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アルセナール「MC MIR-24N 35mm F2」
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~ウクライナ製ニコンマウントレンズの世界へようこそ
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ウクライナ製「MC MIR-24N 35mm F2」。「MIR」は「平和」という意味。「24」は焦点距離ではなく設計時の番号。ソ連時代のレンズはこうした製品名が多い。ソ連崩壊後の製品はアルセナール製が「ARSAT」(ザヴォート・アルセナールの略号)、KMZ製が「ZENITAR」だらけとなり、イデオロギー臭がなくなったぶん、面白みもなくなった
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ロシアやウクライナなどの旧ソ連諸国で、ニコンマウントのレンズが作られていることはご存じだろうか。ウクライナの国営光学機器製造会社「ザヴォート・アルセナール」が主で、20mm F2.8の広角レンズから300mm F2.8の望遠レンズを製造している。また、ロシア「KMZ」製対角線魚眼レンズシリーズや、ベラルーシ「BeLOMO」製魚眼レンズにもニコンマウントが用意されている。
アルセナール製およびKMZ製レンズは「Aiマウント」なので、ニコンD1およびD2シリーズや最新のD200ならば、露出計を連動させて使うことができる。非CPUレンズでは露出計が連動しないD70シリーズやD50、D100、フジFinePixSシリーズや、コダックDCSプロシリーズでも、背面液晶で露出を確かめながら使うならそれほど苦労はしないだろう。
もっとも、正確には「ニコンAiマウント近似」であって、ニコン製カメラとは「完全互換」ではない。特に、ソ連時代のアルセナール製レンズは瞬間絞り込み測光を搭載したフィルムカメラのニコンFA、F-301、F4などに装着すると外れなくなる事故が起きやすい。現在作られているアルセナール製レンズと、KMZ製レンズは上記の問題をクリアした「Ai-S」マウント近似ではあるが、カメラに到着した際に不安があるならば無理に装着すべきではない。また、古いニッコールレンズでも同様だが、何枚も高速連写をするのもお勧めできない。筆者も編集部も、もちろんニコンも保証はできないので、使用に関してはあくまでも自己責任でお願いしたい。
また、商標権の問題もあるからか「西側」世界になった両共和国では、最近はこれら「バヨネットN」マウントを「KIEV-19用」と呼ぶようだ。「KIEV-19」とは、現在でも後継機「KIEV-19M」がアルセナールにて製造されているフィルム一眼レフで、旧ソ連・東欧圏では幅広く使われている。そもそも、アルセナールのニコンマウントレンズは、この「KIEV-17、18、19、19M、20」シリーズ用に作られたものだ。
この中では「KIEV-19」および「KIEV-19M」の製造数は多く、目にされた方も多いだろう。ニコン党(今でいうところの「ニコ爺」)の筆者は東側世界のニコンマウントレンズの写りを知りたくて、1995年頃に在住していたモスクワのカメラ店、それ以降は都内のロシアカメラ専門店などで買い集めた。最近では、インターネットオークションやロシアやウクライナのオンラインショップを利用する。
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筆者所有の「バヨネットNマウント」レンズ。右上よりロシア・KMZ製対角線魚眼の「MC ZENITAR-N 16mm F2.8」。中央上が「MC MIR-20N 20mm F3.5」左上は「MC KALEINAR-5N 100mm F2.8」。右下が「ARSAT-N 20mm F2.8」、中央下が「MC MIR-24N 35mm F2」、左下が「ARSAT-N 50mm F1.4」
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これら「バヨネットNマウント」レンズを下記の表にまとめておいた。現在も製造している製品も、常時製造しているわけではないようだ。また、それ以外は当然中古品ということになる。従って、いずれも「見つけたら即買う」というような、一昔前の東側世界での消費生活のような購入方法を強いられる。値段も外為相場に左右されるので安定しないし、国内ではなかなかお目にかからないものもある。Googleで細かく検索をかけるとロシアやウクライナのネットショップやネットオークション(初心者にはあまりおすすめできないけれども)にたどり着く。興味のある向きは探してみて欲しい。
【現行生産品】
製品名 | メーカー | 現地価格 | 国内価格 |
ARSAT-N 2.8/20 | ウクライナ・アルセナール | 175ドル | 3万円程度 |
PCS ARSAT-N 2.8/35 | ウクライナ・アルセナール | 210ドル | 4万円程度 |
ARSAT-N 1.4/50 | ウクライナ・アルセナール | 125ドル | 2万円程度 |
ARSAT-N 2/50 | ウクライナ・アルセナール | | 単体販売なし |
ARSAT-N 2.8/300 | ウクライナ・アルセナール | 700ドル | 15万円程度 |
ZOOM ARSAT-N 4.5/80-200 | ウクライナ・アルセナール | 145ドル | 2万5千円程度 |
MC ZENITAR-N FISHEYE 2.8/16 | ロシア・KMZ | 175ドル | 3万円程度 |
MC MIR-47N 2.5/20 | ロシア・ヴァルダイ | 160ドル | 不明 |
【生産終了品】
製品名 | メーカー | 現地価格 | 国内価格 |
MC MIR-20N 3.5/20 | ウクライナ・アルセナール | 200ドル | 4万円程度 |
MC MIR-24N 2/35 | ウクライナ・アルセナール | 75ドル | 2万円程度 |
MC KALEINAR-5N 2.8/100 | ウクライナ・アルセナール | 85ドル | 2万円程度 |
TELEAR-N 3.5/200 | ウクライナ・アルセナール | 70ドル | 1万5千円程度 |
ここでは、筆者が一番好きなアルセナール製「MC MIR-24N 35mm F2」について述べよう。マルチコートされたレンズで、7群8枚構成。66度の画角を持ち、最短撮影距離は24cm。サイズは59×64mm 、320g。フィルター径はφ58mmとやや大柄。設計は1970年だが製造は1980年代半ばのソ連・ペレストロイカ時代ごろに開始され、ソ連崩壊直後の1994年頃まで製造されていたようだ。なお、ロシアのKMZからはM42マウントの「MC MIR-24M 35mm F2」が販売されていた。同じレンズ構成を持つがフランジバックが違うため、レンズ径の大きさが違いデザインも異なる。いずれも人気のあるレンズだ。
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写真002
右はニコンのAFニッコール35mm F2D、左がMC MIR-24N 35mm F2。焦点距離と開放F値は同じだが、設計された時代も違うので、MIR-24はだいぶ大柄だ
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D200に装着したMC MIR-24N。大柄なレンズでもD200ならけっこう似合う。それにしても、ノンCPUレンズでもマルチパターン測光が使えるとは、D200はなんてマニアックな仕様なのかと思う
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と、写りの話がなかなかできないまま筆を進めてきたが、実は、写りの話はあまりしたくないというのが本音ではある。なぜなら、これらは「デジタルカメラ対応」という考え方がなかった時代に設計されたレンズだ。精密感を求める被写体や、直線で構成された被写体には向かないし、逆光にも強くないので、デジタルカメラで意地悪に使えばどうしても「よく」は写らない。
また、特にアルセナール製レンズはレンズ内にコバ(金属粉)やコーティングのムラがあるものが多い(「描写には悪影響を及ぼさないから大丈夫だ」とは説明書に書いてある)。特にソ連崩壊時代の製品は、仕上げもみすぼらしい。そりゃそうだ、日本の終戦直後のような時代だったのだから。したがって、国産のカメラやレンズの親切丁寧な梱包や仕上げが好きな方には、まったくもってお勧めできないシロモノでもある。では、なぜ筆者はそんなウクライナおよびロシア製レンズを使い続けているのだろうか。
というのも、現代の国産デジタルカメラ用レンズとは設計思想が違い、絞り開放からシャープなどということはあり得ない。解像力の高いレンズはえてして平面的な描写に見える。いっぽう、ウクライナおよびロシア製レンズは「絞ればシャープ」という設計思想だ。そのせいか、精密描写よりも人物写真などに向くし、条件が合えばやわらかい立体感を描写できる。これが、筆者にとってウクライナおよびロシア製レンズを手放せない理由でもある。精密描写を求めるならばニッコールを使えばいいのだ。
そんなわけで、ニコ爺の筆者にとって、これらのレンズは過ぎ去った時代や個人的な思い出を彷彿させる、ちょっとしたノスタルジーの象徴だ。そして、「うちのニコンには人とはちょっぴり違うレンズが付いている」という、密やかな楽しみを味わう道具でもある。デジタルカメラだけではなく、フィルムで撮ってスキャンしてインクジェットプリンタでのプリント、Web上で仲間と写真を見せあうなど、そんな肩肘張らない用途に、これからも楽しくつきあってもらおうと思う。
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逆光で雑木林を撮るというのは非常に意地の悪いテストだ。太陽が高いので枝に隠してある。RAWで撮影しNikon Capture 4.3.2で現像した。CPU接点がないレンズなのでEXIFデータにはレンズは表示されない。なお、Nikon Captureの色収差補正ノンCPUレンズでも使用できる。この写真でも適用できたのは驚きだが、掲載写真ではあえて使用していない
D70 / MC MIR-24N / 2,000×3,008 / 1/200 / F8 / +0.3EV / ISO200 / 35mm
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露出計が働かず、筆者の露出の勘もあやしいので、階調補正は「コントラスト弱め」。色味がもともとややアンバーっぽく、最新のニッコールほどコントラストが高くない。RAW現像時にコントラストのみ「標準」にした。筆者の好みでは「ビネットコントロール」をマイナス側に効かせたいところだ
D70 / MC MIR-24N / 2,000×3,008 / 1/60 / F11 / +0.3EV / ISO200 / 35mm
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白飛びを恐れて階調補正は「コントラスト弱め」で-0.7EVで撮影。こちらは撮影時にもD70の仕上がり設定を「鮮やかに」にしてみた。この写真も筆者の好みでは「ビネットコントロール」をマイナス側に効かせたい
D70 / MC MIR-24N / 2,000×3,008 / 1/50 / F5.6 / -0.7EV / ISO200 / 35mm
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画面中央部はごくふつうの描写。ただし、輪郭強調を加えてはいる。画面周辺部を見るとやや偏芯しているのかもしれない、という気もする。枝に見られる色収差もNikon Captureでは消すことができる
D70 / MC MIR-24N / 2,000×3,008 / 1/500 / F11 / +0.3EV / ISO200 / 35mm
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青空の濃度を上げるために、撮影後にカラーモードはIIIaにし階調は「標準」にした。やはり、枝には色収差が出る。ただし、「ビネットコントロール」や「色収差補正」をかけると、わざわざこのレンズで撮る意味もなくなるわけで、デジタル時代の機材選びの基準には多いに悩まされる。まいったねこりゃ
D70 / MC MIR-24N / 2,000×3,008 / 1/500 / F8 / +0.3EV / ISO200 / 35mm
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( 丸橋 馨 )
2005/12/22 00:42
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