写真を巡る、今日の読書
第33回:現代アートを少し違った視点で楽しめる本
2023年5月17日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
難解な現代アートのことが知りたい
この連載では、現代美術や美術史に関する本を何度か紹介してきましたが、今回も現代のアートやアーティストについて知るための本をいくつか挙げてみたいと思います。
現代アートというと、何が描かれているのかよく分からなかったり、コンセプトが難解だったりする作品が多いという印象をお持ちのかたも少なくないのではないかと思います。印象派くらいまでの絵画などは、まだ何が描かれているのか分かり、見た目にも色彩が鮮やかであったり写実的に描かれていたりして、絵そのものを鑑賞しやすいかと思います。しかし、現代アートは描かれている内容だけを見ても理解しにくいものが確かに多くあります。
今日は、そんな現代アートを少し違った視点で楽しめる本をピックアップしてみましょう。
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『古←→今(むかしといま)比べてわかるニッポン美術入門』和田京子 編(2010・平凡社年)
まずは、『古←→今(むかしといま)比べてわかるニッポン美術入門』。この本は、非常に分かりやすく日本の美術のコンテクスト(文脈)とも言えるものを図解した一冊となっています。
テーマごとに分けつつ、古典作品と現代作品を並置して紹介することで、共通した手法やコンセプトを鮮やかに示し、それぞれの作品のポイントが一目で把握できるように構成されているのが特徴です。例えば、狩野永徳と山口晃、尾形光琳と会田誠、長谷川等伯と杉本博司、といった具合です。
見比べることで、驚くほどその作品の重要な要素が即座に把握でき、文字情報ではなく、より視覚的に日本美術を楽しむことができる美術解説になっています。それぞれの図版も大きく、ある程度作品の細部まで鑑賞することも可能です。もちろん、テキストとしての解説もありますので、作家や作品に興味を持ったら読み込んでさらに理解を深めることもできます。文脈ってこういうことか、と楽しみながら理解できるでしょう。
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『めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード』筧菜奈子 著(フィルムアート社・2016年)
次は、『めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード』。この本も、難解な現代アートを知的な読み解きだけではなく、ある種のエンターテイメントとして楽しむ方法を教えてくれる一冊です。
紹介される作品や作家は、作者のイラストによってある程度デフォルメされているため、その特徴が良く分かるようになっています。気になった作品は、ウェブ上で検索してみると良いでしょう。現代アートの父と言われるマルセル・デュシャンから始まり、ジャスパー・ジョーンズやアンディー・ウォーホル、現代のアイ・ウェイウェイや村上隆、バンクシーなど20世紀以降の重要なアーティストたちがセレクトされています。
写真家では、シンディ・シャーマンやヴォルフガング・ティルマンスが取り上げられています。それぞれの解説では、例えばロバート・スミッソンであれば「サイト/ノン・サイト」や「スパイラル・ジェティー」など、そのアーティストにおいて重要なポイントを取り上げて説明されるため、読みやすく端的なテキストによって概要を掴むことができます。また、後半部分では現代アートにおいて知っておくとより作品を楽しむことができる38のキーワードも解説されています。
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『創造の現場。(ペンブックス)』ペン編集部 編、ベンジャミン・リー 写真(CCCメディアハウス・2014年)
最後は、『創造の現場。』。この本は、上記の二冊とは違って美術について解説されたものではありません。様々なアーティストの仕事の現場を、写真と文章で連ねた本になっています。
雑誌『Pen』で2010年から2014年まで連載された「創造の現場。」が一冊に再編集されたものです。写真は、全て写真家のベンジャミン・リーが三枚組のモノクローム写真で捉えています。実に多彩な顔ぶれで構成されており、現代のクリエイティブの現場や文化が記録された貴重な書物であるとも言えるでしょう。
ミュージシャンや俳優、編集者、映画監督、哲学者、美術家などの様々なジャンルの仕事現場とインタビューが収められています。作品からではなく、アーティスト自身に焦点を当てていることで、また違った角度から制作に関わる姿勢やテーマが窺えるのではないかと思います。
先日惜しまれつつ亡くなった坂本龍一を取り上げたページの見出しには、「閉じられた枠組みを開く、やわらかな思考。」とあり、現代における最高の創造者のひとりであったことを改めて思い返しました。