
私が今回の作品群でデジタルカメラで撮影した画像をトリミングした写真ではなく、6×6の中判カメラを使用したのはこのためもあります。6×6判カメラの“ 標準レンズ” の焦点距離は75mmか80mm長くても85mmでなければならないのです。
「録々」はうちにある6×6判の中判カメラを総動員し制作を始めたのですが、ほぼ7〜8年間くらい、だらだらと撮影してしまいました。あいわらず怠惰癖が抜けていないという理由もあるのですが、カラーネガフィルムの特性をよく知らずに、当初はなかなか自分の思ったような写真が制作できなかったということもあります。
ご存知のようにカラーネガはラチチュードが恐ろしく広く、6EV露出オーバーの濃いネガからでもほぼ正常な色調のプリントができてしまうほどなのです。もっとも、フィルムのラチチュードが広いからこそ「写ルンです」が製品として成り立ち、美しいプリントが出来上がるのです。「レンズ付きフィルム」とはよく名づけたものですね。
フィルム時代はカラーページ用の印刷原稿にはポジフィルムしか使用したことがなく、いつも仕上がりを見るまでは胃の痛くなる思いをしていたので、カラーネガのラチチュードの広い特性は新鮮でした。でも逆にラチチュードが広いために、出来上がりの写真の想像がつかないということにもなりました。
自分の見たいところ、見せたいところに露出とピントを合わせることが写真の基本ですが、これがカラーネガフィルムを使用するとあやふやな感じになるわけです。このためプリントをお願いした東伏見の西村カメラさんには、とにかくハイライトを焼き潰してくださいとだけお願いしました。そうすると自分の見たかったものが出てくる感じがしました。
本来はこの写真展、2020年6月に開催予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて半年延期になってしまいました。2021年1月には大阪のオリンパスギャラリーに巡回して展示予定でしたが、こちらもギャラリーが閉鎖になったりと影響を受けました。今回は写真展「録々」に使用したカメラと、写真展では展示していないアザーカットをお見せすることにします。
「録々」の一部作品は、「日本カメラ」2020年6月号の口絵ページでもご覧いただけるのですが、撮影のデータを書き出したらページから溢れそうになり、これは撮影データの量でレコードを記録しましたと佐々木秀人編集長に言われてしまいました。やれやれ、別のことでレコードを作りたいぜ(笑)。
写真展「録々」の使用カメラを紹介
オリンパスフレックスA3.5 II(1954)
私はこう見えても真面目ですから、オリンパスギャラリーをお借りして写真展をするのだからオリンパスに、いやOMデジタルソリューションズに忖度して、今回は1954年に登場したオリンパスフレックスA3.5IIでも撮影をしています。デジタルカメラを売る商売には何の役にも立たないじゃないかと? まあ、いいじゃないですか。シナジー効果ってこともあるし。ないか(笑)。
クラシックカメラのコレクターさんに言わせると、オリンパスフレックスはA2.8すなわち大口径F2.8のズイコーつきでなければならないというのでしょうけど、A3.5 IIはズイコー7.5cm F3.5を採用した普及機であります。
フォーカシングノブも巻き上げノブもシャッターボタンもボディ右側にあるというUIなので、撮影時は右手が大変忙しくなります。指が7本くらいあると嬉しいのですが。左手はシャッターチャージの仕事を任せられています。絞りの設定はどちらの手でも行うことができます。
使い始めた当初は、フォーカシングを終えたらフォーカシングノブから指を離してシャッターを切っていましたが、最近では親指と中指でフォーカシングを行いながら、フォーカシングを終えたらそのまま人差し指でシャッターを切るというやり方に変更しました。シャッターボタンはこのためなのか、やや外向きに斜めに位置しており、軽く落ちますね。
ただ、ビューレンズもテイクレンズと同じF3.5の明るさだし、この時代のフォーカシングスクリーンのピントのキレの悪さにはイラつきます。使用頻度の高いローライフレックス3.5Fとあまりにも操作感覚が異なること、多重露光防止装置がないことなど、撮影時には気を許せないカメラで、約束事があります。それにしてもこのズイコー7.5cm F3.5の写りの良さにはびっくりします。現代でも間違いなく通用するんじゃないですかねえ。
ローライフレックス3.5F(1959)
6×6判フィルムカメラといえば私の中ではハッセルブラッドより先にこのカメラがまず思い浮かびますね。ハッセルは仕事のことを思い出してしまうんだけど、ローライはそうでもないからかなあ。とても美しいカメラです。
ちなみにカメラ好きは絶対に2.8Fを選ぶんだけど、個人的にあのシャッターストロークが長くてグズグズした感じが嫌いなわけ。言葉でうまく説明できませんが、スッと落ちないんだよね。いちおう2.8Fも持ってるんだけど出撃頻度は低いですね。
また、プラナー75mm F3.5の写りも好きですね。でもね「アサヒカメラ」の『ニューフェース診断室』で3.5Fを取り上げたページを見ると成績が悪かったんですよ。個人的にはありえない思いですね。ただ、ややヌケが悪いというか線が太い感じがするのは確かです。描写の厚みというやつでしょうか。
ちなみにクセノタール75mm F3.5との違いをよく質問されますが、大して違いはしません。ボケのニュアンスが少しだけ違うくらいでしょうか。そんなに違ったら両方買わなくなってしまうから困るじゃあないですか。
ワイドアングルローライフレックス(1961)
通称、「ワイドローライ」。調べてみると私のバースイヤーローライなんですね。搭載レンズが対称型のビオゴンではなくてディスタゴン55mm F4というのがミソ。そう、レトロフォーカスタイプのワイドレンズなわけです。なぜでしょうね、これ。このカメラ、レンズ径が大きいためルックスよし。一時はかなり高価でしたが最近はそうでもないかなあ。
うちにある個体はレンズの光学系はキレーだけど、ボディがかなりヤレてたので超破格でした。キタナイからですね。でもこのレンズ、あまり褒められた性能ではなく。でもね、今回の写真展では高解像度のスキャンを行い、A0サイズに引き伸ばしてみたら、ピントは悪い(笑)けどそれなりに像にチカラがあるわけ。そう信じたいと思いました。
レンズの描写に夢を託すことのない真面目な写真家は、ゼンザブロニカS2あたりににニッコール50mm F2.8を使った方が間違いなく幸せになれます。けれど今回の「録々」の撮影ではかなり使用頻度が高くなりまして、とてもお世話になっています。自分の非才さを、レンズの味とやらでカバーしようなどと不純なことを考えたからですが、これは相当な名玉であっても難しいということがよくわかりました。
テレローライフレックス(1959)
二眼レフのローレイフレックスの中で、もっとも買ってはいけないのがこのモデルです。ゾナー135mm F4はとてもよく写るレンズですが、こんなものにココロを奪われているとロクな大人にはなれません。それを実証したオトコがこうして懺悔して書いております。私と同じような不幸な被害者が少しでも減るようにと。
それにしても本機は1970年代初頭でも現役でしたからロングセラーのカメラですね。この理由はさっぱりわかりませんが、大量の在庫を抱えていたりしたんじゃないですかねえ。製造台数8,500台と言われてますから、ヘタ打ったカメラじゃないのかなあ。もうローライは当時の会社がなくなっちゃったから遠慮なく書いています。
ものすごくボディのバランスは悪いし最短撮影距離も2.5mと、とんでもなく遠く扱いづらい救いのないカメラです。このため日本の狭い室内では撮れないし、ポートレートを撮ると、はるか彼方にモデルがいるみたいな感じになりますね。
このためローライは本機のためにローライナーという専用クローズアップレンズを強度違いで2種類用意し、最短撮影距離を短くして対応しました。蝶番をつけたドア方式にして装着の面倒さを回避しようとする試みは楽しいんですが、下手をすると晩酌しながら室内でテレビ画面に向け、そこでピントを合わせてみて満足して終了してしまう可能性がありますのでくれぐれも注意が必要です。
ハッセルブラッド503CX(1988)
ハッセルブラッドといえばVシステム、それも500C/M(1970)が代表格なんだけれど、うちにある35年使用している個体はどうもピントが怪しくなってきました。インフにピントを合わせてもファインダースクリーン上ではどこかピントがユルい感じに見えます。
これはハッセル特有の経年変化による宿命的なミラーの位置ズレが原因だと思うので、そろそろ定期修理に出さねえとなあと考えていたところに、修理代よりもはるかに安く売られている中古の503CXを近所のカメラ店で見つけてしまい、うちに来てもらうことにしました。おいおい500C/Mの修理はどうするんだよ。
503CXは専用ストロボを使うとTTL自動調光になるらしいのですが、これは死んでも使わないんで500C/Mでもいいのです。でも新しいボディの方がメンテの心配は少なくなるんじゃないかと少しだけ購入のための理屈を考えてみました。もっとも、新しくなった503CXでもハッセルVとの一連の操作の約束事は同じだから、ヘタするとボディからレンズが外れなくなったりして、泣きをみることになります。
なぜそんなことが起きるかは面倒なのでいまさら説明しません。ググってください。でもハッセル使いこなしのコツは、カメラの状態がすべて撮影スタンバイになってから操作設定を行なうことが基本のキなわけです。
ミラーはクイックリターンミラーではありませんので、シャッターを切るとファインダーは暗転したまま、フィルムを巻き上げるまでファインダーは真っ暗です。まったくもって時代遅れですが、このことを責める人は誰一人として存在しません。
ハッセルブラッド500EL/M(1971)
ハッセルブラッドVシステムのELシリーズはモータードライブ搭載のシリーズですね。本機は歴史的には中核になるのかな。正しいハッセル使いはELシリーズをディスるのが定番なんだけど、これはコマ速度が遅いくせに、大きく重たいからですね。手でフィルム巻き上げした方が速いのは間違いありません。コマ速はおそらく2コマ/秒とかいかないと思います。
それでもなぜEL/Mが良いのかといえば、手持ち撮影の時にファインダーから目を離さなくて済むため、フレーミングがほとんど変わらないからです。この意義は大きくスタジオ専用カメラみたいなイメージのある本機も屋外撮影でも有用なわけですよ。実際に私の尊敬する須田一政さんの愛機でもあります。
また自動巻き上げですから、ミラーの動作はクリックリターンミラーっぽくなります。あくまでも"ぽく"ですけどね。この感覚は500C/Mよりもいいですね。ただモータードライブはガァァーッという凄い音で動作します。それがかなりの迫力で、女性モデルが喜ぶことがあります。
また、フィルム巻き上げにかかるトルクが手巻きと違い一定らしく、コマ間の幅が安定していますね。これもメリットです。バッテリーは専用の充電式のものを使う必要があるのですが、サードパーティ製のものでEL/M専用のバッテリーアダプターが用意されていますのですぐに見つかると思います。
フィルムカメラ時代、EL系のハッセルブラッドは長らく主流として使用していたカメラでした。うちにはまだ500ELXと553ELXもいらっしゃるのですが、かつてはみなそれなりの稼ぎもあったので、フィルムで撮影する仕事がなくなったからといって無下に追い出すことなどできるはずがありません。なんといっても、デジタルバックのCFV II 50Cも装着可能ですからオーナーの頑張りによっては、今後再び活躍していただける可能性も残されているということもあります。誰か仕事ください。
ハッセルブラッドSWC(1959)
初期のハッセルブラッド超広角カメラですね。本機こそ、カメラを買うというより、高性能のレンズを買うという意識にさせるモデルはありません。搭載レンズのビオゴン38mm F4.5はどこに出しても恥ずかしくない優れたレンズですね。
使用にあたっては、フォーカシングが目測になるなど不便は多くなります。なぜなら本機は一眼レフではないからです。特に至近距離では扱いづらいので悩みます。フレーミングは専用の外付けファインダーで行いますが、鏡胴やフードでケラれてしまうので画面の下部を見ることができません。専用のファインダースクリーンをフィルムマガジン部に装着してピント合わせもできますが、なんだか野暮です。私はどうしても正確なフォーカシングが心配な場合は、他の一眼レフやレンジファインダーカメラを同時に携行して撮影します。被写体にフォーカシングして、その距離をSWCに移し替えるという涙ぐましい努力をしています。
SWCを愛機とする写真家の有元伸也さんは、至近距離でSWCを使う場合、自分の腕を利用するということです。あらかじめ自分の腕の長さを測っておきます。そして被写体まで腕を伸ばして、距離を測り、SWCの鏡胴にある距離目盛を利用して、距離を移し替えるそうです。これでもそこそこに正確です。
レンズの光学性能面では非の打ち所がないですね。シャープネス、コントラスト、解像力、すべてにおいてトップクラスです。しかも至近距離からインフまでスキを見せない描写をします。全体が普通のハッセルよりもコンパクトなのが魅力。
残念なのは三脚座が邪魔をして、最新のデジタルバックCFV II 50Cが装着できないことです。SWC/M以降のモデルならば装着できるのですが。いっそのこと、CFV II 50Cのために三脚座を切ってしまおうかとも考えたのですが思いとどまりました。
ゼンザブロニカC(1965)
マクワウリ型デザインの典型的な中判カメラですね。カメラに詳しい趣味人はメカニズムの面白さから、初代モデルのゼンザブロニカDに熱くなるみたいですが、私は1ミリも興味がありません。カメラ自体、歴史的な意義はあるとは認めますが、使い続けるためのメンテが怪しくリスクが大きいからですね。私はこう見えてもカメラは実用派ですから、このあたりの価値観を明確にしております。
で、うちには定番のS2とか電子シャッターのECとかもあるのですが、それらと異なりCはマガジン交換できません。ここがミソなんですが、このために少しだけ重量は軽いものの、ほんのわずかですね。普及機の立ち位置でしょうか。レンズシャッターのハッセルと異なり、フォーカルプレーンシャッター機ですからデカい動作音です。でも最高速が1/500秒どまりというのがちょっと不満かなあ。シャッター音は大阪名物ハリセンで叩くような、あるいは破壊音のような、ショックもかなり大きいのでたしかに驚きますね。
木村伊兵衛いわく、本機を庭に向けてシャッターを切ったらたまたま庭で剪定してた植木屋さんが、びっくりして登っていたハシゴから落ちたそうです。相当に話を盛ってますな。でも個人的に街でシャッターを切って、通りすがりの人に振り返られたことが数回あります。不審者と思われたのでしょうか。でも、愛せるカメラです。
ノリタ66(1972)
東京光学出身の技術者、車田利夫氏が創業したノリタ光学。ブロニカへレンズをOEM供給もしていました。武蔵野光機「リトレック6×6」を改良したのがノリタ66です。リトレックは故障の多いカメラで有名なんですが、これをうまいこと改良したとはいえ、ノリタ66も耐久力についてはあまり評判良くないですね。このためバックアップ用としてもう一台欲しいのですが、さほど一般には知られていないものの、なぜか一部には熱烈な人気があり、中古市場でもあまり見かけなくなりました。売れていなかったことが理由でもあるのでしょうけど。
デザインはペンタコン6とかペンタックス67にも似てはいますけど、かなり鈍臭いデザインです。おまえさ、ならばペンタックス67を使って、両端を切れば正方形フォーマットになるだろうがよ、と言われても却下します。トリミングを前提として撮影することに慣れてしまうと思想が揺らいでしまうじゃないですか(笑)。
それにペンタックス67は、今や若い女性写真家の愛機になったりしてなんだか幸せそうで、かなりの人気で価格も高騰気味だけど、私はもうジジイなんでこのカメラを使うとイヤな仕事を思い出してしまいます。それにものすごく重たく感じるわけ。いや、ノリタ66も重たいんだけど、ついている標準レンズがノリタール80mm F2だったりして魅力的なスペックだったり。そこに希望を感じるんだよなあ。だって、このF値はハッセルのフォーカルプレーンシャッターを搭載したFシリーズの110mm F2みたいじゃないですか。開放絞りだと描写はかなりトロいですが、少しだけ絞るとコントラストが高くなり、ピシッとキリっとなります。現代レンズにはないその二面性がまたいいわけですね。
コーワシックス(1968)
コルゲンコーワの中判カメラ、コーワシックスです。この6×6判一眼レフはとても使いやすいですね。それほど重くないしね。デザインが縦長なのは、フィルム送りの縦方向に合わせてあるからです。二眼レフみたいな感じですね。
コーワのレンズは「プロミナー」がブランドになっていますけど、コーワシックス用の交換レンズにはその名がないですね。いずれのレンズも、ものすごくよく写りますが、厳密に見るとやや色のりが弱めかなあ。あとスピゴットマウントなので、レンズ交換は慣れないと少々やりづらいです。
本機はクイックリターンではないので、シャッターを切るとファインダーは暗転します。意外なことに動作のシーケンスはハッセルに似ています。レンズシャッターなので音は静かで、シャッターボタンのストロークが短くて軽く良い感じです。またファインダーの性能も優れ、ピントのヤマがつかみやすいことも特筆したいところです。
コーワシックスシリーズは、時代が進むにつれ、MMとかスーパーとかの名前となり便利になるとされていますが、私に言わせるとどんどん使いづらく、進化と引き換えに重量も大きさも増してがっかりさせられます。初代の本機が一番の名機だと思いますけどね。これは本音です。一番の不満はプレビュー機構が見当たらないことなんですが、もしかすると隠しコマンドとかあるのでしょうか。どなたかご存知の方がいたらお知らせくださいませ。
富士フイルムGF670プロフェッショナル(2009)
蛇腹の折りたたみ機構を採用した距離計連動式の中判カメラです。フォールディングカメラとも呼ばれます。畳むと平たくなることから、大きめのカメラバッグだとサイドポケットにも入ります。重くはないので、アサインメントの時にも携行して、移動時間のちょっとしたスキに撮影しています。
搭載レンズ、EBCフジノン80mm F3.5の性能にはぶったまげます。ハッセルのプラナーT* CF80mm F2.8なんか完全に超えています。素晴らしいです、ヌケもよい、開放からコントラストが高い、解像力もかなりの銘玉です。クラシックなレンズにありがちな濁りがゼロです。この差はカラーネガフィルムでも判別できるくらいですね。素晴らしいのはファインダーがクリアでコントラストが高く、距離計のエッジが明確なので、二重像合致だけでなく、上下像の合致式としても使えます。6×6と6×7判の2つのフォーマットを切り替え可能というのも素晴らしい。
しかもブライトフレームのアスペクト比も補正指標ではなくきちんと切り替えに応じて変化しますし、フィルムの送り量も切り替わるので、撮影枚数が変わるという凝りようです。フィルム巻き上げはレバーではなくてノブ式なので速写性には少々劣りますが、使用感が素晴らしいのでこれまで文句の声や困ったという話も聞こえてきません。
デジタル時代に登場した最後の中判フィルムカメラという立ち位置で、拙作の撮影でも、もっとも活躍したカメラとなりました。2011年にワイドレンズのEBCフジノン45mm F4.5を搭載した兄弟機、GF670Wプロフェッショナルが発売されますが、これが国産最後の中判フィルムカメラということになります。
ニューマミヤ6(1989)
50mm、75mm、150mmの3本の交換レンズのみと潔いのがよろしい。これでシステムは完結してしまいますからねえ。そこから表現の幅を広げるのだと余計なものを買ってしまう不安もないのですが、これは将来的なシステムの発展性も見込めないということでもあります。あ、アクセサリーとして専用のクローズアップレンズはありますから、これくらいは用意していいのですが、こんなもの使うなら至近距離撮影は一眼レフに任せるのが正しい写真趣味人だと思いますけどね。でも欲しいものは欲しいのだから仕方ないのです。
ボディ脇のボタンを押すとわずかに沈胴するギミックも楽しい。沈胴させても大してコンパクトにはなりません。でもレンジファインダーカメラとして非常に精度が高いですね。ファインダーの性能が高く距離計のエッジがはっきりしているので、二重像、上下像どちらでもフォーカシングできます。発売当時はM型ライカ並みの性能ではないかと言われてたくらいです。
また速写が可能なカメラで、巻き上げのフィーリングも良いので、モータードライブを内蔵したどの中判カメラよりも素早く撮影することができました。デジタル時代を迎える直前まで、私の所有する中判カメラの中でもアサインメントでの使用頻度が高く、あらゆる仕事に大活躍しました。華美な機能を持ったカメラではありませんが、個人的にはバブル時代に登場した中判カメラという印象が残っています。のちの人気カメラであるマミヤ7のベース機的な存在にもなっています。いまは、近所の家の塀の上で寝ているノラ猫とかを撮影しちゃうカメラになりました。
ゼンザブロニカSQ-Ai(1990)
従来のブロニカとは大きく異なり、電子式のレンズシャッターを採用した6×6判カメラですが、かなりハッセルを意識してます。
とはいえ本機は電子化されているため、システムはTTLメーターやAE機構も手厚く、高倍率ファインダーにもTTLメーターが仕込んであるという凝り方がすごいですね。またモータードライブも無調整で装着可能としているために機動力は素晴らしいです。
交換ファインダーやワインダーなどを装着しないもっともシンプルな形では、ハッセル500C/Mを電子化したカメラのような感覚で使うことができるでしょう。クイックリターン方式のミラーではないので、シャッターを切ると暗転してしまうのはハッセルと同じです。巻き上げるまで、ファインダー視野は戻りません。ここまでしてハッセルを真似なくても良いと思うのですが、単なる仕様でしょうか。
シャッターストロークも短く軽く、動作音も「カターン」と言う優しい音ですね。ただし、モータードライブを装着すると動作音がうるさいカメラになります。今さらかよと怒られそうですが、最近になり、かなり気に入っているカメラとなり、より活用するようになりました。用意しているゼンザノン交換レンズもとても素晴らしい性能のものばかりです。
大問題は、本機を発売していたタムロンでのメンテナンス対応が終了していることで、今後どのくらいの間使えるかは神のみぞ知るです。現に最近になり、うちにいる一台が逝かれました。"ブロニカ"を長く使うならSQシリーズよりも前のフルメカニカルのS2とかCなどの方がカメラ修理業者に受け入れてもらえるので安心なんですけどねえ。でもカメラ操作の楽しさは比べられるものでもなく、同じブロニカ名ではありますがフォーカルプレーンシャッターを採用したブロニカとはまったく互換性のない別の存在のカメラとして、孤高のシステムになっています。
マミヤC330プロフェッショナルS(1983)
レンズ交換可能という珍しい二眼レフです。このシリーズではマミヤC220かC330あたりが、かのダイアン・アーバスの愛機だったと考えられます。アーバスは本当はペンタックス67が欲しかったのに、高いのでマミヤを選んだという話がありますが、そうなると発売年が合わないから、アーバスはもっと古いC22あたりの中古品でも使っていたのでしょうか。
本機は二眼レフなのにレンズ交換が可能というかなりの力技の仕様ですが、その代わりウルトラ重たくデカいのです。本機はC330プロフェッショナルfのボディをプラスチックにして軽量化したというふれこみですがそれでも重たいです。
レンズはビューレンズとテイクレンズがボードに固定された1ユニットになっており、レンズはボードごと交換します。このボードの固定方法も強力な針金タイプのアームで押さえつけるような方式です。
デジタルカメラだと大きく重たいことに対して文句ばかり言う私なのですが、本機が重たいことを許せてしまう理由は自分でも謎なのです。写真制作の覚悟を感じさせるカメラだからでしょうか。シャッターストロークは長めですが、スムーズですね。ボディの2か所にシャッターボタンがあります。レンズの性能はいずれも優秀です。
蛇腹方式なのでフォーカシングの繰り出し量が多く、クローズアップレンズなどを使用せずにかなりの近距離撮影が可能です。ただし一眼レフではないので至近距離ではパララックスが恐ろしく大きくなります。
パララックスはファインダー内に至近距離になると出現する赤色の指針によって示されます。ビューレンズとテイクレンズが離れていますから、至近距離になればなるほどファインダーでは見えていても写らなくなる部分が増える理屈ですから、写らないところまで指針で示そうという考え方です。でも、画面の下部に関しては手当てがありませんから、今度はファインダーでは見えないところまで写ったりします。パラメンダーというエレベーター方式でレンズの位置を垂直に変化させる純正アクセサリーがありますが、これは三脚を使用せねばなりません。素直に一眼レフを使えばいいと思ってしまうと、これで話は終わってしまいます。
ミノルタオートコードIII(1965)
二眼レフにしては小型軽量な部類になります。フォーカシングはローライフレックスとは異なり、テイクレンズの下部にあるノブを左右に動かすことで行います。このため、慣れないうちはノブの動作でカメラが傾くという失敗がありました。フォーカシングスクリーンが曇りガラスみたいで、私の目ではファインダーでピントの頂点が明確に見えないので、絞り開放近辺での撮影では不安になり、つい絞り込んだ撮影をしてしまいます。
搭載レンズのロッコール75mm F3.5はテッサータイプですが、絞り込むと厚みのある描写をしてなかなか好みです。モノクロでは気に入っていますが、カラーフィルムでは色ノリが少々浅いのは残念です。田村彰英さんや、須田一政さん、渡辺兼人さんの愛機でもあって、シリアスな写真を制作するストリートフォトグラファーは本機を使わねばならないと本気で思っていました。製造中止になった後に騒ぎとなり、再生産されたことがあるそうですが、このあたりに本機の実力を窺い知ることができます。ストラップの金具がかなり特殊な形状をしているので紛失に注意せねばなりません。
ヤシカマット124G(1971)
レンズ周りのバヨネットなど、必然としないパーツにも派手に感じるメッキがしてあったりして、なんだか全体に安い作りで動作の感触もシブめです。
カメラ名にある「G」は「ゴールド」の略らしく。これは外部測光方式のメーターの部品に耐久性を持たせるために金メッキしたということらしいですが、本当なのかなあ。中身を見てないし。私は本機には電池を入れたことがないからよくわからないけど、メーターのスイッチはファインダーの蓋と連動しているみたいですね。また124という名前は"120フィルムと220フィルムの両方が使えます"ということらしく。だからどうした、というネーミングですが単純でいいかもしれません。最近隣国で220のモノクロフィルムが復活したという話も読みましたし。
うちにある個体は巻き上げクランクを操作するたびに部品が擦れ合うようなキーキーという音がします。注油すると治るのかなあ。ファインダースクリーンはすりガラスを入れたみたいで、ピントの頂点がつかみづらく、フォーカシングにはかなり難儀します。シャッターボタンの重さは中庸ですが、ストロークが少々長すぎで、切れるタイミングがわかりづらいのは問題です。ヤシノン80mm F3.5のレンズ構成はテッサータイプのようですが、写りが今ひとつというか、特定の撮影距離、特定の絞りだと良い感じに描写することもありますが、それを外すとこんなものなのかとがっかりすることがあります。ちなみに植田正治さんが本機を使って不思議なテーブルフォトのような作品を発表されていました。
悪口の羅列みたいになりましたが、こうしたカメラのクセは現代のものにはないので新鮮です。カメラの性能を最も発揮する条件や光を探るって楽しいわけです。アサインメントには使いづらいけど。ヤシカが京セラに吸収合併されたのちも現行品として存在していたのはエラかったですね。このため本機は国産最後の二眼レフカメラということになります。